第2章 1話 楓と書いて“ふう”と読む
第2章始めました。
これからも色んな事があるかもしれませんが、よろしくお願いします。
空は明るい
でも、今は昼ではなく、夜だ
東京は眠らないのか?と言うぐらい明るい
俺はその中を今、住んでいるマンションに向かって歩く
チィ姉とのラジオの最終回を終えてから、約2年と少しぐらい経った
俺は大学生になり、チィ姉はトップアイドルとして沙羅さんと共に忙しい日々を送っていた
「・・・・」
「つ~く~も~くんっ!!!」
「うわっ!?」
後ろから急に飛びつくような感じで抱きつかれ、俺は前にコケそうになったが、なんとか耐えて振りかえる
「・・・何ですか?真美先輩」
「ん?九十九くん見つけたから確保したんだよ?」
「今日は東大生と合コンとか言ってませんでした?」
「すっぽかしちゃった」
「そうですか。・・・じゃ」
「こらこら、先輩が寂しそうにしているのにこのままほっておくつもり?」
「寂しそうに見えないんですけど?」
「寂しいよ。もうこの寂しさをどこかの知らないおじさんに紛らわせてもらおうかと思ってるぐらい寂しいよ」
「そうですか。高く買ってくれるといいですね」
俺は特に気にせずに、そのまま家に向かって帰ろうとすると、真美先輩は携帯を取り出し、どこかに電話をかける
「あ、私。・・・うん。今ね、九十九くんに俺の彼女になれよ。みたいなこと言われたんだ・・・うん、そうなの・・・うん、酷いよね。もうね、家に帰るみたいだからこんな酷い男、懲らしめてやってよ。・・うん、じゃあね」
「な・・・ど、どこにかけました?」
「お察しください。さぁ~てと、私はお家に帰って俊丸のためと遊ぼっと。あ、頑張ってね。電話の向こうでものすごく怒ってたから」
「・・・鬼ですか?」
「こんな可愛い鬼がいるなら世間はなんで鬼を怖がるんだろう?あ、今度飲みに行こうね、じゃあね~」
真美先輩はそう言いながら手を振って、町の中に消えていく
真美先輩は、俺の通っている大学の2つ先輩で、前に1年間だけモデルもしていたらしい。
そんな真美先輩との出会い方は、俺がまだ大学に慣れていない時に、声をかけてくれて、色んな所に案内してもらい、そのまま何故か真美先輩が入っているサークルに入れられ、抜けようと頑張ってみたがそれもできなくて、結局仲良くなった
ちなみに、俊丸とは真美先輩が飼っているネコで、ものすごっく太っていて、正直いつ動けなくなるか分からないぐらい太っているネコのこと
真美先輩曰く、毛がモコモコしていて、脂肪でふにゅふにゅでこれ以上可愛いものは無いらしい
俺は一つ深いため息をついて、今から家でどんな説教が待っているのかとビクビクしながら家に向かって歩いていく
「ただいま」
「・・・・」
マンションの前に着くと、部屋の番号を押して、ドアを開けてもらう
俺の今住んでいるマンションは高峯系列で、安く買えた。
もちろん、普通の大学生が買えるような値段では無いけど・・・
マンションの入り口が開くと俺はエレベーターに乗り、自分の家の階まで上がり、ドアの前に立つ
そして、深呼吸をしてから気合を入れて、家のドアを開けた
「ただいま」
「・・・・おかえり」
扉の向こうからいかにも怒ってます!と言った感じの声がする
俺はリビングに通じる扉を開けて、怒っている感じに声をしている人の前に座った
「・・・ただいま・・・・美羽」
「おかえり。真美さんからの電話、どういうこと?」
美羽は正座で俺の前に座り、さすがトップアイドルまでのし上がった演技力なのか、身体の大きさ以上のものすごい威圧感を感じる
「あれは真美先輩が勝手に言ったことだから、安心して」
「・・・・」
「あの人は俊丸以外、興味無いから」
「・・・・・」
「・・・・美羽?」
「本当?」
「ん?あ、うん本当。だから一緒にご飯の準備しようか。今日もうるさいのここに来るんでしょ?」
「うん。今日はハンバーグの予定なの」
美羽は俺の発言を信じてくれて、笑顔になり、キッチンに走っていく
俺はその後を追って、美羽と俺の2人でハンバーグの準備を始めた
「今日ね、授業で分からない所があったんだ」
「いつも分からないって言ってないか?美羽」
「い、いつもじゃないよ!そりゃお兄ちゃんやお姉ちゃんは頭が良いから何でも分かるんだろうけど、普通の人はそんなもんなの」
「俺は毎日勉強してたよ、高校の時は。チィ姉はテスト前にしてたぐらいだけど」
「だって、眠たくなるんだもん・・・教科書開くと」
「まぁ分からないこともないけど」
美羽が授業で分からないところが出てくるのは、中学の時あまり勉強できなかったからしょうがないんだけど・・・
俺はハンバーグが焼いている間に、ポテトサラダを作る
美羽はその横で、コーンスープが焦げないように回しながら英語の単語ブックを見てブツブツと言っている
その光景は、なんか面白い
「cry・・・泣く・・・あれ?叫ぶ?」
「泣くもあるけど、叫ぶもあるよ」
「へぇ・・・birth・・・誕生。ominous・・・ominous・・・」
どうして、簡単な単語からいきなり難しくなったのかよく分からないが、美羽は「ん~・・・」と答えを見ずに頑張って振りだそうとしていて、俺はその姿を見ながらハンバーグのソースを作りにかかる
「ん~・・・。あ、お兄ちゃん分からないでしょ。ominous」
「“不吉な”とか“不気味”とかじゃなかったっけ?」
「・・・わぁ、合ってる。じゃあ・・・yolkは?」
「yolk?・・・卵黄だっけな?というか、なんでこんな難しい単語?」
「だって少しでも賢くなりたい」
「ふ~ん・・・んじゃ俺から問題、independenceの意味は?」
「independence・・・independence・・・・難しいよ・・・」
「独立。基礎単語だぞ?これ」
「う・・・」
美羽は基礎単語も答えられなかったという敗北感からか、やる気を一気に無くし、スープを混ぜる手も止まってしまった
俺は、しまったと思いながら、ハンバーグをひっくり返す
「これ食べ終わったら勉強教えてあげるから。これから頑張れば大丈夫だよ。美羽」
「・・・うん」
俺は美羽の頭を撫でて、美羽が笑うと俺は机に皿を並べてと言い、俺と美羽は夕食の準備の最終段階に入った