五話 入隊
俺は目覚めた。
いや、目覚めさせられた。
腹パンされた。
タキナのやつ何やってんだよ。
「ヤバイよ、ヤバいよ!」
「何、何 ?」
「ストーカーが!」
「ストーカーが?」
「増えてるんだよ」
朝から冷や汗が出てくる。
俺は恐る恐る、タキナにどれくらい増えているのかをきく。
「何人くらい増えてる?」
「一人」
予想外な答えに、俺は「え?」と、声を漏らす。
「問題がないわけじゃないけど、一人増えるぐらいだったらなんとかなるんじゃない」
「その一人が問題なの」
俺はわけのわからないことを言うと、タキナが顔を近づけて、話を続ける。
「一昨日捕まえた泥棒がいたでしょ。その中にいた一人が増えたストーカーなんだけど─」
「警察からの取り調べが終わって、釈放されただけじゃない?」
「それはどうでもいいの」
タキナはスマホを見せてくる。
俺のスマホだった。
もしかして、暗証番号とか全部知ってたりして。
後で変えておこう。
そんなことは今、どうでもいいんだ。
俺はスマホの画面を見る。
そこには一枚の写真が写っている。
その写真には、昨日のストーカーさんと、一昨日の泥棒の一人─年齢は3,40代ぐらいのダンディな男が写っていた。
これはこの二人に関わりがあることを示す証拠とも取れるが、二人が手に持っている物により、そんなことはどうでもよくなってしまう。
拳銃。
それが二人の手に、握られていた。
俺は身の毛がよだつ。
本当に怖くなってきた。
俺、殺されるようなことやったか?
やったな。
縄で縛って、学校に捨ててきたな。
俺はやってないけど、俺がやったことにされるんだろうな。
「どうする?今日は学校があるし、休んだほうがいいかな?」
「それなら、昨日の夜、学校からの連絡で一週間休校にするって」
一週間も休みになるのか。
まあ、妥当と言われたらそうかもな。
それにしてもどうしよう。
外出すると死ぬからな。
「どうする?」
「どうするって…。私は大丈夫だけど、維貔叉君は厳しいよね」
だろうな。
タキナは見えないんだから、殺されることなんてないだろう。
食材は持って5日。
一週間は厳しい。
だからといって、タキナに何かを頼むことは難しいだろう。
買い物なんて無理だ。
さて、どうしようかと思ったとき。
ドッッッン─という音がし、タッタッタ─と階段を上がる音が聞こえる。
ヤッバ。
俺はとっさの判断で窓を開け、飛び降りる。
基本能力─[衝撃吸収]を発動させる。
凸ってきた。
殺意ありすぎだろ。
俺は地面に着地すると、玄関に行く。
一目散に逃げるのが一番良いが、どれくらい逃げるかわからないし、靴は履いたほうが良いだろう。
俺は玄関扉を勢いよく開け、靴に軽く足を入れると、急いで外に出る。
階段を降りる音が聞こえていたから、危なかったかも。
俺が全速力で走っていると、タキナが隣を飛んでいる。
「大丈夫?」
「な、なんとか。それにしても、ヤバすぎるでしょ。家に凸るとか」
俺は無我夢中で走った。
俺は披露が溜まっていき、足を止める。
「タキナ、大丈夫?」
タキナの返事は無い。
もしかして、はぐれた?
こんなことなら、思念伝達の連絡先を交換しておけばよかった。
俺は後悔するが、無い物ねだりをしても意味はないと、思い思考を切り替える。
どこだここ。
全く見覚えのない場所だ。
こんな時こそ、スマホだ。
俺はポケットに手を入れたところで思い出す。
スマホを持っていないことに。
タキナが持ってるのか、家にあるのか。
どちらにせよ、非常事態だ。
パジャマに、裸足で靴を履いて、スマホなし。
しかも、今、何時だ?
