第3章 敵の襲来
一時間目授業の終了から数分後、身体の落書きを消し終え
て教室を出る。三苫が引き留めようとしたが、急いでいた
ので相手してる暇はなかった。
「もう、あいつ!! わたしを無視して
どこに行く気なの?」
「かなり焦っていたねぇ」
出ていく間際、高島が三苫をなだめてる姿が見えた。
しかしこっちには、1年のある人物に用があったから
構ってる余裕はない。
(おっと、どうかバレないように)
陽斗と摩璃子のクラスは隣になるから、見つからない
ように廊下を、素早く通り過ぎて目的の場所まで向かう。
あいつらがいると、逆にややこしい状況になるので
単独での行動が良いと思った。
程なくして到着したがいない。何処にいる?
(!?)
突如、気力の高まりを察知するが、まるで噴火寸前と
いった感じだった。
(早いとこ探さないと・・・・・・・あそこか)
気配を感じ取り脱兎の如く駆け出す。事を起こす前に
止めないといけない。急いで現場へと到着し辺りを
見回したが・・・・見つけた。
体育館の横に、生えている樹木の前で制服の男は、
棒立ちのまま身動きもせずに、立ち尽くしている。
「おい、そこで突っ立って何をしている」
突然、声を掛けられ男子生徒は、驚きこちらへ振り向く。
その姿は、事前に用意したのか黒のメッシュキャップを
着用し、同色のバンダナで目以外をすべて覆っていた。
「な、なんだ、いきなり。あんたには関係ないだろう」
「こっちには、大ありなんだよ中野 誠」
いきなりフルネームで名前を呼ばれ、あからさまに
動揺している。
どうしてバレたのかと、がっかりした仕草を
みせながらも、おもむろに変装を解いた。
その素顔は、黒髪で七三分けの真面目そうな印象だが、
目の回りにクマがあり表情は、かなり悪く疲れきってる。
(かなり驚いている。当然だな)
向こうは、初対面だ。戸惑うのも無理ない。
「単刀直入に言うぜ。今すぐ、持っている物騒なやつを
渡せ。そいつは・・・覚醒はお前の手に余るものだ」
何故という表情で、先程よりも露骨に怯えだした。
「い、い、いきなり何を言ってるんだ。そ、それに
どうして、ぼくの変装がわかった?」
「今はそんな事どうでもいい」
「じ、じゃあここに何しに来たんだ。何故、どうして
ぼくが持ってるモノを知っている?」
「その理由はな、お前自身だけじゃなくクラスメイトも
必ず不幸になるって、知っているからだ」
「へっ、出任せ言って。ぼくの苦しみを知らないくせに」
正体がバレて、半ばやけくそ気味になってるようだ。
「虐められてたのは、わかってるよ。
俺にも経験があるからな」
唐突な発言にビックリしたのか、意外そうな
表情でこっちを見ている。
「両親は幼い頃、建設途中の前を通り過ぎようとした時に
、作業員のミスが原因で建築物の一部が、運悪く彼らの
下に落下して即死したことも。それからは親戚に預けられ
たが訳あって、今は1人暮らしをしてるのもな」
一気にまくし立てるように語ったせいか、ヒヤリとした表情を
隠そうともせず、後退りまでしている。
「どーしてそこまで知ってる!!
