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Akashic Rulers  作者: Filsmical
1:1-果て後紮ぐは轗軻と傀俄
3/5

1:1-1:禽の如く息い鳥の如く視る


 転生した。

 何度目だろうか。


 数えてはいない。

 そもそも数えられる代物でもないが。


 前世は何だったか……


 そうだ、恒星が脇を掠めた後、踵が飛来して溺死したのだった。


 その前は……いや、あれは五感が無かった。


 さらに以前……確か、川の表皮で偶然神経回路が再現された。

 故、多種多様なガラスが熱中症を起こし、自分は抜錨して圧死。

 ……違うな、あれは何方かと言えば過労死だ。



 しかし、今の様に思考する余裕があるとは珍しい――


 ――レモンの躍りを見て体が裂けた。


「……」


 何だ、思考が繋がったのは死の実感が無かった為か。

 安堵した、代償として瞬きで中毒死した。



 転生先の状況は完全なランダムであり、地球の狭さを殊更に示す。

 元居た世界と似通う事等無い。

 転生を繰り返した誰もが鼻で笑うだろう。

 自身の記憶が読み取られ無い限り、確率は無限小である。



 ……当たりを引いた。

 一文明を築いた。

 外部干渉で意識が途絶えた。

 侭成らない。



 次は如何だろう。


 現在は墜落中。

 肌が灼け熾る。


 ……墜落?


 そうか、重力が存在すると。

 珍しい。

 昨今は運が良い気がする。

 五体も五官もあった、望外の幸運。


 然し墜落している為、折角の健康体も没すだろう……勿体無い。


 折損する首、破砕する脊椎、碌に機能しない触覚。

 肋骨は空気抵抗で複雑骨折を起こし、筋繊維は千切れ途絶えた。


 接地までの有余数十秒、特筆すべき事も無い侭超過した。


【――ト―始】


 地上に激突する寸前。

 耳孔を甲高い機械音が刺し穿った。


 落下中の為、酷く聞き難い。


【――技―《――発領(ゥス=ロ)―》――得】

【―称――】


 この世界にいる生命のメッセージだろうか。

 日本語に聞こえる時点で、記憶のロックは突破されたか?


【位――】

【処理――に――外―る】


 遅い。

 末摩の断ち際にそう告――ごうと試みた。

 声帯は遂に応えを発さず散った。


 捲れる砂塵が、ベールの如く屍を包み隠した。




 ◇




 如何も甦生したらしい。

 大方手違いか温情であろう。



 転生させた当人を便宜上管理者と呼ぶ事として。

 端から死亡と言うのは良くある話だ。

 管理者が間抜けであるか、加虐趣味であるか。

 前者を期待。



 緩慢に体を起こす。

 固形化した内外出血により、少し苦戦した。

 蘇生はしても清掃はしなかったと見える。

 変色したヘモグロビンが森林を穢していた。

 体に傷は無い。


 しかし、森林……


 跳躍、投石、枝を折り地を穿ち、雲行きを観る。

 重力等、物理法則は地球と概ね同一。



 左見右見。


 10m程離れた大木に、塵で殊更燻んだ銀灰の外套が引っ掛かっていた。

 前世で使用していたものだ。

 意識が途絶えたのみである為、前世かは疑わしいが。


 落下の勢いで引き裂かれたか、正しく襤褸と言った状態。

 実に汚らしい。

 取り敢えず回収しに行く。


「……」


 周縁で蝶がふわり、優雅に舞っていた。

 木漏れ日と相俟ってより幻想的に思える。


 この世界で初の生物だ。

 何見しても一般的な蝶である。

 やはり視界は贋物の可能性が高い。


 握り潰す。

 呆気も無く死んだ。


 動的生命体に対して特別な干渉がある訳でもないらしい。

 蝶がモブ的物体、乃至端数との可能性もあるが。



 ……特にする事がない。

 考える。


 自身の記憶を基に世界を作ったとして。

 記憶が世界に転生する以前に参照された事となる。

 栄華を誇った文明を、干渉して破壊したのが管理者では?

 そうなると戻る事が可能であるが。


 戻るか?


 ……当面は森林脱出を目標とする。

 帰還は目途が立つまで保留。


 出来れば文明の友人と合流はしたい。





 ◇




「……」


 外縁を目指して約三十分程。


 葉擦れ、木霊する鼻息。

 野生動物の類が居る。

 この体の感覚器は精度が高く、僅かな呼気も感じられる。


 周囲にて石を数個拾い、枝を数本折り取った。

 枝は目に突き刺しでもすれば。


 相手は二匹、背面右とやや左。


 前者は体躯の大きい熊のシルエット。

 肉眼で背後を確認したので間違いない。

 飢えた様な素振りを見せている。

 冬眠明けか?

