八話 任務実行
言われた通りにお菓子とお茶を用意している。
真面目バカと言われそうだが、まあいい。
それにしても、タキナがバクバクお菓子を食っている。
「お腹壊すよ」
「幽霊なんで大丈夫で〜す」
食べ過ぎだと思うが。
腹痛になっても、太っても自業自得だと思い、無視をすることに決めた。
既に服は着替えてある。
あとは、美玖を待つだけだ。
「こんばんは」
美玖がリビングに入ってくる。
気づいてはいたが、普通にインターホン押して入ってほしい。
「本当に用意するなんて馬鹿だね」
そう言いながらも、美玖はお菓子に手を伸ばす。
お菓子を口に入れると、持ってきていたカバンから無線機を取り出す。
「今回使うのはこれね」
「前貰ったのはだめなの?」
服とか拳銃を貰ったときに一緒にもらっていた気がする。
「あれは長距離用で最大10キロまで通信が可能なやつ。
こっちは近距離用で100メートルぐらいだけど、妨害電波とかに影響されないすごいヤツ」
丁寧に説明してくれた。
高いから壊すなとも言われた。
そんなことを装着する前に言わないでほしい。
自分の身より、無線機を守りそう。
俺は恐る恐る左耳につける。
「作戦なんて有って無いようなものだから、自分の判断でよろしく」
適当すぎる。
俺はあくまで新人だぞ。
だが、そのことを言っても無駄な気がする。
「いつ、家を出るの?」
「後10分ぐらいしたらかな」
10分か、適切といえば適切な時間だろうが、心の準備がな。
それにその10分何をすればいいのか。
タキナがお菓子を食べている音だけが聞こえ続ける。
「ルーラーに入ってみてどう?」
美玖が話しかけてくれてきた。
ルーラーに入ってみてどうか、か。
なんとも思っていないのが、正直な感想だ。
まだ、実感が湧いていない。
俺はそのことを言うと、美玖は「そんなものだよね」と言った。
「その気持ちは分かるよ。実感なんて無いよね。けど、これは現実だから、一歩間違えればどうなるかわからないからね」
美玖は席を立ち、外へ出る。
俺も美玖を追いかけて外へ出る。
「乗って」
美玖が家の前に止まっていた車に乗り込む。
ルーラーってお金持ってるんだな。
こういうことに税金が使われていると思うと少し…ね。
俺も車に乗ると、自動でドアが閉まり、動き出す。
『こんばんは、美玖様、維貔叉様。目的地までは私が安全運転でお送りいたします。到着予定時刻は0時35分です』
自動運転か、本当に凄いな。
「念のために荷物確認してよ」
俺は自分のショルダーバッグを確認する。
全部揃っている…はず。
「揃っているよね」
俺が不安そうにバッグの中を美玖に見せる。
「揃っているよ。別にこの車にも予備があるからそこまで心配しなくもいいけど」
そうなんだ。
だが忘れ物はない方がいいだろう。
車に揺られること数十分。
どうやら、目的地に到着したようだ。
俺たちは車から降りると、辺りを見回す。
「誰もいないみたいだね」
「当たり前でしょ。いたら降りないよ」
言われてみればそうか。
こんなところにいるやつなんて、怪しすぎる。
俺たちは取引が行われる予定の倉庫へ行く。
「あそこが取引現場?」
「そうだよ、タキナ…!?」
なんでタキナがここにいるんだ?