空を見るが、まだ夜は明けていない。
3時とか4時か。
家には帰れないし、ここがどこかわからない。
俺はその場に座り込むと『どうしました?』、と誰かが声をかけてきた。
近所の人だろうか。
俺は声の聞こえた方をみる。
「久しぶりだね。疲れてるみたいだし、寝たほうがいいんじゃない?」
その声の持ち主は、女のストーカーだった。
パッン─という音とともに、胸に何かが刺さる。
それは数cmほどの長さがある、注射器のようなものだった。
俺は慌てて注射器を抜く。
まだ、麻酔薬だといいな、毒は勘弁してほしい。
死にたくはない。
俺は後ろに何歩か下がるが、ストーカーは動かずじっとこちらを見つめている。
「俺を殺すのか?」
「……」
無視かよ。
わざわざ、声をかける必要なんてなかったのに声をかけてきたから、おしゃべり好きだと思ったが違うみたいだな。
俺とストーカーは睨み合っていると、ストーカーがポケットから弾倉を取り出し、今、入っている弾倉と取り替える。
「これは実弾だよ」
ストーカーが、俺の頭の位置に標準を合わせる。
数秒後にパッン─と、音がして銃弾が向かってくる。
危なっっ。
俺は間一髪で避けると、ストーカーが二発目を容赦なく撃ってくる。
ヤバいって。
俺はまた避けるが、ジリ貧も良いところだ。
俺は数メートル後ろに飛ぶ。
パジャマじゃなかったらかっこいいんだろうな。
どうやって逃げよう。
そしてどこに逃げよう。
様々な案が頭をよぎるが、どれも迷案に近い。
辺りを見渡すと、一つだけ可能性が見えてきた。
電柱に捕まれば、なんとかなるもしれない。
俺は淡い期待にすべてをかけ、電柱に刺さっている釘のようなものに足を置く。
人外の身体能力は確定だが、生き延びるためだ。
ストーカーは少し驚いた表情を見せる。
勝ったな。
発砲されてもなんとか避けられるし、あとは電柱を伝って、家の屋根を歩いていけばいいだろう。
俺は近くの民家に飛び移ると、屋根を伝って逃げる。
流石に、ここまではついてこられまい。
またしても人外だが見つからなきゃいいんだ。
桜弥たちには悪いが、親のもとで身を潜めておいたほうがいいだろう。
俺は次の屋根に飛び移ろうとしたとき、直感が飛び移れないと、足を止める。
やけに体が重い。
それに、目の焦点があわない。
俺は脱力感に襲われ、その場に座り込む。
眠いし、ダルい。
体が動かなくなってくる。
「ようやく、効き始めたんだ」
俺のぼやけた視界を覗き込むように人が現れる。
ぼやけているが、ストーカーだとわかった。
「安心してね。死にはしないから。それじゃあ、おやすみ」
どんなに抗っても、それは無駄な足掻きだった。
そして、眠りにつく。
「早いって…」
呼吸を荒くしながら、男─ベネファは目的地に近づく。
男は眠っている少年と、自分と似た服装をしている少女がいる場所につくと、何度も深呼吸をして呼吸を整える。
いくら先輩でも、年には勝てないのだ。
若いっていいなと、最近になってつくづく思うようになった。
「それで、眠ったのか?」
「ご覧の通り」
少女は視線を維貔叉に向けるが、とても不機嫌そうな顔をしている。
「何かあったのか?」
待ってました!と、言わんばかりに愚痴り始める。
「ベネファさんがくれた麻酔薬って強力なやつで、人間なら数秒で寝るよね。なのに、こいつ、数分も起きてたんだよ」
そう言うと、軽く維貔叉を蹴る。
確かに少女の言い分もわかる。
これは数十秒で眠りにつく、強力な麻酔薬だ。
たが、相手は異世界人。
何があってもおかしくはないのだ。
「まあまあ。君の言い分も分かるけど、異世界人だし何が起こるかなんてわからないさ」
ベネファのほうが年上だし、キャリアも積んでいるが少し下手に出ているのが会話から分かる。
それは女性だからとか、子供だからという理由ではない。
単純に強いのだ。
知識でも力でも。
少女はベネファの言葉に不満そうな顔をするが、何か言うつもりはないようだ。
ただ、「この子を運ぶのはよろしくね」と、言うと消える。
ベネファはため息をつくが、自分が文句を言える立場ではないことを思い出す。
今回、張り込みを一日すっぽかしたのは自分だし、維貔叉との鬼ごっこにもついていけなかった。
逆にこれくらいはしないと、面目丸潰れだ。
もしかしたら、あの子なりの優しさがあったのかも。
いや、絶対にない。
ベネファは確信できた。
根拠はないが、なぜか納得できてしまう。
ベネファは維貔叉を担ぐと、本部へ戻る。
俺は目覚めた。
なんか、最近、目覚めてばっかりなような。
だが、目覚めたものは目覚めたのだ。
俺が目を覚ましたのに気づいたのか、ある人物が声をかけてくる。
今までに聞いたことのない声だった。
「 おはよう。いや、こんばんはかな?」
それは女性だった。
ストーカーと同じような制服を着ているが、少し違いっている。
服装で一番違うのは、スカートではなくズボンなことぐらい。
あとはよく観察しないとわからないようなものだ。
だが、このときの俺はそんなことにも気づくような余裕はなかった。
どこだ…。
辺りをそっと見渡すが、会議室や社長室のような場所ににている。
マジでどこだよ。
もしかして、殺されたり、拷問されたりして。
俺が怯えていると、その女性が声を掛けてく。
「安心してくれ、君が思っているような恐ろしいことはしない。ただ、少し君の話を聞きたいのと私からの提案だ」
話に提案?
