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4話:先生は喋るチンチラ

 いったん退室したマドゥは、数分して戻ってきた。

 両掌に、一匹の小動物を乗せて。

 カエの視線が小動物に集中する。


「こちらが、カルリトス老師(せんせい)でございます」

「苦しゅうないぞ。儂がカルリトスじゃ」


 仰け反る様に威張るチンチラ。


「ちっ、チンチラが喋ったあああっ!?」

「無礼者めが! ”老師(せんせい)”と呼ぶのじゃ!」


 老人口調のチンチラが、大声で一喝する。


(こ、ここはファンタジー)

(これは異世界ファンタジーなのよ!)


 全てを肯定する、それがファンタジーマジック! そう納得させようと、カエは自らを奮い立たせた。


「見た目はこう…愛らしいのですが、数千年を生きていらっしゃる方なのです。今日から姫様付の先生となって、色々お教えくださいます」


 どこか必死に笑いを堪えるような表情(かお)で、マドゥはカルリトスをテーブルの上に置いた。

 数千年生きてるチンチラが、先生となる。


(数千年…。老人口調で喋ってるだけでもホラーなのに)

(異世界って、恐ろしいところネ)




 カルリトスはテーブルの上に後ろ脚で立ち、カエは床に正座させられた。


「色々訊きたいこともあるじゃろう。質問して良いぞ」

「ハイッ、老師(せんせい)!」


 カエは元気よく片手を上げた。


「ヴァルヨ・ハリータ、ソティラス、イリスアスール王国、バークティさんの計画、私どうすればいいの諸々、全部説明おなしゃす!」

「一度に話して、頭に入るんかの…」

「……た、タブン?」


 気まずい空気がサンバを踊る。


「そうさの…、ヴァルヨ・ハリータとソティラスについて、まずは話しておくとしようかの」

「あざーっす」


 カルリトスは短い前脚を組む。


「ヴァルヨ・ハリータが何なのかから説明をしておくぞ」

「はい」

「カマル王家の血筋のものに受け継がれる特殊な力の名称で、しかし血筋でも必ず継げるものではなく、ランダムに現れるのじゃ」

「ほうほう」

「そしてそなたのように、血筋に全く関係のない他人でも、稀に継げることがある」

「ふーん…? 私はどうやって継げたんですか?」


 カルリトスは「ニタッ」と口元を歪めた。


「ブドウジュースを飲んだじゃろう」

「えっ、ジュ…ジュースで!?」

「中に亡きシャンティ王女の、秘術をかけた心臓を混ぜてあった」


 ――世界から音が消えた。


「しっ、心臓!? そんなものなんっ」


 喉が圧迫されて、言葉がグッと詰まる。

 褐色の肌色でも判るくらいに、一瞬でカエの顔が青ざめた。

 嘔吐感が胃袋に強く湧いて、カエは口元を塞ぐ。


(キラキラしたものがリバースしちゃう!)


 気合と根性で防いだ。


「匂いと味が濃い飲み物で誤魔化しておったんで、気付かなかったろうの」

「…う、うん…」

「あと色も」


(いや…そこまで詳細に、もうイイっす…)


「外見の改造と、ヴァルヨ・ハリータの力を継がせる、どちらも適合するかは賭けなのじゃ。そなたは優秀だぞ、こうして大成功したしの」


 カエは黙ってカルリトスを見つめた。


「…もっと褒めてイイヨ」


「ファンタジーって結構エグイよなあ…」とカエはため息をついた。


「苦しい思いを味わわせて申し訳なく思う。しかしこれで、バークティの計画も再始動出来るし、本当に良かった」


(そうだね…。私自身、いっぱい犠牲払ってるもん)


「ヴァルヨ・ハリータの力を継いだそなたは、ソティラスを多く揃え」


 カルリトスの赤い目が、鋭い光を帯びた。


「王女の腹違いの兄、アルジェン王子に備えなくてはならぬ」

「アルジェン王子?」

「もう一人のヴァルヨ・ハリータの力を継いだ王族じゃ。ラタ王女が身罷ったら、そなたとアルジェン王子の2人が、事実上後継者候補になる」

「そっか…王様の子供って、他にもいっぱいいそうだしね」


 バークティ妃は”(きさき)の一人”と言っていたことを思い出す。


「現在7人の王子王女がおる。正后(せいしつ)の産んだラタ王女、そなた、アルジェン王子の3人だけが、ヴァルヨ・ハリータの力を継ぐことが出来た」

「たった3人かあ…」

「そしてヴァルヨ・ハリータの力を継いだ、一番最初に産まれた子が、後継者と定められる。しかしラタ王女はもうすぐこの世を去る」

「あれ?」


 ふと、カエは会話を遮った。


「じゃあアルジェン王子が、次の後継者になるんじゃないの?」

「通例ならの」


 カルリトスは髭をそよがせた。


「しかし国王が、そなたとアルジェン王子を競わせ、その結果で後継者を決めると言い出しおったんじゃ」

「ほほお…」


(なんつー余計なことを…)


 カエからしてみたら、最高に余計なお世話だった。


「バークティにとって青天の霹靂、降ってわいた幸運じゃ。シャンティ王女を後継者に出来るチャンスだからの」

「ダヨネー」


(くぅううっ…私の不幸は国王のせいかっ!)


「国王は2人の子供に、半年の猶予を与えた」

「なんで?」

「ソティラスを揃えるためじゃ」

「奴隷…、せめて、護衛って意味のほうがイイな…」


 口にしても嫌な気分になる、”奴隷”という言葉。


「そなたの好きに思えばよい」


 カルリトスは柔らかな尻尾を大きく振る。


「よいか、そなたが今一番しなくてはならないこと、それは、ソティラスを揃えることじゃ」

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