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ダブルファング  作者: 蒼天 八雲
1/1

第3章 敵の襲来

一時間目授業の終了から数分後、身体の落書(らくが)きを消し終え

て教室を出る。三苫(みとま)が引き()めようとしたが、(いそ)いでいた

ので相手してる(ひま)はなかった。

「もう、あいつ!! わたしを無視(むし)して

どこに行く気なの?」

「かなり(あせ)っていたねぇ」

出ていく間際(まぎわ)高島(たかしま)が三苫をなだめてる姿が見えた。

しかしこっちには、1年のある人物に用があったから

(かま)ってる余裕(よゆう)はない。

(おっと、どうかバレないように)

陽斗(はると)摩璃子(まりこ)のクラスは(となり)になるから、見つからない

ように廊下を、素早く通り()ぎて目的の場所まで向かう。

あいつらがいると、(ぎゃく)にややこしい状況(じょうきょう)になるので

単独(たんどく)での行動が良いと思った。

(ほど)なくして到着(とうちゃく)したがいない。何処(どこ)にいる?

(!?)

突如(とつじょ)気力(オーラ)の高まりを察知(さっち)するが、まるで噴火寸前(ふんかすんぜん)

いった感じだった。

(早いとこ探さないと・・・・・・・あそこか)

気配を感じ取り脱兎(だっと)(ごと)()け出す。事を起こす前に

止めないといけない。急いで現場へと到着(とうちゃく)し辺りを

見回したが・・・・見つけた。

体育館の横に、生えている樹木(じゅもく)の前で制服の男は、

(ぼう)立ちのまま身動きもせずに、立ち()くしている。

「おい、そこで()っ立って何をしている」

突然(とつぜん)、声を()けられ男子生徒は、(おど)きこちらへ()り向く。

その姿は、事前に用意したのか黒のメッシュキャップを

着用(ちゃくよう)し、同色のバンダナで目以外をすべて(おお)っていた。

「な、なんだ、いきなり。あんたには関係ないだろう」

「こっちには、大ありなんだよ中野 誠(なかの まこと)

いきなりフルネームで名前を呼ばれ、あからさまに

動揺(どうよう)している。

どうしてバレたのかと、がっかりした仕草(しぐさ)

みせながらも、おもむろに変装(へんそう)を解いた。

その素顔(すがお)は、黒髪(くろかみ)七三(しちさん)分けの真面目(まじめ)そうな印象(いんしょう)だが、

目の回りにクマがあり表情は、かなり悪く(つか)れきってる。

(かなり(おど)いている。当然だな)

向こうは、初対面(しょたいめん)だ。戸惑(とまど)うのも無理ない。

単刀直入(たんとうちょくにゅう)に言うぜ。今すぐ、持っている物騒(ぶっそう)なやつを

(わた)せ。そいつは・・・覚醒(かくせい)はお前の手に(あま)るものだ」

何故(なぜ)という表情で、先程よりも露骨(ろこつ)(おび)えだした。

「い、い、いきなり何を言ってるんだ。そ、それに 

どうして、ぼくの変装(へんそう)がわかった?」

「今はそんな事どうでもいい」

「じ、じゃあここに何しに来たんだ。何故、どうして

ぼくが持ってるモノを知っている?」

「その理由はな、お前自身だけじゃなくクラスメイトも

必ず不幸(ふこう)になるって、知っているからだ」

「へっ、出任(でまか)せ言って。ぼくの苦しみを知らないくせに」

正体がバレて、(なか)ばやけくそ気味(ぎみ)になってるようだ。

(いじ)められてたのは、わかってるよ。

俺にも経験があるからな」

唐突(とうとつ)な発言にビックリしたのか、意外そうな

表情でこっちを見ている。

「両親は(おさな)(ころ)建設途中(けんせつとちゅう)の前を通り()ぎようとした時に

、作業員のミスが原因(げんいん)建築物(けんちくぶつ)の一部が、運悪く彼らの

下に落下して即死(そくし)したことも。それからは親戚(しんせき)(あず)けられ

たが(わけ)あって、今は1人()らしをしてるのもな」

一気にまくし立てるように語ったせいか、ヒヤリとした表情を

(かく)そうともせず、後退(あとずさ)りまでしている。

「どーしてそこまで知ってる!! 

