三話 監視者 後編
痛っってーーー。
俺は、床にぶつけた頭を手で押さえる。
誰だ!?
今、確かに、誰かに肩を掴まれた。
だが、誰だ?
俺は起き上がると、辺りを見渡す。
誰もいない…。
てっきり、泥棒が隠れてて襲って来たのかと思った。
けど、それが違うなら一体誰が?
だ、ダイジヨだよな。
俺は、“キョロキョロ”と辺りを見渡しながらもう一度、階段を上がる。
すると、おっっ!
俺はまた、誰かに後ろから肩を掴まれた。
同じ手に2度も引っかかるか!
俺は手摺をがっちり掴む。
くっ、負けるものか。
俺は右足を後ろに思いっきり蹴る。
足がなくなっても、魔法でくっつければ大丈夫!
実際に試したことはないけど……。
そんな事を考えながら蹴った足に、何かが当たる。
そして─。
「グハッ」
と、声が聞こえた。
誰だ?
咄嗟に後ろに振り向くが、誰もいない。
????
どういうことだ?
確かに声が聞こえたんだけど。
ん?
何か動いた?
ハッキリとは見えなかったけど、何かが動いたような。
正確に言うなら、陽炎みたいに景色が歪んだような。
前にも、どこかで同じようなことがあったような。
ん〜〜、どこだっけ。
確か、前世であったような。
あ!
あの時だ。
俺は雷に打たれたように─ハッ、と思い出す。
あれは前世の夏休み(長期休暇)。
学校の特別授業で一泊二日で、幽霊退治に行ったときだ。
深夜、墓地の中に武器(杖や剣)だけ持って退治をしにいったっけ。
今、思い出しただけでもゾッとするぐらい怖かったな。
ちょっとしたトラウマを思い出す必要なんてないんだ。
それにしても幽霊か。
俺と同じように、この星にやってきたのかな?
まあ、まずは幽霊を見つけてからだな。
意思疎通の出来る幽霊だと良いんだけれど、どうやって見つけよう…。
ん〜〜どうしよう。
塩を撒くか、神社にお祓いを頼むか。
って、そんな事をしなくてもいいか。
幽霊は、屋根裏部屋に上がろうとする俺を止めようとしているのだ。
ならば。
俺は、全力で階段を上がる。
くっ!
あと数歩なのに、腹部を掴まれていて全力で後ろに引っ張られる。
これでいいんだ。
俺は手摺から手を離し、幽霊に掴まれている部分を大体だが掴む。
そして、そのまま後ろに倒れる。
痛っってーーー。
俺は再び、頭を床に打つ。
頭に痛みが走りながらも、俺は探知魔法─霊素察知、を発動される。
幽霊に実態なく、霊素で構築されている。
だから、基本的に目で見ることは不可能なのだ。
薄っすらと見えることもあるけど、それは魔法が使える者に限る。
あと、触ることもか。
だから、俺はこの幽霊に触れているのだ。
俺は幽霊をはっきりと見えるようにするために、探知魔法─霊素探知を発動させる。
すると、後ろから抱きしめているような、二本の手が現れる。
その手は、とてもしなやかで、白く、そして、小さかった。
だが、幽霊に見た目なんて関係ない。
「観念しろ!」
「………」
「返事をしないなら、このまま殺すよ」
意思疎通が出来たら良かったけど、意思疎通の出来ない幽霊なんて害でしかない。
使役できるなら話は変わってくるけど、俺には無理だ。
さて、数秒待ってみたが返事は無かったので、幽霊を退治するための魔法の魔法陣を描いていく。
まさか、この魔法を使う機会がやってくるとは。
この魔法は幽霊を倒すことに特化しているから、それ以外は何も殺せないんだよね。
あの夏休みの特別授業が役に立つとは、何があるものか分かったものじゃないな。
そして、魔法を発動させようとしたとき。
「わかった。わかったから、それは辞めて!」
おお!
