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鋼鉄人機グンター  作者: 水素(仮名)
序章 闇の底から
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序章Ⅷ 帝国軍侵入(三人称視点)


■ 銀河標準歴1460年 6月8日 午前9時

■ 惑星オストラコン 中央大陸管区 同盟首府オストラコンセンター市 国立ロイド=アズマ祈念大学


「おお、すまんのぅラーサ君。軍の奴らも急に言い渡して来てな」


 ピックアップトラック型EVの荷台に積まれるサーバー類。禿げ頭、白衣の小男、コーネリアス=アマッター教授の研究室は帝国と同盟の開戦を受けて疎開の準備に勤しんでいた。このマッドサイエンティストを絵に描いたような男は同盟軍の地下抵抗都市計画『O-7』に従い、自らの専門分野である人間工学を活かした操縦系の設計を続けるために拠点を地下都市へと移すのだ。


「……教授、我々が疎開を命じられたという事は、同盟宇宙軍は負けるのでしょうか?」


 彼の唯一のゼミ生、ラーサ=ラシンが尋ねる。桃色の髪をショートボブに刈りそろえた知的な印象を与える美女の、憂いを帯びたエメラルドグリーンの目が少し震えていた。


「しっ、滅多な事を言うでない。……妹さんが、心配かね?」


「はい」


「これは秘匿情報じゃが、彼女はメリンダ市から選出されるマイダーのパイロット候補に挙げられておる。もしもの事が有れば、優先して疎開させられるはずじゃ」

 

 平然と機密情報をペラペラしゃべる老人に辟易しつつも、ラーサは少しほっとした様子だった。最後の荷物を荷台に積み上げ、蓋をすると二人はキャビンのドアを開き、搭乗する。


「……それよりもどうじゃ、ちょっとこれを見てくれんか」


 浮き出たコンソールから移動先をEVに指示しつつ、アマッターは携帯端末を起動しラーサにある動画を見せた。


「……何ですかこれは、模擬戦?」


 そこに映し出された映像では、3機のマイダーが戦闘しているように見える。


「そうじゃ。一昨日シミュレーター上で行われた2対1での模擬戦の様子じゃ」


「2対1ですか。通常の教練では有り得ない話ですね」


 マイダーの自動照準の仕様上、教練が同程度の者同士が2対1になった場合はよほど息が合っていない限りは1機側に勝機はない。例え1機目の撃破に成功したとしても、2機目の砲撃を回避することは不可能だろう。


「……手動照準を使って足を破壊した?……まだ主装甲が貫通出来ないこの距離で?」


 その……恐らく1機側のマイダーはまず左から飛んで来る敵機の片手片足を機関砲で破壊した。当然、そうしている間に2機目のマイダーによって有効射程まで接近され、2機目は機関砲を発車しようとするが……


「早いッ」


 そのマイダーはとても素人が乗っているとは思えない動きで、スラスターをふかして旋回し、2機目の砲撃を盾で防御、機関砲による反撃で2機目をまず撃破し、片手片足を失いながらもパイルバンカーを突き立てようとスラスターをふかす1機目に、


「蹴り……ですって!?」


 蹴りでパイルバンカーを叩き落し、逆にパイルバンカーを突き立てて勝利した。


「……これは、さっきの旋回はどういうことですか。マイダーの操作系では、そして人間の反射神経では不可能です。1機目を手動照準で射撃している以上、別々の人間が操縦を担当していない限り2機目に対処できる訳がありません。双方に意識が向くはずがないからです」


「常識的に考えればそうじゃろうなあ」


 EVが動き出すと、アマッターはその禿げ上がった頭をツルツルと触りつつ答える。


「……一応言うとくが、きちんとシミュレーターは正規の動作をしておるぞ。あくまで異常なのはパイロット自身じゃ」


「何者ですか?」


「オサリバン博士の息子さんじゃよ。君の妹の同級生のな」


 ……そうアマッターが告げると、ラーサの顔がどこか憂いを増したように見える。その時、アマッターの通信端末に着信が入った。


「……ワシじゃ。……うん、うん、そうか」


 通信を短く切ると、博士はラーサに向きなおす。


「帝国の主力軍と見られる多数の熱源が宇宙要塞カルラエを発ったそうじゃ。始まるの」


 すでに両軍の偵察部隊があちらこちらの宙域で刃を交わしているという。……同盟宇宙軍が想定した迎撃作戦は間近だった。


「……マイダーでは、メタルロイドには勝てないと博士はお思いですか?」


「勝てん。開発に関わったワシが言うのもなんじゃが勝てん。あれは人型兵器とだけ言葉を聞いた各々の技術陣が、勝手にそれぞれ絵を描き上げたものを無理やり形にまとめた代物じゃ。誰かが早期に開発の音頭を取らねばならなかった、それはワシじゃったかもしれんという痛恨の念があるわい」


 EVは、地下都市への検問の入口へ差し掛かりつつあった。キャビンの中にも影が差す。


「……勝たなくてもよい。せめて、せめてメタルロイドの一機を鹵獲出来れば……!」


 そう語るアマッターの顔に明らかな執念の焔が移りだすのを、ラーサは感じていた……



■ 銀河標準歴1460年 6月15日 午前8時

■ 惑星オストラコン 静止衛星軌道上 同盟軍旗艦『メドゥサ』艦橋


「艦影確認。スキピオ級戦艦です!」


 それは、地球帝国軍の主力艦の名である。1200メートルの巨体はこのメドゥサを含む同盟軍主力カスバール級戦艦の1000メートルを上回り、電子ビーム砲やレールガンの火力もその分上だろう。数分後、より詳細な報告が艦橋へもたらされた。


「敵艦隊は本艦より1Umユニバーサルメーターの距離を巡航中。推定接触時間、3時間後!」


「総数はスキピオ級2500と、より小型の新型艦が3000!」


 司令塔に居たマッセナ議長は、その総数の情報を聞いて少し安堵していた。同盟軍の現在の戦力はカスバール級4000隻。戦艦で戦力を統一出来ており、その各々が護衛にマイダーを搭載している以上、こちらの方が戦力は上だと彼は考えていたのだ。


「議長、どうか惑星地表へお戻りください。時間的に、今がお戻りになることが出来る最後の機会でしょう」


 側近たちが通信で面会を求めるが、


「ならん。ここで私が引き下がったら、誰が私に付いて来よう。何より私は見たいのだ。我が軍が勝利する様を」


 ……この行動は、結果的に彼の命取りとなる。



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