9日目「王の特使たけし」
城塞に続く歩道は石が取り除かれていて、とても歩きやすかった。両翼のヤピの木が涼しげに揺れている。小1時間も経たないうちに城壁の関所についた。
「まて、怪しいやつ」
ギリシャ兵のような甲冑を纏った二人の衛兵が、ぼくらに静止を促した。加工品は着れないのではなかったのか。身長の倍はあろうかという長い槍をこちらに突き出してくる。
「ちょ、ちょっと待ってください。ぼくたち怪しいものでは!」
「どう見ても怪しいだろ! 裸でリーアル丘陵を越えてきて、一体どうやって渡ってきた」
「そ、それもそうですが」
僕の世界での正論に思わずうろたえる。
「おいおい、くすぐってええな」
そんな緊張感をよそにたけし先輩が笑い始めた。槍の切先がたけしの鼻先のあたりに”刺さり“……いや”撫でている“という表現の方が正しいかもしれない、衛兵のもつ槍が風で煽られるたびに、彼の鼻先のあたりをひょいひょいと撫でていた。本来ならその鋭い剣先で切れてしまいそうなものをたけし先輩の鼻先はそれをぴょこぴょこと震えながら受け流している。
「なんだお前、なんで槍が刺さらない」
「そんなオモチャでおれにいたずらしておいて、よくわかんねえこと言うなよ」
そう言うと、たけし先輩は槍の剣先を素手でグッと掴んだ。
「バキッ」
金属が強力な力で破壊されるような音とともに剣先が破断する。
「ひ、ひいっ! もしかしてあなた様は!」
衛兵が折れた槍先とたけしの頭のあたりを交互に見ておののく。
「うん? おれのこと知っているのか?」
「もしや、たけし様では?!」
「よく知ってるなあ」
呑気に答えるたけしと萎縮する衛兵。ぼくに槍を突き立てていた方の衛兵も思わず不敬を詫びて、槍を元に戻す。
「国王がお待ちです。すぐ王座へ」
「よくわかんねえけど、行ってみるか」
「ハッ!」
と再度敬礼をする衛兵。城門がゆっくりと持ち上がった。
「いくぞ」
たけしは城塞の逆光の中で、また毛むくじゃらの尻を左右に揺らしながら大股で進んだ。ぼくは服がないことに何となく居心地の悪さを感じながら入場した。