第3話 紅葉
「九十九く~ん」
「・・・」
「九十九ちゃ~ん」
「・・・・」
「つっくん~」
「・・・」
大学の掲示板を見ていると遠くの方から呼ぶ声がする
もちろん、俺を読んでいるんだろうけど無視して次の授業まで図書室に向かうために歩く
「つ~く~も~く~ん~」
周りの人は何事かとキョロキョロし、呼ばれている九十九という人を探していて、俺は何食わぬ顔でその場を離れようエレベーターに乗り込む
「・・・・うわっ」
エレベーターの扉が閉まるギリギリの隙間に手が入ってきた
そして、その手はエレベーターの扉をこじ開け、どこかのホラー映画のように本体が出てくる
「無~視~す~る~な~」
ハァハァと息を切らせながら真美先輩が現れた
なんとなく俺は閉のボタンを連打する。もちろん人が間に入ってるから閉まらないのだけど
「こらっ!!九十九くん!」
「なんですか?真美先輩」
「なんですか?じゃないよ。今日こそは付き合ってもらうよ」
真美先輩は俺の手を掴んで、ニヤリと笑い引っ張っていく
「ちょっと・・・俺、授業ですよ」
「次の授業は4限でしょ?あと1時間以上はあるじゃない」
「なんで俺の授業把握してんですか・・・」
「私を誰だと思ってるの?」
「デブ猫が大好きな真美先輩」
「九十九くん?俊丸の悪口は許さないよ?」
真美先輩は目が本気で怒っていて、俺の腕を自分の胸に押し付けてくる
そして、ニヤっと笑って携帯を開き、俺に画面を見せてきた
「この子に今の状況、知らせたら大変なことになるでしょうね~」
「なっ、鬼ですか!」
「ふふ~ん」
携帯の画面には「美羽」と表示されていて、真美先輩はものすごいスピードでメールを埋めていく
その内容は『美羽ちゃん!助けて!九十九くんが私の胸を・・・(以下略)』っと言った感じ
そんなのを美羽が知って、もしチィ姉なんかに言ったりしたら真美先輩の想像以上に大変なことになることは確実だ
「・・・はぁ、お手上げです。何か用ですか?」
「よろしい。ちょっと近くで千夏が出てるドラマの撮影がしてるみたいなんだ」
「・・・で?」
「それを見に行きたくて」
真美先輩は嬉しそうに話しながら俺の少し前を歩く
ちょうど真美先輩がモデルを辞めたときにチィ姉が出てきたので、美羽と面識があっても、チィ姉とは話したことすらない。もちろん、俺とチィ姉の繋がりも知らない。
そして、真美先輩はこの通り、チィ姉の大ファン
CDやライブDVDなどは欠かさず買って、出ているドラマ・音楽番組も欠かさず見るほどのファンだ
「今回のドラマは確か原作が・・・紅葉だったかな?」
「へぇ~」
「実は私、紅葉も好きなのよね。なんか忘れかけてた気持ちとか思いだすでしょ?」
「さぁ?どうなんでしょう」
「あれ?九十九くんは読んだこと無いの?いいよ~特に紅葉のデビュー作はいいよ。あと今回のドラマの原作の3作品目もね。さすがあの星井 鈴のお弟子さんだね」
真美先輩は楽しそうに紅葉のことを俺に話す
まさかその紅葉が近くにいるとは思わずに・・・
「どこまで歩くんですか?」
「すぐそこ。ほら、見えてきた」
真美先輩が指差す方向を見ると、公園の中で撮影しているみたいだった
人がたくさんいると思っていたけどあまり見物人がいない
「あ~、今回の撮影は非公開だよ」
真美先輩は俺の考えていたことが分かったかのように説明してくれて、俺はなんで真美先輩は此の事を知っているのかと不思議に思ったが、口にするとメンドクサイことになるかもしれないので聞かないでおく
そして、俺と真美先輩は撮影に害の無い所で見物することにした
横の真美先輩は生千夏を見られており軽く興奮気味で、俺は仕事をしているチィ姉を見るのは久しぶりで辺りをキョロキョロしているとある人と目が合ったので頭を下げると向こうは“こっちに来い”と言った感じに手を振ってくる
「すみません、ちょっと俺トイレ行ってきます」
「・・・うん・・・いってらっしゃい」
真美先輩は完全にチィ姉に見惚れていて俺がどこに行こうとどうでもいい感じに言って、再びチィ姉の方を見ていた
俺は少し遠周りをしながらある人の所へ向かった
次の更新は少し遅れるかと思います。