あんた一体、誰なんだ!?」
(ヤバいな、かなり動揺させてしまったか)
脳裏に一瞬、学校の崩壊で多数の死者や重軽傷者、泣き
叫び放心状態の生徒など、正に地獄絵図の状況が浮かび
上がる。追い詰められた相手を説き伏せるなんて、並み
大抵の思いがないと不可能だ。
(何としても防がなきゃならない。そのためには
粘り強く、訴えかけるしかねぇな)
「3年の神条だ。お前は自分を取り巻いてる現状に、
ど~~しても、我慢出来ねぇ~んだろ」
「皇、飛鷹先輩の幼馴染みの!? でもどうして?」
俺は、大勢に名前を知られたり、目立つのが嫌いだ。
だから、学校ではそっとして欲しいと頼んでいるにも
拘らず、あの2人は聞きもせずに毎日絡んでくる。
静かにしていたい身としては、いい迷惑だ。
「「あっ君!!」」
(ちっ、さすがに異変を察したか)
あいつらが来る前に、解決したかったがな。
「一体どうしたの?」
摩璃子が声を掛けてきたが、相手してる暇はない。
「静かにしてくれ!!」
話が、ややこしくなるので速攻で黙らせる。
何か言いたげだったが、中野とのやり取りに
気が付いたのか押し黙った。
今は一刻も早く、この状況に決着つけないと。
「たのむ、渡してくれ!! そいつは
想像以上に物騒なんだ」
「ウソだ!! 口からでまかせを言って、あんたもぼくを
イジメに来たんだろ!!」
「そんな事はしないし理由もない。さっきも言ったが
そいつは、ただ持っているだけで最後に、お前自身を
殺してしまうような代物だ」
脳裏に多数の警官が、発泡する情景が浮かんでくる。
(ええぃ、クソ! 勝手に出でくるんじゃねぇ!!)
「構うもんか! そう、先輩の言う通り両親が亡くなって
からが不幸の始まりさ。小学生の頃、不慮の事故で死んで
その後は、引き取られた親戚の家で虐待にあった。
高校入ると同時に、あの家を出てからは1人暮らし。
これで人生変わると思っていた。でも蓋を開けてみれば、
クラスでいわれのないイジメにあって、担任に
取り次いでも、気のせいの一点張り。
そんな時に偶然、ある人にこれをもらったんだ」
手にしてるのは、知らない人間が見たら何の変哲もない
キーホルダーに見えるが、実際はそんな生易しいモノ
ではない。持ち主次第で、善きことにも悪しきことにも
出来る代物。
使いこなすには、とてつもない精神力が必要となる。
「あのなぁー、初対面の俺が言っても信じられないかも
しれないが、生きてればいつでもやり直し出来るんだぜ」
「う・・・・うっ・・・・・・・うるさい!!!」
目尻に薄っすらと涙を浮かべながら、憤怒の表情を
剥き出しにして襲い掛かってきた。
その手には、覚醒が形状を変えた約1m程の棍棒が
握られている。漆黒で先端部分には、棘が密集
しており殴られたら、只では済まないのは明らか。
覚醒は武器、防具に変化し使用者によって形態を、自身が
望む形に変化が出来る。
そして最初に使った奴にしか扱えず、尚且つ身体能力を
も向上させる。そのおかげか、余りの力に魅了され
自身を見失う奴もいる。
繰り出す攻撃を避けながら、どうすれば話を聞いて
くれるか考えていた。力でねじ伏せることも可能だが、
それじゃ今以上に心を閉ざしてしまう。
これまで理不尽な振る舞いに、耐えざるえなかった
気持ちを痛いほど知っている。
(暴力に震えてきた相手に、暴力で
対処しようとしても意味はねぇ)
「もうやめろ!! 同じモノを持ってるんだよ俺も」
おもむろに取り出し、目の前の怯えた後輩に見せた。
「そ、それはぼくと同じ!?」
「ああ、こいつは使い方を間違えると、誰かの命をも
奪ってしまう程の代物だ。俺自身、何度もこいつの
せいで危険な目になった事がある」
話を聞いていた陽斗が、そんな記憶はないけどなぁ~と、
