六話 入隊初日
「お邪魔しますね。荷物は自分で運んでおいてください」
そう言うと、ストーカーさんは家の中に入っていく。
「ねぇねぇ、どういうこと?何でストーカーがいるの?」
「確か、前に斎賀さんが会わせてくれるって言っていたような」
「それにしても、何でわざわざ、宅配業者なんだろう」
タキナはそんなことを言いつつも、荷物を運んでくれている。
これが一番バレないんじゃないかな。
そんなことよりもたきなの存在がバレる思ったが、ちゃんと確認しているのだろう。
俺たちは数個のダンボールを運び終えると、家の中に居るストーカーのところに行く。
のんきにお茶なんて飲んでるし。
なぜかはわからないが、全然怖くなくっている。
正体がわかれば、案外平気だな。
「それで、どんな要件で来たの?」
「君への挨拶とお届け物の説明だよ。これから君はしばらく、私の助手として、動いてもらうからね」
「サポーター?ベネファさんじゃなくて?」
「ベネファさんはあくまで指揮官。言っちゃえばただの教育係の責任者。そして、私は教育係の責任者の指示に従って君を教育するの」
「なんの教育?」
「ルーラーの常識とか、任務の仕方、拳銃や刃物の使い方かな?」
そう言うと、俺に、席に座るように促す。
俺はストーカーと向かいになるように座る。
「まずは自己紹介か。わたしの名前は美玖よろしくね」
「俺は維貔叉だ。よろしく」
知ってると思うけど。
美玖は運んできたダンボールの一つを机の上に置く。
「カッターってある?」
「うしろ」
「わぁ!?びっくりした…。何で浮いてるの?」
「幽霊が住み着いてるからね」
カッターが俺に向かって飛んでくる。
だが、俺は飛んできたカッターをキャッチする。
別に間違った言い方ではないと思うが、何かだめだったんだろう。
乙女心はわからないな。
「住み着いてるってなに?」
「事実じゃないの?」
「事実だけど、違う!色々手伝ったり家事するから住まわせてよ」
「そんなことしなくても住んでいいよ」
「ほんと!?」
俺とタキナが何時もと同じ会話をしていると、美玖が変人を見る目で見てくる。
わかるけど、わかるけど…。
そんな目で見ないでほしい。
「これ使ってみて」
俺は美玖に眼鏡を渡す。
これはレンズに魔素を含ませているので、魔法元素を持っていない生物でも幽霊(霊素)が見れるというものだ。
眼鏡をかけた美玖が目を目開く。
「この子が幽霊?」
「私はタキナよろしく」
「へー。ホントに浮いてるんだ。凄いね」
「まぁな。そんなことよりダンボールについて説明してくれる?」
「そうだね。本来の目的はそれだった」
「ねぇ。きえてる?無視しないでもらえる?」
「じゃあ、まずはこれだね」
「おーい。無視しないでもらえますかー」
「見えるだけで、声は聞こえないよ」
「え!なにそれ」
「どうかした?」
「いや幽霊が自己紹介してたんだけど、聞こえてないよって」
「口が動いてたから何か喋ってるとは思ってたけど」
美玖はダンボールの中から服を取り出す。
「これが君の制服ね。サイズは大丈夫だろうと思うけど、着れなくなったり、破れたりしたら斎賀さんに報告してね」
俺は制服を受け取る。
色合いは黒紫色のような色で、“夜に溶け込む色”と、いった感じ。
町中を歩くのには余り向いていないか。
昼にルーラーとして出歩かないと思うけど。
「取り敢えず着てみて」
「着るの?」
「着たほうがこの後の説明が楽になるからね」
俺は脱衣所に行くと、ササッと着替える。
着心地は最高。
今まで着た服の中でトップレベルで肌触りが良いし、軽い。
これは年中着ていたい。
俺はリビングに戻ると、美玖が説明書を渡してくる。
「この服の機能の説明書。色々あるから覚えておいたほうがいいよ。まあ、スマホでも見れるけど」
「というか、覚えなきゃだめ」と、言いながら渡してくる。
後で読んでおいたほうがいいな。
美玖は次のダンボールを持ってくる。
さらっとタキナがダンボールを解体してる。
雑用しなくてもいいんだよ。
さっきの冗談だよ。
言ったよね。
「これが一番重要だね。これは絶対になくしたらマジでやばいからね」
そう言うと、タキナはダンボールからアタッシュケースを取り出す。
明らかに高そう。
「これは銃と弾薬ね。開けるときは、スマホに表示されるパスワードを打ったら開くから」
美玖はアタッシュケースの鍵の部分を指差しながら説明をする。
