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定食屋を継ぎたかった勇者  作者: 入道雲
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第18話 前夜

 ガランドを倒したボクたちは、王都に帰還した。


 百年単位で討伐されることの無かった『五大魔族』の一角を討ち取ったということもあり、この一報は瞬く間に王国全土に行き渡った。


 国王の勅命で王国全域を周って様々な地域の問題を解決していた影響も相まって、ボクたちの名はあっという間に国内に轟いた。


 あの魔物討伐にはそういう意図もあったのかと、ボクは少し驚かされた。


 そして帰還と勝利を祝する宴の場で、ボクたち三人は国王から二つ名を賜った。


 『天賦』の才を以て他と隔絶した実力を示し、強大な魔族に臆することなく勇敢に挑み、見事止めを刺したロロには『勇者』の二つ名が。


 『国宝』の才に恥じぬ治癒魔法を修め、二人の仲間のこれ以上ない拠り所として活躍したニコには『聖女』の二つ名が。


 『傑物』の才と圧巻の努力によって力を勝ち取り、魔族との戦いにおいてなくてはならない働きをしたボクには『聖杖』の二つ名が。


 この時、ロロがボクに与えられた二つ名の方がカッコいいと拗ねていたのが面白かった。ニコの「こんなことで一々拗ねないの」と宥めていた姿は正に聖女のようだった。


 それぞれに贈られた二つ名をもって、ボクたちは魔王征伐隊ではなく、「勇者一行」と名乗ることを許された。身に余る光栄だ。


 というのも、この肩書は単なる肩書ではないのだ。


 国内においてはすべての関所を素通りでき、通常であれば立ち入りを制限される場所にも足を踏み入れることが許される。


 国外においても、五大国の内のエルフの国レランタを除く四ヶ国には予め通達しておけば入国審査無しで入ることができる。つまり、国賓として迎え入れられるわけだ。


 これがどれほどの特権か、理解できぬ者はいないだろう。


 とはいえ、国王もタダでこの特権を与えたわけではない。この「勇者一行」の肩書が意味するところは、


「魔王を征伐せよ」


 である。

 先代の魔王ヨグトを殺して魔王の座を簒奪し、以後不気味なまでの静観を貫いている魔王。彼の魔王の名が知られていないのは、征伐に向かった者で生還した者が誰一人としていないからだ。


 ──歴代最強クラス。国王は、彼の魔王をそう評しておられた。


 実力の底も、目的すらも不明。交渉の余地があるのかも当然不明である。故に国王は言った。


「征伐は叶わずとも、少しでも多くの情報を持ち帰って参れ」


「はっ!」


 ボクら三人は頷く他なかった。当たり前だ。


 弱き者を助けるために強き者を挫かんと全霊を賭す。これが、力ある者に相応しい振舞いなのだから。



 こうして、ボクらは大陸中央より少し西にある魔王城を目指し、旅に出た。


 王都に住む国民総出での盛大な見送りを受け、長い長い旅路は幕を開けた。


 道中、ボクらは多くの人を助けた。


 何を隠そう、ボクがそうすることを望んだのだ。


 泊まった宿の主が屋根に穴が空いていると言えば魔法で直し、滞在した村の長が魔獣の被害に苦しんでいると言えば退治した。


 ボクの知る勇者一行とは、ただ強大な悪を征するだけでなく、困っている人には皆等しく救いの手を差し伸べる者であったからだ。


 この身勝手な理想を体現するために、ニコとロロには多くの迷惑を掛けたと思う。


 だが二人は文句の一つも言うことなく、むしろ、


「それでこそシュルトだ」


 と笑って手を貸してくれた。本当に素晴らしい仲間に恵まれたと思う。ボクは二人を誇りに思う。


 そんな調子で旅を進めたため、旅路は決して速くはなかった。どちらかと言えばゆっくりとした旅路だった。しかしながら、死地に向かっているというのに悲壮感は無く、満ち足りた時間だったように感じた。



 王国を出てからも、様々な出来事がボクらを待ち受けていた。


 たとえば、大陸の中央部に差し掛かった辺りで、ボクらは偶然にもエルフの里──つまりレランタらしき場所に足を踏み入れてしてしまった。


「しまった」という言い方になるのは、先も述べた通り、たとえ「勇者一行」という肩書が有ろうとも、レランタに足を踏み入れることは許されていないからだ。


 これが本当に恐ろしい体験だった。


 瞬く間に七人のエルフに囲まれ、ボクらは里の中央に連行された。抵抗する気が無かったというのもあるが、正確には、抵抗できなかったのだ。


 不意を突かれたとはいえ、五大魔族の一角を落とせる実力のあるボクらでさえ、『守り人』のナーウェでもないエルフたち相手に勝ち目を見出せなかったのだ。


 魔力総量が違う。文字通り、桁が違う強さだった。不意打ちなりなんなり卑怯な手を使えば勝ち目はあったかもしれないが、正面から突破するにはあと五年の修行が必要だと感じた。絶望的な状況だった。


