表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/42

12話:説教と書いてハリケーンと読む

 アルジェン王子の奇襲を撃退し、カエは意気揚々と――バラー・アールシュに抱っこしてもらいながら――館に戻った。

 館に入ると、血相を変えたマドゥが駆けてきて、


「姫様お早くっ!」


 バラー・アールシュごと急かされて、大広間へ連れていかれた。


「うん?」


 黄金がまばゆく煌めく広い居間には、カルリトス、バークティ妃、シャムが床に座り、壁際にはカイラとルドラ、2人の≪トイネン≫が控えていた。


「ただいまー。あのね私」

「何を考えておるんじゃバッカもん!」

「あなたに何かあれば計画が台無しなのよ自覚なさい!!」

「っとに大バカなのかてめーは!!!」


 カルリトス、バークティ妃、シャムの3人から、息継ぎなしの特大の雷を落とされた。

 鬼の形相の3人に、カエは「ひいっ」とびくつき飛びのいて、バラー・アールシュにしがみついた。


「我が教えた」


 悪びれず、にっこりと微笑みながらアールシュが言う。

 森での出来事が、すでにカルリトスに筒抜けになっていたようだ。


「…はうん」


 3人の前に座らされたカエは、しゅんっと肩をすぼめ、説教と言う名のハリケーンを耐えた。


「そもそも老師(せんせい)が庭の池に行けって…」


 唇を尖らせて反論すると、


「真に受けて本当に行く馬鹿がドコにおるんじゃ!」

「ダヨネ…」


 はあ、とカエはため息をついた。

 もっとも、いろんなことを言われすぎて、右から左に風と共に去っている。


「中々どうして、身のこなしが軽く、しっかり自衛も出来ていたぞ」


 この状況を面白そうに見ていたアールシュが、笑いながら茶々を入れた。


「でしょでしょ」

「調子に乗るな!」

「いだっ」


 シャムのゲンコツが脳天に直撃した。


「それにしても、アルジェン・ルディヤーナがなぜ館の森に現れたのだ? 偶然王女が森を歩いていたから、襲えたようなものだが」


 アールシュは腕を組んで首をかしげた。


「おそらくじゃが、王子の魔法士(タイカ)が張っておったんじゃろうの」

「でも老師(せんせい)、いつ私が森へ行くかなんて、誰も判らないのに?」

「森への散歩は、シャンティの日課だったの」


 困ったように片頬に手を添え、バークティ妃が言った。


「それでずっと見張ってたんだ。王子のソティラスも大変だね…」

「危険を冒し自ら殺しに来るとは、中々に行動的な王子様であらせられるな」


 やれやれと手を上げ、アールシュは肩をすくめた。


「あの狂気じみた顔、マジでヤバかったわ…」


 なまじ顔がイイだけに迫力満点。思い出して、カエはブルッと震えが来た。


「ああいうタイプはしつこい。執念深く狙い続けるだろう」

「そんな感じするかも」


 サイコパス野郎だし、とカエはゲッソリした。


「そういえば、アルジェンが「ドコがしおらしくおとなしいんだよ、情報と全然違うじゃないか」って言ってたんだけど、シャンティと会ったことナイんだね?」

「ええ。どの王子も王女も、それぞれ面識はないの」


 カエに顔を向けて、バークティ妃が頷いた。


「そうなんだ。――偽物だってバレなくて良かったあ」


 胸を張って明るく言うカエに、室内のあちこちから深々としたため息が流れた。




「アルジェン本人じゃなくても、あやつのソティラスや≪トイネン≫が、また奇襲をかけてくるやもしれんな」


 アールシュが指摘すると、カルリトスは頷く。


「そうじゃな。王女はもう、館の外に出ることは禁ずる」

「えーっ!」


 カエは特大の不満を鳴らす。


「残りの弓術士(ヨウスィ)銃器士(トゥリアセ)、そしてもう一人魔法士(タイカ)は儂が探してこようかの」

「特性は我が見分けられる。≪トイネン≫は館に残し、我が同行しよう」

「ずるいずるい!」

「ずるくねえよ」


 シャムにもう一度ゲンコツを食らった。


「あなたの不注意で、また生命の危機に襲われたら、アルジェンが()る前に、わたくしが、こう、するわよ」


 首の辺りを手で一閃するジェスチャーをして、バークティ妃が薄っすらと笑んだ。


「ゆーことききまっす!」


 カエはバークティ妃に平伏した。


「よろしい」


 バークティ妃は優しく微笑んだ。




 カエは背中の打ち身を医者に診てもらうために、広間を追い出された。

 シャムとマドゥに付き添われて部屋へ戻る。


「ねえねえシャム、私に護身術教えてよ」

「はあ?」


 シャムは呆れたように声を上げ、心底めんどくさそうに息を吐き出す。そしてワシャワシャと頭を掻いた。


「おめーにはソティラスがいるだろうが。≪トイネン≫がなんとかする」

「でもさ、今日みたく奇襲とか、死角からの攻撃とか、なんかヤバイシーンってあるじゃん? それに対処するには、護身術くらいは扱えないと」

「そうだ、今日の出来事で俺らも危機感を持った。今後は多角的な奇襲にも対応できるように護衛する」

「でも」

「しつけーよ」


 ギロリと睨まれ、カエは首をすくめた。


「ダケド、アールシュとセスが助けてくれるまで、ホントにヤバかったんだもん…」


 アルジェン王子の狂気じみた刃をかわすのは、本当に必死だった。

 納得いかないと顔に書いてあるカエを見て、シャムは眉間に皺を寄せた。


「戦おうとしても、下手な攻撃じゃ裏目に出て倒されることも多い。逃げ回ってるのが一番イインダヨ」

「教えてってば、意地悪! シャムのくせにケチ!!」


 シャムは立ち止まり、腕を組んで明後日の方向を睨む。


「じゃあ、これ聞いたら諦めろ」

「え?」


 カエは隣に並んだシャムを見上げた――その時、シャムの横顔がいつになく険しいことに気づいた。

 少しの沈黙が落ちたあと、シャムは静かに言った。


「…俺が護身術を教えたから、本物のシャンティ王女は死んだんだ」


 再び歩き始めたシャムの広い背中を見つめ、カエは絶句した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