場違いなセリフをほざいたが、構わず話を続けた。
「いいか、よく聞け。そいつを渡した奴はな、お前を利用
しようと企んでるんだ。手駒を集めて都合よく操ろうと、
考えている組織も存在するんだよ!!」
説得しながら、この『忌々しいモノ』を投げ捨てた。
この件に関してだけは、武力を行使するつもりはない。
闘いが嫌いと思いながら力が増していくにつれ、いつの
間にか調子に乗って危うく力ずくで、解決しようとする
自分が無意識に出てきそうになる。
(まったく、まだまだ未熟者だな俺は)
「あっ君どうして、覚醒を捨てちゃ危ないよ」
「静かにしてろと言ったはずだぜ。力ずくで解決出来ない
場合だってある。黙っていろ!!」
摩璃子は、膨れっ面をしていたが構わなかった。
「自分を守らなきゃいけないのは、よく分かってる。
だがよぉ、一瞬でも使い方を間違えば、
関係無い人々まで巻き込んでしまう。
お前が持っているモノは、そういう
可能性もある代物なんだ」
身に覚えがあるのか、こちらの話に耳を傾け始めた。
思えば説得をしようと試みたのは、段々と「力の本質」
というか、使いどころを理解してきたのかもしれない。
「じ、じゃあどうしたら・・・・・この悪夢のような状況を
解決出来るんだ? いや、これまでも思い付くことは
全部やってみたけど、うまく行かなかった。結局、
また惨めな生活に逆戻り」
「それで諦めるのか?」
「いや、絶対に諦めたくない。でもこれをもらってから
感情の高ぶりを押さえるのが、むずかしくなってきて
それで壊そうとしたけど、頑丈すぎてダメだった」
「なるほどな同じだ。俺自身もいつか制御が効かなく
なって、自分を見失ってしまうかもと、思った状況が
何度もあったよ」
その直後に摩璃子が、え~っ、あっ君からそんな台詞を
聞くとは思わなかった。と横槍を入れてくる。どうも、
手伝おうとして止められた事に、陽斗共々ご立腹らしい。
「と、とにかく拳銃と同じで、暴発する可能性がある。
だが、本当に怖いのは使い手の精神が暴走、いや
見失ったときだ」
「心の暴走・・・・」
「そうだ。力が強ければ強いほど、暴走したときの影響は
最悪だ。まさに荒れ狂う台風と一緒で、ただ周囲を
破壊するだけだ」
「そんなに、恐ろしいモノだったなんて・・・・・」
かなりショックを受けているようだ。
その証拠に、先程まであった覇気が消え失せている。
「だが使い手によっては、人助けの道具にもなる。
どうするかは、全て自分次第さ。
そいつを、持っているのも手放すのも」
「ぼ、ぼくは・・・・」
「正直、最初は無理矢理でも、奪い取ろうと考えた。
けど止めた。どう扱うは、中野の判断に任せるよ」
「待ってあっ君。そんな無責任な発言して大丈夫?」
「覚醒を一度手放そうとしたんだろ。危険だと、ちゃんと
自分で判断して。正しく扱えればそれに越した事はないが
、場合によっては争いの火種になるだけだからな。
それに無理強いされるのは、誰だって嫌だろ」
思わず口を開いた陽斗は、何の力のなかった人物が突然、
見境なく暴れる状況を、恐れていたのだろう。
だがこれで・・・・この選択で正しいと。
何故か解らないが、確信に近いものを感じていた。
これまで焦って、力でねじ伏せる手段ばかりだった。
(もし駄目だったら、また次を考えるさ)
「あ、あのこれを」
こちらに歩み寄って、覚醒を差し出しにきた。
その瞳には、迷いが消えたように見える。
「本当に良いのか?」
「はい、神条先輩にお任せします。
もう怯えて暮らすのはウンザリです」
「わかった。こいつは、責任を持って処理する」
受け取ってすぐ、力一杯握りしめながら粉々していく。
手を広げた直後、一陣の風が破片を舞い上がらせ
