神代家の一日:平日編
お久しぶりでございます。
先週更新したかったけど、体調不良めいた何かのせいで無理でした。
所用で東京に言った帰り、移動中にスマホであらかた書いちゃいました。
が、仕上げをパソコンでした結果、加筆修正して結局土曜の更新は無理だったというね。
「……寒っ」
朝、スマホのアラームで目を覚ました悟志。
ベッドから出て、上着を羽織ると階段を降りて一階へ。
『悟志、おはよう!』
「ゴン太おはよう」
時刻は朝5時半。
悟志の気配で目を覚ましたゴン太が、犬小屋から顔を出して朝の挨拶をすると、悟志もそれに答える。
夏の暑さが苦手なゴン太。
昔飼っていた頃のように夏の間は屋内の涼しいところで寝起きさせ、秋〜冬は外で。
と思っていたのだが、もう別に室内で飼えばいいんじゃないか?
ということで犬小屋を屋内に移動させて、中に犬用ベッドを詰め込んだのが先日。
階段下の収納スペースがゴン太の部屋となった。
ゴン太の頭をくしゃりと撫でた悟志は洗面所で顔を洗って、歯を磨き、浴室に木の台を置く。
浴室暖房もしっかりつけて。
「あっ、そうだ。すぐ沸かさないと」
厨房に向かった悟志は寸胴鍋をラーメンのスープを作るような業務用コンロに置いて、ポリタンクから水を注いで火を付ける。
井戸水を沸かすのだ。
普段店に出す料理に井戸水は使わない。
“予約”が入った時にだけ井戸水を沸かして使う。
あとは神代家の人間が食べるごはんを炊くとき、汁物を作る時にほんの少し混ぜるだけ。
だからわざわざ業務用コンロを使う理由がないのだが。
この冬は毎朝沸かす。
さすが業務用の高火力。
だが少し今日はぷくぷく泡が出るのが遅かった。
ということはいつもより少し寒いということ。
悟志が寸胴鍋の様子を見ると、ちょうど沸いたところ。
すぐに火を止めて、そこに水道水を注ぐ。
だいたい十リットル入れた井戸水に対して、その倍である二十リットルくらいの水を入れて適温に。
その寸胴を浴室まで持っていき、先ほど置いた木の台の上へ。
「おはようございます」
「ああ、おはよう桃叶ちゃん」
「ちょうど準備できたところだから」
「いつもありがとうございます」
「いいんだよ、風邪引いたら大変なんだから」
桃叶は毎朝水を浴びて身体を清める。
これも悪しきものを祓う家系に生まれた桃叶の務めの一つ。
だから学校があることも理由の一つだが、悟志の次に起きるのが早い。
真夏なんかは暑いからちょうどいいだろ、と浴室で水を浴びることになんの抵抗もなかった悟志。
しかし、時が過ぎて今は冬。
寒い!
風邪を引いたらどうする!!
これはいかん、身を清めるの定義についてオオガミと話そう。
プラム様が食事に来た時、神棚に手を合わせて呼び出して、三者面談。
その結果、
井戸水を沸かして、効果を落として。
さらにそれを水で3倍くらいに薄めたお湯を浴びるなら大丈夫。
清めたことになる。
ということで悟志は毎朝井戸水を沸かして浴室に置く。
それを桃叶は浴びる。
余ったお湯で風呂掃除。これが桃叶の日課。
「さてと、朝飯作りますかね」
寝る前に予約していたため、ご飯は炊き上がっている。
冷蔵庫を開けて、今あるものを確認する。
メニューは決まった。
これでいこう。
「いただきます」
「いただきます」
薄めた井戸水を浴びて、ついでに洗顔などを済ませたのち、制服に着替えて座敷にやってきた桃叶。
いつもの場所に座って、悟志と一緒に朝食を摂る。
テレビをつけて、朝のニュースを見ながらの朝食。
普段は食事中にテレビをつけない神代家。
これは朝くらいしか時事ネタに触れる時間を作れない、そんな悟志の生活リズムと。
目の前で自分の作った食事を食べる少女への、ほんの少しの特別。
照れくさくて絶対に言わない本音の部分。
「神代さん、最近白米にハマってます?」
朝食後、程よく満たされたお腹でそう問いかける桃叶。
この冬、ごはん、パン、麺類をローテーションで朝食に作っていた悟志だったが最近は炊きたてごはんが多い。
炊きたてのごはんに、どこからか悟志が仕入れてきたとても美味しい卵。
それで作った玉子かけご飯は絶品だった。
また食べたいなぁ……、なんて気持ちはひとまず横に置いて。
本日のメニュー。
ごはん、玉ねぎとわかめの味噌汁、ウィンナー、玉子焼き、高菜、納豆。
味噌汁は白味噌。
ザ・日本の朝食!
「ん? ああ、正確には高菜にハマったかな?」
桃叶のお弁当を作りながら、答える悟志。
その答えに、ここ何日かの食事を思い返す。
……確かに高菜出てきてるかも!
