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男飯食堂、神代亭へようこそ!  作者: 一之瀬 葵翔


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21/22

家族みたいなもんだから

無事11日に更新できたぞ!

桃叶のお話になりまーす。

「これで……よし」


 自室の机に向かって勉強をしていた桃叶。

 成績はかなり良く、最高学府への進学も夢ではなかった。

 昨年の今頃は漠然と行けるなら行っておくか、と考えていたのだが。

 上の指示で役目を与えられ、事情が変わった。

 神代亭で暮らすようになり、おっさんの作る大雑把だが美味しいごはんに、本人たちには言わないが親友であり、姉のような神、もふもふもこもこのおっきな犬に囲まれたことでお役目、でもあるが自分の意志でここを守りたい。

 もっともっとみんなで楽しく暮らしたい。そう思うようになった。

 だから最高学府への進学はやめた。

 お役目がいつ終わるかわからない、誰かと交代するかもしれない。

 その時、次の人生に役立つようにと親や教師との話し合いで進学はすることにしたが、レベルは落とした。

 最高学府にいたらずっと勉強漬けの日々で、今と変わらない。

 みんなと遊んだり、今日は最後のコマだけなんで~、とか言って神代亭にちゃんと従業員として立ちたい。

 人生で初めてのやりたいこと、それを大人たちは笑って受け入れてくれた。

 既に秋に推薦で大学合格を決めているため、あとは卒業を待つだけなのだが。

 手持ち無沙汰な時、ついテキストを開いてしまう。

 これはもはや癖である。

 そろそろ寝ようか、なんて思った瞬間。くぅ、と腹が鳴った。

 時計を見ると、夜の十一時。

 多分まだ起きてる。

 今年の目標として桃叶が掲げていたものの一つ。

 瑠実や乃亜みたいに悟志にお腹すいたから何か作って、ってわがままを言ってみること。

 思い立ったが吉日、今日やってみよう。

 そう思って、席を立つと扉を開けて悟志の元へと向かった。

 




「昔のアニソンってなんで時々ぶっ刺さるんだろうね……」


 悟志のサブスク契約は多岐にわたる。

 その時々によって見るものを変える。

 今日は昔のロボットアニメを見ていた。

 金曜の夜十一時。明日から三連休。

 久しぶりにゲームでもしようか、いやいやネット小説を読むのだっていい。

 でも、今日は疲れた。そろそろ寝よう。

 寝る前にお茶でも飲もうかと、部屋を出た瞬間だった。


「あっ……」


 同じく部屋を出てきた桃叶と鉢合わせる。


「あれ、桃叶ちゃん珍しいね。こんな時間まで起きてるなんて」


「ええ、ちょっと勉強してまして」


「そっかそっか~。勉強してえらい!」


 悟志は知っている。

 桃叶の勉強していた、は他にすることがなかったからという言葉がついてくるということを。

 世の中にあるたくさんの楽しいことを、そうとは知っていても自分とは無縁のものだと思っていたことを。

 それは瑠実や乃亜も一緒で、今この子達はうちに来たことで色々なものに触れて、いつか隠した自分らしさを取り戻している最中だということを。

 だから悟志は褒める。

 いつか本当に言ってほしかった誰かの代わりに。


「普段早寝早起きなんだから無理しちゃダメだよ? また風邪ひいたら大変。ま、ゴン太が無理やり寝かしつけるから大丈夫か」


 悟志は心配する。

 心優しいこの子達が、無理をしないように。

 そして、悟志の飼い犬もその意を汲んで行動する。


「そうそう、ゴン太様。何日かに一回、私のところにやってきて。桃叶殿、寝るぞ!って。アニメを見たりしててもお構いなしで。でも、そういう日はちゃんと寝る代わりにゴン太様を抱きしめて寝れますから嬉しいですけど」