徐々に跡形もなく四散した。
「これからも辛い状況が待っているかもしれないが、
そんな時は今日という日を思い出せ。どんな奴でも
チャンスを掴んだイメージさえ確実に出来れば、必ず
望んだ人生に変えれるんだ。そう信じ続けろ」
「せ、先輩・・・・ぼくは・・・・ぼく・・・・・」
彼の瞳から次第に、涙が溢れ止まらなかった。しばらく
嗚咽が止らず、ようやく言葉を紡ごうとした直後だった。
「あ~あ、やっぱり簡単に手放したか」
突如、どこからか男の声が、聞こえ俺達の前に現れた。
この場所に来る前から気配を感じてたが、ようやく
本命のお出ましのようだ。
「まぁ最初に力を使った時、かなり怯えてたから大体の
予想はついてたけどな。けど本当に惜しい~よ。
潜在能力は中々だったけどねぇ」
「いつの間にいたの?」
「全然、わからなかった」
そろいも揃って、全く気づいてなかったようだ。
「こ、この人です。ぼくに、覚醒を渡したのは」
震えながら、突然現れた男に向かって指差ししている。
「俺達が来る前から一部始終、中野を見張ってたんだよ」
男は大体、40代後半に白髪交じりの長髪を後ろに
束ねた姿に、白のロングTシャツに黒のGパン、
同色のブーツという出で立ちで現れた。
「へぇ~鋭いなぁ。よくオレの事がわかったな」
「まぁな。昔、敵の気配を察知出来ずに襲撃され
死にかけてからは、必死に修行したからな」
「それはそれは、ご苦労なことで」
目の前にいる男とやり取りの最中に、摩璃子がすかさず
心配になったのか話に割って入る。
「ねぇ、死にかけたってどういう意味なの? そんな状況
なんて一度もなかったはずじゃ!?」
「だよねぇー。僕の知ってる限りだと、あっ君が
死にかけたなんて一度もなかった」
(マズイ、うっかり口を滑らせてしまった)
「そんなことより、早く中野を避難させろ。
ここは、俺1人で十分だ」
2人は渋々だったが、素直に行動に移してくれた。体育館
方面の移動を確認すると、改めて竹林に向き合う。
「やけに自身たっぷりに言ってくれるけど、経験から
言ってそういう奴から、真っ先に死んじゃうけどなぁ」
「そいつはどうかな。例外があるって教えてやるぜ
竹林 正博さんよぉ。いや、容疑者だったな」
男は、自身の名を突然言い当てられ、明らかに動揺を
見せたが、必死になってごまかそうとしている。
「いきなり犯人扱いとは、大層なご身分だな。それとも
証拠があって、そんな根も葉もないこと言い出すのか?」
「別に適当に言ったわけじゃないぜ。普通に会社員として
生活していく中で、結婚し子供が生まれて順風満帆だと
思っていた矢先に突然、会社からの解雇。嫌な状況は、
昔からよく続くって言うけど同情するよ。更に奥さんは
アンタに黙って、自宅に他の男を連れ込んでいたのが、
偶然バレて浮気が発覚。
だが、それだけならまだよかった。
彼女の不注意で、当時幼かった子供が死亡。怒りの余り
アンタは奥さんを殺してしまう」
子供の話した途端、明らかに表情に変化が現れた。
「よくもまぁ、適当な事が言えたもんだな。さっきも
言ったが、証拠があるっていうのかい?」
「そうだなぁ~、アンタの右肩には火傷の痕ある。もし
それがなかったら、これまでの発言を全て撤回するよ」
突然、日本刀の様な武器を取り出して襲い掛かってきた。
だが暁人も咄嗟に、投げ捨てていた覚醒を武器に変化
させた状態で、引き寄せ斬撃を防ぐ。
これまで平静を装っていたが、突如として
感情を剥き出しに、攻撃を仕掛けてくる。
「おまえ~一体何者だぁ~!! 何故、どうしてそこまで
知っている。・・・・まさか奴らがオレの素性を・・・・
バラしたのか?」
「違う、アンタから直接聞いたんだよ」
「オレが話したぁ!? どういうことだ?
