表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/42

35話:異世界送還魔法

 身体の表面が炭化するほどの雷に撃たれた3人のソティラスは、煙を噴き上げながら絶命していた。

 あまりの壮絶なシーンに、謁見の間が静まり返る。しかしその静寂を破って、王の笑う大声が広間に木霊した。


「実に愉快ではないか。余のエセキアス・アラリコが、あれほどあっさりと殺られてしまうとはな」


 あはははは、となお笑う王に、カエは首をすくめた。


(さっすがアールシュ……手加減ナイわあ…)


 相変わらず音声は聞こえないので、何を話していたのかは判らない。


「クソッ!!」


 大声で毒づき、突然アルジェン王子が立ち上がる。そして召使たちが制止する声にも耳を貸さずに、謁見の間を出て行ってしまった。


「え、ちょっと…」


 中継はまだ続くし、王は静止する素振りも見せない。

 思わず立ち上がってしまったカエは、アルジェン王子の出ていったほうを見つめ、途方に暮れてしまった。


(なんなのよ…アイツわ…)


 椅子に座り直そうとしたとき、アルジェン王子が幾人かを伴い戻ってきた。

 灰色のローブをまとった老人とドゥルーヴの≪分身(トイネン)≫が、ニシャを連れている。


「ニシャ!?」

「ひ、姫様…」


 ニシャはカエに気付いて涙を見せた。


「ちょっとアンタ!! ウチのニシャになにしてくれてんの!!」

「黙れブス!」

「ブっ」


 カエの口の端が引き攣る。


「いいか! この勝負は無効にしろ! 俺は認めないぞこんなつまらん勝負!!」

「はあ? そっちが負けまくってるからって、なに逆ギレしてんのよ、バカなの? アホなの?」

「こんな遊びはどうでもいい、年齢順で俺が次期国王だ!!」


 玉座を見上げてアルジェン王子は叫ぶ。しかし王は何も言わず、ただジッとアルジェン王子を見据えていた。

 王の無反応に、アルジェン王子は顔を真っ赤にした。


「やれ! 妖術師レヤンシュ!!」

「御意」


(妖術師??)


 カエが訝しんで妖術師レヤンシュを見ると、彼はニシャの背後に回り、ニシャを抱きすくめた。


「いやあっ」

「なにすんの変態ジジイ!!」


 身をよじって逃れようとするニシャを、妖術師レヤンシュは硬く抱きしめ、そしてニシャの身体に溶け込み始めた。


「ええ!?」


 妖術師レヤンシュの身体がドロドロと溶け出し、ニシャの身体に滲みこむように入っていく。

 生肉と腐った油のようなモノが、華奢な身体に入り込んでいく様は、グロテスクにもほどがある。


「助けて姫様いやだああ」


 大声で泣き喚くニシャを助けようと、カエは弾かれたように飛び出そうとした。しかしカエの手は、バークティ妃に素早く掴まれてしまう。


「ニシャを助けないと!」

「あれでは助からない、一旦様子を見るのよ」

「でも!!」


 やがてニシャの泣き叫ぶ声が止む。


「ニシャ…?」


 俯くニシャに、カエはそっと声をかける。そして、


「成功です、王子よ」


 顔を上げたニシャの白目が黒く染まり、老人の声が愛らしい口から洩れていた。


「よし」


 アルジェン王子は不敵に笑い、再び玉座を見上げた。


「今すぐ俺を、後継者にすると言え。さもなくば、この国を俺のいた世界へ落としてやる!!」

「ほう…」


 ようやく王は言葉を発したが、さして興味もなさそうな声音だった。

 感情の伺えないエメラルドグリーンの瞳が、アルジェン王子をひたと見据える。そのあまりに不気味に見える王の目を見返し、アルジェン王子は生唾を飲み込んだ。

 暫し沈黙が下りた。

 アルジェン王子は歯をギリギリ噛みしめ、ニシャを振り向いた。


「やれ!!」

「はい」


 妖術師レヤンシュは頷き、両手を上げて呪文を唱えだした。

 やがて小さな地鳴りが始まり、徐々に大きくなっていく。

 ゴゴゴゴゴッと音を立て、スーリヤ宮が揺れ始めた。


「何をする気なの!」

「異世界送還魔法だ」

「……送還? 召喚じゃなくて??」

「無知め」

「カッチーン!!」


(アルジェンに言われると、余計ムカツク!!)


「どうやらテメーも、俺と同じ世界から召喚されたクチみてーだな。だからちょうどいい、俺たちのいた世界へ、この国ごと凱旋帰国しようってことさ!!」

「はあ? なにそれ!?」


 腕を組み、アルジェン王子は高笑いする。


(ど、どうすんのこれ!? マジなわけ? 駄々っ子よりたち悪すぎ!)

(つか、私たちのいた世界へって…いやいや、国ごと無事に飛べる保障なんてナイんじゃない?)


 なんとかせねばとカエはバークティ妃のほうを振り向く。しかし、バークティ妃は玉座を見上げたまま硬直していた。


「バークティ妃…?」


 カエも玉座を見上げて目を見張る。

 アイシュワリヤー妃が、王に剣を突き立てていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