ご乱心。からの
ああ、そうだったわ。バルコニーの話よね。
王子達が視界から消えたせいか、泣き叫んで疲れたのか、緊張の糸が切れたのか……全部かしら。私、バルコニーから落ちたらしいわ。
「え!? 生きてるじゃん!?」
当たり前よ。命がけでウィルが助けてくれたもの。
「ウィルバートです。あ、呼ばないで下さいね。エルシー様以外に名を呼ばれたくないので」
にっこり笑って言う言葉じゃないと思うわ。
気になさらないでね。これがウィルの普通なの。
で。私はそのまま熱にうなされることになったわ。うわ言で『やめて』『さわらないで』『いや、しにたくない』と繰り返す六歳児に、両親は婚約の白紙を決めたの。
婚約をゴリ押ししたら、私がいなくなると心底思ったそうよ。理解してくれて嬉しいわ。
公爵家からの申し出に、渋ったのは陛下だったそうよ。あれを見ていたのに否と言える神経がわからないわ。え? 不敬? 本人がいないし誰も聞いてないわよ?
でも、いくら陛下が渋っても無駄だったのよね。
だって、第一王子は刃物で公爵令嬢を傷つけようとした犯罪者よ? 目撃者は多数。口止めしようとした頃には王宮中が知っていたし、バルコニーから落とされた令嬢を見ていた人もたくさんいたし。
……多分暗躍したのよね、ウィル?
「ナンノコトデショウ」
……まぁ、いいわ。
陛下が渋々、ほんっとうに渋々認める前に、王妃殿下が陛下に三行半を叩き付ける事件がおきたりと、色々あったらしいけど。婚約なんて話、あったかしらレベルで話は消えたわ。
え? 王妃殿下は王領にて静養中よ、ずぅっと。
「第二王子と婚約しなかったの?」
貴女、自分にトラウマを植え付けた相手と婚約できる?
「え、ムリ」
でしょう? 私も、そして第二王子も無理だったのよ。私は寝込んでいたし、第二王子はショックで引きこもったそうだし。
私のせいじゃないわよ? 全ては公爵家と繋がりを持って、私の母を狙っていた陛下の邪心が招いたことだもの。
第二王子は王妃殿下が差配して、優しくて穏やかな可愛らしいご令嬢をご学友にされたら、部屋から出たらしいわよ。
ご令嬢は政治経済にも意欲的だから、隣で第二王子を支えて下さるでしょう。立太子も近いと言われているわ。
かの貴腐人達が残念がっていらしたけど、あちらに行ってしまうと戻れなくなるものね。
「え、なんの話?」
知らない方がいいこともあるわよね、あるのよ。
第一王子は元々側妃様の子だったし、陛下に似てないし乱暴者だったしで、体よく公爵家に押しつけようとなさったのよね、陛下。許すまじ。
今は外国に留学なさったと聞いているけど、どこにいるのかしら、ウィル?
「各国を遊学なさっておいでだったかと」
陛下は第一王子と私との婚約を諦めてなかったらしいけど、王妃殿下に捨てら……棄て……怒られたし、肝心の私が「王宮」「王子」「婚約」等のあの日を思い出しそうな言葉を聞くと倒れてうなされるから、ようやく諦め……たのよね、ウィル?
「あとで確認しておきます」
こんな感じね。ご理解いただけたかしら?
エルシーさんは王子が大嫌いです。