あんた一体、誰なんだ!?」

(ヤバいな、かなり動揺させてしまったか)

脳裏(のうり)一瞬(いっしゅん)、学校の崩壊(ほうかい)で多数の死者や重軽傷者(じゅうけいしょうしゃ)、泣き

(さけ)放心(ほうしん)状態(じょうたい)の生徒など、(まさ)に地獄絵図の状況が()かび

上がる。追い()められた相手を()()せるなんて、()

大抵(たいてい)の思いがないと不可能(ふかのう)だ。

(何としても(ふせ)がなきゃならない。そのためには

(ねば)り強く、(うった)えかけるしかねぇな)

「3年の神条(しんじょう)だ。お前は自分を取り()いてる現状(げんじょう)に、

ど~~しても、我慢(がまん)出来ねぇ~んだろ」

(すめらぎ)飛鷹(ひたか)先輩の幼馴染(おさななじ)みの!? でもどうして?」

俺は、大勢に名前を知られたり、目立つのが嫌いだ。

だから、学校ではそっとして()しいと(たの)んでいるにも

(かかわ)らず、あの2人は聞きもせずに毎日(から)んでくる。

(しず)かにしていたい身としては、いい迷惑(めいわく)だ。

「「あっ君!!」」

(ちっ、さすがに異変(いへん)(さっ)したか)

あいつらが来る前に、解決したかったがな。

「一体どうしたの?」

摩璃子が声を()けてきたが、相手してる(ひま)はない。

「静かにしてくれ!!」

話が、ややこしくなるので速攻(そっこう)(だま)らせる。

何か言いたげだったが、中野とのやり取りに

気が付いたのか()(だま)った。

今は一刻(いっこく)も早く、この状況(じょうきょう)決着(けっちゃく)つけないと。

「たのむ、()してくれ!! そいつは

想像以上に物騒(ぶっそう)なんだ」

「ウソだ!! 口からでまかせを言って、あんたもぼくを

イジメに来たんだろ!!」

「そんな事はしないし理由もない。さっきも言ったが

そいつは、ただ持っているだけで最後に、お前自身を

殺してしまうような代物(しろもの)だ」

脳裏(のうり)に多数の警官が、発泡(はっぽう)する情景(じょうけい)()かんでくる。

(ええぃ、クソ! 勝手に出でくるんじゃねぇ!!)

(かま)うもんか! そう、先輩の言う通り両親が亡くなって

からが不幸の始まりさ。小学生の頃、不慮(ふりょ)の事故で死んで

その後は、引き取られた親戚(しんせき)の家で虐待(ぎゃくたい)にあった。

高校入ると同時に、あの家を出てからは1人暮らし。

これで人生変わると思っていた。でも(ふた)を開けてみれば、

クラスでいわれのないイジメにあって、担任(たんにん)

取り次いでも、気のせいの一点張(いってんば)り。

そんな時に偶然(ぐうぜん)、ある人にこれをもらったんだ」

手にしてるのは、知らない人間が見たら何の変哲(へんてつ)もない

キーホルダーに見えるが、実際はそんな生易(なまやさ)しいモノ

ではない。持ち主次第で、()きことにも()しきことにも

出来る代物。

使いこなすには、とてつもない精神力が必要となる。

「あのなぁー、初対面(しょたいめん)の俺が言っても信じられないかも

しれないが、生きてればいつでもやり直し出来るんだぜ」

「う・・・・うっ・・・・・・・うるさい!!!」

目尻(めじり)()っすらと(なみだ)()かべながら、憤怒(ふんぬ)の表情を 

()き出しにして(おそ)い掛かってきた。         

その手には、覚醒が形状を変えた約1m程の棍棒(こんぼう)

(にぎ)られている。漆黒(しっこく)で先端部分には、(とげ)密集(みっしゅう)  

しており(なぐ)られたら、(ただ)では()まないのは(あき)らか。

覚醒は武器、防具に変化し使用者によって形態を、自身が

望む形に変化が出来る。

そして最初に使った奴にしか(あつ)えず、尚且(なおか)身体(しんたい)能力を

向上(こうじょう)させる。そのおかげか、余りの力に魅了(みりょう)され

自身を見失う奴もいる。

()り出す攻撃を()けながら、どうすれば話を聞いて

くれるか考えていた。力でねじ()せることも可能だが、

それじゃ今以上に心を閉ざしてしまう。

これまで理不尽(りふじん)()()いに、()えざるえなかった

気持ちを痛いほど知っている。

暴力(ぼうりょく)(ふる)えてきた相手に、暴力で

対処(たいしょ)しようとしても意味はねぇ)

