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エルフの壺  作者: 北風
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第5話  白馬の王子さま

「……そう、あなた音々子さんって言うのね」


 ――履歴書類を見ながら音々子に優しく話しかけたのは、独特のオーラを放つ、この会社『エルティア』のカリスマ女性社長、鈴木乃々子だ。


 音々子は、採用の最終面接に臨んでいた。

 緊張のせいもあったが、そもそも人と話すのが苦手な彼女、上手く自己アピールできるはずもなく、面接官達からの厳しい質問に、ただただ萎縮(いしゅく)するばかりだった。

 そんな時、奥の席で傍観していた彼女が、(おもむろ)に口を開いたのだ。

「私が乃々子(ののこ)で、あなたが音々子(ねねこ)さん……ふふっ、面白いわね」

 と、楽しそうに笑った。

「それに……」

 彼女は、音々子を上から下まで、ゆっくり観察するように見つめてから言った。

「……あなた、何だか私の若い頃によく似ているわ」



「‼…………」

 音々子は、一瞬何を言われたのか分からなかった……いや、意味は理解できた。

 しかし、美のカリスマと呼ばれる彼女と自分が似ているだなんて、とんでもないことを言われたものだから、思考が追いついていかない。

 目の前にいる彼女は、メディアで見る以上に(きらび)やかで美しく、堂々としていて、自分とは天と地ほどの違いがあるように思えたからだ。

「ま、ま、まさか……、わ、わ、私なんかと……」

 音々子が大慌てで、全否定するのを乃々子はただ優しく見つめていた。



「⁈……夢っ…か……」

 ガタゴトと揺れる馬車の荷台の上で、音々子は目を覚ました。

 目の端には薄らと涙が浮かんでいる。

 大好きだった乃々子社長と初めて出会った時の夢……。

 懐かしい大切な思い出だ、胸の中が少しほっこりと温かくなっていた。

 その余韻に浸りながら、周りの状況を確認する。

 ……どうやら、まだ例の魔物・魔獣の居る、あの異世界にいるようだ。

 ――夢の中で夢を見るということも無いことも無いのだろうが、今居るこの世界は、やはり現実として受け入れるしかないのだろう。

 

 あの後、音々子は、クロノ王子とガルヴァ隊長が情報交換する中で、森での出来事について教えてもらった。

 なんでも王都に近い、このジャールの森に魔獣が現れたとの報告があり、王子が騎士団と共に調査に訪れたのだという……。

 もちろん危険を考慮し、経験豊富な手()れの騎士達が集められたのだが、予想を遥かに上回るA級の魔獣…ブレイドベアーが二体も現れたという。

 ――音々子は、あの凶暴な獣がもう一体いたのだと思うと身震いをした。

 (いま)だかつて、この森にⅮ級以上の魔獣が現れたことなど無かったらしい。

 すぐさま、王都に援軍要請の早馬を走らせ、王子達は時間稼ぎをしながら応戦していたという。

 だが相手はA級の魔獣、そんな(ゆる)い戦い方が許されるほど甘くはない。撤退する隙さえないまま、大打撃を受け、多数の負傷者が出たそうだ。

 それでも何とか王子の命だけは救おうと、軽傷の騎士達が懸命に隙を作り、脱出させてくれたのだという。

 その後、援軍が合流して、一体のブレイドベアーを討伐。

 もう一体は、森の奥へと逃げていったらしい。

 ――おそらく、私達の所に現れた(やつ)だろう……と、音々子は思った。


 王子がガルヴァ隊長に、ワームスポットが出現してそのもう一体の獣を呑み込んだ話をすると、とても驚いていた。

 普段は、領民達が気軽に薬草採取に訪れるほど静かで穏やかな森らしく、まさかS級の魔物…ワームスポットまで現れるとはと困惑した様子だった。


 こうして魔獣討伐は完了し、軍は引き上げる事となったのだが……、

クロノ王子は颯爽(さっそう)と馬に(また)がると、笑顔でそっと手を差し伸べた。

 自分の(エルダ)へ、音々子を一緒に乗せようというのだ。


「――…っえ!……っわ!」

 音々子は赤面して狼狽(うろた)えた……、別に馬に乗るのが怖かったのではない。

 確かに普通の馬よりも大きかったのだが……、そういう訳ではなく……、

『いつか白馬に乗った王子様が迎えに来てくれて……』

 なんて、思っていた夢みる少女の時代は遥か昔のこと。

 いかにアラサーの音々子といえども、予告なしで、この乙女シチュエーションは、さすがにきつい……。

 何とか丁重(ていちょう)にお断りし、兵站(へいたん)部隊の馬車に乗せてもらえることになった。

 若い兵士の一人が、音々子に毛布を手渡してくれた。

 何の獣の皮かは分からなかったが、フワフワしていて荷台なのに快適だった。

 援軍の騎士達とも合流して安心したのか、疲れていた音々子はすぐに眠りに落ちたのだ。

 

 乃々子社長の夢を見たせいだろうか……、目を覚ました音々子の心はとても落ち着いていた。

 森から一時間ほど走ったので、もうすぐ王都が見えるはずだと並走する兵士が教えてくれた。

 荷台から少し身を乗り出すと、遠くの方に、高い石造りの塀で囲まれた大きな街が見えてきた。

「うわー、きれい!」 思わず声が漏れた。


 セピア系の色で統一された古いヨーロッパのような街並み……。

 大聖堂のような形をした白くて高い建物を中心に、放射状に区画され、幻想的な景色を作り出していた。

 

 ――恐ろしい魔物が現れる危険な世界……。

 しかし、見たこともない美しい風景に心が踊り、改めてここが異世界であるという事を実感する。

 音々子は、不安もあったが、同時に胸が高鳴るのを感じるのであった。

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