表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
男飯食堂、神代亭へようこそ!  作者: 一之瀬 葵翔


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/10

かつて邪神だった女とおっさん

熱烈なリクエストが来たので更新←

次回はSASUGANI未定です。

「ちょっとー! うどんが食べたいんですけどー?」


「うどんは昨日作ったんですけど?! 二日連続で食べる気は今日ないんですけど!?」


 日に一度、昼か夜の食事の準備の度に繰り返されるやり取り。

 どこか楽しそうな来栖と焦る悟志。

 その様子を乃亜と桃叶は呆れたように見ていた。


「毎度毎度よくやるのです」


「ほんとだよね〜。週に一回言うくらいなら店主さんも作ってくれると思うけど」


 やり取りの様子を見守っていると、悟志が話を打ち切る。


「とにかく! 今日はうどんじゃないです! はい、手を洗って座る!」


「ひど~い!」


 そう言いながらも素直に手を洗って、椅子に座る来栖。

 なぜそこまでうどんにこだわるのだろうか。

 いつか聞いてみようと思いながら、乃亜と桃叶も手を洗って食卓に着いたのだった。





「くーさん、のあさん、これ」


 食事を終えて、おやつの時間。

 そだちざかりだからえいよーがいるのです!

と悟志におねだりをして、バターロールでホットドッグを作ってもらった桃叶。

 メシの匂いには敏感な三人娘。

 誰かが作ってもらったものでもみんなで食べる。

 いつしか三人の中で決まったルールだった。

 居間でごろごろしていた二人はガバっと起き上がるといそいそ座り、桃叶の手にある皿が机に置かれるのを待つ。


「やった! ももナイス!」


「え?! すごいじゃん! もも、ありがと~。……ありがとね!」


「さ、冷めないうちに食べるのですよ」


 ホットドッグの数は六個。一人二個ずつ。

 作る方も作る方で、一人だけに与えるのはよくないとちゃんと全員同じ数食べられるように皿に乗せる。


「それでは手を合わせてください、いただきます」


「「いただきます」」


 今日の挨拶当番は乃亜。

 家族連れや会社員、いわゆる一般人以外に、表裏問わず色々な大物。

 異界の神だったり、千年近く封じられていた邪神だったり。

 神代家、神代亭には色々な者が訪れる。

 食に対してこだわりのある男、神代悟志。

 作ってもらったことやもの、食材への感謝の気持ちはちゃんと表せ。

 文化の違いがあろうが、それはできるだろうと悟志が決めたルール。

 いただきます、ごちそうさまは絶対に言え。

 それを守るために、三人は日替わりで挨拶を先導するのだ。

 ちなみに事情があるとき以外に挨拶をしなかったら、もれなく悟志の鉄拳制裁。

 全力の拳骨が落ちる。

 神だろうがなんだろうが、関係ねえ、と振り下ろされる拳はどちゃくそ痛い。

 乃亜がかつて挨拶を忘れた時。

 無意識に発動させた、あらゆる攻撃を防ぐ最高位結界をたやすくぶち抜いて、拳を頭に届かせた。

 それは今まで受けた攻撃で一番重く、痛い衝撃が走ったと頭を押さえ、震えながら述懐する。

 なお、そのことをプラム様へ涙ながらに報告すると、


「……悟志に結界をぶち抜かれて、痛いで済んでよかったの。お主の同期、ガイストの阿呆はわっちが忠告しておいたのにも関わらず、なめた真似をしくさっての。顔面に拳を入れられて滅されよった。この世界は出入り禁止じゃて。あれもあれで若い衆ではなかなか強かったんじゃが。まぁ、安心せい。メシが絡まなければただの人よ」


「えっ、そんなにヤバい拳骨なんですか?!」


「ここはわっちとオオガミくん、あとリステ坊……他にも色んな神が訪れての。みんなそれだけは守ると誓いを立てとるんよ。それくらい悟志の前で食事に敬意を払わないことはヤバい」


 と真顔のやり取り。

 メシが絡めば神殺しさえも成すおっさん、神代悟志。

 そんなおっさんの作るホットドッグは色とりどり。


「卵とウィンナーおいしいのです!」


 と桃叶が言えば


「シンプルに炒めたキャベツのもおいし……あ、ピーマン!」


 と乃亜が言う。

 そこに遅れて手に取ったホットドッグを一口かじる来栖。

 乃亜の食べたシンプルなものと同じだと思っていた。

 しかし、キャベツの下に入っていたのはとろけたチーズ。


「ん! これチーズ!」


 きゃあきゃあと(かしま)しいおやつを終え、悟志が持ってきたアイスティーを飲みながら三人は話を続ける。

 一瞬話が途切れて起きた静寂。まるでタイミングを見計らったかのように桃叶が話を切り出した。


「そういえばくーさんに聞きたいことあったんですけど」


「なに?」


「くーさんってなんで毎回ごはんの度にうどん作ってって言うんです? そんなにうどん好きでしたっけ? お外で食べる時も、うどんがいいとは言いつつもなんだかんだ私たちに合わせてくれますよね?」