何をするつもりなんだ?
「まぁまぁ、落ち着け。私の質問に答えてほしいだけだ。答えたくないなら答えなくていい。なるべく答えてくれると嬉しいがな」
女性がこちらを見てくる。
睨みつけているようにしか見えない。
俺は「は、は、はい」とガチガチにビビりながら返事をする。
「まず、君の名前は日暮維貔叉、16歳。あっているかな?」
「そ、そのとおりです」
「じゃあ次だ。君はこの世界以外の世界も知っているね。それもその世界から転生してきたね」
俺はその言葉に固まる。
今、この人はなんて言った?
異世界って言ったよね。
何で知ってるんだ?
というか、何でそんな考え方というか答えが出るんだ?
俺は戸惑っているとその人が話しかけてくる。
「ところでどうなんだ?あたっているのか?その反応からするとあたっているかな?」
俺をじっと見つめてくる。
これはバレてるか。
観察眼が鋭いな。
「違いますけど」
「嘘はいけないよ。声が少し震えているよ」
認めるしかないのか…。
「もし僕が異世界人だったらどうするんですか?」
「話を聞くだけだよ。私達も“別世界”というものが実際に存在するなら放っておけないだけだ」
「どんな話を?」
「例えば、『どんな生物がいたのか』とか?」
「ドラゴンの種類とか食物連鎖みたいな?」
「まあそんなところだね。というか、なんでドラゴンが出てくるのかな?まるで、異世界の生物と言ったらドラゴンと言わんばかりだね」
「いや、まあ。異世界といったらドラゴンじゃないですか?」
「言われてみればそうなのかもな。次の質問にしよう。君は魔法がつかえるね?」
「僕は魔法を使えませんし、異世界人でもないです」
女性は「そうか」と、呟く。
このまま押し通せるか?
いや、押し通すんだ。
俺は決意するが、それは一瞬で崩れる。
女性がパソコンを出すと、ある動画を流す。
「まずはこれだ。君の家から通っている学校までの登校している映像だ」
あ。
二年生初日に遅刻しそうになったとき、魔法を使ったときのだ。
バレてる。
言い逃れできるのか?
「次はこれだ」
そう言うと、もう一つ動画を見せてくる。
俺がタキナと出会って、話しているところだった。
屋根裏部屋か。
この動画からすると、あの泥棒たちの中に隠しカメラをつけてたやつがいたのか。
こいつらが泥棒かは怪しくなってきたけど。
「これでも認めないか?」
「認めたら何なんですか?」
これは認めているようなものだが、もうヤケクソだ。
粘れるだけ粘る。
「簡単なことだ。別世界からきた生物を野放しにはできないだろ?だから、監視、保護、それに─」
最後は濁したな。
恐らくは“殺す”が入るんだと思う。
「なあ、認めてくれないか?認めたほうが君にもいいと思うが。認めてくれないなら、これからも君を監視し続けることになるがそれでいいか?」
どうするのが正しいんだ?
認めたらどうなるかなんてわかったものじゃない。
認めなくても監視しつし続けられる。
ここは折れないとだめなのか?
