表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鋼鉄人機グンター  作者: 水素(仮名)
序章 闇の底から
5/12

序章Ⅴ かくて死体の山は築かれる(三人称視点)


■ 銀河標準歴1460年 4月25日 午前0時

■ 惑星オストラコン 中央大陸管区 同盟軍地下司令部


 昨日の皇帝による演説の狙いは明白だった。


 αケンタウリ同盟の結成において、駐留帝国軍の取り込みは最大の問題であった。駐留軍司令のビアトールはマッタナ総督に同調してそのまま同盟に加わったが、末端がその命令を聞いてくれるかどうかはかなり危険な賭けだったというしかない。


 結果、駐留軍総数40万人の半数近くが同盟に加わらず、彼等の多くは太陽系とのスペースゲート近傍に存在する宇宙要塞カルラエへと集結した。皇帝は彼等に対して『見捨てない』とメッセージを送ったのだ。


 現状、同盟軍は3惑星の各地からかき集めた訓練中の新兵たちと駐留軍の中で同盟に協力してくれた者たちの雑多な混合軍に過ぎない。そして駐留軍はあくまで治安維持の為の部隊に過ぎず、帝国軍の切り札たる『メタルロイド』を一機として与えられていなかった。


「軍事の専門家として申し上げます。速やかに宇宙要塞カルラエを攻略し、スペースゲートを封鎖するべきです。スペースゲートさえ押さえれば帝国本軍の到来をしばらくは防ぐことが出来ます」


 マッタナ総督……いや議長が出席する最高司令部会議の場でビアトールは提案した。


「時期尚早ではないかね。新たに徴募した兵士達の訓練が終わっていない。現状の戦力では不可能なことは提督なら分かっておられるはずだ」


 マッタナ議長をはじめとして、最高司令部会議の他の面々はそう反論する。


「私は思うのだ。皇帝陛下が率いる帝国本軍をこのオストラコンの近傍で倒してこそ、我々が帝国に対して勝利した証を銀河へ喧伝出来ると。そうすれば、我らに続く星系が必ず出て来る」


 議長の見解はこうであった。


「……残念ながら、このままでは勝利はおぼつかないでしょう。帝国本軍がオストラコンに来襲するまでの猶予は現状では2か月。……彼等に『メタルロイド』があり、我が方にない以上、我々は勝利することは出来ません。星系内のすべてのスペースゲートを掌握し封鎖することで、帝国軍の来襲を決定的に防ぐことが出来ます。それが、我々が『負けない』唯一の道です」


 尚もビアトールは食い下がるが、


「他星系からの資源に依存している産業も多い。スペースゲートすべての封鎖は我々に対する兵糧攻めにもなるのだ。……提督、我々は『負けない』為に戦うつもりはない。帝国に『勝つ』為に戦うのだよ。その為の作戦を立案してくれたまえ」


 議長は受け入れる気はなく、あくまで『帝国本軍を星系に引き入れこれを迎撃する』という方針にしたがって作戦を立案するより他なかった。


「……仕方ありませぬな」


 ビアトールも、駐留帝国軍の全軍掌握に失敗したことを引け目に感じており、彼等に対して強い態度に出ることは出来なかったのである。


 現状、同盟軍の総戦力は200万人を数える。しかし、戦力の中核となれる駐留軍出身者は20万人ほどだ。同数程度の戦力であろう帝国本軍が襲来した場合、勝利できる見込みは小さい。まして敵には『メタルロイド』がある。現在、惑星ロンドリーナと惑星テオメアの地下工廠にて宇宙戦闘艦とマイダーの建造が急ピッチで進み、帝国軍が来襲するであろう2か月後には4000隻の宇宙艦隊が並びそろう予定になっているが……


「時間稼ぎぐらいには、なるだろうかな……」


 この老提督とて、帝国の現状に憤っているからこそ同盟へと参加したのだ。やるからには自身の手で同盟を勝利に導きたい。……が、宇宙空間での正規戦での勝利は極めて厳しいというのが彼の結論だった。だとすれば、後は敵軍の惑星への上陸を前提にしたゲリラ戦を今から用意しておかねばならない。


「オサリバン博士」


 会議が解散した後、同盟の幹部の一人であるオサリバン博士にビアトールは個人的に面談を申し込んだ。彼はゲリラ戦を前提に、惑星オストラコンの各地に地下要塞を築いた都市計画の推進者であった。この地下司令部も彼の設計によるものであり、地下のトンネルを通じて他の要塞網へ蜘蛛の巣状に繋がっている。


「……提督、やはり使う事になりますか」


「ご子息が惑星上にいる身としては心苦しいでしょうが、おそらく今の同盟宇宙軍の力では帝国軍を太陽系に追い返せません。もちろん議長の作戦方針である以上は、惑星オストラコンの静止衛星軌道上における迎撃を前提に、全力を尽くす予定では有りますが……」


 ビアトールは率直に話した。


「無用になればよいと思っていたのですが……分かりました。敵が上陸する前提で、市民全員での抵抗準備を今後も進めていきます」


 宇宙での防衛網を突破された場合、同盟の支配下にある3惑星の内人口と経済力の集中しスペースゲートにも最も近いこの惑星オストラコンに、帝国軍は戦力を集中して攻略戦を図ってくるという予測を彼等は立てていた。議長のいう通りに他の星系が続く可能性があるならば敵も早期決着を目指す、その心理を逆に突いて地上での戦いを長引かせて帝国軍を消耗させ、その間に他の2惑星で反撃準備を整えようというのだ。


 その為にアルタの学校における軍事教練のような、戦時の準備が惑星各地で進められているのである。……一方でそれは、惑星オストラコンとそこに住まう人々に、多大な犠牲を強いるという事でもあった。


「負担をかけることになりますな」


「いえ、帝国の暴虐はここで止めなければなりません。誰かがやらねばならぬとすれば、我らαケンタウリの民でなくて誰だというのですか」


 オサリバン博士はそう口に出しつつも、何も知らぬ妻と息子の事を思った。パニックを起こさせぬためにも、彼等に全てを話せるのは敵が侵攻後、無事互いに生き残って後になるだろう。


 惑星オストラコンに血の帳が降りるまで、まだ2か月の猶予があった……


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