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俺たちのデスゲーム  作者: 伯爵
第1章 挑戦編
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プロローグ

 「ありがとうございました」

 俺はいつもの花屋でお見舞いの花を買って寝たきりの母さんのところへと向かう。

 病院に着き、いつも通りに母さんの病室に入ると、すでに妹のナミが居た。何やらぶつぶつと呟いているが俺は構わず話しかけた。


「ナミが見舞いに来るなんて久しぶりだな、最近忙しそうだけど仕事でも見つけたのか?」


 ナミは驚きとともに焦りを隠せない様子で俺に言った。


「お兄ちゃん・・・」

「もしかして私の今の話聞いてた?」


「なんかぶつぶつ言ってたのは聞こえたけど、何言ってるのかは聞こえなかったな」


 妹は一瞬安心した様子になったが、息を吐いて真剣な顔つきになって告げた。


「私、将来は美容師になりたいと思ってるの!それで、友達のお母さんが経営してる美容院に一ヶ月半くらい修行に行くことになったから、しばらく顔出せなくなると思う」


 母さんの病気を治すためにお金が必要なのに、

俺は、19にもなって仕事をしない妹をずっと心配していた。でも、そんな妹が前に進もうとしてくれているのだと思うと、本当に嬉しく思える。


「そうか、わかった!ナミは自分のために修行を頑張ってこい!母さんのことは俺に任せろ!ただ、体だけは大事にしろよ、ナミは俺の大切な妹だからな」


 妹は安心し、嬉しそうな笑顔で俺に一旦の別れを告げる。


「お兄ちゃんありがとね!必ずお母さんを治す手助けできるようにするから待っててね…必ずまた戻ってくるから…」


 なぜだろうか、一ヶ月離れるだけなのにすごく怖く感じる…妹の奥底から感じるこの真剣さは一体なんなんだろうか、運命が大きく動き出す、そんな予感がする。


「ああ、必ず元気に戻ってこい、またな!」


 俺は妹にエールを込めた別れを告げた。


「うん!」


 そう言って妹は病室を出て行った。何か俺の心の奥底に違和感はあるが、その正体はまだわからない。


 母さんが病気になってから3年が経つ、病状はかなり進行していてこのままでは命も危ういらしい。

 女手一つで俺と妹を元気に育ててきたんだ、限界が来るのはおかしいことじゃない。次は俺たちが母さんを助ける番なんだ。

 母さんが生きているうちに手術代を貯めて、病気を治して、また3人で幸せに暮らすんだ。

 母さん…待っててくれよ、俺がお金を必ずどうにかするから。

 花瓶に買ってきた花を飾って、母さんに別れを告げて俺は病室を出た。


―命を賭けた最高のデスゲームを今、体感せよ―

 そんな言葉と映像が帰り道のビルのスクリーンに映し出されていた。

 全く趣味の悪いゲームだな、政府公認だとしても命を代償にするなんてありえないだろ。こんなものが成立してしまうなんて世も末だな。そんなことを心の中で考えながら俺は、母さんと妹と住んでいた自宅のアパートに戻る。


 俺は家に着くと、冷蔵庫の中にある適当なもので昼食を済ませて、あまり入ってることが無いポストを一応、確認する。


「ん?なんだこの書類みたいなのは?」


 俺は貴重そうな書類を手にして呟く。そして、家の中で開封する。開封して少ししてから俺は理解した。これはさっきのデスゲームの勧誘書類だと。


―金がいるならゲームをクリアしろ、報酬は現実の金銭で25億だ―


 勧誘書類にデカデカと書かれていたのはそんな嘘くさい煽り文句だった。

 なぜこれが俺の家に届いたのか、俺たちの家だけに届いているのかはわからないがゲームをプレイするユーザー求めているのはわかる。

 腐っても政府公認のゲームだ、報酬は本当に貰えるのだろう。だとすれば、俺には十分、挑戦する価値がある。


「やってみるか、このデスゲーム」


 俺はそう呟いて覚悟を決める。

 必ずゲームをクリアして報酬を得て、母さんを治してやる。そうすれば、また3人で幸せな生活が送れる。

 待っててくれ、ナミ。俺が必ずゲームから戻って楽にさせてやるからな。

 

 あのデスゲームをプレイしたらしばらくはこっちに戻れない。俺は職場に看護休暇を取ると連絡をして、もう一度、母さんのいる病院へと足を運ぶ。


 俺は病院に着くと、真っ先に受付に向かい、ある人を呼んでもらう。


「坂下さんを呼んでもらってもいいですか?」


「坂下さんですね、わかりました。少々お待ちください。」


「はい」


 坂下さんは、母さんが初めて入院した時から良くしてもらっている看護師さんだ。どれだけ助けられたかわからないほど恩があり、俺と妹が絶大な信頼を置いている人だ。


「雄也くん!待たせてごめんね!」


「いえいえ全然!」


 俺はこの人にゲームに参加する間の母さんのことをお願いすることにしていた。


「実は坂下さんに頼みたいことがあって、お呼びしました。俺たちしばらくの間、病院に顔出せなくなるので母さんのことをお願いしたいんです!」


「母さんが寂しくないように、たまに一緒にいてあげて欲しいんです。」


 そう言うと、坂下さんは当たり前のような顔になって俺に言ってくれた。


「それは看護師として当然のことよ、頼まれなくてもそうするわ。それに安心しなさい、看護師としてだけじゃなくて、私個人としても奈緒美さんに寄り添うから。」


「真剣なのはすごく伝わってるわ、だから雄也くんは心配しないで、決めたことをやりなさい。」


 本当になんていい人なんだ、俺が言えないこともなんとなく察してくれている。この人に任せると決めて本当に良かった。そう思って俺は言った。


「坂下さんありがとうございます!しばらくの間お願いします。必ず戻ります。」


 坂下さんは笑顔で俺に返してくれた。


「ええ、待ってるわね」


「それでは、失礼します。」


 そう言って俺は坂下さんに別れを告げて、ゲームをプレイする政府施設に向かう。

 俺は人生の中で最も大きな覚悟を決めて、運命を大きく変えようと動き出す!

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