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男飯食堂、神代亭へようこそ!  作者: 一之瀬 葵翔


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13/20

悟志の育児体験

安定の日曜深夜ですわ……。

「これは……」


「ちょっと……ねぇ?」


「……説明してもらえますか、オオガミ様」


 乃亜、来栖、悟志の三人が戸惑いながら目の前で頭を下げているオオガミに声をかける。

 冷や汗をかきながら、オオガミが説明をしようとすると


「……もも、ここにいたらだめ?」


 と寂しそうにつぶやく、オオガミの横にいる幼女。

 その顔は今にも泣きそうで、悲しさが伝わってくる。

 そんな幼女の目の前に悟志が立つと、しゃがみこみ、幼女の目を見つめて優しい物言いになるように努めてこう言った。


「そんなことはないよ、桃叶ちゃん」


「でも……」


 こんな時でも桃叶は桃叶。

 いや、違う。ずっとこうだったんだ。

 こうしていくことしかできなかったんだ。

 そのことに憤りを隠せない悟志。

 そう思っていたのは悟志だけではなく


「もも、いちゃダメなんてことはないよ? むしろももはここにいないとダメなんだよ~?」


「そうそう、ここでみんな楽しく暮らすんだから」


 と抱き寄せる乃亜と来栖。

 大丈夫だよ~、怖いことなんてないよ~と声をかけて髪をなでる二人。

 すると裏口の扉が開いて、プラム様が飛び込んできた。


「こりゃ、オオガミ! お主何やっとるんじゃ!!」


 開口一番、オオガミをしかりつけるプラム様。

 その後ろからてしてし歩いてくるゴン太。


『悟志~、オオガミ様がやらかしたって本当か?』


「ああ、何がどうなったのかわからんけどもさ。ほれ、桃叶ちゃんがあんな感じに」


 説教を食らうオオガミを横に悟志が指を指した方向を見ると、そこには幼女を抱きしめる来栖と乃亜が。


『……確かに桃叶殿の匂いだ。桃叶殿がちっちゃくなった!』


「いやあ、ある程度ファンタジーには慣れたと思ったんだけどなぁ」


 苦笑交じりにそう言う悟志。

 とにかく詳しく話を聞かないことには始まらない。

 ひとまずプラム様の説教が終わるのを待ちがてら、悟志は食事の準備を始めた。





「なるほど……、そういうことですか」


「本当に申し訳ないことをした」


「で、桃叶ちゃんのご両親は?」


「今は山で修業の時期だから連絡がつかなくてね。ここに連れてきたんだ」


 桃叶を乃亜と来栖に任せ、悟志とオオガミは店の客席に移動する。

 そこでオオガミから話を聞くところによると、朝から社で修業をしていた桃叶。

 瞑想をして高めた力を練り上げる訓練をしていたところに、オオガミが顕現する。

 社の主がひれ伏せと大声で桃叶を叱ったその時、驚いた桃叶はその力を放出してしまう。

 それを止めようとオオガミが自らの力をぶつけるが、ほんの少し、ほんの少しだけオオガミの放った力が上回る。

 そのせいでうまく対消滅させられなかった力は時を戻す力。

 それが桃叶を包み、桃叶は子供のころに戻ってしまったのだった。


「幸いにも二日か三日で元に戻るんだけど、その間は身体に心が引っ張られて見た目通りだから、子供だと思って接してほしい」


「……とりあえず親戚の子供預かるような感じで行きますよ」


「うん、何かあったら神棚を拝む形で伝えてほしい。すぐに行くから」


 そう言って、オオガミはふっと消える。

 残された悟志はふぅと息をついて考える。

 しかしなるようにしかならない、幸運なことに一人じゃない。

 全員で力を合わせよう、そう思い座敷へと戻る。

 するとそこにはゴン太と桃叶だけがいた。


『お、悟志。乃亜殿たちは桃叶殿の服を買いに行ったぞ』


 伏せたゴン太にもたれかかるようにして眠っている桃叶。

 暖房の効いた部屋、さらにゴン太があったかいから風邪をひくことはないと思うが、心配になった悟志はブランケットをふわりとかける。