説明をまとめるなら、30分ごとにパスワードが変わるからスマホを見て開けてね、使わないときはかくしておいてね、スマホを絶対なくさないでね、だ。
俺は美玖に言われた通りにアプリを開くと、12桁の数字が現れる。
「これをパスワードを打てば開くから。銃の説明もしたいし、開けてみて」
俺は12桁を打ち込むと、“カチャッ”と、いう音とともにロックが解除される。
ケースの中に入っていたのは当たり前だが、銃だった。
これは美玖が使っていたのと同じタイプかな。
「これはルーラー専用の拳銃で弾丸も特注品だから、既製品を使わないようにね」
日本で既製品なんて売ってないでしょ。
いや、裏社会では出回っているのかな。
「この後に射撃訓練に行くから、装備しておいて」
美玖が拳銃を取り出し、渡してくる。
腰か胸ポケットの裏側、脇のどれかに装備できるらしい。
取り敢えずは右腰に装備しておく。
「それで、これが最後。これは任務に必要な物を入れておく鞄ね。基本的には予備の拳銃や弾丸を入れておくための物だから、他のものはあんまり入らないよ」
あくまで、ルーラー用。
やっぱりこういった機能がついているんだな。
ちなみにだが、美玖が今背負ってきたのはノーマルタイプで潜入捜査や張り込みに使うものらしい。
言っちゃえば、普通のリュックだ。
そして、ビッグサイズという名のキャリーケース。
これは専用機材や機関銃などを運ぶ用。
3つ目はスモールサイズという名のショルダーバッグ。
これは銃撃戦や追跡、潜入任務のとき使うものらしい。
予備の拳銃と弾。傷薬と包帯を入れるのが普通のようだ。
「説明も済んだし、訓練場に移動するよ」
美玖は俺の家を出ると向かいの家に行き、エレベーターに乗る。
俺も置いていかれないように、急いで追いかける。
「家から近いって羨ましいよね」
「ここしか、出口ってないの?」
「そんなわけ無いでしょ。100箇所以上に出入り口はあるよ」
「そして、ルーラーの本部から一番近い出口がここだと?」
「そのとおり。下りたら本部とか羨ましすぎるよ」
美玖が言い終わるよりも少し早く、エレベーターの扉が開く。
「よく来たな。と言ってもすぐだと思うが」
ベネファさんが挨拶をしてくる。
迎えてくれたのはベネファさんと斎賀さんだった。
今更かもしれないが、この人たちって組織の中で地位の高い人だよね。
そんな人が迎えてくれてるってことは、相当優遇されてたりして。
いや、そんなことないか。
異世界人だろうと、所詮は新人の子供。
優遇されるわけないか。
馬鹿げたことを考えながら一同についていくと、大きく開けた場所に出る。
「ここが訓練場だ。まあ、実践練習用だが」
“実践練習用”、というだけはあり、実際に家や公園、5階建てのビルに川や橋までもある。
町がまるまる作られている。
反対側が見えない。
「射撃訓練なんて後でいくらでもできる。そんなことよりも、魔法。君がどの程度の魔法が使えるのか知っておかないと、任務に影響が出るかもしれないからね」
辺りを気づかれないように見回すが、ありえないくらいカメラがある。
あと、ドローンも数十機。
本心は|俺が魔法を使っているところ《研究資料》の撮影のためだろう。
「それで僕は何をすればいいですか?」
「美玖と戦ってくれ。初めてだし、怪我をしない程度に頑張ればいい。二人共、準備はいいね?」
斎賀さんの言葉に俺と美玖は頷く。
「今回は第一エリア内で建物の中は禁止とする。それでは一分後に訓練を開始する」
と、言うと斎賀さんとベネファさんはどこかへ消えていく。
あと、美玖も消えた。
俺も慌てて、近くの建物の裏に隠れる。
もし、即スタートだったら負けてたな。
斎賀さんはこれも含めて1分にしてくれたんだろう。
そんなことを思っていると、ここに来る途中で渡されたイヤホンから『開始』と、聞こえる。
俺は慌てて、戦闘に役立つ魔法や能力を発動させておく。
次の瞬間。
俺の視界に人影が映る。
とっさに物陰に隠れたことでなんとか避ける。
いつの間に移動したんだよ。
それに今もどこにいるかわからない。
耳を澄ませても、風音一つ聞こえない。
こうなったら一か八かだが、今の俺がかつ手段はこれくらいだろう。
俺は基本能力─[光感知]と、[思考加速]に魔力を集中させる。
結界は一応貼ってあるけど。
スキルの使用は魔素を使うと、性能が上がるのだ。
なので、今の俺は360度見えており、通常の500倍近く思考が可能なのだ。