「ゴン太あったかいもんな。俺、ゴン太を風呂に入れた日に一緒に寝ることが多いんだけど。枕にすると最高」


 撫でたり、抱き着いたりは許されるようになった桃叶。

 どうやら桃叶が小さくなったあの日以降、ゴン太の中で桃叶が許せる枠に入ったらしい。

 ゴン太は子供が好きなので、桃叶を子供扱いすることにしただけかもしれないが。


「あっ、引き留めちゃってごめんね? 俺はお茶飲んで寝るから、桃叶ちゃんも早く寝なよ?」


 そう言って下に降りようとする悟志。

 その背中に声をかけて桃叶が引き留める。


「あ、あの、神代さん!」


「ん? どうした?」


「え、えっと……、その……」


 引き留めることに成功はした。

 あとは今年に入ってから考えていたセリフ。

 おなかがすきました、そだちざかりだからえいよーがいるのです。

 なにかごはんをください。

 を言うだけ。なのに、何故か口から出てこない。

 早く言わなきゃ、と焦る桃叶。

 どうしようどうしよう、少しの沈黙。

 ふっと悟志が笑って振り返る。

 あっ、言えなかった。行っちゃう。

 桃叶が少し悲しくなり、俯いた瞬間だった。


「上着羽織って、座敷のこたつつけて、こたつ入って待ってなさい」


 えっ?

