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男飯食堂、神代亭へようこそ!  作者: 一之瀬 葵翔


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17/20

名前で呼んで?

日曜深夜だから実質28日ってことですね!(n回目)

「桃叶ちゃーん」


「はーい!」


「これよろしく」


 本日、神代亭は年内最終営業日。

 珍しく土曜日に開店しているが、やってくるのは勝手知ったる常連ばかり。

 今年最後の挨拶にやってきてくれた。

 冬休みに入った桃叶も店のお手伝い。

 夏休み以来の本格的な店の仕事に、桃叶のテンションも上がっていた。


「乃亜ちゃーん」


「はーい」


「そろそろ阿蘇さん達来るから座敷の準備しといて」


「私たちの方でいいです?」


「常連の人ばっかだし、客席の方の座敷でいいでしょ」


 昨日の夜、悟志のスマホに着信が入る。

 表示された画面には「阿蘇さん」

 何だろうと電話に出てみると、それは予約の連絡だった。


『悪いな、悟志。明日店やるって聞いたもんだからよ。武市くんと俺と、泉田の三人予約頼むわ』


「時間は何時くらいです? あとメニューは?」


『ああ~、十二時に行く。メニューは任せる。いつも通り一人五万でいいか?』


「大丈夫でーす。それじゃあお待ちしてます」


 なんてやり取り。

 毎年、年末になると阿蘇さんがお酒を持ってやってきて、一時間ほど祖母の千歳とお茶を飲みながら話をして帰っていく。

 昔世話してやったからね、その時のこと忘れてないんだよ。

 だから、あいつは毎年うちに来て挨拶をしていくのさ。

 いつの日だったか、なんで大物政治家がわざわざここに来るのか。

 不思議に思って聞いた時にはそう言っていたが、今ならわかる。

 きっと千歳の汲んだ井戸水を飲みに来たんだろう。

 その役割を自分が引き継いだ。悟志はそう思うことにした。


「来栖ちゃん、阿蘇さんたち来たら配膳は来栖ちゃんにやってもらうから。いざとなったら、頼むね」


「うん!」


 政府要人が食事をする。

 しかも三人も。

 つい先日女性初の首相になった、いつか政治家の重鎮たちと共に食事に来た武市、言わずと知れた政界の大物阿蘇。

 弥次郎構文、なんてネットで揶揄されたこともある独特な話し方の泉田。

 警備は厳重にしたいところではあるが、町の定食屋をガッチガチに警備固めたら逆に何かあるってアピールすることになりません?

