夜桜の出会い
土手道を歩く。永遠に歩いてきたように続くこの道を歩く。灯りはない。ただそこで静かに在る桜と道を進む。
天と地、つまり空と川は共に墨汁のように暗い。
歩く。歩く。
砂利道を歩いた靴への意識はもう体と一体化していたかのようにない。足の指をいちいち人のものと比べることがないようなものだ。
歩く。歩く。
よく見れば桜の色はピンクではなく肌色に近い。然しそこに生命的な揺れはなく、岩のようにただ在るのみである。
歩く。歩く。
川の水には波が一切なく、流れがあるのかも定かではない。いったいいつあれが水だと判じたのか。もしあれに落ちれば底のない奈落にでも落ちるのではないか。
歩く。私は、歩く。
ただ歩くだけで疲れは来ない。そんな中、目の前に突如として川を横切る、つまり私の歩みを妨げるように線路が現れた。
次は線路に沿う。川から離れるが未だ天は暗い段々と建物が見えてくる。建物の屋上からは不自然に桜が生えている。遠目でも見守ってくれているようだった。
現実の道路のように標識があった。ただ知っている地名は一つもない。ただ、標識の裏には自分が来た方の場所があった。
「夜桜」
ふと、口に出した。しかしなんだかおかしい。夜に桜を見られるなら昼もられるだろうに。それともあそこだけはずっと夜であるとでも言いたいのか。
歩くと次第に駐車場に辿り着く。駐車場といっても立体ではなく地方のテーマパークのような平面でだだっ広い場所である。またそこを歩く。歩く。
どのくらい歩いたか、夜桜に比べれば大したことはない。しかしそこで一台の車を見つける。開けて見れば一人の女がいた。見た目に関する記憶は完全に欠落しているが、静かで、落ち着いた。しかしファムファタールのような面白さを感じさせる人間だった。
二人で様々なことを話した。彼女は僕の方を真っ直ぐと見て、猫が歩くような気まぐれな話をした。僕は正直な話をした。嘘のない、心からの話を、今までの道を何往復もしながら。
何度目かの駐車場でふと空を見上げた。黒い空はすでに明るい空に上書きされかけていた。
目が覚める。いつも通り夢だ。しかし夢こそ俺の中で最も大切な、どこへでも連れていってくれるものである。このかけがえのない夜桜の出会いをここに記す。




