触らぬ神に……
最終話です。
ちょっと調べてみたのよね。というか、調べるよう指示を出そうとしたら、調査報告書を手渡されたのよね。
本当に、いつの間に調べていたの、ウィル? 貴方過労で……え、おかわり? いただくわ。
ええと、そうそう。その調査報告書によるとね。
ベリー嬢、貴女男爵家に引き取られる前、母親と暮らしていた頃。すでに教養とマナーは修得済だったそうじゃない?
お父様である男爵から、将来困らないようにと教師が派遣されていたはずよ。
教師によれば、教育は中位貴族と同等まで修了していたわよね。ねぇ、その教養とマナー、どこに捨ててきたのかしら?
貴女の母親が存命だった頃は、大人しい子だったそうだけど、母親が亡くなって男爵が迎えに来るまでの五日間で、貴女中身が入れ替わったように明るくお転婆な子になったと、近所の方の証言があったわ。
ねぇ、ベリー嬢?
貴女、学院でのやらかしたあれやこれ、今までの全てを学院長が知らないと思って?
むしろ、証拠証言山ほど抱えて王宮に報告されたのではないかしら。王宮から調査が……あら。
「いい逃げ足してますね」
淑女がはしたなく足を見せるなんて。貴方あの子の足が好みなの、ウィル?
「わたしはエルシー様一筋ですよ」
そんなこと聞いてないし知ってるわ。ウィル。
「影をつけてはあります」
そう、ならいいわ。
とりあえず、ミセスミランダに捕獲を依頼して、私達は帰りましょう。
え、あら貴女。またいらしたの? ミセスミランダにみっちり扱かれて、そんな暇ないかと思っていたわ。
「王子とか他の人がムリなら、そこのヒツジでもいいガマンするわ!! ちょうだい!!」
バキッ
「エルシー様!?」
あら、嫌だわ扇が。鉄扇をちょうだい、ウィル。
……あんまりな発言だものね。きちんとお話ししないと。ねぇ?
「な、なによ?」
ウィルでいいと我慢するとかウィルをちょうだい、ですって? つまらなくて笑えないわ。うちのウィルは王子より難易度が高いわよ。
それに、ヒツジってなにかしら? 執事のこと? 貴女マナーだけじゃなく常識も捨ててしまったのね。
我慢もなにも、貴女にウィルはもったいないし絶対にあげないけど、なぜ貴女そんなに自信満々で上から目線の発言なの?
その容姿で? そのスタイルで? そのマナーで? その学力で? どれかひとつでも秀でてらっしゃるの? どれが? どれもないわよね?
「な、なによぅ」
本当のことを問いかけているだけよ? 身の程知らずのベリー嬢。
「やってみなき」
「お断りします」
「早すぎない!?」
貴方に直答を許してないわよ、ウィル。あれとなんて話したら貴方が汚れるわ。
「それはエルシー様もでしょう? 相手になさることはないのに」
あら、売られたのだから高値で買うわ。
可哀想だからと大目に見てあげたのが悪かったのよね? だからあんな発言になるのよね? もう見逃さないわ、安心なさって?
「ひぃっ」
逃げても無駄よ? もう甘やかしは終わったの。手加減はもうしないわ、全力で叩き潰すわよ、ウィル。
「承知しました」
あと、最後に教えておくわ。
ウィルは、私を心配するあまり執事のふりをして護衛をしてくれる、私の最愛の旦那様よ? 横恋慕も寝取りもお断りだわ。
「え?」
その後、彼女の姿を見たものはいない。
ありがとうございました!