 という悟志の一言で警備はほぼなしになった。

 その代わり、何かあった場合は来栖や乃亜がその力を振るう。

 情け容赦なく。万が一のことがあっても超法規的措置でなかったことに。 

 乃亜が神代亭に来たタイミングでそう決まった。

 そして、約束の時間がやってきた。


「邪魔するぞ~」


 そう言って、阿蘇が店に入ってくると、武市、泉田の順に店に入る。

 店にいた常連が少し驚くが、神代亭だからそんなこともあるかと納得して食事に戻る。


「ああ、いらっしゃい。座敷にどうぞ」


「おう、悪いな。これ、酒。受け取ってくれ。あとで千歳さんに線香あげさせてくれや」


「毎年ありがとうございます。わかりました、手が空いた時に案内しますね」


 出迎えた悟志に阿蘇が酒を渡す。

 それを受け取り席に案内すると、阿蘇たちも慣れたもので店の奥の座敷に上がって座り込む。


「いらっしゃいませ~、お水どうぞ」


 悟志と入れ替わりで、来栖が阿蘇たちに水を持ってくる。

 ちなみにこれはミネラルウォーター。井戸水ではない。


「ああ、どうも」


 水を受け取る阿蘇たち。

 しかし、水には口を付けずに料理が届くのを待つ。


「お待たせしました、今日は年末も近いですしそばにしてみましたって悟志くんが言ってたよ~」


 数分待つと、来栖がお盆を持ってやってくる。

 井戸の水を使って作ったそばだ。

 これでたとえ今難病を抱えていたとしても、完治する。

 阿蘇の年末には欠かせない一大イベントだった。


「それじゃ、いただきます」


「「いただきます」」


 阿蘇が手を合わせてそう言うと、武市も泉田もそれに倣う。

 この店の暗黙のルール。

 いただきますとごちそうさまは絶対。

 それを阿蘇も守っていた。


「大雑把だけどうまいですね」


「どこまでいっても男飯だからな」


 泉田のぼそっとした一言にそう返すと武市が心配そうにぽつり。


「あの……、美味しいんですけどこれ食べきらないと不味いですかね。いかんせんちょっと量が……」


 そばの上に乗っているのは温泉玉子。あげ二枚、海老天三本、ねぎ。

 何を隠そう、年越しそばの試作なのである。

 本来ならそこにたっけぇ肉も追加されているが、さすがにそこまでやるつもりは今回なかった。


「そばのつゆを飲みに来てるようなもんだってのに、しっかり食わせようとしやがる。ま、若いもんは喜ぶでしょうな」


 ぽつりぽつりと言葉を交わし、静かに食事を済ませると、阿蘇は神代家の仏壇の前へ。

 千歳に線香をあげると、帰っていく。

 その後も営業は続き、無事に今年の営業を終えたのであった。





「じゃあ、いってきます!」


「たくさんチキン買ってきますね!」


 今日はお疲れ様会だ! ということでフライドチキンとピザでパーティを。

 反対方向にあるピザ屋とフライドチキン屋にそれぞれ乃亜と桃叶が向かうこととなった。

 残されたのは悟志と来栖、ゴン太。

 こたつに入ってお茶やらを飲みつつ、休憩タイム。

 あれこれ話していると、コップに入った水を一口飲んだ来栖が拗ねたようにこう切り出した。


「そういえばあなた様? なんで私のことは名字で呼んで、乃亜とももは名前で呼ぶの?」


「えっ、あ~……なんでだろうなぁ。二人の時はくるる様って呼んだりしてるから、みんないる時はちゃんとしようって思ってるのかも?」


「ちゃんとしようと思ってる人は、晩ごはんのポトフにたっぷりにんにく入れようとしませんけど~? 本当は?」


 悟志が何か誤魔化すときの癖、右上を見る。

 一瞬のそれを見逃すことなく、来栖は問い詰める。

 すると、軽い溜息をついて悟志が語り出した。


「あのさ、くるる様には本来の名前があるわけじゃん。クルエラのクル、とスヴァンヒルドのス、で来栖。瑠実って名前は略したらなんでかここに来たばっかのころよく食べたがってたくるみになるように考えたんだけど。瑠実ちゃんって呼ぶことで、クルエラ・スヴァンヒルドって名前を忘れちゃわないかなって。だから本当の名前を略してた名字で呼んでたんだ」


 そういうことか。

 悟志らしいと言えば悟志らしい理由。

 ただ、来栖には見当違いの心配だった。


「あのね、あなた様。私は確かにクルエラ・スヴァンヒルドだったけど、私をクルエラ・スヴァンヒルドって証明できるものは何もないの。戸籍制度ができる前に封印されちゃったし。私を私として証明できるのはこの国に来て、あなた様がつけてくれた来栖瑠実って名前とそれに応じて作られたこの国の戸籍だけなの。それにね、昔は辛いことばっかだったから思い出さなくてもいいの。私は、今が、来栖瑠実として生きてる今が一番大事なの。今更って感じだけど、呼び捨てでもなんでもいい。ちゃんと名前で呼んで」


 真っ直ぐな目で悟志を見つけた来栖……瑠実がそう言うと、少しの沈黙。

 一瞬、目を閉じると悟志が了承の意を告げる。


「わかった、瑠実ちゃんって呼ぶようにする」


「え、ほんと! やったー!」


 緊張がほぐれたのかパッと花が咲いた笑顔になる瑠実。

 喜びのあまり色々話が止まらなくなる。


「あ、乃亜がくるぴゃんって呼ぶのもやめさせないとね! それにもものくーさん呼びも! つられてまた来栖ちゃんって呼ばれたら嫌だし」


「お、おう」


「ていうか悟志くん! 呼び捨てでいいって言ったんだから瑠実って呼び捨てにしてよ! せい、るーみ!」


「ちょっと瑠実ちゃん、一旦落ち着きな?」


「るーみ!」


「わかった、瑠実。マジで落ち着こう? なんでいきなりテンション上がっちゃった?」


 いきなりのハイテンションに驚きを隠せない悟志。

 その理由をゴン太が教えてくれた。


『悟志、来栖ど……瑠実殿な、たぶん井戸の水そのまま飲んでる。匂いがいつもより濃いんだ』


 悟志の家にある井戸水は、人にとっての霊薬で、神にとって最高級の神酒であり万能薬。

 一度プラム様にどんな感じが聞いた時に、ほんのり甘いんじゃがしっかり効く、と言われたことがある。

 酔っ払ったようなもんか、と納得するとふわふわした様子でにこにこ笑ってる瑠実に気付けの意味を込めて、冷たい水。昼に阿蘇たちに出した残りのミネラルウォーターを飲ませるべく、厨房へと向かったのであった。

