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34話:闇の誕生

「1万を超える、偉大なる王のエセキアス・アラリコの中でも、選び抜かれし最強を誇る十二神将」


 アールシュは真顔で謳う。


「……が、弱いな、おまえたち」


 黒いシルクの袖に覆われた腕からは、艶やかな光沢をもつ触手がいくつも生えていて、3人のソティラスの首を縛り上げていた。

 少し離れたところでは、バラー・アールシュが3人の≪分身(トイネン)≫を、同じように縛り上げていた。


「まあ、1万人の中からたった12人を選ぶのだから、審査も甘くなるのだろう」


 うんうん、と1人納得し、触手を揺らす。

 白い月のような美貌のアールシュに対し、厳つい顔のセスが「ふんっ」と鼻で笑った。


「首を締めあげてると、喋れんぞ、こいつら」

「ああ…、そうだね」


 優雅に微笑み、アールシュは乱暴に3人を地面に転がした。

 格闘士(ヌルッキ)のラージ、剣士(ミエッカ)のディネス、魔法士(タイカ)のヴィシャル。

 十二神将の中でも別格と言われている3人だ。しかし、アールシュとセスと出くわして、ものの3分でこうなってしまった。

 セスの10本剣が3人を翻弄し、アールシュの触手が3人をスルっと捕まえた。


「……あんな…無茶な剣の動き、ありえん…!」


 地面に這いつくばりながら、剣士(ミエッカ)のディネスが悔し気に呻く。


剣士(ミエッカ)の出す剣は、ただの剣ではない。己の意志を具現化したものだ。どのような形にもなる。それを自在に操れない時点で、おまえは未熟なのだ」


 セスは不愉快そうにディネスを睨んだ。


「限度がある!! 貴様らは王女のソティラスとなって日が浅い筈だ。ここまで使いこなすなど…」

「仕方がない、我らはムスタ・ソティラスだからな」


 セスとは反対に、アールシュは愉快そうに笑った。


「一体なんなんだ、ムスタ・ソティラスとは」

「おや? 王のソティラスともあろう者が、知らないとは意外だね」

「開示されてる情報くらいは知っている! だがそれでも納得できない!!」


 アールシュとセスは顔を見合わせた。セスはすぐに眉間に皺を寄せて、そっぽを向いてしまう。


「やれやれ、説明は我の担当か」


 わざとらしく肩をすくめ、アールシュは何もない宙に座り、優雅に脚を組んだ。


「どれ、面白い昔話をしてあげよう。おまえたちひよっこが知らない、隠された真実を」




*** アールシュ視点(アールシュの独白) ***



 我はシヴァ神の神殿に仕える神官だった。

 (よわい)68、骨と皮だけのガリガリの身体。眼ばかりが大きく、ターバンで覆った頭部は毛も全て抜け落ちていた。

 ――爺姿を王女が見たら、絶叫して気絶しかねんな。

 ある日、神殿に流れ者がやってきた。

 クマール・カマルと名乗った青年は、若々しい活力ある顔に、エネルギッシュな肉体。気力も充分整い、しかも心優しき若者だ。

 神殿の雑務を率先してこなし、他の神官たちとも打ち解けていった。

 クマールが神殿に居ついて10日ほど経った頃、シヴァ神の大きな手が突然神殿の祭壇にかかった。

 ドスンっと神殿を揺るがすほどの大きな音を立て、祭壇に飾られたサフランの花を撒き散らし、片手だけがそこにあった。

 どうやら神界から、手だけが地上に伸びてしまったようだ。腕の先は雲で隠れていた。きっと、眠っておられるのだろう。


「あ…あの、よくある…ことなんですか…?」


 怯え切った表情(かお)でクマールが言う。


「神界と人界の境界は曖昧でな。神の一部がこうして境界を超えてしまうことが、極々稀に、よくある」

「ひえええっ」


 強靭な肉体を、怯えたウサギのように丸めてクマールは悲鳴を上げた。

