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男飯食堂、神代亭へようこそ!  作者: 一之瀬 葵翔


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18/20

今年最後の料理はやっぱりこれで

よし、書きあがった!!

今年最後の本編更新になります。

皆様残り一時間と少し、よいお年を。

 

「……ねぇ、眠いんですけど!」


「お休みなのに早起きする必要あるんです?」


「何言ってるんですか、るーさん、のあさん。年末は戦争なんですよ?」


 本日、悟志たち四人は朝早くから、行動をしていた。

 大掃除は前日に終えて、みんなに早く寝るよう促した悟志。

 桃叶と悟志には慣れた時間だが、瑠実と乃亜にはかなり辛い時間だった。

 悟志の運転する車に乗り、現在移動中。

 いよいよ年末も大詰め。年末年始を迎える買い物にみんなで来ていた。

 喪中ということもあって、おせちの用意はしっかりしないが、酒のつまみになりそうなものは作り終わった。

 あとは悟志が毎年大事にしているものを作るだけ。

 それが今年最後の食事になる予定だから。


「年越しそばをガチるには、妥協が許されんのよ」


 静かにそう言った悟志に気圧される瑠実と乃亜。

 空気を変えようと桃叶が悟志に話しかける。


「あ、神代さん。年越しそばをガチるっておっしゃってましたけど、そんなにすごいんですか?」


「たっけぇ肉を使った肉そばをベースにするんだ。そこに海老天、あげ、かまぼこ、ネギ、わかめ、温泉玉子。店で出すなら四千円くらいはもらわないとダメかもなぁ」


 たっけぇ肉。一般的な品質評価として知られるAというランク。

 その他にBMSという肉質等級評価項目があり、Aが五つに分けられるのに対して、BMSは十二。

 Aの中でも最高を表す五、は実はBMSだと八から十二に分けられる。

 悟志の言うたっけぇ肉。

 それは一般的な高級肉の代名詞であるA5ランクの肉、かつBMS10から12。

 最飛び牛なんて呼ばれ方もする、最高品質の上澄みのような非常に質のいい肉だった。


「え、たっけぇ肉食べれるんですか?!」


「もしかして今から買いに行くのって!?」


「たっけぇ肉だ!」


「そう、今たっけぇ肉買いに向かってるんだよ」


 桃叶、乃亜、瑠実の順に流れるように言葉を紡ぐとそれに応える悟志。

 悟志の言葉に一気にテンションが上がり、眠気なんてどこ吹く風ときゃいきゃい騒ぎ出す。

 車のオーディオの音量を少し上げて、好きな音楽を流す。

 そろそろ高速道路、思えば四人で高速道路に乗るほどの距離の場所に行ったことはなかったな。

 日帰りで今度は遊び目的でどこかに行くのもいいのかも。

 そんなことを思いながら悟志は高速道路の入り口を通過した。





「さむさむ……」


 目的地の最寄りのインターチェンジがサービスエリア併設だったため、休憩がてら寄ってみることに。

 まだ早朝ということもあって、テナントらしき店は開いておらず土産物を置いている売店や、パン屋くらいだった。

 普段は絶対立ち寄ることのない場所ということもあって、物珍しさで三人娘はあれこれ見て回る。

 悟志は缶コーヒーを片手に休憩していた。


『悟志~、ここは家よりひやっとしてるな! すごいな!』


 今日はゴン太も一緒。

 神としての力を使って、子犬くらいの大きさになると、後部座席の足元で丸くなる。

 悟志の後ろに座った乃亜の左足、その横に座った瑠実の右足がゴン太の毛に触れて温かい。

 高速道路に入ってから少し経つと、さっきまで騒いでいたのが嘘のように、すぅすぅと寝息を立て始めた。