「もうやめろ!! 同じモノを持ってるんだよ俺も」

おもむろに取り出し、目の前の(おび)えた後輩(こうはい)に見せた。

「そ、それはぼくと同じ!?」

「ああ、こいつは使い方を間違(まちが)えると、誰かの命をも

(うば)ってしまう程の代物だ。俺自身、何度もこいつの

せいで危険な目になった事がある」

話を聞いていた陽斗が、そんな記憶はないけどなぁ~と、

場違(ばちが)いなセリフをほざいたが、(かま)わず話を続けた。

「いいか、よく聞け。そいつを渡した奴はな、お前を利用

しようと(たく)んでるんだ。手駒(てごま)を集めて都合(つごう)よく(あやつ)ろうと、

考えている組織も存在するんだよ!!」

説得(せっとく)しながら、この『忌々(いまいま)しいモノ』を()()てた。

この(けん)(かん)してだけは、武力(ぶりょく)行使(こうし)するつもりはない。

(たたか)いが(きら)いと思いながら力が()していくにつれ、いつの

間にか調子に乗って(あや)うく力ずくで、解決しようとする

自分が無意識(むいしき)に出てきそうになる。

(まったく、まだまだ未熟者(みじゅくもの)だな俺は)

「あっ君どうして、覚醒を()てちゃ(あぶ)ないよ」

「静かにしてろと言ったはずだぜ。力ずくで解決出来ない

場合だってある。(だま)っていろ!!」

摩璃子は、(ふく)れっ(つら)をしていたが構わなかった。

「自分を守らなきゃいけないのは、よく分かってる。

だがよぉ、一瞬(いっしゅん)でも使い方を間違(まちが)えば、

関係無い人々まで巻き込んでしまう。

お前が持っているモノは、そういう

可能性もある代物なんだ」

身に覚えがあるのか、こちらの話に耳を(かたむ)け始めた。

思えば説得(せっとく)をしようと(こころ)みたのは、段々と「力の本質(ほんしつ)

というか、使いどころを理解してきたのかもしれない。

「じ、じゃあどうしたら・・・・・この悪夢のような状況を

解決出来るんだ? いや、これまでも思い付くことは

全部やってみたけど、うまく行かなかった。結局、

また(みじ)めな生活に逆戻(ぎゃくもど)り」

「それで(あきら)めるのか?」

「いや、絶対に諦めたくない。でもこれをもらってから

感情の高ぶりを()さえるのが、むずかしくなってきて

それで(こわ)そうとしたけど、頑丈(がんじょう)すぎてダメだった」

「なるほどな同じだ。俺自身もいつか制御(せいぎょ)()かなく

なって、自分を見失ってしまうかもと、思った状況が

何度もあったよ」

その直後に摩璃子が、え~っ、あっ君からそんな台詞(せりふ)

聞くとは思わなかった。と横槍(よこやり)を入れてくる。どうも、

手伝おうとして止められた事に、陽斗共々(ともども)立腹(りっぷく)らしい。

「と、とにかく拳銃(けんじゅう)と同じで、暴発する可能性がある。

だが、本当に怖いのは使い手の精神が暴走、いや

見失ったときだ」

「心の暴走・・・・」

「そうだ。力が強ければ強いほど、暴走したときの影響は

最悪だ。まさに()(くる)う台風と一緒で、ただ周囲を

破壊(はかい)するだけだ」

「そんなに、恐ろしいモノだったなんて・・・・・」

かなりショックを受けているようだ。

その証拠に、先程まであった覇気(はき)が消え失せている。

「だが使い手によっては、人助けの道具にもなる。

どうするかは、全て自分次第さ。

そいつを、持っているのも手放すのも」

「ぼ、ぼくは・・・・」

「正直、最初は無理矢理でも、(うば)い取ろうと考えた。

けど止めた。どう(あつか)うは、中野の判断(はんだん)(まか)せるよ」

「待ってあっ君。そんな無責任な発言して大丈夫?」

「覚醒を一度手放そうとしたんだろ。危険だと、ちゃんと

自分で判断して。正しく(あつ)えればそれに()した事はないが

、場合によっては(あらそ)いの火種(ひだね)になるだけだからな。

それに無理強いされるのは、誰だって嫌だろ」

思わず口を開いた陽斗は、何の力のなかった人物が突然、

見境なく暴れる状況を、(おそ)れていたのだろう。

だがこれで・・・・この選択(せんたく)で正しいと。

何故か解らないが、確信に近いものを感じていた。

これまで(・・・・)(あせ)って、力でねじ()せる手段ばかりだった。

(もし駄目(だめ)だったら、また次を考えるさ)

