ニュース
三題噺もどき―ろっぴゃくななじゅうよん。
カチャカチャと、食器同士の当たる音がキッチンから聞こえる。
それに混じって水の流れる音、ほんの少し小さく時計の針の音。
「……」
朝食を終え、ちょっとした休憩でも取ろうかと。
コーヒーを片手に、リビングのソファに座っていた。
キッチンで片づけをしているのは、私の従者だ。幼いとまではいかないものの、小柄な少年の姿でエプロンをつけて、慣れた手つきで片づけを済ませていく。
「……」
目の前のテレビでは、夕方のニュースが流れていた。
人間からしたら、朝から何度もみたものばかりかもしれないが……私にとっては今日初めて知るものばかりである。
自分自身に関係のあるものばかりではないが、情報収集はしておいて損はない。
「……」
湯気の立ち上るコーヒーを、軽く一口飲む。
あまりこだわりはないので、市販のそこまで高くもないインスタントコーヒーである。
他にもいくつか紅茶やココアなどもあったりするが、朝はコーヒーが飲みたくなる。仕事終わりだとココアがいい時もあるし、紅茶の気分になる時もある。自分の気まぐれに付き合えるように用意をしておくことは大切だろう。自分の機嫌は自分で取らなくては。
「……」
いつも同じ時間に流れるニュース番組で、毎日同じアナウンサーが淡々と話している。
事故があったり、株価の話だったり。打って変わって今度の気象の話だったり。
……今年の夏はこのタイミングで熱中症対策を早めにと言われるほど暑くなるらしい。まぁ、桜の開花時期が遅れたり、四月ですら暑かったり寒かったりして、五月になれば昼間は半そででもいいくらいに暑くなったりしているのだから、それもそうだろう。
「……」
昼間に行動することはないが……きっと夜も暑くなるのだろう。
仕事休憩を兼ねた散歩も考えないといけなくなるだろうか。
気分転換がそうでなくなるかもしれないからなぁ……その前にこれから梅雨の時期に入るだろうし、天気や気候が生活に及ぼす影響というのは塞ぎようがないから、対策するしかないんだろうが。面倒なものだ。
「……」
更に一口、コーヒーを飲む。
これも、今はお湯で淹れているが、夏場は水出しというのもありかもしれない。
最近は、麦茶パックのように、コーヒーも出来るものがあるらしいから、探して買って置こうかな……どこにあるのか分からないが。まぁ、最悪通販という手もある。
「……」
ニュースでは、どうやらその通販で何かトラブルがあったらしいと報道しているけれど。
便利ではあるが、こういうリスクが消えないのは、どうにもならないのだろうな……。トラブルやリスクがどうにかキレイさっぱり消せるのなら、この世の中はもっと生きやすいだろうに……何においても警戒しながらしていかないといけないのは嫌なモノだ。
「……」
それでも使う人が居るのは、便利だからだろうし、そういうトラブルばかりではないからだろう。こうして報道されて、全国に流されるのはごく一部だろうし……そうでないかもしれないから断言はできないがな。利用者が居るのは事実だ。
「……人というのは恐ろしいですねぇ」
「……まぁ、」
いつの間に隣にいたのか、コップを片手に従者が立っていた。
その感想は、どこかの町で人が殺されたと言うニュースを見てのモノだった。
その犯人は現行犯で捕まったらしく、車で移動されている映像が何度も繰り返し流れていた。顔写真と、年齢と名前とがテレビには映されている。
「……」
「……」
どのような経緯で殺して殺されたのかも取り調べの最中のようだが。
最近はこんな物騒なモノばかり目にするような気がするな。
事故に遭っただとか、人が殺されていただとか、人身事故で電車が遅れただとか。
……死ねることができて良いなとは言わないが、そう思うのはそれなりの年月を生きている化物だからこそであって、人間からしたら人殺しも吸血鬼も変わらず化物なんだろうなと、ふと思ったりもしてみるが。
「……仕事してくる」
「はい」
残ったコーヒーを一気に飲み干し、自室に戻る。
さて、仕事だ仕事。
訳の分からない感傷みたいなものに浸っている暇はない。
「ご主人」
「……」
「休憩にしますよ」
「……あぁ、うん」
「……大丈夫ですか」
「何もないよ」
お題:コーヒー・桜・テレビ