 しかし、この窮地はロロのおかげで拍子抜けするほど簡単に脱することができた。


「うわ! 何これすんごく美味い! この料理を作ったのは誰ですか!?」


 捕虜として捕まったボクらに出された質素な食事を食べたロロが、その素朴ながらも滋味のある料理に感動してバカ丸出しの称賛を口にしたことがきっかけだった。


 毒気を抜くロロの反応は瞬く間にエルフの連中の警戒を解き、どころか仲良くなり、結果的にボクらはサクッと解放された。


 後に、最初にボクらを取り囲んだ七人はエルフの里を警備する「七賢人」と呼ばれる精鋭なのだと知った。ナーウェ自ら稽古をつけている愛弟子らしい。道理で強いわけだ。


 見送りの際にはあのナーウェが出て来てくれたのだが、情けない話、足の震えが止まらなかった。ニコも冷や汗が滲んでいた。魔力感知がボクより数段精密なニコのことだ、より一層凄みを感じてしまっていただろう。


 敵意や悪意などは微塵も無い。魔力の放出もかなり抑えている。それなのに、魔力総量に自信のあるボクの十倍はあるように見えた。実際は百倍以上だろう。何が『聖杖』だと、鼻で笑いたくなった。


 ナーウェは、


「キミたちの旅路を応援している。願わくは、平和的な解決が訪れんことを願っているよ」


 と、穏やかな表情でそう言った。


 陽の光を反射する美しい銀髪に、宝石のような蒼色の双眸の彼女は、ボクらの知らない何かを知っているようだったが、それを教えてもらうことは終ぞできなかった。



 魔王城に最も近い西部連合国でも色々あった。


 まず、言葉が通じなくて驚いた。そこで、ボクらはエルフたちが言語翻訳魔法という高度な魔法を使っていたことに気付かされた。


 幸いにも王国の言葉を解する者──ヨヅさんが見つかり、彼に色々と助けてもらう形になった。


 お返しといっては何だが、物資を補給するためだけに立ち寄った西部連合国の細々とした困りごとも幾つか解決させてもらった。


 通訳のヨヅさんは冗談交じりに、


「『大瀑布の老賢』もついでに倒してもらえない?」


 などと言っていたが、寝言は寝てから言ってほしいものだ。

 西部連合国にも王国で言うところの『国宝』級が十二人いるらしいので、是非とも彼ら(『十二連星座』というらしい)に征伐を任せてあげてほしい。


 そんなこんなで、ボクらは遂に、魔王城が視界に収まる範囲にまで辿り着いてしまった。


 そして明日、魔王城に乗り込むつもりである。


──── 


 パチパチと焚火が音を鳴らし、暖かな光が三人の顔を照らしている。


「とうとうここまで来ちゃったな」


「ああ」


「そうだね」


 いつもなら途切れることの無い会話も、今日に限ってはどこかぎこちない。


「そういえばさ」


 と言ってロロが切り出したのは、思いもよらない話題だった。


「ニコが最初オレを避けてたのって、結局何でなの?」


「ぶっ」


 脈絡も何も無い、ロロらしい話題の振り方だった。ロロが言うには、これまで焦らされに焦らされていたため、いい加減教えてほしい、のだそうだ。


 まあ、確かに明日どうなるかわからない以上、気になることは無くしておきたい気持ちはわかる。


 ただ、それはニコの内面に深く関わる──


「良いよ、そろそろ話さなきゃなと思ってたし」


 ボクの心配をよそに、ニコはなんてことないような顔でそう言った。


 自分には何の才能も無かったこと、僧侶の才能だけが自分の誇りだったこと、ロロが眩しかったこと。


 すべてを包み隠さず話していた。


 それから、


「本当にごめんね、ロロくん」


 頭を下げた。


 おいロロ、わかっているだろうな?

 

 そんな視線を投げかけるまでもなく、


「いいよ。こっちこそ、色々と察してあげられなくてごめんね」


 ロロはニコを許した。あっさりと、何の躊躇いもなく。


 ロロにとって、あの半年の孤独は並々ならぬ地獄だったハズだ。それでも、ロロは一切の躊躇いもなくニコを許した。


 こいつと友達になれて良かった。そう思えた瞬間だった。


「良かったな、ニコ」


「うん、シュルト」


「前々から気になってたけどさ、シュルトは呼び捨てなんだ」


 ニヤニヤといやらしい笑みを浮かべながら、ロロが言う。


「…………」


 ニコの顔が、瞬く間に赤く染まっていった。


「うおっ! 待て待て! 何でシュルトがキレてんだよ!」


「お前はどうしてそうバカなんだ!」


 本当に空気が読めない! 信じられない! 前言撤回だ! こんな奴と仲良くなれてしまった自分が情けない!


「誰がバカだ誰が!」


「お前だ大馬鹿もの!」


「何をぅ! やるか!?」


「上等だ、魔王の前にお前を征伐してやる」


「ハッ、上等だよ、かかってこい!」


「二人ともやめて!」


 みたいな感じで、ボクらは最後の平穏を過ごした。


 そして、夜が明けた。


 魔王城に乗り込む日が、やってきたのだ。


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