お前とは初対面のはずだ!?」
「アンタにとってはなぁ。こっちはもう
ウンザリしてるんだよ」
体育館の片隅で、行く末を見守る彼らは戸惑いを隠せずに
いた。中野は突然の戦闘に慌てふためく。
おまけにいつの間にか、暁人の手に剣が出現している
展開に、動揺を隠せずにいる。
「一体、どうなっているんですか!? あの人達は
どうして闘ってるんです?」
「僕達にも分からない。たっ君は、まるで相手の事情を
知ってるかの様な口ぶりだけど、むしろこっちが
聞きたいぐらいだ」
「でも、何処かで見た気がするんだよね。
初めてあの人に会ったはずなのに・・・・・・・・
あっ、もしかしてこれが既視感って奴かな?」
斬撃の応酬の中、あいつらの話し込んでる姿を目視した。
頼むから、余計なお喋りだけはするなよ~と、
釘を差しておきたくなってくる。
「何処を見ている。よそ見をするとは大した余裕だな。
油断なんかしてると、攻撃を喰らってあの世行きだぞ」
「ご親切にどーも。アンタの強さはよ~く知っているよ。
火傷も両親の虐待のせいだって事実も。」
「ぐっ、さっきも言ったがこっちは初対面。間違いなく。
まるで昔から知ってる風だが何故だ? どうして火傷の
痕まで知っていた? 過去、オレの身近にいた奴らしか
知らないはずだ」
この男の言っている内容は間違いなく事実だが、例え
話しても確実に信じないだろう。
自身を取り巻いている現実は夢で、起きたら平凡な日常
生活が待ってると、普通の生活を送ってると願っていた。
だが、どんなに願っても思い描いた通りにはならった。
更に悪くなるだけ。
この力に目覚めた以降は振り返らず、
ただ前だけを見て進もうと決意した。
(だからこそこんなことで、躓く訳にはいかないんだよ)
握り締めた剣に、力を込めて斬り込む。
「何度ども言わせるなぁ~~!! こっちは耳にタコが
出来るぐらい聞かされてるんだよ!!!」
攻撃が交差した瞬間、奴の衣服が裂け出血と共に右肩が剥
き出しになる。そこには、広範囲に火傷の痕跡があった。
だが目の前の敵は、構わず体制を整えようとしている。
「す、すごい攻撃だなぁ!? とても今時の学生に出来る
芸当じゃない。こっちも本気を出さないと殺られるな」
先程放った攻撃の影響で、武器を上手く握れないのか
右手が痺れているようだ。
その証拠に、右腕全体が僅かに震えていた。
感心した様子でこちらを見ながら、すぐさま両手で
握り締め、気合いを込めた雄叫びをあげる。
「う~~おぉぉぉぉ!!!!」
奴自身から一瞬、強烈な光が放たれたと思ったら現れた
のは、まるで戦国時代の甲冑を簡素化したような姿。
派手な飾りなどはなく兜は、羽飾りも小ぶりで目と口元
のみ剥き出しの、下級武士に酷似した姿になった。だが
一番の変化は、日本刀を模していた刀身だ。
ざっと3倍程の大きさに変わっている。少なくとも攻撃に
特化した姿のようだ。その直後に素早い動きで奴は、校庭
に場所を移し、俺を誘いだそうとする。
「さあ、どうする? こっちは素性がバレないが、
お前はここで闘えるかな?」
明らかに学校で、戦闘行為をさせないよう、不利な場所
へと誘導した。しかしこっちには、好都合な展開だ。
全身の気力を集中させると、放電現象が辺りに発生する。
更に砂ぼこりを巻き上げ、小規模の竜巻が発生し
