第73話 背中を押す勇気
「チィ姉」
「・・・・」
時計の針が2時を指そうとしていた
俺はまったく眠くならず、チィ姉も同じなのか、時々こっちを見てきてはすぐに目を離す
そんな感じで時間だけが進んでいく
俺は雰囲気を変えるために話しかける
「これは俺の独り言ね。俺は別に怒ってるわけじゃない、むしろチィ姉は美羽みたいになれると思う。
でも、チィ姉は本当にやりたいの?本当にやりたいなら俺は応援するよ。でも、やりたくないんだったらちゃんと断った方がいいよ。あ~ゆうのはしつこいと思うから」
「・・・べつにやりたくないわけじゃない」
チィ姉は静かに、でもしっかりと聞こえるような声で言った
そして、少しだけ間があり、俺の方を見詰めてくる
「別にやりたくないわけじゃないんだよ・・・修学旅行先でスカウトされた時は嬉しかった・・・。
でもね、時間が経てば経つほど、私にできるのかな?私には向いてないのかもしれない、とか考えちゃって・・・」
「・・・・」
「それでね、もし、芸能界に入ったら今までの生活が崩れるのが怖いの。いつもみたいにふーちゃんに抱きついたりできなくなるかもしれない、沙羅とか悠斗くんとも会えなくなるかもしれない、ふーちゃんの顔が見れなくなるかもしれない、私の事を忘れちゃうかもしれない・・・それが怖いの・・・」
チィ姉の目には涙が溢れそうになっていて、もう少しで流れそうだった
俺はその姿を見て、いつものチィ姉が美羽以上に小さく感じた
そして、そんな小さいチィ姉を黙って見てるのが辛くて、少しでも勇気をあげたくて、俺はチィ姉を優しく抱き締める
「ひっく・・・う・・・ふ~・・ちゃん・・・」
「大丈夫だよ、今は携帯とかあるし何時でも話せるでしょ。あと、俺はチィ姉を忘れないって」
「うぅぅ・・・ぐす・・・ひっく・・・」
「沙羅さんも悠斗もチィ姉のことを忘れないし、会おうと思えば会えるよ」
「すん・・・うっぅぅ・・・」
「俺はチィ姉がどんな道に進んでもちゃんと見てるから。もし、その道の途中で辛いことがあったら俺が近くにいるから・・・一緒には無理かもしれないけど後ろから背中を押してあげることぐらいはできるかもしれないからさ」
「うぅ・・・うああぁぁぁん、ぅぁぁ~」
チィ姉は我慢が出来なくなって俺の胸の中で泣きはじめる
俺はチィ姉を抱きしめたまま、チィ姉が泣きやむまで頭を撫で続けた