覚悟を…
「そのとおりです」
「認めてくれたか」
「そ、それで僕をどうするつもりですか」
「どうする、ね」
女性が俺の体を見つめてくる。
家族にまで迷惑はかけたくない。
俺の身一つで助かるなら…。
俺はどうすればいいのかなわからなくなり、固まる。
「私達の仲間になってくれるか?」
「わかりました」
「そんな簡単に認めてもいいのか?」
「はい」
「まあいい。当然だが、強制労働をされるわけではない。あくまで、雇うという形だ。だが、一度雇われたら死ぬまで辞められないぞ」
例外もあるがなと、女性は言う。
やっぱり、反社とかなんだ。
俺は「わかりました」と、言うと一枚の紙を出す。
「契約書だ。サインをしてくれ」
俺は頷くと、サインをする。
名前と生年月日を書いて、拇印をする。
女性は契約書を受け取ると、手をだす。
俺も手をだし、握手を交わす。
「ようこそ、ルーラーへ」
俺は説明を受けた。
俺が所属した“ルーラー”というものが何なのか。
俺は何をすればいいのかを。
俺が聞いたことをまとめると、ルーラーとは日本のスパイ組織のようなもの。
基本的には、国からの命を受けて行動するが、個人でも依頼を出せるらしい。
まあ、そんな人は裏社会を知っているようなお偉いさんがほとんどだとか。
そして、俺はその任務や依頼をこなせばいい。
一人でするのもよし、チームでするのもよしだとか。
本来なこれでお終いなのだが、俺の契約では報酬(給料)があるらしい。
一つは現金。
そして、もう一つなのだが、それはルーラーが持っている他の異世界人の情報だ。
なので、これをうまく使えば同郷を見つけられるかもしれないってことだ。
既に、一人は見つけたけど。
というか、ルーラーの中にも異世界人がいるようだ。
いずれ会わせてくれるらしい。
「まず、しておかないといけない説明はこれくらいだな。これからは任務をしてもらうわけだが、今の君では無理だ。スマホや通信機器、拳銃の使い方を学んでもらわなければいけないからな」
「拳銃…」
「なんだ?怖いのか?」
「いや、人生で使う機会があるんだなんてなって。殺したりもするんですか?」
「私達が使うのは基本的に、ゴム弾や非殺傷弾に麻酔弾だ。殺すのは最終手段、命は簡単に奪っていいものではないし、後片付けが面倒だ」
恐らくは後者が本心だろうな。
死体の片付け、血の痕跡の消去、情報操作により事故や病気での死亡にしなければならなくなるなど、やることが多すぎると説明の最中に愚痴っていた。
「取り敢えず、これを渡しておくから何かあったら連絡するし、連絡してきてくれても構わない」
「ありがとうございます」
俺が受け取ったのは一台のスマホだ。
今までに見たことのないスマホ。
これはルーラー専用のスマホなのだろう。
背面のロゴも見たことない。
ルーラーのロゴといったところだろう。
俺がスマホを眺めていると、女性がスマホについて簡単に説明する。
「これはルーラー専用のスマホ。故に、任務に必要なアプリや機能が入っている。絶対に無くさないこと」
「無くしたら?」
「見つかるまで探してもらう」
絶対に無くしたらダメだ。
女性は「設定は簡単だから、家に帰ったらしておいてくれ」と、言うとポケットから自分のスマホを取り出す。
「私の連絡先だ。あと、自己紹介がまだだったな。私の名前は斎賀凛だ。よろしく。あと、君の先輩というか先生になってもらう人に会いに行くが、ついてくるか?」
俺は頷き連絡先を交換すると斎賀さんに連れられ、場所を移動する。
どうやら、ルーラーの本部に隣接している寮に行くらしい。
俺たちはしばらく歩くと、ある扉の前で止まる。
ここが目的地らしい。
斎賀さんがインターホンを押すと、一人の男性が出てくる。
見覚えがあるぞ。
タキナに捕まったやつの1人で、ストーカーに拳銃を渡していたダンディなオッサンだ。
「お前にこの子の教育係を任せたい。頼めるか?」
オッサンは俺のことを数秒見つめると、斎賀さんにオッケーをだす。
「よろしくな小僧。俺の名前はベネファだ」
「よろしくお願いします。日暮維貔叉です」
「維貔叉か、みっちり鍛えてやるから覚悟しておけよ」
お互いに挨拶をすませると、ベネファさんは自室へ戻っていく。
愛想がない人だな。
「ベネファはパーティーのリーダーを勤めているから忙しんだ。疲れているのだろう」
「パーティー?」
「あぁ。ルーラーは十数人のチームで行動することが多いからな。今、任務が終わったらところだから報告書を作っているんだろう」
「大変ですね」
「お前のせいでもあるがな」
「もしかして、僕の報告書とか?」
「そのとおり。お前が異世界人と断言できる証拠を掴むのに数年かかったらかな。その報告書ともなれば─」
何故か俺が悪いみたいになっているような。
ところで、今度はどこに向かっているんだろう。
あと、何かすることはあったっけ?
