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31話:アヤン vs スバス ②

***


「うわあ…、ガキ大将って感じよね」


 十二神将ロハンを見て、カエは思わずズリっと椅子から滑り落ちそうになった。

 白い膝下の短パンと、赤い衣をサリーのように裸の上半身に巻き付けている。その顔はセスほど厳つくないが、十分ジャイアンクラスだ。


「しっかしなんでワニの上に乗れるの? あれも特性効果??」

「あやつはワニと共に育ったのだ」


 その時笑い含みに王が教えてくれた。


「そ、そうなんですね…」


 おっかなびっくり、カエは王に会釈する。


(はは……、ファンタジー風ジャングルの王者、みたいな…)


 画面の中では、ロハンがスバスに向かって蹴りを繰り出しているところだった。


***



「女みたいな顔した男が、俺は大嫌いなんだー!!」


 ワニの頭を力強く踏んで、ロハンは跳び上がる。そしてスバス目掛けて足を伸ばした。

 足が届く前に、スバスは別の枝に飛び移る。


「キミに嫌われても、何とも思わないよ」


 ムスッとした顔で、スバスは3本の矢を同時に放った。

 体勢を崩しているロハンに、矢は当たると思われたが、意外と器用に宙で身体を捻る。そして反れた背の下を、矢が通り抜けていった。


「甘い甘い!! その顔みたいにな!」


 スバスとロハンの動きが素早く、また入り乱れていて、アヤンは援護射撃を出しあぐねていた。そこへ、ロハンの≪トイネン≫が上空から降ってくる。


「っとと…」


 枝を飛び移って≪トイネン≫を避ける。

 アヤンを逃したロハンの≪トイネン≫は、勢いをつけたままワニの頭を撃ち抜いて着水した。

 その有様に、アヤンは顔をしかめた。


(あのロハンってソティラスは格闘士(ヌルッキ)か。一見勢いで突っ込んできてるように見えるけど、意外にしっかりポイントを押さえて狙ってきている)


 見た目よりずっと慎重な様子に、アヤンは警戒した。


(スバスは奇麗な顔立ちだから、男性からヘンな気を向けられることが多い。それをとても嫌がっていたから、あまり弄ると…)


 黒い艶やかな髪の毛は長く、褐色の肌に切れ長でややつり目が、玲瓏とした美しさをたたえているスバス。

 繊細に研いだ、黒曜石のような美しさだとアヤンは思っていた。

 そこへ、更に闖入者が増えた。




 《*スバス視点*》



「スバス!!」

「うん、イシャンか!?」


 ロハンの攻撃を避けていたスバスは、突如名を呼ばれて振り向いた。


「十二神将の姿が見えて追いかけてきたが、お前がいたか」


 アルジェン王子のソティラス、剣士(ミエッカ)のイシャンだ。

 アヤンの存在にも気づいて、イシャンは眉間を寄せた。


「王女のソティラスもいたか」

「…ああ、ロハンが割って入ってきたんだ」

「なるほど」


 イシャンはスバスに顔を寄せて囁く。


「まずはロハンを一緒に叩こう。そして王女のソティラスも潰す」


 スバスは返事を躊躇った。

 共闘してロハンを倒すことは賛成だ。しかし、アヤンまでは激しく迷いが生じる。


(イシャンが加われば、もう、誤魔化しはきかない。私に、出来るのか? 本気でアヤンを殺すなど…)


 ハッキリしないスバスの態度に、イシャンは焦れたように更に顔を近づけた。


「勝って王子に玉座をお渡しするためだ、スバス」


 イシャンはスバスの手を握る。


「……判った。――イシャン」

「うん?」

「手を、離してくれ」


 そう言って、スバスは不快そうにイシャンの手を振りほどいた。




「2対1でも俺様は平気だぞ! 久々にワニたちに人間の肉を食わせてやれる」


 ワニの上に立ち、腕を組んだロハンは自信満々の笑みで言い放つ。


「だがおまえたち痩身だなあ、肉付きが悪い。まあ、骨を噛み砕いていれば、出汁くらいは出るか」


 足元のワニたちに向けて、ロハンはガッカリしたように言った。


「何を訳の判らんことを…」


 ロハンの言いようにイラッとしたように、イシャンは侮蔑を露わにして吐き捨てた。


(アヤンはロハンの≪トイネン≫を相手にしているのか。なら、早めにソティラス(ロハン)を倒さねば…)


「イシャン、キミは剣でロハンを攪乱してほしい。そのすきに私が削る」

「判った、任せてくれ」

「はじめよう」


 スバスは矢を4本番えて、迷わずロハンに向けて放つ。

 イシャンは5本の剣をロハンの四方に配置し、とこへ移動しても対応できるようにした。


「ははは、甘い甘い!!」


 ロハンはワニの上で片腕を伸ばして身体を回転させると、矢と剣に向けて空気を斬る様に一閃した。

 ありえない程の拳圧が生まれ、突風に払われるようにして、矢も剣も弾き飛ばされてしまった。


「んなっ」


 驚いてイシャンは目を見張る。


「一体何をした!? 妖術か何かしたのか!」

「だから甘いと言った! 格闘士(ヌルッキ)は殴る蹴るだけではなく、力も通常の10倍は威力が上がっているもんだ」


 得意満面のロハンの顔を凝視しながら、スバスもイシャンも「そうなのか!?」と心の中で叫んでいた。

 身内に格闘士(ヌルッキ)は2人いるが、せいぜい2倍程度の怪力しか見せたことがない。


「さすがは王の十二神将というわけか」

「その通りだ!」


 面白くなさそうに言うスバスに、ロハンは愉快そうに笑った。


「どれ、こちらに向かってくる気配があるな。ソティラスと≪トイネン≫と。緩い殺意だが、敵が増えるのも厄介だ。――おまえたちをさっさと屠る!!」


 ロハンは驚異の跳躍力で上に跳び上がると、情けなくも腰が引けているイシャンにつま先を向けた。




***


「十二神将とも王子のソティラスとも出くわさないね」

「はい。しかしこの向こうに、敵の気配と、アヤンの気配を感じます」


 バリー・ダミニは眉間を寄せ意識を凝らす。

 ダミニもアヤンの気配、そして懐かしい気配も感じて、胸がドキドキと高鳴った。早く確かめねばと心が急く。


「早くお兄ちゃんと合流しよう」

「はい」


 ダミニとバリー・ダミニは、慎重に枝の上を飛び跳ねながら、アヤンのいる方角へ急いだ。


***

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