15話:ソティラスたちと、成長中(カエの独白)
私がシャムのことで凹んでいる間に、老師とアールシュがソティラス候補の子供たちを見つけてきてくれた。
仕事早すぎでしょ!
《*アヤン、ダミニ、ニシャ*》
3人と知り合って、連れてくるまでの経緯を聞いて、私は怒り心頭から「ナイス! アールシュ!」ってなったよ! アールシュも満足そうだった。
そうだね、ブブ区長とやら、ワニの餌にでもなったらいいよ。ワニがいっぱい泳いでる川があるんだって。
3人とも快く、ソティラスになることを承諾してくれたの。
寿命削らせて、外見の成長を止めさせて、命を懸けさせるって言うのに…。
私は感謝と謝罪をこめて、ソティラスの儀式に臨んだ。
アヤンの≪分身≫は好み系のハンサムではなかったけど、物静かな雰囲気と鋭い眼光を持つ、磨かれた剣のような顔立ち。眼光だけで射抜かれそうよ!
弓術士の特性で、腕の筋肉がしっかりしていて、この剛腕から繰り出される矢は、きっと凄い威力があるんだろうなって思う。
ダミニは子供の姿からは想像が出来ない程、肉感的で妖艶な美女の≪トイネン≫を出して驚いた。自信たっぷりの、カッコいいお姐様といった感じ。
銃器士の特性で、両手で拳銃を構える姿に、ノックアウトされたわっ。
ニシャはふわりとした、可愛らしい容姿の≪トイネン≫を出した。アニメに出てくるような、魔法少女風味。オタクが喜んじゃいそう…。
魔法士の特性で、攻撃魔法よりも、ヒーラーとかバフ要員にしたい感じだね。ニシャ自身、甘えっ子気質がある感じ。
アールシュ曰く、カイラ、ルドラも含め、5人とも潜在能力がとても高いんだって。しっかり磨き上げたら、滅茶苦茶光りまくるっていう。
《*ソティラスの訓練*》
そんなわけで、5人の子供たちは、老師とアールシュが、3カ月間みっちり訓練するんだって。
ソティラスってね、基本≪トイネン≫を出して操作するんだけど、段階を踏んでいくと、色々なことが出来るようになるんだって。
・第一段階:≪トイネン≫を出し、操作するだけ。
≪トイネン≫にも自我があるんだって。つまり、考える力や“感情”のようなものまであるってこと。まるで別の命を持ってるみたいだよね。
でも、最初は本体であるソティラスの命令がナイと、色々出来ないんだって。だから、常に一緒に行動していないといけないそうだ。
・第二段階:≪トイネン≫を独立させることが出来る。
ここでようやく≪トイネン≫は自立起動するそう。なんか、ロボットみたい…。
ソティラスと一緒にいなくても、≪トイネン≫自身が考えて動けるから、最初の目標は、この域に到達することみたい。
・第三段階:≪トイネン≫と同じ力を奮うことが出来る。
本来特性ってものは、ソティラス自身がもっているものなんだけど、使うことが出来るのは≪トイネン≫だけなんだって。でも、第三段階まで成長出来たら、ソティラス自身特性の力を扱えるようになる。
老師もアールシュも、5人とも第三段階までは到達できるって、太鼓判押してたから、あまり心配してないよ。
他にも、王族に仕えるマナーやなにやらも教わるんだって。
みんな頑張ってね!
なんか、大変だなあ~とか思ってたけど、よゆーぶっこいてる場合じゃなかった!
《*王女教育*》
私にもついにキマシタワー!
「紹介するわね、こちらは、あなたの教育係を務めてもらうスニタよ」
「よろしくお願いします、新たな…シャンティ様」
スニタ先生は背が高く痩身で、まるで針のような印象の中年女性。
濃紺色のアオザイのような服を身にまとい、頭上に円錐形のように髪をまとめているので、より針のように見えちゃう。これでメガネまでかけていたら「ザマス教師」っぽくて完璧ダケド、生憎メガネはかけてない。
まあ、ね、そりゃね、私ガサツだし品がないし…教育されると思ってたけど、ホントにやるんだー!
「時間は3カ月もありません。それまでに王女としての立ち居振る舞い、作法や言葉遣い、しきたりなどなどを身に着けてもらわなくてはならないわ」
バークティ妃は声に力を込めた。
「スニタは手加減容赦ナシだから、頑張って頂戴、シャンティ」
3か月後、私、きっと淑女に大変身してると思うの。
タブン
きっと
ね…。
《*子供たちと交流*》
私も子供たちも、毎日訓練漬けでロクに話をする暇もない。だから、バークティ妃に訴えたよ!
「せめてご飯くらい一緒に食べたい!」
って。
最初は凄く渋ってたけど、
「親睦を深め、絆を確かなものにしたほうが、成長速度が段違いじゃ」
そう老師が口添えしてくれたおかげで、お昼ご飯だけは子供たちと一緒なの!
ついでに≪トイネン≫も一緒に。
ふふふ、美しい楽園が!
ダケド…
「いい加減容姿変えなさいよセス!!」
「ふんっ! 俺はこれでいいのだ」
毎日言ってるのに、ちっとも言うこときかない!
あっちの世界では、イケメンゴリラってのがいたんだよ! でもセスは全然ダメ!! オマケにソティラスのセスはジャイアンだよ!
まあこんな調子で、お昼ご飯の時間が一日で一番楽しい。子供たちともいろんな話をして、仲良し度が、グンッと上がった気がする!
《*シャムのこと*》
こうして毎日が充実してるんだけど、一つだけずっと引っ掛かってることがある。
シャムのこと。
なんで私、毎日シャムのこと考えてるんだろ…。他に考えることいっぱいあるのに。気が付けば、シャムのことが頭から離れない。
「…俺が護身術を教えたから、本物のシャンティ王女は死んだんだ」
あんなこと言うから。
言ってたシャムの顔、どこか辛そうだった。
護身術教えて、どうしてシャンティ王女が死んじゃったのか、その理由が知りたい。
あの太々しいシャムに、あそこまで言わせたその謎を私は知りたい!
でもね、もしパンチが効いたような内容だったら、私は受け止められるのかな? シャムを見る目が変わっちゃったら、どうしよう…。
でも、そんな酷い内容だったら、きっとマドゥはあんな風に言ったりしない。事情があるんだよね!?
たぶん、そうだよね…。
別に、避けてるつもりはないんだけど、あれからシャムとは顔を合わせてない。
シャムも私のところに姿を見せないし。時々子供たちの訓練を手伝ってるらしいんだけど、会いに行く勇気が出ないでいる。
私って、こんなモジモジ乙女な性格だったっけ?
「シャムのくせに…」
こうして月日は過ぎていって、ついにあと半月で3カ月を迎えるころ、ラタ王女の危篤の報が館に届けられた。