 助手席に座った桃叶はというと、


「神代さん、コーヒー飲みます? ふた開けますよ?」


「お、ありがとう。じゃあお願いしようかな」


 と、運転に集中する悟志のサポート。

 この働きがたっけぇ肉の量に繋がると信じて。

 結果がどうなるか、夜が楽しみだ。

 そんな道中を経て、着いたサービスエリア。

 流石にそろそろ向かわないと、不味い。

 そう思った悟志は、一度ゴン太を車に入れると三人娘を迎えに行く。


「そろそろ行こうか」


「うん! ねぇ悟志くん。あそこのメロンパン食べたい!」


「あ、ももはあのクロワッサンに生クリームはさんであって、チョコがかかってるやつ食べたいです!」


「わかった、わかった。乃亜ちゃんは何がいい?」


「えっ、あ、私はクロワッサンに生クリームだけのやつで」


 悟志の声に振り向いて、おねだりするのは瑠実。

 それにつられて桃叶も欲しがる。

 本当にちょっとした日帰り旅行みたいだな……、なんて思いながら悟志は乃亜に尋ねると、一瞬ちらりと棚に視線をやって答えた乃亜。

 その視線の先には乃亜たちが最近ハマっているキャラクター、ちびかわきつね。

 きんいろきつねのたまちぃ、ももいろきつねのとうりちゃん、みずいろきつねのそらくん、しろきつねのはくさん。

 高さ十五センチほどのぬいぐるみ四つのセットが売られていた。

 

「……乃亜ちゃん、これお金。三人でパンと飲み物買ってきな」


 財布から札を数枚取り出すと乃亜に渡して、パンを買いに行くように促す。

 名残惜しそうにもう一度視線を送るとお金を受け取り、瑠実と桃叶の元へ向かう乃亜。


「俺、先に戻ってるね~」


 パン屋の三人に声をかけ、視線がこちらに向かっていないことを確認すると、こっそりぬいぐるみを手に取って、少し離れたレジで会計する。

 そうして悟志は車に戻ってエンジンを付けると、三人娘を待つ。

 後部座席と助手席にぬいぐるみを置いて。


「戻りました~……わっ、たまちぃ!」


「え、とうりちゃん!」


「そらくんもいますよ、るーさん、のあさん!」


 車に戻った三人娘を待っていたのはきつねさんたち。

 好きなきつねが自分の場所に座っていた。


「ごめん、ちょっと急ぐから早く乗って」


 にやにやしながら悟志が急かすと、三人娘は慌てて車に乗り込み、シートベルトを締める。

 が、すぐに騒ぎ出した。


「悟志さん、なんで私がこれ欲しかったの知ってるんですか?」


「これ四つセットだからちょっと高いね~、って話してたんだよ。すごいね、悟志くん」


「さすが神代さん、できるパパなのです」


 乃亜、瑠実、桃叶がそう言うと車を発進させながら悟志はさらっとこう言った。


「まぁ、ちらちら見てたし欲しいんだろうなあって。あと桃叶ちゃん、パパはやめような?」


「はーい。じゃあ、ダーりん?」


「それもそれでなんかヤバいからやめて~?」


 そんなやり取りをしながらインターチェンジを下りるとあっという間に目的地に着いた。

 朝八時の開店からすぐだというのに既に対面販売に列ができている盛況ぶり。

 少し並んで目的の肉を買うと、すぐに戻って別のスーパーへ。

 その間、三人娘はきつねを抱きしめ夢の中。

 悟志はゴン太と話しながら帰り道を運転する。

 車を走らせ一時間半、地元のスーパーに到着した悟志は未だ夢の中の三人娘を起こさず一人で買い物へ。

 三人娘が起きたのは全ての買い物が終わって、神代家に着いてからだった。



 


 「わー! いよいよですね」


 わくわくしながら悟志の横に立って、そういう桃叶。

 今日の夜は年越しそば。

 本来なら夕食後から日付が変わるまでの間に食べるらしいのだが、そんなに食べれません!

