第12話 美羽の気持ち、楓の気持ち
あとから少し訂正するかもしれませんが、一応投稿させてもらいます。
「37.6℃・・・熱だな」
「別に私は大丈夫だよ」
「はいはい、わかったから。ほら、ベッドの中に入れ」
美羽は顔が赤く、少しだけしんどそうにしながらベッドの中に入ってブツブツ何かを言っているが、それを無視して俺は剥がれかけていた冷えピタを貼り直す
すると、美羽が真剣な目で俺の方を見てくるのに気が付いた
「何?」
「お兄ちゃんっていつから・・・」
「ん?」
「ううん・・・お姉ちゃんって本当にお兄ちゃんのことが好きなんだね」
「いきなり何?」
「実は私、お兄ちゃんのこと好きだったんだ」
「・・・だったって過去形?」
「うん。だってお兄ちゃんにはお姉ちゃんがいるもん」
美羽は笑うと言うより苦笑いに近い笑い方で笑い、何かを思い出すように天井を見上げた
「私ね、昔からお姉ちゃんとお兄ちゃんの関係知ってたんだ。
ほら、私がお兄ちゃんたちと会ったのって軽井沢だったでしょ?」
「そういえばそうだったなぁ」
「そのとき大きいシャンデリアがあるホテルに泊まらなかった?私、そこにいたんだよ」
「え?」
「お兄ちゃん達見つけて話しかけようと思ったけど、話かけられなかった・・・だって、お姉ちゃんがすごく楽しそうにしてたんだもん。撮影の時もお兄ちゃん達見つけたけど、楽しそうにしてた。
それで、新幹線で一緒に話した時に、間に入る所無いなぁ・・・って思っちゃったんだ」
「・・・・」
「それでも、お兄ちゃんのこと諦められなくて小牧さんに無理に頼みこんで、お兄ちゃんの学校の文化祭に行って頑張ってみたけど、やっぱり無理だったから・・・。だって、お兄ちゃん私の事を妹としてしか見てなかったんだもん」
確かに俺はあの時、妹としてしか見てなかったし、今も妹として接している。それが普通だと思ってたから
でも、美羽にとってはそれが重みになっていたのかもしれない。
俺は少し暗い顔をしてしまっていたのか、美羽は少し笑った
「大丈夫だよ。というか、私はお兄ちゃんに感謝してるんだよ?
本当はお兄ちゃん、1人で住みたかったのに私と一緒に住むって言ってくれたり、私のこと最優先に考えてくれたりさ・・・」
「・・・・」
「でも、もういいよ。私のことよりも自分のこと考えてよ。
お兄ちゃん、いつもお姉ちゃんに対してなんか一線を引いてる。ちゃんとお姉ちゃんと真正面に向き合ってあげてよ。もし、向き合ってない理由が私に対して悪いと思ってるならもういいよ」
「・・・・」
「私に向けてくれてる優しさはお姉ちゃんに向けてあげてよ・・・
私はもう大丈夫だから。私は私の道を頑張って歩いていくから・・・」
「美羽・・・」
「私は本当に大丈夫だから・・・」
「・・・水、取ってくるよ」
俺は美羽に布団を掛け直して、部屋から出ていってキッチンへ向かう
そして冷蔵庫から水を取り出して、飲む
「・・・はぁぁ、何やってんだろ・・・俺。美羽にあんなこと言わせて・・・」
自暴自棄になりそうだ・・・
正直、美羽があそこまで考えていたなんて思ってもみなかった。
昔から何も変わってないと思っていた美羽は俺のこと、チィ姉のことを考えていて、自分がその間を邪魔しているんじゃないか?と考えている
自分のことを気にせずチィ姉に向き合えって言ってくる。
それは俺がチィ姉から逃げているってことにも気が付いているってことだ。
水を飲み終えた俺は美羽の分の水を持って、部屋に入ると美羽が身体を起こしてこっちを見てきた
俺は美羽に水を渡して、勉強机の椅子を持ってきて、そこに座る
そして、俺の今の気持ちを美羽に話すことにした
「熱出してる美羽に話すことじゃないけど、たぶん今しか話すことができないと思うから美羽にだけに今の俺の気持ちを話すよ」
「・・・うん」
「美羽がさっき、俺は美羽のことを妹としてしか見てないってことは本当。それ以下でもそれ以上でもない。でも、俺にとって大切な人の1人」
「うん」
「もちろん、チィ姉も大切な人の1人だけど、やっぱりあの人は特別なんだろうね。
前、美羽に見られたことあったけど、無駄にくっ付かれるのも苦にならないし、キスされても別に嫌じゃない、喧嘩とかしたら後悔するし・・・たぶん、俺はチィ姉のことが好きなんだと思う」
「だったらなんで・・・」
「ん~、美羽が思ってる好きって気持ちと俺がチィ姉に好きって気持ちはちょっと違うんだよ。
美羽の俺に対して好きだったって言うのは異性としてだろ?でも、俺がチィ姉に対しての好きは、もちろん異性として好きってのもあるけど、その上に姉として好きが加わる」
「でも、好きには変わりないんでしょ?それに血が繋がってないし・・・」
「まぁね。でも、チィ姉とは5歳からずっと一緒にいたし、ずっと姉と思って関わってたから・・・今更、チィ姉のことが好きって思っても俺の中じゃ姉としてのチィ姉が残るんだよ。
それに、あれだけ有名になったチィ姉を見てるとなんだか俺と一緒にいちゃいけないみたいに思うときだってある」
「でも!・・・」
美羽は何か言いたそうに俺の方を見てきたが、すぐに目を反らした。
それは俺の言いたいことが美羽自身が一度経験したことがあるから。
自分が有名になりすぎて学校の友達が最初の方は近寄ってきたけど、時間が経つに連れて離れていったこと。そして、自分が仕事を一時休業にしてTVに出なくなると、皆と普通の学生生活が送れていること。
それが何を示しているのか美羽には分かっているとはいえ、やっぱりそれを肯定することはできなかったのか俺の方を見てきた
「でも!お姉ちゃんはそんなこと気にしないよ!!」
「そりゃそうだろうけど、俺とチィ姉は違うよ。もちろん美羽と俺も。人は皆同じじゃないんだよ。チィ姉が気にしなくても俺は気にする。どれだけ好きって思っても、やっぱりチィ姉は有名人。
もし、付き合うとなればチィ姉と俺だけの問題じゃ済まなくなる。沙羅さん、小牧さん、チィ姉のファン、そして同じ家に住んでる美羽にも迷惑がかかるんだよ。マスコミはそういうのが大好きだから」
「・・・・」
「だから、俺の気持ちは自分の中で閉じ込めておく。それはチィ姉が芸能界に入ったときから俺の中で決めたことだから」
「でも、でもでもぉ・・・」
「・・・ありがとうな、そこまで考えていてくれて」
「うぅ・・・」
美羽は布団をギュッと握って涙が流れるのも気にせず、俺の方を見て何かを言おうとしていたが、俺は微笑みながら美羽の頭に手を置くと美羽は俯いて流れる涙を静かに拭いた
それからは美羽も俺も何も話さず、ただ時計の音がカチカチと響く中、時間が過ぎていった