「あ、あのこれを」

こちらに(あゆ)()って、覚醒を差し出しにきた。

その(ひとみ)には、迷いが消えたように見える。

「本当に良いのか?」

「はい、神条先輩にお任せします。

もう(おび)えて暮らすのはウンザリです」

「わかった。こいつは、責任を持って処理する」

受け取ってすぐ、力一杯(にぎ)りしめながら粉々(こなごな)していく。

手を広げた直後、一陣(いちじん)の風が破片(はへん)を舞い上がらせ

徐々(じょじょ)跡形(あとかた)もなく四散(しさん)した。

「これからも(つら)い状況が待っているかもしれないが、

そんな時は今日という日を思い出せ。どんな奴でも

チャンスを(つか)んだイメージさえ確実に出来れば、必ず

(のぞ)んだ人生に変えれるんだ。そう信じ続けろ」

「せ、先輩・・・・ぼくは・・・・ぼく・・・・・」

彼の瞳から次第に、涙が(あふ)れ止まらなかった。しばらく

嗚咽(おえつ)が止らず、ようやく言葉を(つむ)ごうとした直後だった。

「あ~あ、やっぱり簡単(かんたん)手放(てばな)したか」

突如(とつじょ)、どこからか男の声が、聞こえ俺達の前に現れた。

この場所に来る前から気配を感じてたが、ようやく

本命のお出ましのようだ。

「まぁ最初に力を使った時、かなり(おび)えてたから大体の

予想はついてたけどな。けど本当に()しい~よ。

潜在(せんざい)能力は中々だったけどねぇ」

「いつの間にいたの?」

「全然、わからなかった」

そろいも(そろ)って、全く気づいてなかったようだ。

「こ、この人です。ぼくに、覚醒を渡したのは」

(ふる)えながら、突然現れた男に向かって指差(ゆびさ)ししている。

「俺達が来る前から一部始終(いちぶしじゅう)、中野を見張(みは)ってたんだよ」

男は大体、40代後半に白髪交(しらがま)じりの長髪(ちょうはつ)を後ろに

(たば)ねた姿に、白のロングTシャツに黒のGパン、

同色のブーツという出で立ちで現れた。

「へぇ~(するど)いなぁ。よくオレの事がわかったな」

「まぁな。昔、敵の気配を察知(さっち)出来ずに襲撃(しゅうげき)され

死にかけてからは、必死(ひっし)に修行したからな」

「それはそれは、ご苦労なことで」

目の前にいる男とやり取りの最中(さいちゅう)に、摩璃子がすかさず

心配になったのか話に割って入る。

「ねぇ、死にかけたってどういう意味なの? そんな状況

なんて一度もなかったはずじゃ!?」

「だよねぇー。僕の知ってる限りだと、あっ君が

死にかけたなんて一度もなかった」

(マズイ、うっかり口を(すべ)らせてしまった)

「そんなことより、早く中野を避難(ひなん)させろ。

ここは、俺1人で十分だ」

2人は渋々(しぶしぶ)だったが、素直に行動に(うつ)してくれた。体育館

方面の移動を確認すると、改めて竹林に向き合う。

「やけに自身たっぷりに言ってくれるけど、経験から

言ってそういう奴から、真っ先に死んじゃうけどなぁ」

「そいつはどうかな。例外があるって教えてやるぜ

竹林 正博(たけばやし まさひろ)さんよぉ。いや、容疑者(ようぎしゃ)だったな」

男は、自身の名を突然言い当てられ、明らかに動揺(どうよう)

見せたが、必死になってごまかそうとしている。

「いきなり犯人(あつか)いとは、大層(たいそう)なご身分だな。それとも

証拠(しょうこ)があって、そんな根も葉もないこと言い出すのか?」

「別に適当に言ったわけじゃないぜ。普通に会社員として

生活していく中で、結婚し子供が生まれて順風満帆(じゅんぷうまんぱん)だと

思っていた矢先に突然、会社からの解雇(かいこ)(いや)な状況は、

昔からよく続くって言うけど同情(どうじょう)するよ。(さら)に奥さんは

アンタに黙って、自宅に他の男を連れ込んでいたのが、

偶然(ぐうぜん)バレて浮気(うわき)が発覚。

だが、それだけならまだよかった。

彼女の不注意で、当時幼かった子供が死亡。怒りの余り

アンタは奥さんを殺してしまう」

子供の話した途端(とたん)、明らかに表情に変化が現れた。

「よくもまぁ、適当な事が言えたもんだな。さっきも

言ったが、証拠があるっていうのかい?」

「そうだなぁ~、アンタの右肩には火傷(やけど)(あと)ある。もし

それがなかったら、これまでの発言を全て撤回(てっかい)するよ」

突然、日本刀の様な武器を取り出して(おそ)い掛かってきた。

だが暁人(あきひと)咄嗟(とっさ)に、投げ捨てていた覚醒を武器に変化

させた状態で、引き寄せ斬撃(ざんげき)を防ぐ。

これまで平静を(よそお)っていたが、突如(とつじょ)として

感情を()き出しに、攻撃を仕掛けてくる。

「おまえ~一体何者だぁ~!! 何故、どうしてそこまで

知っている。・・・・まさか奴らがオレの素性(すじょう)を・・・・

バラしたのか?」

「違う、アンタから直接聞いたんだよ」

「オレが話したぁ!? どういうことだ? 