この前の高菜チャーハンも美味しかった。
とんこつラーメンの時にも皿に盛られて、好きなだけ乗せられた。
「でも明日はパンだよ」
きっとさっき見たニュースの1コーナー。
喫茶店のモーニングプレートの紹介を見て、自分でも作ろうと思ったんだ。
意外と単純なんだよなぁ、この人。
それでも、この人が作るから。
きっと少し変えてくる。
「楽しみです!」
わくわくしながら桃叶はそう言った。
「へい! そろそろ起きる時間だぜ!」
弁当を作り終え、桃叶を送り出した悟志はゴン太と散歩へ。
いつもの散歩道を歩いて、冬の空気を肌に感じる。
家に戻ると、だいたい9時前後。
二階に上がると、廊下に立って声を張る。
最初は来栖を起こすためだけのものだった。
来栖がやってきて、桃叶がやってきて。
最後に乃亜がやってきて。
桃叶は早起きができる。
学生で一日のスケジュールが決まっているから。
しかし、大人といっていいのかは不明だが、人間より遥か長い時を生きた二柱は朝が苦手だった。
だからこうして神代亭の営業がある平日は毎朝悟志が起こすわけだが……。
「……ふぁい」
乃亜が小さな声で返事をするのがかすかに聞こえ、ごそごそと音がする。
乃亜は起きた。あとは来栖だけ。
「……こほん」
返事の代わりに部屋から聞こえてきたのは小さな咳。
これはいかん!
大慌てで冷蔵庫にある井戸水の湯冷ましを飲み、来栖の元へ。
「ごめん、また風邪引いたかも。ですって」
「そっか、……そっかぁ」
悟志の慌てように何か察したのか、乃亜が来栖の部屋に入って、様子を見てきて、悟志に教える。
つい二週間ほど前に季節性の風邪を引いた来栖。
それが治ってしばらくは元気いっぱい食べて、働いて、遊んでいたのだが。
やはりまだ身体は働くことに慣れきっていないのかもしれない。
何しろ彼女は千年もの長い間、封印されてきた邪神、プレミアムなニートなのだから。
「今日、休みにします?」
乃亜の問いかけに、悟志は少し考えてこう答えた。
「とりあえず乃亜ちゃん、来栖ちゃんの熱計ってきて。あんまり高いようならまた季節性の風邪かもだし店は閉めよう。そこまで高くなかったら、たぶん普通の風邪だから開ける」
「わかりました」
「……なんてことがあったんだよ」
「だから今日は乃亜ちゃんだけなんですね」
「乃亜ちゃんがんばれ~」
「私もくるぴゃんの様子見ながらだし、悟志さんのワンオペの時もあるけどね」
のれんを出さない特別営業。
閉店しているか特別営業なのかの見分け方は一つ。
営業中、準備中、の看板があるかどうか。
のれんが出ておらず、看板が準備中で置かれていたら休み。
出入口に張り紙で臨時休業と書かれていても休み。
のれんが出ておらず、看板も置かれていなかったら……。
特別営業のサイン。
知ってる常連客は少なくないが、常連客の古参はそういう時には店に入らない。
恩のある人が心置きなく気を配れるように。
ただ、店の前にいたところを迎え入れられたら話は別なのだが。
美森露羽と森川梓。
用事の前に合流した二人。久しぶりに行ってみようと開店を狙って店の前に立ったところ、ちょうど出てきた乃亜の案内で店内に。
「それで注文、なんにします?」
悟志が二人に尋ねると、
「私、焼きそば!塩で!」
「じゃあ、私はナポリタン大盛りで」
「ありがとうございまぁす!」
梓が元気よく、露羽が落ち着いた様子で注文をすると乃亜が慣れた様子で伝票に記入していく。
それを見た悟志は厨房のコンロ前に立って、調理を始める。
まずは焼きそば。
作り方はいたってシンプル。
ごま油で肉と野菜に火を通したあと、そこに麺を入れて絡めるように炒める。
塩と胡椒にほんの少し鶏ガラスープの素。
これで完成だ。
「お待たせしました、焼きそばです」
「ちょっと量多くない?!」
「あ、残ったら私食べるんで大丈夫ですよ」
悟志の出した焼きそばに驚く梓に、健啖家の露羽が声をかける。
それを耳にした悟志は素直にたくさん食べてえらい!