 と少食の乃亜、おっさんの悟志に合わせて夕食になった。


「ねぇ、年越しそばじゃなくて年越しうどんがいい!」


 うどん好きの瑠実がいつものようにうどんを推すが、


「年越しそばはね、厄切りや長寿、健康を願うものだから。これだけはダメ。でもその代わり明日にね、太く長く幸せが続くようにって年明けうどんを作るから。それでいいかな?」


 としっかり断られる。

 そばでもうどんでも美味しくいただける桃叶には全く関係のない話だった。


「これは使わないんですか?」


 ボウルに入った水としいたけ。

 干ししいたけを水で戻したものなのだが、悟志は首を横に振る。


「これは年明けうどん用。そばはもう出汁引いてあるんだ」


 調理台の上には鍋が一つ。

 いつものつゆと同じように見えるが……匂いが少し違った。


「これは……しょうがですか?」


「お、よく気付いたね。えらいえらい」


 鍋から片手鍋につゆを移して火にかける。

 どうやら一杯ずつ作るみたいだ。

 その横には水の入った鍋。

 すでに火が入っていて、そろそろ沸こうかというところ。

 これでそばを茹でるはず。

 つゆの入った鍋の鍋はだに、小さな泡ができ始め、湯気が立った頃。

 火を弱めて、朝買ってきた肉を入れる。

 すき焼き用の薄いが大きな一切れを、さっと。

 ゆっくり火を通すみたいだ。

 思い出したように、オーブントースターに海老天を並べてタイマーをセット。

 五分後には温め終わる。

 すっかり沸いた鍋にそばを入れて、茹でる。

 といっても市販の茹で済みのそばで、熱湯にくぐらせて、ほぐす程度のものであるが。

 なお、年明けうどん用のうどんも同様に茹で終わったものである。


「もうそろそろできるかな~?」


 そばの湯切りをして器に盛ると、つゆの中にあったたっけぇ肉も火が通っていた。

 それを刻みネギとあげ、温泉玉子と一緒にそばの上に乗せる。

 するとオーブントースターからチン、という音が鳴った。


「お、ちょうどじゃん」


 そばのつゆをかけるとそのまま器を持ってオーブントースターの前に。

 あったまった海老天を取り出して、つゆに沈めるとじゅわっと音が鳴る。


「瑠実ちゃん、先食べな~?」


「ねーえ! 瑠実!」


「るーみん、また悟志さんに呼び捨てさせようとする~」


 そう言いながらも箸と器を受け取り、座敷に持っていく瑠実。


「いただきまーす! ……ん、おいしー!」


 と元気に食べ始める。


「桃叶ちゃん、順番最後で大丈夫?」


 横に立つ桃叶にこそっと話しかける悟志。

 指差した先にはたっけぇ肉。

 肉と瑠実、乃亜を交互に指差したあとぴっと立てて一、のサイン。

 次に肉と桃叶を指差して、ピースサインで二を示す。

 それで全て理解した桃叶はぱっと笑って、でもばれないようにわざと呆れたような口調で


「仕方ないですね~、ももはできる女なので許してあげますよ」


 と返す。ということで次は乃亜の分。

 瑠実と同じように作って、乃亜に渡す。

 そして桃叶の分まで作り終わった悟志は最後、自分の年越しそばを作り始める。


「よーし、できた。これを食べると今年も終わりって感じするなぁ」


 悟志の年越しそばは肉倍盛り、海老天三本、あげ二枚、と頭が悪い。

 そのままキッチンの小さなテーブルで一人食べ始める。

 流石に今日は疲れた。座敷に行ってしまうとそのまま寝てしまいそうで。

 そばをすすりながら今年を振り返る。

 祖母が亡くなり、たった一人になってしまったと思いきや。

 いきなりファンタジーに巻き込まれ、突然の飲食店経営。

 神様や政治家たちの庇護のもと、好きなようにやれる今がなんだかんだ言ってかけがえのないものになっていた。

 ちらりと座敷を見るとテレビに夢中の三人娘。

 自分を守るために、神が傍についてくれる。

 親元を離れて、おっさんといてくれる。

 こんなにありがたいことはない。


 もう今年も終わり。

 来年はどんな年になるだろうか。

 願わくば、今よりもっと楽しく、穏やかでいられますように。

間に合えば神代亭のおまけ、という連載に神代亭の振り返りというか。

想いなんかを語って更新しておきたい所存。

私の名前を押すと、たぶん作品一覧に飛べるのでそこから見れます。

以前更新したこぼれ話やifもそちらに移動してますので。

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