 時計を見ると午後二時半。

 そろそろおやつの時間。

 そういえば夜こっそり食べようと思っていたシュークリームがあったな。

 あとは牛乳でココアを作って、砂糖多めに甘く仕上げようか。

 なんて思って、厨房へ。

 小鍋に牛乳を注ぎ、火にかける。

 ぷつぷつと泡が出始めたところで砂糖をさらさらと。

 最後にココアの粉を入れてかき混ぜて完成。

 そろそろ起こそうか、なんて思っていると視線を感じる。


「ん? お昼寝から起きたみたいだね。それじゃあ、おやつにしようか」


 座敷と厨房の境目、すりガラスの入った引き戸からこっそりこっちを覗く小さな天使。

 目が合うと隠れようとしゃがみこむ。そんな仕草すら愛おしく感じる。

 これが親心……、と謎の感情を抱いていると、ゴン太が桃叶の横にやってきて身体をすり寄せる。


『大丈夫だぞ、悟志はとっても優しいんだ。あと来栖殿も乃亜殿も』


 桃叶にそう伝えて、小さなほっぺたを舌でペロリ。


「くしゅぐったいよ、ゴン太ちゃま」


 その様子を見ていた悟志はそういえば俺が子供のころもゴン太はいつもそばにいてくれたなぁ、と昔を思い出す。


『悟志~、大丈夫だぞ。俺、子供好きだ』


「知ってる、俺がちっちゃな頃もそうやってずっと一緒にいてくれたからな」


『今な~、悟志は桃叶殿に甘いのやろうと思って、あそこにいたんだぞ。甘いの食べるか?』


 ゴン太がお座りをして桃叶に説明をすると、こくりと頷く。

 無駄にならずにすんでよかった。

 悟志はマグカップにココアを注ぎ、座敷のこたつ机の上へ。

 この座敷の壁を挟んだ向こう側、神代亭の客席にたった一つだけある小上がり。

 四畳ほどの客用座敷においてある子供用の椅子を持ってくると桃叶に座るように促す。


「ももかちゃん、ほらここ座りな」


 悟志の言葉に従って、大人しく椅子に座る桃叶。

 目の前にあるココアを飲もうか我慢しようか、そんな感じに見えた悟志はふっと笑って桃叶に話す。


「これは桃叶ちゃんのココアだから、飲んでいいんだよ。すぐにシュークリームも持ってくるからね」


 今度はキッチンの方にある冷蔵庫からシュークリームを一つ取り出すと、袋を破って皿に盛る。

 そうして用意したおやつを桃叶に渡そうとしたところで、来栖たちが帰ってきた。


「もも~! ただいま! お姉ちゃんたち帰ってきたよ!」


「もも、おやつ! ドーナツみんなで食べよ! あ、悟志さん! 悟志さんにもドーナツ買ってきましたよ! クリームのやつ!」


「ああ、おかえり。ちょうどよかった、おやつにしようと思って今用意してたんだ」


 二人を迎えた悟志、シュークリームを桃叶の目の前に置くと


「よかったね、お姉ちゃんたちがお菓子買ってきてくれたって。ドーナツは好き?」


 と桃叶に尋ねる。


「うん、すき」


「そっかそっか、たぶんたくさん買ってきたから余ったら明日の朝ごはんにしような」


 思い思いの飲み物を用意して、いつもの場所に座った四人と普段は主の横にいるが今日は桃叶の横にいる一匹。

 悟志にとっては久しぶりのおやつ。それは家族、というものを感じさせるとてもあたたかい時間だった。





「晩ごはんだぞ~」


 おやつを食べた後、テレビにゲーム機を繋ぐと、そこに入っていた動画視聴アプリを起動させてアニメを流す。

 ゴン太にもたれかかったり抱き着いたり、体勢を変えながらも食い入るようにそれを見ていた桃叶。

 桃叶に付き合って、なんとなくで見ていた来栖たちもいつの間にか真剣に見ていた。

 その傍らで、夕食の準備をしていた悟志が全員に聞こえるようにそう言うと、はっと我に返る。


「いつの間にか私もめっちゃ真剣に見てた……。アニメ、恐るべし」


 来栖がぽつりと呟いて、立ち上がると準備の手伝いを始める。


「ももー、ごはんだって。一回見るのやめよっか」


「え……。あ、うん」


 乃亜にそう言われ、見たい気持ちを抑えようとする桃叶。

 それを見逃す悟志ではなかった。