俺は地面を思いっきり蹴り、屋根の上に立つ。
そして…。
銃声とともに、美玖の呻き声が聞こえる。
「痛っ」
と、言うと美玖は拳銃を手放し、ゴム弾の当たった右手を左手で押さえる。
「そこまで」
どこからともなく、斎賀さんの声が聞こえる。
いつの間にか俺の後ろの方に立っている。
「今回は維貔叉の勝ちだな」
「ほんと異世界人ってずるいよ。何で今のがわかるの?」
「全方位見えてるから。あと、思考加速」
ラノベやアニメを見ているなら、思考加速くらい知っているだろう。
「それにしても、魔法を使わずに勝つとは予想外だたっよ」
斎賀さんが魔法使えよと、言わんばかりに見つめてくる。
魔法ってポンポン使うものじゃないんだよね。
体内の魔素を使うから、使いすぎると倒れるんだよね。
それに、今はスキルに魔素を使っていたから魔法なんて使えないのだ。
俺はそのことを簡単に説明すると納得してくれた─はず。
「そんなものなのか。案外、めんどくさいんだな」
「魔法が使えすぎると、悪魔だとか「この力で俺たちを殺してくるぞ!」なんて言われるだけですから」
俺も一部から悪魔とか言われてたからな。
変な噂が流れると、消せなくなるんだよね。
「大体、維貔叉の強さもわかったところだし、射撃訓練でもしてくるといい」
斎賀さんはそう言うと、どこかへ行ってしまう。
近くに秘書のような人がいたし忙しいのだろう。
俺は美玖に連れられ、場所を移動する。
当然だが、着いたのは射撃訓練場だ。
正しく、射撃訓練場といった感じ。
美玖が銃を構え、前方50m近くにある赤点にゴム弾を当てる。
すると、別の場所に新たな赤点が現れ、それを美玖は撃つ。
それを30秒続けると、“ビー”と、言う音がすると銃をおろす。
美玖が手元にあるモニターを見ると「まぁまぁかな」と、言う。
俺もモニターを見たが[記録─52]と、出ていた。
これってかなりすごいことじゃない?
どれぐらいが普通かわからないけど。
「次は維貔叉だね」
そう言うと、美玖は場所を空ける。
そもそも、撃ったことがないんですけど。
そんなことを思いながらも、的に銃をむける。
俺は手の震えを止め、狙いを定める。
そして、引き金を引く。
飛び出た弾は的確に的の中央を貫く。
そして、次に現れた的にも弾を当てる。
それを繰り返すこと30秒。
“ビー”と、言う音がなると、俺は銃をおろす。
[記録─13]
これはどうなんだろうか。
俺はモニターを見ていると、美玖がモニターを操作し始める。
「初めてにしてはまぁまぁじゃないかな。一発撃つのに、2秒。リロードに3秒ぐらいかな」
褒められた。
だが、4倍以上の差があるのも事実だ。
あのの領域に達せられる日は来るのか。
「もう、お昼だし。昼食にする?」
美玖が意外な提案をしてくる。
もうそんな時間なのか。
俺は時計を確認すると、既に一時を回っている。
どこで食べるのだろうか。
俺はそのことを聞くと、美玖がこたえる。
「社員食堂?みたいなものがあるんだよ」
俺は美玖について行く。
どうやら、無料で食べられるらしい。
局員はもちろん、清掃員や研究員まで関係者全員の胃袋を満たしている大食堂だ。
ちなみにというかやはりというか、そのドップが斎賀さんだった。
俺と美玖は食堂に向かっていると、突然目の前に誰かが現れる。
「はじめまして、日暮維貔叉君。さっきの美玖君との訓練は見てたよ。初めてなのに凄いね」
と、言いながら俺のことを実験体のような変な目で見てくる。
「だれ?」
「この人はルーラーの研究施設で所長をしている人」
俺が小声で聞くと、美玖が答えてくれる。
確かに白衣を着ているし、研究者オーラのようなものが出ている。
「あ、自己紹介がまだだったね。私の名前は花岳芳雄だ」
「日暮維貔叉です」
「これからよろしくね。ところで、君之見た目はこの星の人間と同じだが、構造はおなじなのか…。君はどう思う?」
そんなこと言われても。
解剖したいと言っているようなものだろ。
密で誘い出されても、釣られないようにしないと。
「君と話したいこことはたくさんあるし、一緒にお昼でもどう?」
誘ってくるが、恐らくは俺が昼食を取ることを知って現れたのだろう。
俺は丁重に断ると「また、今度ね」と、言って、とぼとぼ歩いていく。
「断らなかったほうが良かったんじゃない?」
「なんで?」