 そんな彼の姿を見ていたから、我は油断してしまったのだ。

 クマールがとった、大それた行いを。




 シヴァ神の寝相の悪い騒動が起きて翌日、下働きの奴隷が、血相を変えて我の元に駆け込んできた。


「たっ、大変でございます!! あの若者が」

「クマールか? どうした?」

「い、今すぐ見てください…」


 急かす奴隷に連れられて、祭壇へと赴いた。


「ンなっ!!」


 祭壇に落ちてきたシヴァ神の掌には、わずかな傷が出来ていた。そこから尊き赤い血が滴り、祭壇に小川を作っていた。

 クマールは、身を這いつくばらせ、その血を舐めていた…。


「…神の…神のお力を……俺に…お力を…」

「止めぬかクマール!!」


 我は慌ててクマールを止めた。しかし彼の顔は狂気に歪み、物凄い力で我を撥ねのけた。

 神殿に詰める屈強な兵士たちですら太刀打ちできず、クマールは血を舐め続けた。

 三日三晩クマールは血を舐め続け、やがてシヴァ神の手は地上から消えた。

 クマールは丸一日熱を出して寝込んだ。そして翌日から、地獄が始まったのだ。




 クマールは10人の神官を呼びつけ、突如人差し指を眉間に押し当て「我に従え」と言った。すると、神官たちは激しく苦しみだし、肉体が奇形を成し、肌は変色し、黒いなにかに成り果てた。


「力のコントロールが上手くいかないな。もっと練習を積まねば…」


 クマールは己の指を見つめながら、無感動に言い放った。

 そして我も、同じようにされ、黒いなにかに変わってしまった。




 姿形が変わっても、意志はある。言葉も若干だが話せた。そして驚くことに、神官であったときの霊力が、別の形で発現させられるようになる。

 我の場合は、触手を生やし、手脚のように自在に操れるようになったことだ。他の神官たちもそれぞれに霊力を別の形で具現し、そして皆、後ソティラスが持つ5つの特性を見せ始めた。

 これが、ソティラス誕生秘話だ。

 クマールは我々神殿の者たちを全て異形に変え、近隣の町や村人を同じように変え、やがて姿を見せなくなった。

 それから10年の月日が流れ、イリスアスール王国という新しい国が興り、王の名をクマール・カマルと言った。



*** アールシュ視点(アールシュの独白)・終わり ***




 可哀想に、ディネスは身体を硬直させながら、表情(かお)までも固まってしまっていた。


「闇の異形の正体は、本来人間なのだ。クマール・カマルがヴァルヨ・ハリータの力を練習するために犠牲となった、憐れな人間の成れの果てだ」

「そ…そんな…、偉大なる建国の王が…」


 ディネスはぽつりと呟き、そして黙りこくった。


「我もセスも、元は神官。そしてソティラスの成り損ないになった。かれこれ5000年くらいかな? ヴァルヨ・ハリータの完全なる力で、再びソティラスとなった」

「健国王がお隠れになって、それで何故、貴様たちは生きているのだ!?」


 ふと訝しむようにディネスは顔を上げた。


「ああ、今のような完全な力ではなかったから、クマールとの繋がりが殆どなかったのだ。更には、異形と化した我らは不死になってしまってね」

「……」

「さて、お喋りが長くなってしまったな。残りを始末して、我らの王女を玉座に据えなければ」


 アールシュの手に長い杖が握られる。


「たまには魔法士(タイカ)としての戦いも見せねば、王女がガッカリしてしまう」


 杖の先端にはめ込まれた赤い宝石が、紫色に光って輝きを強くする。

 アールシュは宙に文字を書いた。


「ガルジャナ・ナーチャ!!」


 杖を振り下ろすと、ディネス、ラージ、ヴィシャスの上に雷の雨が降り注いだ。

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