1:1-2:枯木死灰
……羽音が耳に張り付く。
百は下らない大群。
余程嗅覚が鋭い様で、熊の血の滲出を目掛け迫り来る。
服にも熊の血が這い、巻き添えは必至であろう。
熊の首に靴を挿し込み、裂創を入れる。
これで血臭は更新され、寄生蜂は追えない筈。
暫くして、振り返る。
ブブ、ブ――――
熊は産卵管を破裂せんばかりに突き入れられ、今となっては過大な図体を震わせる。
余りに集る寄生蜂が多いらしく、羽音が連なり長音として収束していた。
……さて、何方へ向かうか。
熊の爪を剥いだ為、木に目印を付けられる。
よって迷う心配はない。
寄生蜂のいる方向は論外として、落下地点も除外。
正面と背面以外、左右の二択。
特に判断材料が見当たらない。
木に登ってみる。
「……」
連星だった。
灼熱は二球、その他三つ。
案の定地球と構造を同じくする訳では無いらしい。
腑に落として。
情報を収……右は控える。
植物は明らかに背が高く、絡み糾い、枝葉で一切幹が見えない。
毒々しい花弁が散見される。
却下。
木を降り、対の方向へ歩き行く。
◇
5時間が経過。
10kmは歩いたか。
森である為距離を測り難い。
既に熊、狼、蜂に限らず多種多様な生物を追い払い、時に傷つけ、殺している。
蜂はテリトリーを外れた様で、既に見掛けなくなった
熊と狼は森林全域に生息している模様。
ここ等は専らリスの様な小動物が多く、撃退し易い為助かる。
尚、外縁は未だ一端もその痕跡を映さない。
小休憩。
荷物を置く。
襲来する生物を追い払う末に得た物だ。
シカの様な動物で作った角製の槍や、軽く薄い盾用の石等。
外套で包んである。
……もう一度木にでも登ろうか。
そう思い立った。
他にする事も無い。
「……」
木に登ると何か、不自然な空白が見えた。
そこを目指す事にする。
◇
もう直に着く―― 矢先、視界が開いた。
惨状。
木々は無残にも焼け崩れ、踏み締める毎に屑が散じる。
放火でもされたか。
その割には察せられる火力が強い。
もう一度木に登って見る。
……同様の空白地帯が数多く、色濃く跡を刻んでいる。
自然発火、摩擦や落雷では無い。
故意犯を憂えば通過は避けたい、よって迂回する。
電気を放つナマズの様に火を放つ動物が存在するのだろうか。
それとも自身の様な或程度知性を持つ個体が放火したか。
消失地点が点在、と言う性質を見るに動物的ではある。
◇
逃亡中。
中々如何して逃げてばかりいる。
――カタタ……
迂回して5分は幾ら足りとも反応は無かったのだが。
敵は宙に浮く逆さ髑髏。
七体。
いよいよ健全な生態系の面影を損なっている。
此方が地に足を付け走るのを尻目に、中空にて悠々と追尾して来る。
ジャックオランタンの様に妖光を抱え、衰退の素振りも見せず燃え盛っていた。
その光が火種らしく、如何とも手を出し難い。
木々を焼き尽くした生物は恐らく此奴だ。
それ程火力を有する様には見えないが。
――ガッ……
「……?」
髑髏が枝に顎を打ち付けた。
引っ掛かったらしい。
髑髏は白磁を紅潮させ、赤熱を撒いた。
膨張する。
――カタ、タ、タタタタ……!
発火の兆しだろうか。
木々が焼けていた範囲は凡そ半径15m、熱波を考え20mは離れたい。
が、髑髏を巻き込み一掃もしたい。
渦巻き型に逃げ、なるべく髑髏を留まらせる。
……三体は巻き込めるか?
「……」
――静寂。
後一拍。
火柱が上がった。
骨格が勝ち誇った様に歯を鳴らしては火に沈む。
三体と言わず四体、五体、巻き込み――
連鎖してその勢いを跳ね上げた。
――ドォ、ォォォッ!
他の髑髏を食い潰して消し去るものと思っていたが。
火柱は劫火を体現し、20mと言わず目測50mは伝播。
我が身可愛さに大きく距離は取った、ものの。
敢え無く、咄嗟に縮む背は爛れ躙られた。
修復する。
溜め込んだエネルギーが抜け出る。
この体は前世で製造されたものだ。
エネルギーさえあれば融通が利くが、配分を間違えれば枯渇し、永遠に活動を停止してしまう。
前世は永久機関を生ずる様な法則を有していなかった為、斯様な欠陥の多い身体を使用しなければならない。
兎にも角にも。
次は巻き込む等と考えず、一体一体確実に処理する事にする。
◇
処理に慣れた。
と言うのも、歯を鳴らす事で爆発する事が判り。
石を投げ込めば遠隔で起動できる。
百発百中で無い為外す事もあるが、その折は赤熱させた後に能う限り逃げれば良い。
連鎖も無く、猶予が約5秒ある為、発見次第の処理を怠らなければ然しも脅威では無い。
――ヴォオオオ!
熊が出てきた。
蜂が居ない故か、何処と無く体躯が肥えている気がしない事も無い。
前回同様に飛んでくる拳を避ける。
顔に槍を叩き込んだ。
現状刺せるほど尖っていない為、押し込むのみに終わる。
――グゥ……
反撃に繰り出された爪を平たい石で防御。
襲い掛かる尻尾は槍で払う。
武具擬きを作った以後、負傷率は格段に下がった。
熊程度であれば難なく倒せる。
負傷した所で、向こう5年生存出来る程度のエネルギーは貯蔵されている為、直ぐ様修復すれば良い話ではあるが。
有事の為節約を心掛ける必要はある。
――ガアアァァァ!
回避、防御、随に攻撃。
そんな攻防を数十秒、特に苦戦も無く勝利した。
さて。
木に凭れ腰を据える。
髑髏も大分数が落ち着いて来た事だ。
ここ等で座っていよう。
もう直に夜が来る。
◇
連星所以か数時間で夜が退いた頃。
右奥の草叢が騒いだ。
又候熊だろうか。
目を向ける。
暗所で見え辛いが、小奇麗な男が立っていた。
険しい顔。
……人間?
同じくこの森に落ちて来たという事だろうか。
不明。
「――ッ、誰だ!」
開口一番、そう叫ばれた。