なんて思って、水分補給。
さて、次はナポリタン大盛り。
麺茹で用に沸かしてあるお湯を寸胴鍋から柄杓で鍋に移して、タイマーをセットしてパスタを二束茹で始める。
スーパーで買ってきた玉ねぎスライスを一袋、日ノ元ハムからもらったウィンナーも一束取り出して、ウィンナーを切り始めたら。
フライパンをコンロの上に置き、火にかける。
調味料を冷蔵庫から取り出して、フライパンの近くへ。
まずはウィンナーを炒める。
軽く火を通したら玉ねぎを加える。
そうしているとタイマーが鳴り、パスタが茹で上がる。
鍋を持ち、湯切り用の流しに置いたザルへパスタを移すと、そこからはスピード勝負。
パスタをフライパンに入れると、ケチャップ、ソースに顆粒コンソメを加えて混ぜ合わせるように炒める。
コンロの火を止めて、振り向いた先には乃亜が用意していてくれた平皿。
トングで持ち上げて、くるっと回しながら盛り付け。
「フォークと粉チーズはもう持ってってます」
「ありがと、じゃあこれお願い」
「はーい!」
今日は乃亜のアシストが光る。
これはあとでご褒美を、なんて思いながら再び水分補給。
冬とはいえコンロの前、気を抜いていると脱水症状を起こしかねない。
「お待たせしましたー、ナポリタン大盛りです!」
乃亜の声が店内に響く。
今日の営業はどうなるだろうか。
「もーおー! 呼んでくれたら学校早退してお手伝いしましたのに!」
「さすがに学校の方が大事かなー、って」
「一日くらい大丈夫ですよ、ももは勉強できるので!」
露羽と梓のあと、ちらほらと客がきただけで特に慌てることもなく営業終了。
途中乃亜に様子を見に行ってもらった来栖も静かに寝ていたらしい。
片付けの後、帰ってきた桃叶に来栖の体調不良を伝えると帰ってきたのがこの言葉。
そんな桃叶に留守を任せて、悟志と来栖は病院へ。
「ごめんね? また休んじゃって」
車の後部座席で来栖がぽつり。
バックミラー越しにちらりと見ると来栖の落ち込んだ顔。
「でもただの風邪でよかったじゃん」
「うん……」
「大丈夫だって。お客さんには悪いけど、身体の方が大事だし。なんも気にしなくていいよ」
朝に少しあった熱も、夕方には下がっていて。
暖かくしてしっかり休めばすぐによくなるでしょう、くらいの風邪だった。
大したことなかったのが悟志には何よりで。
明日からの土日好きなことをして過ごせるくらいには良くなってほしいなぁ。
少し辛そうな来栖を見て、そう思いながら運転する帰り道なのであった。
「乃亜ちゃん、ちょっといい?」
夕食はうどんだった。
三人娘の入浴順を決めるお風呂じゃんけんに負けた乃亜。
今日はゴン太と一緒に風呂に入るから、と最後に入る悟志の前に。
お風呂待ちのためになんとなく座敷でだらだらしていると厨房にいた悟志に呼ばれた。
「はーい、お手伝いですか?」
調理台の前に立つ悟志。その横に向かうと目の前には小さな白い箱。
「乃亜ちゃん、今日はお疲れ様。これ」
「……わっ、いいんですか?!」
白い箱に書かれていた文字。それはケーキ屋の店名だった。
ということは中に入っているのは……。
いそいそと箱を開けると、そこには予想通りケーキ。
「これ、最初に好きなの選んでいいってことです?」
箱に入っていたケーキは三つ。
自分と来栖と桃叶で一つずつ。最初に選んでいい。
そう思って悟志に尋ねたが、返ってきたのは
「あ、全部乃亜ちゃんのだから」
「えっ?! 食べきれない~! 甘やかしが過ぎる!!」
よくよく考えたら何かをみんなで分ける時は、みんながいる時に出す人だった。
嬉しいけど、食べきれないのはもったいない!
でも甘いものは別腹だし入っちゃうかも?
なんてそわそわしていたらやはりやってくるのはこの子。
「ちょっとー! のあさんだけずるくないですか?! ももにもください!!」
「ちゃんと二人の分もあるから、大丈夫。……あ、パジャマだけで寒い厨房に来るんじゃあないよっ! 上になんか羽織ってから来なさい!」
「もー! 神代さんったらお父さんみたいなこと言って! パパって呼ばれたいんですか?」
「その単語を俺に向けると一気に犯罪臭がするからやめて!」
「悟志さん困らせるとケーキなくなっちゃうよ~?」
「ひぃ、それはご勘弁! わかりました、着てきますから!」
慌てて上着を羽織りに戻った桃叶と入れ違いで来栖が自分の分のケーキを見にきたり。
『乃亜殿、甘いのはあと! 風呂! 俺が入れないだろ!』
「あっ、すぐ行きます!」
なんてゴン太が文句を言いに来て、乃亜も慌てて風呂に向かったり。
こうして今日も一日が終わっていく。
時々騒がしくて、時々変なことが起きて、でも穏やかな日常。
いつか来る終わりの時まで、ずっと楽しく暮らせますように。
みんなひっそりとそう願っていたのであった。
また来週土日どちらかと24日か25日に更新。
再来週土日どちらかと大晦日の更新で年内は終わりかなぁと思ってます。