「なんでって、花岳さんってめっちゃ凄い人だよ。普段なら絶対研究室から出てこないのに。関係を持っておいたほうがいいよ」
「そういうことは早く言ってよ。そんなに凄い人なの?」
「維貔叉に使った麻酔薬を作ったのは花岳さんだよ。何なら、今、ルーラーで使っているこの拳銃を設計、制作したのも花岳さんだよ」
「めっちゃすごい人じゃん」
「だからそういったでしょ」
そんなことを話していると食堂につく。
発券機で買う仕組みか。
それにしても、種類多いな。
和食に洋食。
ファストフードからイタリアンに中華。
ラーメンだけでも、10種類近くあるぞ。
麺の硬さも入れたら、凄いことになる。
「おすすめはピザだよ」
「だ、誰ですか?」
美玖じゃない。
しかも、皆が列に並んでいるのに堂々割り込んでくる。
「美玖じゃん。久しぶり〜」
「お久しぶりです」
美玖がお辞儀をする。
俺も挨拶をしようとしたその時。
「お姉ちゃん。ちゃんと並んでよ」
割り込んできた女性の服の襟を掴むと、引きずっていってしまう。
お姉ちゃんと言っていたことから、姉妹なのだろう。
「またね~」
引きずられながら、列の最後尾に行ってしまった。
結局誰だったんだろう。
「あの人は情報局の局長の渡邉琴葉さん」
「また、凄い人?」
「今のルーラーのメインシステムとAI。このスマホのOSを作った人」
私のパソコンは琴葉さんに作ってもらった─と、言った。
また、凄い人だな。
俺はピザを頼む。
テリヤキピザが一番美味しい(維貔叉の意見)。
俺は注文を終えると、席に座る。
席は割と空いている。
人がいないのではなく、とてつもなくでかいから空いている。
それが理由かはわからないが、6人がけの机に座っている。
「でかいね」
「ここしか、食堂がないからね。けど、忘年会とかは埋まるよ」
「案外、ルーラーってアットホームだね」
「あのね、アニメみたいな感じでやってたら死ぬよ」
真面目な顔で言ってくる。
たしかに生きづらいなだろうな。
そんなことを思っていると、ルーラー用のスマホがなる。
なにかメールでもきたのかと思い、スマホを見る。
『料理ができました。カウンターまで受け取りに来てください。』
便利だな。
美玖もスマホを見ると、席を立ち、カウンターへ向かう。
カウンターへ行くと、美玖がおばちゃんにスマホを見せている。
これで料理を受け取れるのか。
俺もスマホを見せると、ピザを受け取る。
そして、席に戻ると─
「また会うなんて奇遇だね」
花岳さんだった。
花岳さんは俺の横に座る。
絶対に奇遇じゃなくて必然的な出会いでしょ。
先回りして待っていたんだなと、思うが口には出さない。
美玖も同じだろう。
「確かに奇遇ですね」
「そうだよね。せっかくだしさ、少し話さない?」
どうしようか俺が悩んでいたとき─
「ねぇねぇ。こんなおじさんは無視して、私と話そうよ」
渡邉琴葉さんだった。
両側を挟まれてしまった。
逃げ道がない。
そんなことを思っていると、美玖の隣にも誰かが座る。
さっきも見たな。
琴葉さんのことをお姉ちゃんと呼んでた人だ。
「美玖、久しぶり」
「葵も久しぶり。元気?パソコンばっかり触っていると、また体調崩すよ」
「大丈夫。エナジードリンクがある」
会話を聞いているが、二人は仲が良いのだろう。
それにしても─
「君って魔法が使えるんだよね。魔法使いって普通の人間と体の構造は同じなのかな?それとも違うのかな。気にならない?」
「そんなことより、君って前世の記憶ってあるのかな。あるなら、君がいた世界の化学レベルってどれぐらいだった?やっぱり中世みたいな感じ?それとも、化学技術と魔法の組み合わせで凄いことになってたりする?」
多い多い。
質問攻めも良いところだ。
俺が聞き取れたのがこれだけで、もっと喋っていたし喧嘩もしてた。
俺は話を逸らしたり、適当に答えたりして、何とかやり過ごした。
まともに食事が出来なかった。
俺は何とか二人から逃げると、ルーラーの施設内を歩いて回った。
とにかく広かった。
広すぎて、一人しかすれ違わなかった。
白と灰色の服装を着けていて、ルーラーのバッチをつけていたので職員の中でも局員なのだろう。
それにしても、綺麗だった。
グレーのショートヘアに、青い目をしている女性だった。
って、そんなことはどうでもいいんだ。
ここはどこだ。
また、迷子だよ。
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