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30話:アヤン vs スバス ①

***


 謁見の間は複雑な空気を漂わせていた。

 王のエセキアス・アラリコの中で最強を謳われる、十二神将が2人も倒されたのだ。

 更にアルジェン王子のソティラスも一人倒され、カエのソティラス2人が勝利した。


「ふむ…。余の十二神将も、実戦経験が浅かったと見える」


 感情の伺えない、淡々とした口調で王は呟いた。特に怒ってるようではない。


(良かったあ…。会話は聞こえないけど、カイラもルドラも無事ね! 怪我はたくさんしてるようだけど、2人一緒ならきっと大丈夫!)


 カエはホッと安堵すると同時に、2人の勝利を素直に喜んだ。

 一方アルジェン王子は、今にも画面に飛びかかりそうな形相で歯ぎしりしていた。それを目の端で捉え、カエは心の中で「ふふん」と笑った。


***




 《*アヤン視点*》



 隙間もない程、獰猛なワニで埋め尽くされた沼に生える低木に、アヤンは汗を滲ませ潜んでいた。

 丈夫な枝なので折れる心配はなさそうだったが、樹皮がつるりとしていて、汗で滑ってしまいそうだ。

 落ちたら一貫の終わり。

 前方に矢をかまえ、そのままの姿勢でどのくらい時間が過ぎただろうか。


(ちょっとでも気を抜いたら、あの矢はボクを射抜く…。鋭くて、真っすぐで、キミの心みたいだね、スバス)


 少し離れた位置で、アヤンの≪分身(トイネン)≫も同じように矢を番えていた。

 アヤンは今、アルジェン王子のソティラス、スバスと対峙している。

 『ジャングル・パリー』に飛ばされてすぐに、スバスとの睨み合いが始まった。


「その姿勢は疲れないかい? アヤン」


 突然話しかけられて、アヤンはハッとなった。


「そうだね。でも、構えを解いたらボクは終わりだから、堪えなきゃ」

「私はキミを殺したくない。……ダミニもだ」

「スバス…」


 スバスの声に葛藤が滲んでいることを察して、アヤンの表情が曇った。

 アヤンとスバスは同じ集落の出身で幼馴染、そして親友だ。

 スバスは2つ年上で、2人で常に弓術の腕を競った。




*** 回想 ***


「いいかいアヤン、私たちは奴隷だから、それ以上は望めない。でもね、弓術の腕をしっかり磨けば、使い捨ての道具じゃなく、役職を与えられるんだ」


 耳にタコが出来るくらい、スバスはこの話をよくする。


「頑張ろうアヤン。私たちはただの奴隷で終わらない。そして私は役職を得て、ダミニをお嫁さんにもらうんだ」


 はにかみながら、でも誇らしげに語ってくれるスバスのことが、アヤンは大好きだった。親友として、兄のような存在として。


******



(でもキミは、1年前、突然奴隷商人に捕まり、賭場に売られてしまった……。悔しかっただろうに)

(――そして今は、アルジェン王子のソティラス…)


 スバスの辿った波乱を思い、アヤンの戦意が削げかける。しかしアヤンは慌てて心を引き締めた。


(憐れみなんて向けちゃだめだ。スバスに失礼にあたる!)


 そう思ったとき、双方の≪トイネン≫同士が矢を撃ち放った。

 ビュンッと空気を切裂くような鋭い音を発し、矢は木の幹に深く突き刺さる。

 それを合図に、アヤンとスバスは同時に矢を放った。

 お互い矢を避け、そして2発目を放つ。

 そこからは乱戦となり、ソティラスも≪トイネン≫も、矢の応酬で音が激しく入り乱れた。

 枝から枝へ、ゆれる枝にバランスを取り場所を移しながら、撃ちやすいポジションを探す。

 時折鏃が服の表面を掠めて、ヒヤリとした緊張感を生む。

 際どい距離。

 しかしお互い気づいていた。

 矢には、殺意がない。


(本当に、本当に、ボクは彼を殺さなくちゃいけないのか!?)

(彼を殺したら、ダミニになんて言えばいいんだ――)


 スバスのお嫁さんになることを、心から望んでいる、おとなしい性格の(ダミニ)

 矢を撃ち返し、枝を移動しながらアヤンは葛藤した。


(でもボクは誓ったんだ、姫様を勝たせるって。あの、優しくて気さくな姫様のお役に、全力でたとうって)


 足場の良い太い枝に立ち、アヤンはスバスの足目掛けて矢を放った。しかしその矢は、スバスの≪トイネン≫の矢に阻害された。


「本当に腕を上げたんだね、アヤン」

「ボクは、ボクは……シャンティ王女様のソティラスだからね!」


 表情(かお)は悲しい色のまま、でも迷いなくハッキリと断言する。

 スバスの顔も、悲しみに歪んだ。


「判った、アヤン。私たちは互いの主のために、正々堂々戦わねばならないってことを」


 スバスがアヤンに狙いを定めたときだった。

 枝をバキッと大きく折る音と共に、黒い影が青空を塞いだ。そして赤い衣をまとった少年が、アヤンとスバスの間に躍り出た。


「王女と王子のソティラスか!」


 少年は沼に蠢くワニの一頭に、軽やかに片足で降り立った。

 不思議なことに、ワニはおとなしく受け入れている。その光景に、アヤンとスバスは目を丸くした。


「王の栄えある十二神将の1人、ロハンが相手になろう!!」


 両手を高く振り上げ、ロハンは居丈高に雄たけびを上げた。

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