付いて来たんだろうけど。
「暇なんでついてきちゃいました」
付いて来ましたじゃない。
帰らせようとしたが、これは逆に良いかもしれない。
タキナは幽霊なんだから俺以外には見えない。
ならば、偵察にこれ以上の適任者はいないだろう。
幽霊だから、戦闘には役立たずだけど。
「美玖、タキナがついてきたんだけど、幽霊に偵察を行わせるのはどう?」
「いいんじゃない?というか、居たんだ」
「居たよ…」
タキナが少し悲しそうに呟くが、仕方無いだろう。
見えないんだから。
タキナは倉庫に入っいく。
もちろん、壁をすり抜けて。
「幽霊さんが戻ってくるまで、屋根の上で待ってよ」
美玖が、当たり前のようにジャンプで屋根の上に音一つ立てずに乗る。
人外だな。
俺が言えたことじゃないけど。
俺も屋根の上に登る。
鉄板だから、音は建てないようにしないと。
俺は一歩ずつ慎重に歩く。
だが、それとは対象的な人外がいる。
美玖しかいないわけだが、いつも通りに歩いているのに衣擦れすらしない。
「音立てすぎ(超小声)」
「美玖が音を立てなさすぎなだけ(超小声)」
これ以上音を小さくするのは俺には無理だ。
魔法を使いたいところだが、服と靴に魔素を含ませてないから、効果がないんだよね。
また後で、魔素を含ませないとな。
一つ言っておくが、タキナが一瞬で霊素を含ませていることが異常なだけで、俺は正常だから。
俺たちは屋根の中央まで行くと、立ち止まる。
ここなら、バレる心配は無いだろう。
「幽霊を待つだけだね」
「偵察終了しました!」
俺以外には聞こえてないからって、突然大声で言いやがって。
絶対わざとだろ。
ハイテンションすぎる。
そんなことを思いながらも、タキナから報告を聞く。
「どんな感じだった?(超小声)」
「23人居たよ!(超大声)」
「武器は何を持っていた?(超小声)」
「ピストルが20人にライフルが3人だよ!(略)」
「他には何かあった?(略)」
「拳銃やライフルが50ちょいと弾薬が大量と、2000万円の取引ってことかな!(略)」
「分かった(略)」
テンションおかしいでしょ。
完全にハイになってるな。
暫く無視したほうが良さそう。
俺はタキナから聞いたことを美玖に伝える。
「さすが幽霊、凄いね。これだったら、私達だけでも何とかなるだろうね」
美玖は立ち上がり、スマホを見る。
「いつでも行けるよ」
ゴーサインが出たのだろうか。
今どきは全部スマホなんだな─などと、呑気に思っていると、美玖が足元に何かを貼り付ける。
「屋根の上に誰かいるぞー!」
美玖が突然大声で叫び始める。
そして、美玖がスマホを触ると、“ピピピピ”と、音がなる。
「爆発するぞー!」
美玖が屋根から降りると、声が聞こえてきた。
もしかしてこれって…。
俺は美玖が足元に貼っていたものに目を向ける。
ヤバっ。
俺は全速力で走り、飛び降りる。
次の瞬間、とてつもない爆発音が聞こえる。
ヤバすぎるだろ。
あとちょっと遅れてたら、どうなっていたことか。
『生きてる〜?』
『ふざけるなよ!巻き込まれるところだったじゃないか』
『巻き込まれてないから、セーフセーフ』
『アウトだろ。それにこんなに派手にやっちゃっていいのか?』
『もちろん。大丈夫だからこんなことやってるんだよ』
無線が切れる。
作戦とはなんだろう。
「維貔叉!うしろ!」
タキナが叫ぶ。
だが、既に弾丸は飛んできていた。
当たり前だが、結界は意味がない。
まだ、核魔法のほうがある程度防げるからマシだ。
今から、避けようとしても普通なら間に合わないだろう。
だが、俺は魔法が使える。
後ろは基本能力─[光感知]で見えているから、あとは思考加速で大体の弾の位置を予測するだけだ。
そして、一瞬だけ身体速度を最大に上げる。
強化魔法─[身体強化]に大量の魔素を一気に使って発動させるのだ。
そうすれば、1秒にも満たないが、音速並みに移動速度を上げられる。
今回は一秒で十分だ。
俺は敵の視覚になるように物陰に隠れる。
「大丈夫!?」
「何とか」
体が重い。
魔素を使い切ってしまった。
タキナが俺の方に来ると、心配をしてくる。
「魔素がなくなっちゃってるね。動けそう?」
「無理だね。5分ぐらいは動くことも無理。けど、何とかなると思うから大丈夫」