急に喋りだしてきたぞ。
滅茶苦茶びびったことは心の中に閉まっておこう。
ここで喋りだしということはこの幽霊はこの魔法について、知っているんだな。
それに喋れるなら、意思疎通が出来る、又は意思疎通をする意思があるということなので、殺しまではしなくていいだろう。
俺は、魔法陣を消す。
「それで、俺と話す気になったんだな」
「はい。そのとおりです」
敬語に変えてきたな。
まあ、どうでもいいけど。
「じゃあ、俺がお前の腕を離しても逃げたりしないね」
「はい。逃げたりしません」
こう言ってるし、離してあげるか。
嘘だったとしても、逃げたとしてもまた捕まえればいいし、これに懲りてこの家から出ていってくれるならそれで全然オッケーだからな。
俺は幽霊の手を離し、起き上がる。
さて、この幽霊はどんな見た目をしているんだろう。
見た目は関係なくても、どうしても気になってしまう。
骸骨とか、THE幽霊みたいなのはやめてほしいな。
そう思いながら振り返ると、そこにはとんでもない美少女がいた。
ショートヘアの桃色の髪。
鮮やかな青い瞳。
身長は中学二年生ぐらいで、目を見張るほどに美しい。
「おーい。どうかしたの?」
「あ、いや、なんでもない」
「そ。それで私に何か?」
特に何かあるわけじゃないけど。
いや、たくさんあるな。
「何で俺の家にいるの」
「なんでって……」
「なに?」
「お茶でも飲みながら話そっか」
と、言うなりスッと床に消えていく。
逃げやがった。
幽霊なんて信じるものじゃないな。
この家から出ていってくれるなら良いんだけど。
俺は気持ちを切り替える。
お菓子でも食べようかな。
俺は一階にに降り、リビングに行くとあいつがいた。
キッチンでお茶の用意をしていた。
嘘じゃなかったんだ。
幽霊も俺に気づいたのか、お盆にお茶とお菓子をのせると、ダイニングにあるテーブルに置く。
椅子に座ってるように見えるだけで、実際は座ってないな。
言ってみればこの幽霊、何でお盆とか湯呑とか持ってたんだろう。
幽霊は実態がないから透けるはずなんだけど。
まあ、このこともまとめて聞けばいいか。
俺はそう思い、椅子に座る。
「それで、何から聞きたいのですか?」
「何からって…。じゃあ、何でこの家にいるの?」
「それは、それはこの家に住んでいるからです」
「何で住んでいるの?」
「特に理由は…」
ないんだ。なら早く出ていってほしいな。
「理由がないなら早くこの家から出ていってよ」
「それは嫌です」
「俺の家じゃなかったらどこ行ってもいいから」
「嫌です」
嫌です。─じゃないんだよ。
こっちだって家に幽霊がいるなんて嫌だよ。
「いいから出てけ」
「そんなぁ〜」
「この家にいる理由は無いんでしょ」
「………」
幽霊は数秒黙り込むと、何かひらめいたのか前のめりになって話しかけてくる。
「ある。この家にいなきゃいけない理由がある!」
「その理由は?」
「私は、この家に住んでいるから!」
「確かに、不法滞在で住んでるね」
「そうだけど違う!この家の為に頑張ってたんだからね」
「例えば?」
「今もだよ。ついさっき、この家に入ってきた泥棒を懲らしめたんだからね」
ん!?!?!
こいつさらっと凄いこと言わなかったか?
いえに帰ったときの妙な違和感は、この幽霊のせいだと思ってたけど、違ったのか?
あ、そうだ!
俺のスマホ。
まだ、見つけてなかった。
「なあ。もし、本当に泥棒を懲らしめたんだったら、俺のスマホがとこにあるか知ってたりする?」
「もちろん。ついてきて」
幽霊はそう言うと、スッと天井に消えていった。
俺が2階に行くと、妹の部屋のドアから体を出していた。
「こっちこっち」
やっぱり屋根裏部屋か。
一体何があるのやら。
俺は再び妹の部屋に入るり、屋根裏部屋につづく階段を上がると、そこには十数人の大人が縄で縛られていた。
え!?!?
こいつらが泥棒?
多すぎない?
今どきの泥棒って集団で盗みに入るのか?
「こいつらが泥棒なの?」
「そうだよ」
俺は恐る恐る泥棒たちに近づく。
どうやら気絶しているようだ。
それにしても…。
俺が泥棒を観察していると、幽霊がスマホを持ってきた。
「はい。画面が割れちゃってたから直そうとしとんだけど、無理でした」
ごめんね〜、と言いながら俺にスマホを渡す。
これはフィルムごといってるな。
電源をつけてみると、ヒビのあるところは画面が真っ暗なままだった。
「これは君がやったの?それとも泥棒?」
「ん〜。共犯かな」
共犯?
俺はどういうことか聞こうとすると、幽霊のほうから話し始める。
「泥棒が君のスマホを盗もうとしたときに、後ろからフライパンで殴りかかったんだけど、それで泥棒が倒れてそれで割れた」
ちょっと説明が足りなくないか?
スマホが泥棒の下敷きになっても画面が割れることはないと思うけど。
「何で、泥棒が倒れからスマホが割れるんの?」
「え〜と、それは…」
「それは?」
「泥棒を全員倒して少し舞い上がってフライパンを投げたらたまたまスマホに落ちてね。ほら、私がフライパンを投げたのも悪いけど、泥棒がスマホを盗もうとしなければこんなことにはならなかったからね!」
いやいや。
君が90%ぐらい悪いと思うけど?
けど、幽霊に弁償とか無理だよね。
「まあ、いいよ。また買うよ」
「また買うの?直そうとしたんだけど」
「直せるの?」
「直そうとしてたんだよ」
「ほんと?」
「ホントだよ。今から直そうか」
まじで直せるんの?
