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鋼鉄人機グンター  作者: 水素(仮名)
序章 闇の底から
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序章Ⅳ 宣戦布告


■ 銀河標準歴1460年 4月24日 午前10時30分

■ 惑星オストラコン 中央大陸管区メリンダ市 私立ユージェント高校 地下格納庫


「ほれ、手前らの番だ、とっとと乗りな」


 歩行訓練を終えたダンがシミュレーターの椅子から降りる。


「……その内ここで、昨日の続きをしようぜ」


 そうとだけ、言い残して。それは宣戦布告だった。


「ほら、乗るわよアルタ、カルロス」


「へいへい、ミラに言われなくとも!」


 ともあれ席は空いた。俺達の番だ。俺が真っ先に席に座ると、その隣には、


「あら、ここはミラに譲った方が良かったかしら?」


「別に、あたしはカルロスの隣に行くわよ。サリー、どうぞ」


 ミラの友達であるサリー=フィアが席を占め、その向かいにカルロスとミラが座った。


 サドル型の座面の座り心地はそれほど良くなく、長時間は耐えられなさそうだ。足をフットペダルに置くと、自動的にバンドがそれをホールドする。操縦桿を左手に、スロットルレバーを右手に握り、準備は整った……筈だ。


「よぉ辛口少年、最後の組はお前らか。始めるぜ」


 別に好き好んで最後になった訳じゃないが、みんなが我先にと場所を取ったからだ。軍曹の軽口と共に仮想カメラ画面が起動する。うーん、何と言うか、月並みな感想だが自転車に乗っているような感覚だ。


「まずは歩いてみてくれ。足を動かすだけでいい」


 よし……足をゆっくり……うご……!?


 あれ?視界が横転したぞ?ひょっとして倒れた?


「あー……まあ初めての時はそんなもんだろうな。AIが立ち上がらせるからちょっと待ってくれ」


 戦場でこんな事やってたらマトにしかならない。にしても……


「軍曹、質問があります」


「何だね、少年?」


「このような兵器が、人型である必要があるのでしょうか?」


 ……どうして、間接的に人間の意識と連動してまで人型である必要があるのだろう。


「……エーテル物理学による可視光近傍波長を除く電磁波の遮断により、宇宙でも接近戦をやる羽目になった。この説明では不足かな?」


「それでは尚更、可視光で発見されやすい人型を取っている意味が分かりません」


 屁理屈かも知れない。だけどそんなモノに嬉々として命を預けることをこの人は疑問に思わないのだろうか?


「ふむ……」


 軍曹は操縦桿から左手を離し、顎に手を当てると、


「君は、『人間の産み出す不確実性』という単語に聞き覚えはあるかい?」


 と語り掛けてきた……学校で、少し聞いたことのある単語だ。


「確か……宇宙に出た後、人類は増大させた不確実性によって未来の可能性を広げてきたとか……観念的な話すぎて良く分かりません」


「君にとっては観念的かも知れないが、それを理論としてまとめている人がいて、兵器として利用するために最も確実な形がこの人型兵器という事になっている。例えばこのウォーカーメタルならば、敵の攻撃が飛んできたときに避けるか、左腕のシールドで受け止めるか、あるいは迎撃するかという選択肢が出て来る訳だ。これをより全体の損害の少ない方に持って行く状況判断は、AIには向かないのさ」


 分かったような分からないような話だ。


「……人型兵器には無限の可能性がある、要はそういう事さ」


 動作AIが起動し、俺のマイダーが立ち上がったようだ。それでは、その無限の可能性とやらを試してやろうじゃないか。


 歩く……歩く……操縦桿を左に倒せば、マイダーは左へ方向転換してくれる。足さばきをどうやらAIが学習してきて、実際のマイダーの動作へ反映する前に修正しているらしく、先ほどのように転ぶことはないようだ。まさしく、自転車をこいでいるような感覚である。