お前とは初対面のはずだ!?」

「アンタにとってはなぁ。こっちはもう

ウンザリしてるんだよ」

体育館の片隅(かたすみ)で、行く末を見守る彼らは戸惑(とまど)いを隠せずに

いた。中野は突然の戦闘に(あわ)てふためく。

おまけにいつの間にか、暁人の手に剣が出現している

展開に、動揺を(かく)せずにいる。

「一体、どうなっているんですか!? あの人達は

どうして闘ってるんです?」

「僕達にも分からない。たっ君は、まるで相手の事情を

知ってるかの様な口ぶりだけど、むしろこっちが

聞きたいぐらいだ」

「でも、何処かで見た気がするんだよね。

初めてあの人に会ったはずなのに・・・・・・・・

あっ、もしかしてこれが既視感(デジャヴ)って奴かな?」 

斬撃の応酬(おうしゅう)の中、あいつら(中野・陽斗・摩璃子)の話し込んでる姿を目視(もくし)した。

頼むから、余計なお(しゃべ)りだけはするなよ~と、

(くぎ)を差しておきたくなってくる。

「何処を見ている。よそ見をするとは大した余裕(よゆう)だな。

油断(ゆだん)なんかしてると、攻撃を()らってあの世行きだぞ」

「ご親切にどーも。アンタの強さはよ~く知っているよ。

火傷も両親の虐待(ぎゃくたい)のせいだって事実も。」

「ぐっ、さっきも言ったがこっちは初対面。間違いなく。

まるで昔から知ってる風だが何故だ? どうして火傷の

(あと)まで知っていた? 過去、オレの身近にいた奴らしか

知らないはずだ」

この男の言っている内容は間違いなく事実だが、例え

話しても確実に信じないだろう。

自身を取り巻いている現実は夢で、起きたら平凡(へいぼん)な日常

生活が待ってると、普通の生活を送ってると願っていた。

だが、どんなに願っても思い(えが)いた通りにはならった。

更に悪くなるだけ。

この力に目覚めた以降(いこう)は振り返らず、

ただ前だけを見て進もうと決意した。

(だからこそこんなことで、(つまず)く訳にはいかないんだよ)

(にぎ)()めた剣に、力を込めて()り込む。

「何度ども言わせるなぁ~~!! こっちは耳にタコが

出来るぐらい聞かされてるんだよ!!!」

攻撃が交差した瞬間、奴の衣服が()け出血と共に右肩が()