「え?! 私そんな毎回言ってた? 恥ずかしいんだけど~!」


 桃叶の問いに少し恥ずかしそうにする来栖。

 あ~、どうしよっかなぁ?といった表情で少し迷ったあと。

 ぽつりと答えた。


「あ~、私ね。あの人が作るうどんが、好きなの。だって……」


 ――初めて食べた“あったかいもの”だから……





 来栖瑠実(くるするみ)

 それがこの国に、この店に来て少し経った時に悟志がつけた名前。

 本当の名前はクルエラ・スヴァンヒルド。

 千年近く前からリステ神教という宗教の総本山、バティーカ市国の聖堂の地下に封じられた邪神である。

 最初から邪神だったわけではない。

 素直な優しい少女だった。ただ、特別な力があっただけで。

 いいように利用され、裏切られ、傷つけられ、絶望した時にその力は神の域に達した。

 全ての復讐を果たした時、そこに残ったのは邪神というレッテル。

 ただ日々を穏やかに生きたかっただけなのに……。

 リステ神教は一方的な悪と断じ、封じ込めた。

 何故? 何故なの? 何故なのよ!!

 尽きることのない怒りは世界を震わせる。

 時折溢れるクルエラの力は人ならざる者へと力を与え、人々を恐怖に陥れる。

 それを防ぐために歴代の法帝、リステ神教のトップはその力を全てクルエラの封印に使ってきた。

 そんな日々に転機が訪れたのは、神代悟志が神代亭を開店すると決めた日。

 封じられた扉の先、当代の法帝グレゴリオはクルエラに話しかける。


「邪神……、いやクルエラよ。聞こえていますか?」


「……何?」


「あなたをそこから解放いたします。その代わりにあなたにはやってほしいことがあります」


 千年の孤独を耐え、尽きることない怒りを抱え、そんな私をまたリステの連中は利用したいのか。

 扉の先にいるグレゴリオに対し、憎悪の視線を向けるとそれだけで弱き人間は膝をつく。


「我が神、リステから神託が下りました。あなたを解放し、日ノ元のある方へ送れと。そして人ならざる者からその方を守れと」


 苦しそうにそう言うグレゴリオを養豚場の豚を見るような目で見るクルエラ。

 そこに現れたのは10歳くらいの少女。


「おうおう、お主が悟志の店で働く邪神か? わっちはプラム。この世界とは違う世界の神じゃ」


「……異世界の神が何の用なの?」


「お主をここから出す。じゃからの、わっちの愛し子神代悟志の元で働いて、悟志のことを守ってほしいんじゃ。悪しきものからの。毒を以て毒を制すってやつじゃ」


「は?」


 何を言ってるんだ、こいつは。


「かる~くお主やリステ神教を調べてみた。リステ坊はええ子なのに、囲っておる教徒はずっと前からクズばっかじゃの。お主が怒るのは無理ない。交換条件じゃ」


 そう言うとプラムはパンと手をたたく。

 するとプラムの後ろに法帝の霊が現れた。


「こやつ、シルバリオ。お主を騙して傷付けた男じゃ。輪廻の輪に戻ろうとしたところを捕まえた。こやつの魂をやろう。そして、シルバリオの子孫がそこで震えておるグレゴリオ。こいつも救いようのないクズじゃ。魂を滅すことで尽きることのない苦しみがやつらを襲う。その期間はちょうど千年。どうじゃ? やってくれんか?」