 30分ほど経ったか、ともあれ、俺はマイダーを思った方向へ動かせるようにはなった。


「よし、全員歩行が安定したな。午前中はここまで。午後は基本的な戦闘技術を教えるぞ」


「口しか動いてなかったんじゃない、オサリバン君?キチンと動かせるようになったの?」


 サリーが席を発ちつつ、俺に聞いてくる。

 

「ま、まあね」 


「今度ダンが突っかかってきたらハッ倒せる位に?」


 ゲ……席を代わる前にダンが言ってたの、聞いてたのか。


「……た、多分」


「多分じゃ駄目よ。ミラにこれ以上迷惑かけないでね、あの子、オサリバン君の事大分心配してるから」


「す、済まない……」


 ……思えばサリーも、俺のせいで昨日腕立て伏せをずっとやらされた身だ。俺にしっかりして欲しいんだろう。はぁ、気が重い……



■ 銀河標準歴1460年 4月24日 午後4時30分

■ 惑星オストラコン 中央大陸管区メリンダ市 オサリバン邸



 午後に行われた射撃訓練の結果は上々だった。……と言っても、オートで狙いを定めた相手にトリガーボタンを押すだけの作業だったのだが。その場で、カイトナー軍曹はこうも言っていた。


「もちろん、帝国軍も人型の利点を理解しているとも。……このウォーカーメタルは彼等がシリウス戦役から導入した秘密兵器『メタルロイド』の不確実な情報から再現したものさ。連中のは体高18メートルほどだったが、こっちは小型な分小回りが利くんだぜ」


 つまり、帝国軍の『メタルロイド』がオリジナルであり、こっちが使っているものは不出来なイミテーションなのではないか。


 ……そんな有様で、果たして独立戦争を戦えるのか?


 家に戻ってからも、頭の中は疑問符でいっぱいだった。


「独立派の指導者連中だけで戦争をやればいいんだよ……」


 それが、俺の偽らざる本音だ。何でαケンタウリ植民地の住民皆を巻き込む必要がある。夕方までに昨日の授業の復習を済まそうと(昨日は怪我をしてそれどころではなかった)、机に参考書を広げた頃、父さんからメッセージの着信があったので端末を起動する。ホログラムで空間に現れたメッセージには一言。


「TVをつけろ、直ぐにだ」


 ……もう少し、何と言うか情緒的なメッセージを送れないものか。ともあれ、


「TV」


 棒状のTV端末に音声認識で指示を送る。空間に映像が投影される。


 そこに映し出されたのは、帝国首都ビザンティオンの壮麗な宮殿から演説する巨人……それは比喩ではなかった。その初老の男は220センチの筋骨隆々とした巨体を白亜のバルコニーに晒しつつ演説する。世界の支配者、TVでこれまでも幾度となく拝見した神聖地球帝国皇帝アイギストス=クラウディウス=ドミナートゥスの老いてなお精力に満ちた緑色の瞳が、カメラを通して俺をにらみつける。


「……帝国政府はαケンタウリ植民地に対し、その不遜な試みを取り下げるようこの3週間を説得にあたってきた。しかし、すべては無駄であった。かの地を掌握した『αケンタウリ同盟』を自称する反乱者共は属州民共をかどかわし、属州総督を取り込み、愚かにも我らの地球、我ら優良種たる地球人に対するその血と憎しみに満ちた拳を振り上げたのだ。余はここに宣言する。帝国政府は彼等をシリウスを打ち負かしたように打ち負かす。彼等が不当に得たすべての利益、すべての権利を手放し、属州としての支配を再び受け入れ、反乱者共の首魁の首をこのフォルムに晒すまで、帝国政府は反乱者共に一切の交渉、妥協の余地はないであろうと!!」


 その言葉と共に、アイギストスは右手の指をすべて伸ばし、大きく上げる。


「アウェー・ドミヌス!!(主に万歳!)」

 

 宮殿に集まった群衆が、口々にその言葉を発しつつザッと右手を挙げた。


「アイギストス!!偉大なるバシレウス(王)!クラウディウスと地球テラの末なる者!!」


「偉大なるドミヌス(主)に火星マルス木星ユピテルの祝福あれ!!」


 ……それは、事実上の宣戦布告だった。


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