第72話 クリスマスイブの出来事
「なんで黙ってたの?」
「・・・・」
「はぁ・・・黙ってても何も分からないよ。チィ姉」
「・・・・」
「もう一度聞くよ?なんで俺にだけ黙ってたの?チィ姉」
良い子は寝る時間の1時、俺はチィ姉を前にして
チィ姉は俯きながら黙っている状態で、俺はそれを見ている
なんでそんな状況になったかと言うと出かけている時まで遡ることになる
「えへへ~」
「・・・」
「・・・にへへ~」
「・・・何ニヤニヤしてんのさ、気持ち悪い」
世の中はイルミネーションが綺麗に輝く『クリスマスイブ』
俺はチィ姉が前から「見たい、見たい」と言っていた映画を見るためにバスで映画館に向かっていた
バスの中では俺の横にピッタリとくっ付いている
俺は嫌オーラを出しまくっているので周りの人たちは遠慮して横目でチラチラ見てくる
「下りるよ」
「あ、うん。まって~」
俺は早歩きで映画館に向かって、見たいと言っていた映画のチケットを買って、さっさと中に入る
「あ~…ポップコーン食べたかったなぁ」
「食べきれないでしょ」
俺は後ろで愚痴を言うチィ姉を置いて、自分たちの席に向かうとチィ姉は走ってきて俺の横の席に座ると、映画が始まった
「感動したっ!!」
「古い・・・」
「なんか感動したらお腹減ってきちゃった。ふーちゃん、ご飯食べに行こうよ」
「了解」
俺とチィ姉はそれから、お昼ご飯を外で食べたりしてなんだかんだ言いながら楽しく遊んでいた
しかし、そろそろ帰ろうとしていた時に問題が起こった
「そろそろ帰ろうよ、チィ姉」
「え~、もう少し遊んで行こうよ」
「終わり。帰って晩御飯作らないといけないでしょ」
そんな会話をしながら歩いていると急にチィ姉が前を向いたまま固まった
なんで急に固まったのか不思議に思って前を見ると黒いスーツを着た人がこっちに向かって歩いてくる
その人は俺たちに向かって歩いてくるが俺には見覚えが無い
でも、黒いスーツを着た人は俺たちの前に止まった
「・・・・」
「こんばんわ、千夏さん」
「・・・こんばんわ」
チィ姉にしては珍しく人の顔を見ずに挨拶をしたのはちょっと気になる
前に立っている黒いスーツの人は俺の方を見てきた
「はじめまして、黒沢と言います。えっと・・・」
「あ、楓です。千夏の弟のような感じです」
「あ、弟さんですか」
「え~っと・・・姉がいつもお世話になっています?」
「いえいえ、私は千夏さんとそういう関係では無いですよ」
黒沢さんは笑いながら手を振っている
そういう関係ってのが良く分からないが、友達みたいな感じでもない。そうなるとチィ姉の彼氏候補なんだろうか?と思いながら見ているとチィ姉が俺の手を握ってきた
「ん?」
「・・・・」
チィ姉の方を見ると俯いたままで、じーっと下を見ている
俺にはなんでチィ姉がそんな状態なのかよくわからないが前にいる黒沢さんのほうを見ると何かに気が付いたみたいだった
「あ、もしかして、楓くんは知らないのかな?」
「え?」
「私はこういう者なんですよ」
黒沢さんは財布から名刺を渡してきた
それを見ると「東都芸能事務所」と書いてある
「芸能事務所?」
「はい。私は千夏さんを東京で見かけてスカウトしたんですよ。千夏さんは私が見てきた中でも特別光ってます。だから、あの小雪に、いやそれ以上に有名になることだってできると思うんですよ」
「そ、そうですか・・・」
黒沢さんは熱く語っているが俺は苦笑いしかできないでいた
横にいるチィ姉は俺の手をさっき以上に強く握っている
それから、俺とチィ姉は黒沢さんに別れを言って家に帰っていたのだが、チィ姉は黙ったまんまで俯きながら歩いていた
そして、その状態が今の状態まで続いている
「チィ姉、黙ってたら分かんない」
「・・・」
「・・・怒らないから、ちゃんとチィ姉の意見を聞かせてよ」
「・・・・」
「はぁぁぁ・・・」
俺は深いため息をついて天井を見上げた