き出しになる。そこには、広範囲(こうはんい)に火傷の痕跡(こんせき)があった。

だが目の前の敵は、(かま)わず体制(たいせい)(ととの)えようとしている。

「す、すごい攻撃(こうげき)だなぁ!? とても今時の学生に出来る

芸当じゃない。こっちも本気を出さないと()られるな」

先程放った攻撃の影響で、武器を上手く(にぎ)れないのか

右手が(しび)れているようだ。

その証拠に、右腕全体が(わず)かに(ふる)えていた。

感心した様子でこちらを見ながら、すぐさま両手で

握り締め、気合いを込めた雄叫(おたけ)びをあげる。

「う~~おぉぉぉぉ!!!!」

奴自身から一瞬、強烈(きょうれつ)な光が放たれたと思ったら現れた

のは、まるで戦国時代の甲冑(かっちゅう)簡素(かんそ)化したような姿。

派手(はで)(かざ)りなどはなく兜は、羽飾(はねかざ)りも小ぶりで目と口元

のみ()き出しの、下級武士に酷似(こくじ)した姿になった。だが

一番の変化は、日本刀を()していた刀身(とうしん)だ。 

ざっと3倍程の大きさに変わっている。少なくとも攻撃に

特化(とっか)した姿のようだ。その直後に素早(すばや)い動きで奴は、校庭

に場所を(うつ)し、俺を(さそ)いだそうとする。

「さあ、どうする? こっちは素性(すじょう)がバレないが、

お前はここで闘えるかな?」

明らかに学校で、戦闘行為(せんとうこうい)をさせないよう、不利(ふり)な場所

へと誘導(ゆうどう)した。しかしこっちには、好都合(こうつごう)展開(てんかい)だ。

全身の気力を集中させると、放電(ほうでん)現象が辺りに発生する。

更に砂ぼこりを巻き上げ、小規模(しょうきぼ)の竜巻が発生し

全身を(つつ)()む。

「どっ、どうなって・・・・」

突然の状況に中野は、半ば茫然自失(ぼうぜんじしつ)の状態。

陽斗、摩璃子も同様に目の前で起きてる現象に

対応出来ないでいた。

「ぐぅう!? いったいこれは、 

どうしてアイツの周りに(うず)が?」

巻き起こる砂ぼこりを防ごうと、両腕を眼前(がんぜん)に突き出し

対応している。その(すき)に、自身を(おお)っていた竜巻を剣に

(まと)わせ、そのまま一気に横一文字で解き放った。

その瞬間、嵐と共に衝撃が放たれ竹林は、(はる)か上空へと

(あらが)うことも出来ず舞い上がっていった。同時に先程の余波(よは)

で辺り一帯に砂嵐(すなあらし)も舞い、校舎中の窓ガラスもあちこちで

割れ、その影響(えいきょう)で生徒達の悲鳴(ひめい)反響(はんきょう)している。

状況を見守っていた彼らは、目の前で起きた出来事に

唖然(あぜん)と立ち()くしかなかった。

「この学校で、暴れてもらっちゃ困るんでね。お空で、

少し遊覧(ゆうらん)飛行でも楽しんでもらおうか」

今一度更なる力を込め、暁人も全身を発光させていく。

「ま、(まぶ)しい今度は一体・・・・・」

それ以上、言葉を発することもできず、中野は先程の暁人

が放った光に目を閉じた。とっさに手で(さえぎ)ったがやがて

光が収束(しゅうそく)すると、剣を握りしめ(よろい)装着(そうちゃく)した人物が

立っていた。 

一瞬、暁人が消えたのかと(あせ)ってキョロキョロと見回し

たが、すぐにその考えを撤回(てっかい)せざるを得なかった。

「も、もしかして・・・先輩が・・・・・・」

居なくなったのではなく変身したのだ。全身を強固(きょうこ)な姿で

(くま)なく(おお)いつくした存在は、まるでTVや映画に出てくる

人物にも見える。

そんな信じられない光景が、目の前で起こった。

しかも西洋の鎧に酷似(こくじ)したその姿は、様々な装飾(そうしょく)(ほど)され

白を基調(きちょう)に機械的な部分があるにも関わらず、優美(ゆうび)な姿を

していた。おまけに所有している剣は、最初に見た時は

少し(たよ)りなく細い形状だと感じたものが、二回り以上の

大きさになっている。刀身も様々な装飾が施され、(つか)

形状も同様に変化していた。

そして、もっと信じられない光景が目の前で起きた。突然、

空中に浮かび上がったと思ったら、ものすごい速さで上空

へと舞い上がって行ったのだ。

これにはさすがの陽斗と摩璃子も、この光景に

呆気(あっけ)に取られるしかなかった。

「あっ君が・・・・あっ君が飛んでいった・・・・・」

「ぼ、僕もそう見えるけど、やっぱり夢じゃ・・・・

んっ?・・・・いってぇぇぇ!?」

摩璃子はいきなり、唖然(あぜん)と上空を見上げる陽斗の(ほほ)

つねる。当然ながら、突発的(とっぱつてき)な行動に抗議(こうぎ)され彼女は、

すかさずゴメンゴメンと(あやま)ってなだめる。

(たが)い、じゃれ合っている感じに見えるが実際(じっさい)は、

動揺を(かく)せず狼狽(うろた)えていた。

「あの説明してもらえませんか。どうなっているのか」

()()められた彼らは、顔を合わせて互いにため息を

ついた後、事の経緯(けいい)を説明をした。

無論(むろん)、話せる内容のみに(しぼ)ってだが。

その頃(はる)か上空で竹林は、手足をばたつかせながら悪態(あくたい)

()くだけの状態に(おちい)っていた。

「くそったれ~!! いつの間にこんな上空に!?」

(そうだ、奴があのガキの放った一閃(いっせん)でこんな上空まで

()き飛ばされた感じだった。バカな、たった一撃で!?)

竹林は(いま)だに、この展開(てんかい)に信じられずにいた。

考えが(まと)まらないうちに、飛行機が出す空気を()く様な

音が辺りにこだまする。

(この風を切るような音は・・・・いったい?)