「今日は流しっぱなしにして、見ながら食べよっか」


「いいの?」


「今日だけな? ……これ、面白いもんな」


 悟志が流したのはおもちゃが勝手に動き出す映画。

 悟志の子供の頃の作品なのだが、根強い人気を誇るアニメだった。


「今日は~、鍋~」


 カセットコンロに土鍋を乗せて、火をつける。

 少し待っているとぐつぐつ煮える音が聞こえて、ふたを開けるとそこには


「ウィンナーとベーコンと野菜?」


「ウィンナーとベーコンが嫌いな子供はいない」


 コンソメスープに千切りキャベツなどが入った生食用の野菜ミックス。

 それとウィンナーとベーコンを入れて煮ただけのシンプルな鍋。

 来栖が取り分けると、まずは桃叶に。


「はい、どうぞ。おかわりもあるからね? たくさん食べな?」


「ありがと、おねーちゃん」


 礼を言って受け取る桃叶。

 来栖は次に自分の分、その次に乃亜と次々に取り分けて、最後に悟志。

 悟志が最後なのには理由があった。

 それは締め。締めのパスタをしっかり食べるために量を抑えているのだ。


「それじゃ、手を合わせてください。いただきます」


「「いただきます」」


「いたーきます」


 悟志のいただきますに合わせて、来栖と乃亜も続く。

 それを見た桃叶もみんなの真似をして、いただきます。


「あ、桃叶ちゃん熱いから気を付けてね。ふーふーしてから食べなね」


「あい」


 器に入ったウィンナーをフォークで刺して持ち上げると、ふうふうと息を吹きかけて冷ます桃叶。

 そうして、程よい温度になったであろうタイミングでウィンナーにかぶりつく。


「おいしい!」


 笑顔の桃叶にほっと一息。

 大人たちも手を付けて食べ始める。

 あっという間に追加した具材まで食べ尽くし、締めのパスタへ。

 それもしっかり食べた桃叶は、膨れたお腹で来栖とお風呂へ。

 ほかほかの身体を来栖たちが買ってきたもこもこのパジャマで包み、ゴン太と一緒にベッドに入って眠る。

 次の日、遠慮がちに桃叶が言った遊園地に行きたい。

 あー! よっしゃいくぞ、と準備をすぐに終わらせて連れていく。

 はしゃいで回る桃叶をスマホのカメラで必死に撮影して、記録に残す悟志の姿は父親そのもの。

 親バカさに呆れつつも、来栖たちは来栖たちでしっかり遊園地を楽しんだ。


「おうどんたべたい」


 桃叶の一言ではい、今日はうどんですと献立を決める悟志。

 うどん好きも大喜び。

 桃叶と乃亜には肉団子と白菜のうどん、来栖にはあげや海老の天ぷらの入ったうどんを。

 あげを欲しそうに見ていた桃叶に、二枚あるあげのうち一枚を渡す来栖。

 うどんだけは絶対譲らない来栖が、自分から好きな具でもあるあげを桃叶に譲る。

 その光景に目を疑うなんてことがありつつも二日目も過ぎた。

 そして、三日目の朝。

 ついに桃叶は元に戻ったのだった。


「わやー、そんなことがあったんですね」


 子供でいた頃の記憶がない桃叶に説明をするとどこか他人事のよう。

 実感がないのだろう。

 しかし見せられた写真は紛れもなく自分の幼い頃。

 不思議なこともあったもんだと、切り替えようとする。


「さ、もう学校行く時間だろ。これ、お弁当ね」


「ありがとうございます! じゃあ、いってきます」


「いってらっしゃい」


 こうして神代家の騒動は幕を閉じた。

 バタバタしている間、原因のオオガミは何をしていたのかというと……。


「ひぃ~! プラムさん人遣い荒いって」


「悟志を困らせたからの、これは罰じゃ。しっかり反省するんじゃぞ」


 と、罰として雑用を押し付けられていたのであった。


次週は主催イベントのためお休みをいただきます。

お読みいただきありがとうございました。

朗読会も情報はXにあるので、一之瀬工房と検索してみてください。

そしてお暇でしたらお越しください。

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