「ならいいけど。少しこれ借りるね」
そう言うと、タキナが拳銃を手に取る。
すると、俺目掛けて銃を撃つ。
「危なかったね」
誰かが倒れる。
俺は頑張って体を動かし、後ろを見ると敵が倒れていた。
今の俺はただの人間だな。
「あとは私に任せて」
美玖は敵に向かって突っ込んでいく。
敵が「銃が浮いてるぞ!?」と、言っていた後に静かになった。
タキナだけに任せてられないな。
俺はショルダーバッグから、小さなペットボトルを取り出す。
まさか、こんなに早く使う機会が現れるなんて。
これは俺の魔素を含ませてある水道水である。
これを飲めば魔素が回復するのだ。
弱点としては、俺にしか効果が無いことだ。
俺の魔素で作った回復薬だからね。
万人に効果をもたらすためには、薬師が作った回復薬を使うしかないのだ。
俺はオリジナルの回復薬を飲むと、魔素が回復する。
魔法をバンバン使うのは厳しいけど、少しなら大丈夫だろう。
拳銃はタキナが持っていったから、素手で戦うしかないか。
俺は格闘技向きの能力を発動させる。
俺は物陰から現れると、敵が銃を向けてくる。
「死ね!」
銃を撃ってくるが、距離も離れているし当たるわけがない。
俺は、敵が銃を撃ち終わったのを確認したら一気に距離を詰める。
軽く殴ると、次々に気絶していく。
俺は視界に入った敵を片っ端から殴り、全滅させていく。
もう、外にはいないかな。
人数を数えると、9人だった。
てことは、中に14人いるわけか。
流石に二人で14人はキツイか。
美玖は人間だし、タキナは拳銃以外は攻撃手段がないからな。
俺は急いで、倉庫の中へ向かう。
美玖は爆発させると、裏口へ向かった。
裏口に行くと、敵は誰もいなかった。
初戦は小悪党。
何か不測の自体があると平常心を保っていられないのだ。
少し考えれば、この爆発に紛れて敵が攻めてくることなんて分かるのだ。
それが分からず、爆発が起きたところに行ってしまったから小悪党なのだ。
美玖は堂々と裏口から倉庫の中に入る。
美玖には幸いなことに、敵には不運なことに、ブレカーは裏口の横にある。
美玖はサーマル眼鏡をかけると、ブレーカーを落とす。
美玖はてっきり、敵たちが慌ててパニックになることを予想していたが、それは起きなかった。
起きたのは、明かりがついたことだ。
明かりと言っても懐中電灯の明かりだが、それでも14人も集まればそこそこの明るさにはなる。
暗闇に紛れて全員を倒そうとしたが、その作戦が潰れてしまったので、物陰から大人しく敵の様子を見ているのだ。
「どうしようかな」
美玖が呟く。
流石に、14人全員を一気に倒すのは難しい。
それに、ブレーカーを落としてしまったせいで、取引物の拳銃を早速装備している。
なので、14人中、3人がピストル、11人がライフルを持っている。
一人で全員倒すのは不可能に近い。
死ぬ覚悟で戦うなら勝てるだろうが、そんなものは論外だ。
それに敵は実弾なのに、私達はゴム弾。
一発の重みが違うのだ。
維貔叉が来るのを待つのが一番の名案だろう。
美玖は維貔叉が戻ってくるまで、待つことにしたのだ。
その時。
銃声音がすると同時に敵が数名倒れる。
美玖には見えていたが、拳銃が浮いているのだ。
このことに敵はビビりまくっているが、美玖は理解できた。
「幽霊さんか」
美玖は幽霊がこの仕事にいかに向いているかが分かった。
敵からは見えないし、攻撃も食らわない。
なのに、自分は敵に攻撃ができるのだ。
チートでしょと、思いながら美玖も参戦する。
ここからは一方的なものだった。
あっという間に倒すと、美玖は浮いている拳銃の方に近づく。
サーマル眼鏡を外し、維貔叉からもらった眼鏡を掛ける。
美玖はハイタッチをしようとして、幽霊もそれに乗ってハイタッチをしようとする。
だが案の定、触れずにすり抜けた。
「大丈夫?」
維貔叉が近寄ってくる。
どうやら、外に出ていった9人全員を倒したようだ。
「大丈夫だよ。維貔叉も大丈夫?」
「何とかね」
維貔叉の目が痛い。
美玖はスルーすると決めた。
「爆発させるなら言ってよ」
「忘れてた」
維貔叉が呆れた顔をしたが、それもスルーするのであった。
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