 こうしてクルエラは悟志の元へ来ることとなった。

 人の身体を得て、降り立った日ノ元。

 力もこの身体では全力を出せない。しかし、人や人が使役する程度の悪しきもの相手なら十分以上。

 千年の間に世界はかなり様変わりをしており、慣れるのに時間がかかりそうだ。

 プラムに連れられ、着いた先には一人のおっさん。


「あ、どうも。神代悟志です。名前が悟志で姓が神代。よろしく」


「クルエラ・スヴァンヒルド、よろしく」


 次の日から始まったプレオープンという名の営業。

 偉い人を招いて、料理の力を感じさせ、何かあった際には助力をしてもらう。

 そこでクルエラは給仕をすることに。

 できた料理を客の元へ運び、会計をする仕事。

 遠い過去に置いてきた思い出が頭をよぎるが、頭を振って追い出す。

 何日か経ったとき。クルエラは倒れた。

 医者の見立てでは過労。千年ニート状態のプレミアムニートだった彼女にいきなりの労働は無理だった。

 うんうんとうなされるクルエラに悟志は何もできない。

 何かできることはないのか……。そう思った瞬間だった。


「……寒い、寒いよ。あったかいスープが欲しいよぉ」


 涙ながらにそう言うクルエラに対して、できることは決まった。

 立ち上がって悟志は厨房に向かう。





「ん……、私……」


 クルエラが目を覚ますと、どこかから漂う不思議な匂い。

 それにしても嫌な夢を見た。まだ人だった頃の辛い記憶。

 ベッドから起きようとしたところで、部屋の扉が開いた。



「……まだ寝てるだろうから、ってクルエラさん。目が覚めたんだ、よかった」


 安堵の表情を浮かべる悟志。手に持った小鍋と、エプロンの右ポケットにはレンゲ。

 なんだこれは? そう思った瞬間、くぅと腹の音が鳴る。


「ずっと寝てたからなぁ。お腹すいたろ、これごはん」


 ベッド横のサイドテーブルにいつの間にか置かれていた鍋敷きと、お椀。

 その上に置かれた小鍋。悟志が蓋を開けると、クルエラにとって見慣れないものが瞳に映った。


「これ……」


「ああ、これはもっと長いんだけど。外国の人はすすれないって言うしハサミでちょこちょきっと切ったんだ。うどん、って食べ物だ。ちょっと待ってな?」


 お椀にレンゲでうどんを取り分けて渡す悟志。

 受け取ったクルエラ。優しい目で見つめる悟志の促しに恐る恐る口をつける。

 その瞬間だった。邪神とて神に違いない。

 目の前に置かれたものは供物ともとれる。

 そんなうどんを一口食べたクルエラに流れてくるのは悟志の想い。

 早く良くなれ、もう泣かないでいられますように。彼女を想うあったかい気持ち。

 心の底で求めていたもの、がクルエラの心を満たした。


「うっ……うぅ……」


 いつの間にか涙がこぼれ、泣き出すクルエラに慌てる悟志。


「えっ、どした? 不味かった? あれ? 味見の時はよかったのに」


「ちっ、違くて……あのね、このうどん?が“あったかかった”の」


「うん? え、あ、そう」


 意味が分かってない悟志に説明しようかな、なんて思ったけど恥ずかしい。

 だから言わない。数日間、おかゆ、と呼ばれる炊いたご飯をさらに水で煮てどろどろにしたものやうどん。

 色々な種類のそれを食べて、養生した結果。クルエラの体調はもとに戻った。





「名前を付けてほしい?」


「うん、この国で生きていくのにこの国っぽい名前が欲しくて」


「ああ、戸籍登録するって偉い人が言ってたもんね」


 従業員がもし人ならざるもので、人の身体を得て動く場合。

 その人の戸籍を用意しますので、おっしゃってください。

 政府関係者にそう言われて三日間。自分で考えるとダメだ。

 そう感じ、悟志に助けを求めたクルエラ。

 少しの間考え込んだ悟志はクルエラにこう答えた。


「クルエラ・スヴァンヒルド、を略して来栖。それは姓で。名前は……瑠実っていうのはどうだろ?」


「クルス……ルミ。うん、これにする」


 想像以上に素直に受け入れられて拍子抜けする悟志。


「えっ、本当にいいの? 他の名前も考えるよ?」


「これでいいの。ううん、これがいい」


 こうしてクルエラという邪神は、来栖瑠実という女の子に生まれ変わった。

 硬かった表情はいつしか和らぎ、心を閉ざす前の明るさを取り戻す。

 そして深夜……。


「ねぇ、ずるい」


 たまに厨房でこっそりと夜食を食べようとする悟志。

 今夜あたりやりそうだと予想していた来栖が厨房へ向かうと予想通り何かを作っていた。

 そこに声をかけるとゆっくり振り向く悟志。


「ああ、くるるちゃん。ちょうどいいところに」


「えっ?」


「うどん作った。食うでしょ?」


「食べる!」


 一番付き合いの長い二人だから、二人だけの時は特別な呼び方をしよう。

 酒に酔った二人がノリと勢いと悪ふざけで決めた約束。

 来栖のくる、と瑠実のる、を合わせてくるる。

 対する悟志へはというと。


「二十八時間ぶりのあなた様の作ったうどん……、えっ、私の好きな刻みあげとわかめと玉子のうどん!」


「まぁね? たまたまね? 半端に余ったからね?」


 照れくさそうにそっぽを向いて答える悟志。

 そんな悟志に来栖がかけた言葉は


「あなた様、愛情たっぷりのうどんありがとね!」

くるるちゃんモードの来栖様が書きたかったんや……!

次回は未定って言うけど、どうせすぐ書いちゃうんだろうね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