直せなくても買えばいいか。
けど、今どきのスマホって高いからな。
俺は半信半疑になりながらも幽霊にスマホを渡すと、近くに措いてあった机にスマホを置いて、ゴソゴソと何かやり始めた。
終わるまで待つとするか。
せっかくなので、俺は久しぶり屋根裏部屋を見ることにした。
それにしても、知らない(正確には覚えていないだけ)物が大量にあるな。
俺はもう少し部屋を見ていると、あることに気づく。
コンセントにプラグがささってる。
プラグのコードをたどると、幽霊がスマホを直している机の近くにたどり着く。
パソコンに冷暖房器具、照明か。
これは完全にこの家に住みついているね。
流石に少し、呆れるな。
幽霊の満喫っぷりと、今まで気づかなかった自分に。
「ねぇ。いつからここに住んでるの?」
「10年ぐらい前かな。もうちょっと住んでるよ」
「マジ…」
俺は思わず声を漏らす。
10年以上前とか、俺が小学生になるより前だぞ。
って、ことは恐らく俺のことについてもよく知っている可能性が高いな。
ちょっと怖くなってきた。
「あ、あの…。僕の名前って知ってたりする?」
「日暮維貔叉君でしょ。2006年11月3日生まれの体重─」
「もういいわ!!」
ヤバイな。
こいつ、どんだけ知ってるんだ。
体重が分かってるってことは他にも色々知ってるんだろうな。
また、この幽霊が怖くなってきた。
「と、ところで君の名前は?」
「何だと思う?」
「質問を質問で返さないで」
「いいから。何だと思う?」
ん〜。
当たるわけないんだよな。
これで当てられた奴、存在するのか?
「レイ」
「違う」
「フィーレ」
「君、凄いね」
「何が?」
「こっちの事情だから」
「で、答えは?」
「タキナ」
「え?」
「ん?どうかした?」
え?
マジ?
てっきり、外国人みたいな名前だと思ってたけど。
THE日本人みたいな名前だ。
「じゃあ、これからは“タキナ”って読んでいい?」
「幽霊よりマシだしいいよ。けど、それはこの家に住んでいいってことだよね。ありがとう。これからもよろしく」
俺が止める余地もなく、幽霊じゃなくてタキナが喋る。
どうする?
どうするのがいいんだ?
普通、幽霊を家に住ませるなんてありえないだろう。
だが、損もないような。
今回みたいなときに、役立つ。
変なことなんか何も考えていない。
「ま、まあ、別にいいよ」
「え?ホント!?」
「変なことをしないなら。あと、家族が帰ってきてるときは大人しくしてるならね」
「もちろん守るよ」
「なら、改て宜しくなタキナ」
「こちらこそ宜しく。あと、これスマホね。直ってると思うよ」
タキナがスマホを渡してくる。
電源をつけると、問題なく画面が映る。
ホントに直ってる。
どうやったんだ?
恐らく、魔法を使ったんだろうけど俺にはさっぱりだな。
治癒魔法の応用か?
でも、それで生物以外は効かないのにどんな応用をしたんだ?
「おーい」
「!。なに?」
「いや。急に難しい顔で固まっちゃったからどうしたのかなって」
「あぁ。どうやって、スマホを直したのかを考えてた」
「それは魔法で。生物以外も直せる魔法があるんだよ」
へー、そうなんだ。
って、何でそんな応え方をするのんだ?
まるで俺の考えが分かっているような。
まあ、いいや。
良くわないけど、俺が言ったところでどうにもならない。
「ところで、この泥棒たちって服に統一感がない?」
「確かにあるよね。けど、意味なんてないでしょ。ただのチーム衣装みたいな」
「泥棒が服を統一するの?なんのために?誰か一人が捕まりでもしたらバレやすくなると思うけど」
「さぁね。泥棒にでも聞いたら?」
「やめとく」
「起きて良いことなんて、無いもんね。ところで、この泥棒たちどうする?殺っちゃう?」
さっらと、しかも真顔で凄いこと言い出したぞ。
「外にでも捨てておけばいおでしょ。家の近くは辞めてほしいけど」
「じゃあ、君の通ってる学校にでも捨てておくよ」
「それで宜しく」
俺はタキナに一任する。
タキナは屋根裏部屋の天井に手を当てる。
すると、直径3m近くの穴が天井にあく。
なにこれ…。
空が見えるんだけど。
俺は空を見上げながら唖然としていると、タキナはどこから持ってきたのか分からないロープで泥棒全員を縛る。
「じゃあ行ってくるね」
「行ってらっしゃい」
タキナが“バイバイ”と手を振りながら家の外へ、泥棒を縛っているロープを持って出ていく。
ひとまず解決かな。
俺は屋根裏部屋を降りようとすると、“ポチャン”という音が耳に届く。
え?
“ザー”という音が耳に届く。
屋根裏部屋が濡れ始める。
ヤバイヤバイ。
何かないか?
そして─俺はタキナが帰ってくるまで、家にあった全ての傘で雨を防ぐことになったのだ。
誤字脱字しかないと思うので、ご指摘していただけると幸いです。