俺は斎賀さんにしばらくついていくと、エントランスのような場所に着く。
「今日はここまで。こちらの準備が出来たら連絡するから家に帰って休むといい。あと、あいつにも会わせるから準備しておくんだな」
「あいつ?」
「“ストーカー”と、言えばわかるか?」
あの人か。
どんな人だろう。
あのときのあれは会話なんて呼べないからな。
楽しみにしておこう。
「それで、どうやって帰れば…」
「外に出れば誰だって分かるさ。それじゃあ、元気でな」
消えていった。
え…。
どうしよう。
俺は外に出るとそこには森が広がっていた。
どこだよ。
こんな時こそスマホだ。
俺は貰ったらばかりのスマホの電源いれる。
保護フィルムが貼ってある。
どうでもいいことに気づいていると、スマホが起動する。
操作感は普通のスマホと同じか。
俺はマップのようなアプリを起動する。
そして、驚愕する。
家!?
現在位置が俺の家になっている。
どういうことだ?
だが、ここが家な訳が無い。
俺は辺りを見渡すと、空に伸びている柱を発見する。
なんだこれ。
空を見上げると、途中で消えている。
いや、刺さってる?
俺は空を見上げながら柱の周りを回っていると、柱の壁にボタンと扉があることに気づく。
エレベーターのボタンそっくり。
恐る恐る、ボタンを押すと扉が開く。
エレベーターだ。
俺はエレベーターに乗り込むと、それをエレベーターが検知したのか勝手に扉が閉まる。
すると、どんどん上昇していくのがわかる。
数十後、扉が開く。
俺がエレベーターから降りると、そこは一つの部屋だった。
家の一室といったところか。
部屋の扉を開けるとそこは廊下で、正しく一軒家だった。
いってみれば土足だが、まあいいか。
俺は玄関を見つけ外に出ると、そこは見慣れた場所だった。
見慣れた場所というより、俺の家の向かい。
俺はなんとも言えない気持ちになり、ぼーっとしていると自分の家の窓からタキナが飛び出してくる。
「維貔叉ー!」
タキナが俺に突っ込んでくる。
「大丈夫だった!?昨日帰ってこなかったから心配したんだよ」
若干涙目になっている。
俺はタキナに謝ると、ひとまず家の中に入る。
鍵は直っている。
タキナが直してくれたのか。
俺はソファに座ると、昨日の朝からと今日まで起きた出来事を話す。
「そんなことがあるんだね」
それがタキナが俺に起きたことを聞いたときの感想だった。
もっと驚いてくれたほうが面白かったんだけど。
まあ、いいや。
だが、真剣に聞いてくれていた。
そして、心配してくれて少し嬉しかった。
こんなこと誰にも言えないからな。
タキナにしか言えないだろう。
真剣に聞いてくれていたタキナも話を遮って、食いついたことがある。
「同郷人や異世界人の情報をくれるの?」
「そう言ってたね。どれぐらいの情報かわからないけど」
「それでも維貔叉の情報をここまで知っているわけだし、かなり知っているんじゃない?」
「確かに。けど、どれぐらい教えてくれるかもわからないけど俺は“ルーラー”という組織にはいったんだよ」
「なんて言えばいいのかわからないけど、頑張ってね」
そんなことを話しているうちに、今日は終わりを迎えた。
翌日の昼。
インターホンを誰かが押す。
「すいませ~ん。宅配です」
俺は玄関を開けると、そこには女性の宅配業者が荷物を車から下ろしていた。
かなりの量があるな。
お母さんがまた送ってきてくれたのだろう。
女性は荷物を下ろし終えると、「サインお願いします」と、言ったので、用意しておいたボールペンを取り出す。
そして。
「ルーラーからの荷物をお届けに参りました。こちらのお荷物のサインはスマホでよろしくお願いします」
と、言っていた。
そして、言ってきたのはあのストーカーだった。
「荷物搬入と説明の為に、家に上がらさせてもらいますね」
読んでくださってありがとうございます。
これからも応援していただけると幸いです。