表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/42

7話:カイラとルドラ、そして挑戦

「お行き! シャム」


 カエは居丈高に、ビシッと集落を指さした。


「くぁ! エラソーに…。いいのか? カルリトス」

「よい。ヴァルヨ・ハリータ持ちの直感じゃろう、なら間違いない」

「はいよ」


 シャムは車を出て、集落に入っていった。そして10分ほど経って、2人の子供を連れて戻ってきた。

 子供たちはその場に跪いた。


「対象年齢の子供は、この2人しかいなかった。他の子は奉公に出てて、集落には住んでないそうだ」

「判った。どれ、マドゥ」

「はい」


 カルリトスに促され、マドゥは車窓ごしに子供たちを見る。


「領主様の御息女、シャンティ王女殿下であらせられる」

「王女殿下に、拝謁いたします」


 幼い男女の声が、車中に流れ込んでくる。

 しかし、


「ねえ、2人が見えないんだけど…」


 後部座席に座るカエは、ドアが閉じられていて、跪く2人の様子が判らない。


「声は聞こえていますか?」

「うん」

「なら大丈夫です」

「いやいや」


 カエは「ダメダメ」と手を振る。


「顔見て話したいんだけど」

「それは、しきたりに反します」

「だって自分のソティラスにする子たちなんだよ! ちゃんと目を見て話をしなきゃ」

「しかし」


 困惑するマドゥに、カエは譲れない思いで睨み返す。


「身分を弁えておるんじゃ。まあ、今回は仕方がない。シャム」

「へい」


 シャムは後部座席のドアを開く。


(うわっ)


 ややぬかるんだ地面に、子供たちは平伏している。


「汚れちゃうから立って! っていうかもう汚れちゃってるか…手脚冷たいでしょ、立ち上がって2人とも」


 慌てて言うカエの言葉に、2人は顔を伏せたままお互いを見た。


「殿下がああ仰せだ。顔が見えなくて困るらしい、立て」


 シャムが言うと、2人はひどく困惑した表情(かお)で立ち上がった。


「あなた名前は何て言うの? 年齢(とし)は?」

「……」


 女の子のほうが、救いを求めるようにマドゥを見る。その様子に、カエはシャムを見た。


「もしかして、王族は直に話しかけない、とか…?」

「ぴんぽーん」


 ヤレヤレ、とシャムは肩をすくめた。


(色んな知識がまだ不足まくりだからしょがないのよ!)


 だから恥ではないと思うのに、カエの顔は赤らんでしまう。


「しきたりなんてクソ食らえよっ! あなたたちの名前と歳を教えて!」


 恥ずかしさを隠すために、ちょっと乱暴に訊く。


「カイラと申します。14歳です、殿下」


 可愛い声で恐縮気味にカイラが答えてくれた。14歳ならちょうどいい。


「オレはルドラ、13歳です」


 ぶっきらぼうな口調で、ちょっと不機嫌そうな表情(かお)でルドラが答えた。


「くううぅううっ!」

「どうした?」


 突如カエが唸りだし、カルリトスは慌ててカエの顔を覗き込んだ。


「2人ともメッチャ可愛い! 将来有望マチガイナイ!」

「……」


 カルリトスの髭が萎えた。

 カイラとルドラも、カエのテンションに思わず吃驚していた。


「ね! 2人とも、私のソティラスになって!」


 カエは両腕を前に伸ばし、歓迎の意味をあらわした。顔がにんまりと笑みを浮かべる。しかし、


「一つ条件がある」


 ルドラが挑むようにカエを見据えた。


「条件?」

「オレに勝負で勝ったら、言うことをきく」


 次の瞬間、シャムがルドラの頭を掴んで、身体を地面に叩きつけた。


「ぐあっ」

「ちょっとシャム!?」


 いきなりの展開に、カエの声が裏返る。


「…いいか奴隷、ちょっと甘やかされたくらいで、調子に乗るんじゃねえぞ?」


 ルドラを抑えつける手に力を込めて、シャムは低い声で言い放つ。


「殿下が寛容だから、無礼な態度も大目に見てやっていたが、誰に口をきいてんだ。身の程を知れ、ガキが。王族に口をきくこと自体が――罪なんだよ」


 言って、シャムはルドラの頭を平手で叩いた。


「奴隷の分際で、王族に勝負をもちかけるなんざ、どんな躾を受けてきたんだ」

「も、申し訳ございません!」


 怯えながら困惑していたカイラが、その場に土下座した。


「大変なご無礼を、どうかご容赦くださいませ」


 ぶるぶる身を震わせながら謝るカイラの姿に、カエは天井を仰いだ。そしてため息をつき、車を出た。


「姫様なりません!」


 大きく声を上げたマドゥを、カエは手で制した。


「怯えないで。さ、立って」

「…え」


 カエはカイラの手を取って立ち上がらせた。そして膝についた泥を払ってやる。


「シャム、その手をどけて、ルドラも立たせるのよ」

「はあ?」

「命令よ、従いなさい」


 怒った風のカエの顔を見て、シャムは小さく舌打ちしてルドラを解放した。

 カエは2人に目線を合わせるよう、少し身体を屈めた。


「2人とも、いきなりすぎてホントごめんね。私、館の外に出たの初めてだから、ちょっとテンション上がっちゃってて」

「そ、そんな、恐れ多いことでございます」


 カイラは可愛い顔を悲壮に歪めて恐縮した。


「私の直感がビビっときたの。2人が仲間になってくれたら、メチャ心強いってね!」

「は、はあ…」

「だ・か・ら!」


 カエはルドラに顔を向ける。


「勝負方法はなに?」


 ルドラは大きく目を開いた。

 目の奥に驚きと困惑が宿ったが、すぐにぶっきらぼうな表情(かお)に戻り、グッと拳を握った。


「あっちに大きな川がある」


 ルドラは集落のほうを示した。


「泳ぎの勝負」

「ほほう、そうきましたか!」

「はああああ!? オイッ」


 シャムが素っ頓狂な声を上げる。

 カエはシャムにニンマリと笑い、ルドラに視線を戻した。


「いいわよ、受けて立つ! 現役ジョシコーセーの実力を、見せてあげる!」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