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Chapter4 後編


教室に残ったのは、ヘラヘラ笑う三國有也と私だけだった。


「・・・どういうこと?姉さんに冷たい??アンタの話と違うじゃない!!私は、姉さんがアンタから離れていってるって思ってたのに。」


「別に、嘘ついたわけじゃないよ?オレは、二人が一緒にいることが多くなったって言って、優美チャンといることが多くなってただけ。勝手に優美チャンが勘違いしてただけだよ。」


「そんな・・・!」


「でも、もう久美サンとは別れるかもね。・・・もともと優美チャンに近付くために付き合ったようなもんだったしね。剣治センパイも、上手い具合に勘違いしてくれたみたいだし。」


「・・・私、姉さん達にちゃんと説明してくる。ただアンタにだまされてただけだって。剣治は信じてくれないかもしれないけど、姉さんはきっと分かってくれるわ。」


「そうかな?・・・こんなことしてても?」


そういって、有也は私のことを急に引き寄せ、唇にキスをした。

急だったために、私が反応できずにいると、ガラリと教室のドアが開いた。


「有也くんと優美・・・?一体なにしてるの?」


ドアを開けたのは、姉である久美だった。キスをしている二人を見て、身を固めた。

優美は有也から離れたが、すべて後の祭りだった。


「姉さん・・・。」


「ごめんね久美サン。今日メールで呼び出したのは、こういうことなんだ。」


「一体いつから・・・?だって、優美は剣治と付き合ってたんじゃ。」


「アレ?知らなかった?優美チャンと剣治センパイはもう2週間も前に別れてるよ。それで、今はオレといい感じなわけ。」


「あたしのことは、遊びだったってこと?最近冷たくなったのだって・・・!」


「ごめんね?久美サンと居るのは楽しかったよ。でも、もう別れてくれる?」


そう有也が言うと、久美は泣き出しそうな顔をしながら優美をみた。


「姉さん、誤解なのよ!今のはアイツが無理矢理・・・」


「・・・あの噂は本当だったんだね。あたしは優美を信じてたのに。あたしを利用できてよかったね?あんたは、昔から、あたしのこと妬ましかったんでしょ。あたしの好きな男盗れて嬉しいんでしょ?!」


「何言ってるの・・・?姉さんを利用したことなんて一度もない!妬ましいなんて、思った事なんて・・・。」


「本当に?昔から、父さんや母さんはあたしを可愛がってたし、あんたが好きだった剣治だって、あたしの事が好きだった・・・!恵まれてたあたしが羨ましかったんでしょ!?・・・あんたなんて、母さんを不幸にした男の子供なのに!」


「姉さん・・・。なにもかも知ってたの?」


「あたしたちが異父姉妹だってことは、ずっと前から知ってた。父さんが酔うと必ずあたしに言っていたから。本当のうちの子はあたしだけだって。・・・それでも、あたしはあんたと普通に接した。たった一人の妹だって思おうとしてたから。剣治のことも、告白を受けて、正直迷ったわ。昔からあんたが剣治のこと好きだったって知ってたけど、あたしだって、剣治のことがその頃好きだったんだから!・・・でも、あんたのことを考えて、断ったの。だって、剣治まであたしが盗ったら、あんたのこと見てくれる人はいなくなるもんね・・・!」


「・・・そんなことを思ってたの?私は、姉さんと剣治が幸せならそれでよかったのに・・・!」


「本当に?・・・きっと違うわ。心の中じゃあ、あたしのこと妬んでたんじゃないの?」


「そんなこと・・・!」


 けれど、咄嗟に私は否定できなかった。両親に愛される姉さん、綺麗な姉さん、剣治に無条件で大事にされる姉さん。妬まなかったことがなかっただろうか?ただの一度も・・・?


「・・・やっぱり、答えられないんだね。もういいい。有也くんも、優美も、もうあたしに話しかけないで!」


 そういって、涙を流して、姉さんは教室を出ていってしまった。


「待って!・・・姉さん!!」


私は、叫んだけれど、もう姉さんに届くことはなかった。

剣治も姉さんも、私から離れていく。二人に見捨てられたら、どうしたらいいかわからなかった。


******

 三國有也は、去っていった久美をみて、ようやく全てが上手くいった気がしていた。・・・久美の、優美に対する嫉妬にゆがんだ顔も、やはり美人なだけあって、美しかった。けれど・・・。


「・・・私たちの仲を壊せて満足した?アンタは人の不幸をみて喜ぶ嫌な人間だったもんね。」


 そう泣きながら言う優美の顔は、醜く歪んでいたけれど、その顔すら、久美に勝っていると思うことに、三國有也は驚いた。そして、あの屋上の一件以来、優美に付きまとっていたのは、ただ三人の仲を壊したいだけではなかったことに、ようやく気付いた。


――――オレは、優美が好きなんだ。


 さきほどのキスが、今までしたキスのどれよりも、甘美なものに感じたのも、あの笑顔が見たいと思ったのも、ずっと優美のことを目で追っていたのも。自分の興味を惹く存在なだけではなかったんだと。

そして、二人と完全に切り離した優美には、有也がつけ入る隙ができたように感じた。


――――早く、オレに堕ちればいい。


「それだけじゃあ、ないよ。・・・オレは、優美チャンが好きだよ。」


その言葉に、優美は驚いたようだった。けれど、


「アンタのことなんて信用できない!そんなこと言って、簡単に裏切るんだから。姉さんのときみたいに・・・!」


そう言って、優美は教室を走り去ってしまった。

だから、有也は優美のことを追いかけた。今までのことを考えれば、信用なんてされないのは分かり切っていることだった。でも、心の支えがなくなった優美はきっと脆い。時間をかければ、必ず自分に堕ちてくるだろう。今から、優しくすれば、間に合うと思っていた。


しかし、そんなことはできなかった。


 有也が、優美を追いかけ、学校前の交差点まで来た時、一台の車が交差点に突っ込んできた。それに気付かず、優美は走り渡ろうとしている。


「優美チャン・・・!!」


一瞬、有也と優美の目が合った気がした。


「きゃー!事故よ!」


「救急車だ!早く携帯で呼ぶんだ!」


「轢かれたのって、近くの高校の制服だったわね。」


周りの交差点で待っていた人々の声が聞こえる。


有也には、サイレンの音も人々の声も遠く感じた。



  


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