 




 三人娘とのお疲れ様会を終え、各々風呂に入って就寝。

 しかし、悟志はなかなか寝付けない。

 フライドチキンとピザの脂が少しきつかったから、若い子に譲っていたため腹が減っているようだ。

 こうなったらやることは一つ。深夜の背徳メシ。

 思い立った悟志はベッドから抜けてキッチンへと向かった。

 同じ発想に至ったのは悟志だけでなく、瑠実もまた何かが食べたくなり、部屋から抜け出す。

 階段の下が明るい、ということは悟志が何か作ってる。

 やった、大好きなあったかい料理が食べられる。

 気持ち急いで瑠実もまたキッチンへと向かった。


「あなた様、お腹すいた」


「ん? ああ、瑠実ちゃんか」


「るーみ。呼び捨てでって言ったでしょ?」


「慣れるまで許してよ」


 階段から誰かが下りてくる音は聞こえていた。

 何かよからぬものがいた場合は、ゴン太が起きて吠えているか、即狩っている。

 だから三人娘の誰かが腹を空かせて下りてきたんだろう。

 瑠実だったのは意外だが。そう思っていた悟志は後ろから声をかけられても平気だった。


「とんこつ焼きラーメン、食う?」


「食べる!」


「作っとくから、何か羽織ってきな。ここ寒いから」


「……うん」


 自分は半袖のTシャツにジャージなのに、人の心配ばっかりして。

 少し呆れながらも言いつけ通りに上着を羽織るために一度部屋へと戻る瑠実。

 その音を聞きながら悟志は調理を開始する。


「さてと、まだあったよな」


 冷蔵庫から野菜ミックスときくらげを取り出し、戸棚からは某ラーメン。

 鍋でお湯を沸かす傍らで、きくらげを切り、熱したフライパンに野菜と入れて炒める。

 湯が沸いて、麺を二束。茹で時間は二分。

 時間通りに茹でると湯切りをして、フライパンの中へ。

 粉末ソースと調味油を加えて、混ぜるように炒める。


「よっし、あとは……」


 皿を二枚用意し、均等になるように盛りつけたら、冷蔵庫から刻みネギと紅しょうが。

 それにチャーシュー。

 チャーシューをフライパンで温めて盛りつけると、ネギ、紅しょうがを上に乗せる。

 最後にコショウをミルであらびきにしてぱらぱらと。

 こうして焼きラーメンが完成した。


「おまちどうさん」


「ありがとー、ありがとね」


「深夜に食べるラーメンって最高なんだよな」


 皿を持って座敷に移動すると、こたつに入った瑠実がいた。

 ちゃんとあったかくしてえらい!


「いただきまーす」


「めしあがれ。俺もいただきます」


 瑠実が手を合わせてそういうと、まずは一口ぱくり。

 それに続いて悟志も麺をすする。


「ん! おいし!」


「……これ、いいな。具材減らして、きくらげとネギ、紅しょうがだけのシンプルなやつも今度作ってみるか」


「私も食べる!」


「いいけど、さすがにすぐは作らんからね?」


「ちょっとー! そこまで食いしん坊じゃないんですけど!」


「ごめんごめん」


 瑠実と悟志が夜食を食べ終わると、まあまあ遅い時間。

 これは朝起きれるか……。

 後片付けをしてふと心配になった悟志は厨房でとあるものを取り出したあと、書置きを残して眠りにつく。

 それがなんなのかは数時間後にわかった。

 いつものように朝起きた桃叶。

 静かな一階に不安を感じつつ、座敷に向かうと、そこには焼酎のペットボトルと書置き。


「ごめん、夜食でラーメン食ったらけっこう遅くなった。朝起きれるか不安だから、これ置いとくね。浴槽にこれ入れて、追い炊きボタン押して朝風呂入りなさい。たぶんきっと身を清めたことになるから。……もう! 神代さんったらぽんこつラーメンなんですから! あと井戸のお水をこんな容器に入れて! あ、でも朝風呂なんて優雅ですねぇ、たまには許してあげますか!」


 書置きを読んだ桃叶はペットボトルを持つと、少し機嫌よさげに浴室へと向かったのであった。


次は大晦日、年越しそば回で今年の更新は終わりです。

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