全身を包み込む。
「どっ、どうなって・・・・」
突然の状況に中野は、半ば茫然自失の状態。
陽斗、摩璃子も同様に目の前で起きてる現象に
対応出来ないでいた。
「ぐぅう!? いったいこれは、
どうしてアイツの周りに渦が?」
巻き起こる砂ぼこりを防ごうと、両腕を眼前に突き出し
対応している。その隙に、自身を覆っていた竜巻を剣に
纏わせ、そのまま一気に横一文字で解き放った。
その瞬間、嵐と共に衝撃が放たれ竹林は、遥か上空へと
抗うことも出来ず舞い上がっていった。同時に先程の余波
で辺り一帯に砂嵐も舞い、校舎中の窓ガラスもあちこちで
割れ、その影響で生徒達の悲鳴が反響している。
状況を見守っていた彼らは、目の前で起きた出来事に
唖然と立ち尽くしかなかった。
「この学校で、暴れてもらっちゃ困るんでね。お空で、
少し遊覧飛行でも楽しんでもらおうか」
今一度更なる力を込め、暁人も全身を発光させていく。
「ま、眩しい今度は一体・・・・・」
それ以上、言葉を発することもできず、中野は先程の暁人
が放った光に目を閉じた。とっさに手で遮ったがやがて
光が収束すると、剣を握りしめ鎧を装着した人物が
立っていた。
一瞬、暁人が消えたのかと焦ってキョロキョロと見回し
たが、すぐにその考えを撤回せざるを得なかった。
「も、もしかして・・・先輩が・・・・・・」
居なくなったのではなく変身したのだ。全身を強固な姿で
隈なく覆いつくした存在は、まるでTVや映画に出てくる
人物にも見える。
そんな信じられない光景が、目の前で起こった。
しかも西洋の鎧に酷似したその姿は、様々な装飾を施され
白を基調に機械的な部分があるにも関わらず、優美な姿を
していた。おまけに所有している剣は、最初に見た時は
少し頼りなく細い形状だと感じたものが、二回り以上の
大きさになっている。刀身も様々な装飾が施され、柄の
形状も同様に変化していた。
そして、もっと信じられない光景が目の前で起きた。突然、
空中に浮かび上がったと思ったら、ものすごい速さで上空
へと舞い上がって行ったのだ。
これにはさすがの陽斗と摩璃子も、この光景に
呆気に取られるしかなかった。
「あっ君が・・・・あっ君が飛んでいった・・・・・」
「ぼ、僕もそう見えるけど、やっぱり夢じゃ・・・・
んっ?・・・・いってぇぇぇ!?」
摩璃子はいきなり、唖然と上空を見上げる陽斗の頬を
つねる。当然ながら、突発的な行動に抗議され彼女は、
すかさずゴメンゴメンと謝ってなだめる。
お互い、じゃれ合っている感じに見えるが実際は、
動揺を隠せず狼狽えていた。
「あの説明してもらえませんか。どうなっているのか」
問い詰められた彼らは、顔を合わせて互いにため息を
ついた後、事の経緯を説明をした。
無論、話せる内容のみに絞ってだが。
その頃遥か上空で竹林は、手足をばたつかせながら悪態を
吐くだけの状態に陥っていた。
「くそったれ~!! いつの間にこんな上空に!?」
(そうだ、奴があのガキの放った一閃でこんな上空まで
吹き飛ばされた感じだった。バカな、たった一撃で!?)
竹林は未だに、この展開に信じられずにいた。
考えが纏まらないうちに、飛行機が出す空気を裂く様な
音が辺りにこだまする。
(この風を切るような音は・・・・いったい?)