 ぱっと顔を上げると階段に向かって歩く悟志。


「とりあえず冷蔵庫にあるもの見て何作るか決めるから。もしかしたら袋めんかもしれないけど勘弁してね」


 ぱたぱたと階段を下りていく悟志。

 その背中を見送る桃叶。

 言えなかった、言えなかったけど……。

 胸に灯った温かい気持ち。

 早く部屋に戻って上着を持って、行かなきゃ。

 不思議な、でも嫌じゃない気持ちを抱えて桃叶は一度部屋へと戻った。





『悟志、どした?』


 階段を降りるとゴン太が目を覚まして、悟志に近付く。

 今日はどこか眠そうだったゴン太。

 風呂に入って、湯たんぽの準備が終わるとすぐ眠り始めていた。


「ゴン太、起こしちゃってごめんな。いや、喉乾いたのと桃叶ちゃんのごはん作り」


『桃叶殿まだ起きてたのか。やっぱりちゃんと寝るように見張らないとな~』


 そういうゴン太は座敷に入ると慣れた様子で前脚をちょいちょい動かしてこたつのスイッチを入れる。

 そして自分もこたつの中にもぐりこんだ。

 それを見届けた悟志はキッチンに入って冷蔵庫を漁る。

 豚肉が少し。

 野菜室を見ると野菜ミックスの残り。

 あとは何故か買ったけど使い道のなかった中華麺。

 ……よし、決まった。

 悟志はコンロに鍋を二つ置く。

 そして、座敷には鍋敷きを。

 諸々準備をし、手を洗って調理開始だ。


「まずはまずは~、スープ~」


 鍋に計量カップで計った水を入れると、そこに鶏がらスープの素と酒、みりん、醤油。あと生姜、にんにくを少し。さらにごま油もちょっと垂らしてコンロの火にかける。

 その時に菜箸でぐるぐるとかき混ぜておく。

 野菜ミックスの残りもついでにどん。

 別の鍋は麺を茹でるためのお湯。

 スープの入った鍋は中火で。麺茹での鍋は強火で。


「……あれ? ちょっと待って?」


 冷蔵庫の中身をふと思い出した悟志は奥に隠していた二つのものを取り出す。


「明日の昼に使おうと思ってたけど、明日また買い物行くし使うかぁ」


 刻みネギと温泉玉子。

 瑠実たちが深夜に目を覚まし、すかせた腹を満たすとき。

 だいたいカップ麺を食べる。

 冷蔵庫を覗いて、温泉玉子があると確実に落として食べる。

 だから食べられたくないものは奥に隠すのだが、普段遠慮してしまう桃叶のためだ。

 出してしまおう。

 そうこうしていると麵茹での用の鍋の水が沸いてお湯になっている。

 麺を袋から出して鍋に投下。

 ついでに豚肉もぽちゃん。

 茹で時間が三分……、この後の工程を考えると二分でいいか。

 スマホで時間をちらりと見て、なんとなく麺上げ時間を設定する。

 スープの鍋を見るとどうやらしっかり煮えてるみたいだ。

 火を止めて、一度コンロから離すと、調理台の上に置いておく。

 空いたスペースに置くのは小さな土鍋。

 悟志が作っているのは煮込みラーメン。

 寒い冬にぴったりの一品。

 悟志の頭の中に浮かんだのは、まだ自分が小さかった頃。

 夜中に目を覚ました自分に、祖母が作ってくれたラーメン。

 あの時のあったかさを思い出す。

 さあ、ラストスパートだ。

 麺と豚肉の入った鍋の火を止め、ざるで湯切りをする。


「あ~~い」


 小さな声でテレビ番組で見たラーメン屋の店主を真似る。

 ちゃっちゃと小気味よく湯切りをしたそれを土鍋に。

 スープと野菜も土鍋に移した後、刻みネギと温泉玉子を乗せて、ふたをしたら煮込む。

 火は通ってるから、もう一度ぐつぐつ言い出したら完成だ。

 桃叶がお腹を空かせて待ってる。

 もうちょっと待っててな、と思いながらコンロの土鍋を見つめていた。

 そんな悟志を座敷で待っているのが桃叶。

 さっきから漂ういい匂い、否応なしに食欲を刺激する。


『食べてちょっとしたらすぐ寝るんだぞ? 俺も部屋に行くからな?』


「わかってますよ。今日も一緒に寝てくれるんですね、ありがとうございます」


 こたつにいたゴン太を撫でながら、そわそわしていると悟志がやってくる。


「お待たせ。煮込みラーメン」


「わっ、すごい……。ありがとうございます!」


「ええんやで。さ、おあがりよ」


「はい! いただきます」


 桃叶が土鍋のふたを開けると、ふわっと漂う湯気と匂い。

 いい匂いだが、今まで食べたことのない匂い。

 ラーメンだと、スーパーに売っているスープの素を使ったタンメンを前に作ってくれたことがある。

 それとは違う匂いに惹かれて、まずはスープから。


「んっ、おいし」


「よかった~。これさ、スープ自分で作ってみたんだ」


「えっ、作れるのですか!?」


「……できらぁ!」


 このおっさん、どんだけ球を隠してるんだ。

 スープ自作発言に驚く桃叶。

 そういえば麻婆豆腐なんかもスーパーで売ってる素を使わずにちゃんと作ってたりするなぁ。

 思い返すと確かに作りかねない。

 それはそうとして、食事に集中する。

 野菜はしゃくしゃく。豚肉もちょうどいい塩梅。

 夢中になって食べ進める桃叶と、お茶を飲みながらそれを見守る悟志。

 ゴン太は伏せて目を閉じる。

 静かで、穏やかな時間が座敷には流れていた。





「ごちそうさまでした」


「はいよ」


 十五分ほどで食べ終わると、悟志に声をかける桃叶。

 同時に差し出される冷たいお茶。

 土鍋を洗うためにキッチンへ戻る悟志の背中を見ながらお茶を一口。

 この緑茶、キンキンに冷えてますね。なんて昔バズった言葉を心の中で真似てみる。


「……なんで、わかったの?」


 桃叶がぽつりとつぶやいた一言。

 悟志には聞こえない、そう思っていたが


「え? なんとなく」


「ぴゃ?!」


 悟志の声に驚く桃叶。

 それに構わず悟志は続ける。


「前にチャイ作ったこともあったし、腹減ってなんか食べたいのかなと。勇気出して俺のところに来てみたはいいものの、瑠実ちゃん達みたいにおなかすいた! なんか食べたい! ってなかなか言いにくいよね~って」


 違った? 無理に食わせてたらごめん。

 なんて笑いながら言う悟志。

 さっき胸に灯った温かい気持ち。

 言いようのない充足感。

 それがまた桃叶の心に宿る。


「みんな一緒だから。瑠実ちゃんにも、乃亜ちゃんにも、桃叶ちゃんにも。寝てなきゃ作るよ。ごはん以外もさ」


「ほんとにいいんですか?」


「寝てなきゃね? 若い子とおっさんは睡眠が大事だから。お姉ちゃんたちを見てごらん。トイレに起きた俺を捕まえてうどん食べたいだの、なにかほしいですだの、遠慮なんかありゃしない。でも、それでいいんだよ。だって俺たちは今……」


 ――家族みたいなもんだから。


 悟志の一言に、胸に灯った気持ちが分かった。

 この温かい気持ちは自分から生まれたものじゃなくて、悟志から贈られたもの。

 嬉しいんだけど、照れくさくて、恥ずかしい。

 だから桃叶は


「やっぱり神代さんはパパじゃないですか~。もー、ほらパパ! こんなセクシーな娘がいて嬉しいでしょ?」


 と言って、無理に誤魔化すのであった。

8時間後には起きて買い物行って、12日更新の料理作って執筆かぁ。

1月12日と3月14日と9月14日は絶対に更新しなきゃいけない日なのでね。

読んでくださりありがとうございました。

次回もお楽しみに!

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