「なっ!?」

(あれは人影に見える。まっ、まさかな)

最初、風船かと思ったが段々と大きくなって

人の形を成してきた。

「ウソだ!? 絶対にあり得ない!!」

現れた暁人は姿を変え、とてつもない速さで

飛翔し、上空まで(せま)って来た。

「そ、そんなっ・・・・あっ・・・有り得ない・・・・」

目の前で起きている信じられない展開に、

竹林は唖然とするしかなかった。

「長く飛べないんでね。悪いが手早く終わらせるぜ」

まず、音速飛行による体当りで武器にヒビを入れた。

大きく態勢を(くず)された反動で、グルグルと宙を回る。

続いて上空で180度反転し、攻撃を継続(けいぞく)しようとするが

お返しと言わんばかりに剣圧(けんあつ)を放ってきた。

「こんな所で、くたばってたまるかぁーーー!!!!」

放たれた攻撃を紙一重(かみひとえ)回避(かいひ)し、奴との距離が交差する

瞬間、直接斬撃を放つ。

今度は、装着(そうちゃく)していた甲冑に全身(くま)なく、ひび割れが

()(めぐ)り、いつ崩壊(ほうかい)してもおかしくない状態だ。

「とっ、とんでもない奴だ! 自由に飛び回りながら

こ、攻撃してくるなんて!?」

再び、目前まで接近し縦一文字(たていちもんじ)で、戦意(せんい)喪失(そうしつ)させる。

この一撃が決め手となって最後には、装備品一式

全て粉々になって、一瞬で武装前の状態になった。

同時に竹林の目の前に現れた覚醒が、音もなく消滅(しょうめつ)した。

「ま、まさか・・・・・まさかここまで・・・・・・・

手も足も出ないとは・・・ねぇ・・・・」

言葉を発するのも、ままならない状態で気を失い上空から

真っ逆さまに落下するのみの竹林を、素早く(つか)んだ。

「おっと、悪いが死なれちゃ困るんでね」

(やったぞ。ようやく終わった)

これまで(・・・・)数え切れない程の、失敗の連続だった。

こんなにも充実感(じゅうじつかん)で、()たされたのはいつ以来(いらい)だろう。

「あっ、戻ってきた」

摩璃子が上空を見上げながら、両手を上げて

はしゃいでいる。

下りた場所に、(みな)()()ってくるなり羨望(せんぼう)のまなざしで

見つめているように感じる。

早速、竹林を地面に下ろし武装解除する。各、鎧のパーツ

が離れると、次の瞬間にはあっという間に消失(しょうしつ)し同時に

武器は一瞬、光を放つと前の細身の形態になった。続いて

手のひらに、収まるサイズへと縮小(しゅくしょう)しながら元の覚醒

になったのを確認した後、ズボンのポケットに(おさ)めた。

「すごい、()いよ。本当に信じられない」

この先の展開は読めていた。

興奮してる摩璃子は()き着こうとしたが、こっちは条件

反射で()けながらついでに、足を引っかけて転ばせる

つもりだった。しかし手足をばたつかせ、体勢を(くず)し倒れ

そうになりかけたが、ギリギリ()()ってみせた。

()しい。もう少しで倒れたのに」

「あ、あのねぇ~、何するのよ~!!」

「それはこっちが言うセリフだ。いきなり

抱きつこうとしやがって」

幼少の頃からの(くせ)で、気持ちが高ぶったときにああいった

衝動的(しょうどうてき)な行動をしてしまう。

本人は、ほぼ自覚がないようだがら尚更(なおさら)困る。

「い~じゃん、別に()るものじゃないしさ~~」

「俺のは減るんだよぉ!!」

不貞腐(ふてくさ)れる彼女を無視して、陽斗と中野を見ると、声を

押し殺して、今にも爆笑(ばくしょう)しそうな雰囲気(ふんいき)だ。こちらの視線(しせん)

に気づいたのか陽斗は、軽く咳払(せきばら)いしている。

「もの()ごかったよ。まさか空を飛んで行くなんて。

何時(いつ)から飛べるようになってたの?」

「そんなに昔じゃない。俺自身も、まだ空中旋回(せんかい)

しながら、長時間の闘いが出来ない」

「えっ!? そんなに(むずか)しいの?」

「まぁな。ただ、()かぶだけだったらもっと出来る。

だが問題は、戦闘も同時進行だ。そうだなぁ、

例えば歌いながら、ダンスをする感覚だな」

「ふ~ん成程(なるほど)ね。そう考えると、かなり

難易度(なんいど)が高そうだね」

「ねぇねぇ、私も陽君も特訓(とっくん)すれば、

あっ君みたいに飛べるかな?」

正直、飛ぶ姿をさらすつもりはなかった。

(しかし参ったなぁ)