「なっ!?」
(あれは人影に見える。まっ、まさかな)
最初、風船かと思ったが段々と大きくなって
人の形を成してきた。
「ウソだ!? 絶対にあり得ない!!」
現れた暁人は姿を変え、とてつもない速さで
飛翔し、上空まで迫って来た。
「そ、そんなっ・・・・あっ・・・有り得ない・・・・」
目の前で起きている信じられない展開に、
竹林は唖然とするしかなかった。
「長く飛べないんでね。悪いが手早く終わらせるぜ」
まず、音速飛行による体当りで武器にヒビを入れた。
大きく態勢を崩された反動で、グルグルと宙を回る。
続いて上空で180度反転し、攻撃を継続しようとするが
お返しと言わんばかりに剣圧を放ってきた。
「こんな所で、くたばってたまるかぁーーー!!!!」
放たれた攻撃を紙一重で回避し、奴との距離が交差する
瞬間、直接斬撃を放つ。
今度は、装着していた甲冑に全身隈なく、ひび割れが
駆け巡り、いつ崩壊してもおかしくない状態だ。
「とっ、とんでもない奴だ! 自由に飛び回りながら
こ、攻撃してくるなんて!?」
再び、目前まで接近し縦一文字で、戦意を喪失させる。
この一撃が決め手となって最後には、装備品一式
全て粉々になって、一瞬で武装前の状態になった。
同時に竹林の目の前に現れた覚醒が、音もなく消滅した。
「ま、まさか・・・・・まさかここまで・・・・・・・
手も足も出ないとは・・・ねぇ・・・・」
言葉を発するのも、ままならない状態で気を失い上空から
真っ逆さまに落下するのみの竹林を、素早く掴んだ。
「おっと、悪いが死なれちゃ困るんでね」
(やったぞ。ようやく終わった)
これまで数え切れない程の、失敗の連続だった。
こんなにも充実感で、満たされたのはいつ以来だろう。
「あっ、戻ってきた」
摩璃子が上空を見上げながら、両手を上げて
はしゃいでいる。
下りた場所に、皆が駆け寄ってくるなり羨望のまなざしで
見つめているように感じる。
早速、竹林を地面に下ろし武装解除する。各、鎧のパーツ
が離れると、次の瞬間にはあっという間に消失し同時に
武器は一瞬、光を放つと前の細身の形態になった。続いて
手のひらに、収まるサイズへと縮小しながら元の覚醒
になったのを確認した後、ズボンのポケットに収めた。
「すごい、凄いよ。本当に信じられない」
この先の展開は読めていた。
興奮してる摩璃子は抱き着こうとしたが、こっちは条件
反射で避けながらついでに、足を引っかけて転ばせる
つもりだった。しかし手足をばたつかせ、体勢を崩し倒れ
そうになりかけたが、ギリギリ踏ん張ってみせた。
「惜しい。もう少しで倒れたのに」
「あ、あのねぇ~、何するのよ~!!」
「それはこっちが言うセリフだ。いきなり
抱きつこうとしやがって」
幼少の頃からの癖で、気持ちが高ぶったときにああいった
衝動的な行動をしてしまう。
本人は、ほぼ自覚がないようだがら尚更困る。
「い~じゃん、別に減るものじゃないしさ~~」
「俺のは減るんだよぉ!!」
不貞腐れる彼女を無視して、陽斗と中野を見ると、声を
押し殺して、今にも爆笑しそうな雰囲気だ。こちらの視線
に気づいたのか陽斗は、軽く咳払いしている。
「もの凄ごかったよ。まさか空を飛んで行くなんて。
何時から飛べるようになってたの?」
「そんなに昔じゃない。俺自身も、まだ空中旋回
しながら、長時間の闘いが出来ない」
「えっ!? そんなに難しいの?」
「まぁな。ただ、浮かぶだけだったらもっと出来る。
だが問題は、戦闘も同時進行だ。そうだなぁ、
例えば歌いながら、ダンスをする感覚だな」
「ふ~ん成程ね。そう考えると、かなり
難易度が高そうだね」
「ねぇねぇ、私も陽君も特訓すれば、
あっ君みたいに飛べるかな?」
正直、飛ぶ姿をさらすつもりはなかった。
(しかし参ったなぁ)
被害を最小限にする為、上空で闘うしかなかった。
おまけにこいつらは、飛びたくて仕方ないって
雰囲気を、醸し出している。
「そんなよりも中野、どこか怪我はないか?」
「あっ、いえ。ぼくは何ともないので」
「そうか、間に合って良かった」
「こちらこそ助けてもらって、本当にありがとう
ございました。まるで夢を見てるようで、
まったく現実感が湧かないんですけどね。
ハハハハハ」
俺の一言が余程嬉しかったのか、満面の笑みを浮かべる。
「これからどうするつもりなんだ?
