3日目「ビキニ戦士たけし」
カラマツの切れ目から懐かしい街並みが見えてきた。時間にして十五分ほどのランニングだったが、たけし先輩と一緒では視線が痛く、一秒が何倍にも感じられる。
「なんだあれ」
たけし先輩が突然足を止め、何かを指差す。こういう時ばかり彼の勘は鋭い。そして、舗装路を外れカラマツの林の中へと走り出した。
「先輩! どこ行くんですか!」
追いかける間もなく、たけし先輩はまるでテレビ画面の端から消えた通行人のように視界から消えた。
慌ててその方向に駆け寄ると、落葉がガサガサと音を立てここには僕しかいないことを知らせる。
消えたあたりに近づくと彼が履いていたシルバーのビキニが落ちていた。
「先輩……ビキニになっちゃったんですか……?」
置き手紙なら拾い上げるが、置きビキニはどうにも触れたくない。汗を吸っていると思うと不潔に感じ、手を伸ばしかけては引っ込めてしまう。
「おーい、こっちだよ!」
幻聴かと思った。だが、声は確かに近づいてくる。そして突然、空間が揺らぎ、たけし先輩の顔だけがぬっと現れた。
「おいおい、何してんだよ。早くこっち来いよ! めちゃくちゃ暖けえぞ!」
ぼくは硬直したまま、彼のありえない姿を見つめる。
「あれ? 俺のビキニ見て何してんの? 早く来いよ!」
動揺を隠せず涙がこみ上げるのを拭き取った。そして、これが現実であることを確認するために彼の頬を思い切りバチンと叩いた。