 この世界に冬が存在するかも知らないが。


 後者は身を潜めていた。

 頭部が少し覗ける。

 自分ともう一匹の何方を狙っているかは不明。

 狼……だろうか、少なくとも外見は似付く。


 逃走しながら暫し様子を窺う。


 結果、狼は熊に近づいた。

 是非に共倒れを。


 ――ガアアアァァァ!


 後方から低い喚きが。

 その調子で。


 ――ァァァアア!


 熊を視認。

 狼に追われて此方に逃げて来ていた。

 首元には噴き出る血潮。


 ……熊と目が合った。

 余りにも猟奇、迸る血脈が縁取る双眸が射貫く。


 ――ウォオオォォォ……!!


 響めく咆哮に合わせ、先から狼が二匹飛び出してきた。

 待ち伏せが戦術だったらしい。


 擦れ違い様蹴撃、左狼の頭蓋は拉げ陥没させる。

 右は有り余る木の枝を犬歯に挟み込んで無力化、手に含んだ石で搗ち上げる。


 しかし何だろうか、良く見れば狼ではない。

 鼻が目の上、額辺りに位置していた。

 狼以外でも思い当たる節が無い……


 生態系は自身の記憶を参照していない?


 困惑しながらも左折。

 熊が追って来る。

 あわ良くば倒した二匹の狼に方向転換して……無理か。

 未だ眼は自身を捉えている。

 何か仕掛けた訳でも無いが、執念深い事だ。


 熊に気を配りながら、鬱蒼とした森林を駆けた。

 武装が無くとも、熊程度に追い付かれる様な軟な作りでは無い。



 ◇




 一応距離は空いた。

 この侭空を仰げる程の安全地帯に行きたい所存。

 然し現在、木漏れ日と言うには烏滸がましい光のみである。



 ――全く生物の残滓というものを感じない。

 不可解。


「……」


 慎重に歩みを進める。

 目に余る木々を、潜る、刹那――


 ――ブブ、ブッ……!


 灰と橙が斑に浮き出る艶々とした体表、交錯する牙。

 寸法規格外の蜂が顔面に迫っていた。


 急停止、木の枝で弾き落とす。

 殊の外重かったらしく、堪えず枝は折れた。

 後三本。


 木陰に身を屈め、最奥を窺う。


 葉音と羽音、朧に入り乱れる敵影。

 狼が、へばる卵群を背に臥している。

 他が他を轢き潰しながら、それを喰い奪い荒らす様は醜悪だった。

 寄生蜂の類か。


 即座に退却。

 無論熊は避ける事が望ましい。





 ◇




 草葉の雑踏を踏み締める。

 開拓された足跡、空白、就きたくも無く帰途に就く。

 時折追い付く寄生蜂を打ち飛ばす。


 生い茂る枝先、盛り上がる木の根が邪魔で鬱陶しい。


 熊と狼の群れ。

 如何せん軽微に収まらざる後先を見据える。


 ――……グオオオォォォ!


 言う側より熊が。

 首元の裂傷は凝固し虫が集っている。


 振り下る、臙脂朱殷の流体を纏う両腕。


 熊にしては速い、素直な感想として。

 仮にも文明の成果である身体は軽々しく避ける。


 熊掌が続け様飛来した。

 直線運動の為、回避は却って容易い。


 警戒すべきは尻尾と口だ。

 特に尻尾は先端が二股に裂け、蠍と紛う先端を伴う。

 触れば鮮血が走る事は必至。


 然らば熊と言い蜂と言い、余程この森林の生物は表皮が固いのだろう。

 現に蜂は叩き落せど凹みすらしなかった。

 此方の攻撃は意味を為さない。


 ――ヴ、グゥウッル……!


 熊は攻撃が当たらず激高している。

 相も変わらず直線的。

 尾は只に猶予うばかり。


「……」


 好い加減に疲労したと見え、注意が散漫である。

 狼に抉られ腫れた首元に、木の枝を挿し込んだ。


 悲鳴を上げる熊。

 その間、後ろ手で手頃な石を拾う。


 数秒置いて。

 怒りに震え、熊が大口を開けて突進して来る――


 ――その隙に石を投げ込んだ。


 喉に直撃。

 抉れ、刺され、打たれ。

 散々に痛む喉元を抑えながら、熊は地団太を繰り返した。


 藻掻き苦しんでいる間に眼球に枝を突き刺す。

 両眼は潰せた。


 熊が苦痛に懲りず接近する。

 足を払う。


 ――グア、ァ……


 力なく拳が振り上がる。

 難なく躱――


 ――......ァァアアゥア!


 突如、爪が伸びた。


「……!」


 軸足を崩す。

 傾く身体。


 服のみの犠牲で済んだ。

 熊は仆れた。


 確かに熊にしては矮躯が目立ったが……

 伸ばすリソースを確保する為だろうか。

 攻撃に速度と威力を欠いていたが、本来は見切れるものでも無い。

 事実、自身の服が裂けた。


 狼が奇形である点も又、気を払うべきと感じる。


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