実際、お前の覚醒を俺が破壊した。
今後どうクラスメートと、向き合っていくつもりだ?」
「心配してくれてありがとうございます。でもその必要は
もうありません。提出してた退学届が、昨日受理されて
もうこの生徒ではなくなったので今日は、最後の挨拶に
登校したんですよ」
「ついでにクラスメート全員を、皆殺しするつもり
だったんだろ。それから自殺するつもりだった」
「ちょっと、たっ君なんて事を言うの!?」
「まりちゃんの言う通りだよ!!」
俺の突然の発言に、驚きと戸惑いを隠せず複雑な表情を
見せたが、吹っ切れてたのか臆さず正直に話してくれた。
「良いんですよ。全部、神条先輩の言う通りなので」
まるで憑き物が落ちてスッキリしたような、晴々とした
雰囲気で語り始める。
「最初に覚醒をもらって使い方を聞き、力と言いますか
鬱憤を外に出した瞬間は、もの凄く開放感がありました。
あれさえあれば、もう誰にも馬鹿になんてさせない。
そう思っていました」
現状を打破する為に、もがいては失敗に終わる状況を
繰り返してきたらしく俺達は話を聞いて、いたたまれない
気持ちになる。
ふと2人を見ると、共に苦悶の表情をしていた。
「試しに自分の拳で、偶々足元に転がってた石ころを破壊
できるのか試したら、あっさりと粉々になったのを見て
驚きました。本当に自分が壊したのか、まるで実感が湧か
なかったです。でもこの力を、人間が喰らったらどう
なるんだろうと、そう考えたら急に怖くなりました」
段々と恐怖の表情が露になる。
「ふと後ろで声がして振り向いたら、ずっと見てたのか
小学生の男の子達がいました。
震えながらこっちを見ていて気が付いたらぼくは、走って
その場から逃げていました。あれ以降、自分の感情を
抑えるのに必死で、今日まで過ごしてました」
(衝動が抑えきれず、暴走しそうになってたのか)
「でも先輩達には感謝しています。もしあのまま誰もぼく
を止める人が居なかったら、本当に取り返しのつかない
行為をしてたと思います。確実に」
ずっと、誰かに聞いてもらいたかったのだろう。実際、
中野の歩んできた道程は、他の奴が聞いても十分に
過酷な人生だと思う。
「これから、どうするつもりなんだ?」
「そうですね・・・今後は、勤めているアルバイト先で
働きながら、色々と考えていくつもりです」
普段、誰かに対して同情するつもりもない。もっと言えば
されたくもない。だが何かやれることが、あるんじゃない
かといつの間にか考えていた。実際、似たような状況を
経験してる身としては、他人事ではないからだ。
「本当にありがとうございました。最後に先輩方に
出会えて嬉しかったです」
話を終え表情には、自然と穏やかな笑みを浮かべる。
「あ、ああ」
何故かそれ以上言葉を発せられず、お辞儀して去り行く
背中を見つめながら、憤りを感じていた。
「ねぇ彼、何とかならない?」
「そうだよ、あんまりだ。こんな理不尽
あってたまるか!!」
こんな気持ちになったのは、いつ以来だろう。
全身の血液が、逆流しそうな気分は。
前回からかなり時間が、かかってしまい申し訳ございません。
出来る限り、早めの投稿に努めて参ります。