ところで
ところで。
そもそも、なぜ貴女がここにいるのかしら?
ここは学院の奥、貴女が立ち入りを禁止されているエリアだけど。
「え? なにそれ」
知らないのか、聞いてなかったのか、どちらかしら。どちらにしろ説明したはずの教授が可哀想。
あのね。王立学院に入学した生徒は全員、マナー講座を修了しないと授業に出席できない決まりでしょう?
貴族子息子女は、子供の頃から馴染んでいる所作だから、その日のうちに教室に移動するけれど、貴族庶子と特待生として入学した庶民は合格ラインをクリアしないと貴族と同じ教室には入れないのよ。規則として説明を受けているはずよ。例外はないわ。
だから、貴女は門を入ってすぐの、通称マナー塔までしか許されてないでしょう?
授業もマナー塔で受けていると聞いたけど。ミセスミランダからの許可がなければ、貴女が食堂に来るのは不可能なのよ。
ミセスミランダから合格をもらえなくて、最後のひとりになった、そして卒業までマナー塔の生徒かもしれないと言われている、男爵家庶子のベリー嬢って、貴女でしょう?
「な、なぜそれを!?」
なぜ知られていないと思ったかを知りたいわ、私。
貴女、有名人よ。入学式で迷子になったフリをして王子を探していたり、わざわざ裏門の木の下で野良猫を手懐けようとして手を怪我してみたり、南棟の庭でお昼寝しようとしていたり、教授にみつかって「チェンジで!!」と叫んでいる所を、かなり、というか全員に目撃されているわよ。
下世話な言い方だけど、貴女殿方のおしりを追いかける方(大分オブラートに包んだ言い方)だと噂されているの。
「……あー……」
そんななんで? みたいた表情しても今更よ?
ちなみに高位貴族子息達は、貴女を見かけたら逃げるよう言い含められているから、今では音もなく消えるわよ。レベル上がったわよね。素晴らしいわ。
教えたのは我が家の脳筋なんだけど、あとウィル。
……貴方、仕事しすぎじゃない? 身体大丈夫?
「もちろん。貴女を残しては死にませんよ、ご安心下さい」
そんなことを聞いてるんじゃないし、それのどこに安心する要素があるのか、小一時間問い詰めたいのだけど。
あら、紅茶とチーズケーキね、いただくわ。うん、美味しいわ、ウィル。うちのシェフの味ね。
「伝えておきます。喜びますよ」
あら、そう? ……ああ、続きね?
貴女が、あんまりにも一生懸命に美形高位貴族を追いかけようとしているから、少し気になったのよ。
ああ、もちろん高位貴族子女の皆様も、貴女を見たら逃げるわよ。
貴女に接触したら、してもいない、いじめの犯人にされてしまうらしいじゃない?
ありもしないいじめを捏造し、いない王子がいるかのようにふるまい、高位貴族子息は自分の味方だと思ってる。
……ねぇ、貴女はいったいだぁれ?