被害を最小限にする為、上空で闘うしかなかった。

おまけにこいつらは、飛びたくて仕方ないって

雰囲気を、(かも)し出している。

「そんなよりも中野、どこか怪我はないか?」

「あっ、いえ。ぼくは何ともないので」

「そうか、間に合って良かった」

「こちらこそ助けてもらって、本当にありがとう

ございました。まるで夢を見てるようで、

まったく現実感が()かないんですけどね。

ハハハハハ」

俺の一言が余程嬉(よほどうれ)しかったのか、満面の笑みを浮かべる。

「これからどうするつもりなんだ? 

実際、お前の覚醒を俺が破壊(はかい)した。

今後どうクラスメートと、向き合っていくつもりだ?」

「心配してくれてありがとうございます。でもその必要は

もうありません。提出(ていしゅつ)してた退学(とどけ)が、昨日受理(じゅり)されて

もうこの生徒ではなくなったので今日は、最後の挨拶(あいさつ)

登校したんですよ」

「ついでにクラスメート全員を、皆殺(みなごろ)しするつもり

だったんだろ。それから自殺するつもりだった」

「ちょっと、たっ君なんて事を言うの!?」

「まりちゃんの言う通りだよ!!」

俺の突然の発言に、驚きと戸惑(とまど)いを隠せず複雑な表情を

見せたが、()っ切れてたのか(おく)さず正直に話してくれた。

「良いんですよ。全部、神条先輩の言う通りなので」

まるで()き物が落ちてスッキリしたような、晴々(はればれ)とした

雰囲気で語り始める。

「最初に覚醒をもらって使い方を聞き、力と言いますか

鬱憤(うっぷん)を外に出した瞬間は、もの凄く開放感がありました。

あれさえあれば、もう誰にも馬鹿になんてさせない。

そう思っていました」

現状を打破(だは)する為に、もがいては失敗に終わる状況を

繰り返してきたらしく俺達は話を聞いて、いたたまれない

気持ちになる。

ふと2人(陽斗・摩璃子)を見ると、共に苦悶(くもん)の表情をしていた。

「試しに自分の拳で、偶々(たまたま)足元に転がってた石ころを破壊

できるのか試したら、あっさりと粉々になったのを見て

驚きました。本当に自分が壊したのか、まるで実感が()

なかったです。でもこの力を、人間が()らったらどう

なるんだろうと、そう考えたら急に(こわ)くなりました」

段々と恐怖の表情が(あらわ)になる。

「ふと後ろで声がして振り向いたら、ずっと見てたのか

小学生の男の子達がいました。

(ふる)えながらこっちを見ていて気が付いたらぼくは、走って

その場から逃げていました。あれ以降(いこう)、自分の感情を

(おさ)えるのに必死で、今日まで過ごしてました」

衝動(しょうどう)が抑えきれず、暴走しそうになってたのか)

「でも先輩達には感謝しています。もしあのまま誰もぼく

を止める人が居なかったら、本当に取り返しのつかない

行為(こうい)をしてたと思います。確実に」

ずっと、誰かに聞いてもらいたかったのだろう。実際、

中野の歩んできた道程(みちのり)は、他の奴が聞いても十分に

過酷な人生だと思う。

「これから、どうするつもりなんだ?」

「そうですね・・・今後は、(つと)めているアルバイト先で

働きながら、色々と考えていくつもりです」

普段、誰かに対して同情するつもりもない。もっと言えば

されたくもない。だが何かやれることが、あるんじゃない

かといつの間にか考えていた。実際、似たような状況を

経験してる身としては、他人事ではないからだ。

「本当にありがとうございました。最後に先輩方に

出会えて嬉しかったです」

話を終え表情には、自然と(おだ)やかな笑みを浮かべる。

「あ、ああ」

何故かそれ以上言葉を発せられず、お辞儀(じぎ)して去り行く

背中を見つめながら、(いきどお)りを感じていた。

「ねぇ彼、何とかならない?」

「そうだよ、あんまりだ。こんな理不尽(りふじん)

あってたまるか!!」

こんな気持ちになったのは、いつ以来だろう。

全身の血液が、逆流(ぎゃくりゅう)しそうな気分は。

前回からかなり時間が、かかってしまい申し訳ございません。

出来る限り、早めの投稿に努めて参ります。

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