第64話 静かな家も騒がしくなる日
チィ姉が修学旅行に行ってから1週間
今日、チィ姉が帰ってくる
たぶん、ものすごく不機嫌な感じで
俺はそんなことを気にせず、いつも通り朝ごはんを食べて学校に行こうとするとカバンを引っ張られた
「おわっ」
「楓、ちょっと仕事手伝いなさい」
「あの~・・・学校なんですけど・・・」
「緊急事態。こっちの方が大切」
「・・・了解」
この状態の母さんに反抗しても無意味なだけなので靴を脱いで、母の後についていく
そして、母の部屋に入る
「それで、俺は何をすればいいの?」
「この原稿をパソコンに打ち込んで」
「珍しい、原稿用紙に書いたんだ」
俺は渡された原稿用紙を受け取り、近くにあるパソコンを立ち上げる
いつも母はパソコンに直接打ち込んでるので、原稿用紙に書くなんて数年ぶりだろう
それにしても、汚い・・・
一応読めるので、俺はパソコンに打ち込んでいく
「なんで原稿用紙なんかに書いたの?」
「気分よ」
「ふ~ん」
それから2時間近くやり続けていると、目が痛くなってくるし肩も凝ってきた
俺は背伸びをしてジュースでも飲もうかと立ちあがる
「終わったの?」
「ジュースでも取ってこようかと」
「コーヒー」
「了解」
俺はリビングに行き、水を沸くまで待つ
家の中は母も仕事をしていて、チィ姉もいないので静かだ
そんな空間にいると時間もゆっくり進んでいる気がしてぼーっとしていると水が沸いたと知らせる音が聞こえた
「はい、コーヒー。ここ置いとくよ」
「ありがとう」
俺は再びパソコンに向かって次々と打ち込んでいく
そして、また何時間か経つとピンポーンとインターホンが鳴った
母は気にせず仕事を続けているので、俺が玄関の方まで行く
その間も何回かインターホンが鳴った
「はいはい、聞こえてますよ」
急いでドアを開けると紙袋を大量に持ったチィ姉が息を切らせながら立っていた
「・・・・・」
「お、おかえり。チィ姉」
「・・・・」
チィ姉は俺がいると思っていなかったのか、驚いているようで目をぱちぱちしている
そして、どんどんチィ姉の目に涙が溜まり始めた
「う、うぅ・・・」
「な、なに?なんで泣く・・・」
「うぅ・・・ふぅ~ちゃぁぁ~ん」
チィ姉は持っていた紙袋を落として、全力で俺に飛びついてくる
そして、人の頭を何度も何度も撫でたり、頬をこすり合わせてきたり、キスしてこようとしてくる
俺はなんとかキスだけは回避したが、あとのことはやられたい放題だ
「ちょ、いい・・・加減にっ」
「ふぅ~ちゃぁん」
「いい加減離れてって!」
「本物ふぅ~ちゃぁん」
「は、な、れ、ろ~」
無理やりチィ姉を引き離して、着替えてくるように言う
「キスしてくれたら言うこと聞く」
「はぁ?子供か・・・」
「ふーちゃんが写メ送ってくれなかったから、修学旅行の夜に禁断症状が出たんだからね!」
「何、その禁断症状って」
「寂しくて恋しくて眠れなかったんだから・・・」
「嘘をつくな、1時間に3通は絶対来てたメールが12時から来なくなった」
「うっ・・・嘘じゃないもん!ホントに眠れなかったんだもん!」
「沙羅さんからメールで、千夏は寝相が悪いんだなって来てたよ?」
「え、私、そんなに悪かったの?!でも、ちゃんと起きてもお布団の中に入ってたよ?」
「ほら、やっぱり寝てるじゃん。はい。嘘ついたから早く着替えてきて」
「むぅ~!!ふーちゃん!私にカマかけた!」
「はいはい、それじゃ俺は母さんの手伝いしてくるから。なんか用があったら母さんの所に来て。それじゃ」
俺は後ろから“バカー”とか色々言われてるが無視をして母の部屋の中に入る
「千夏ちゃん、帰ってきたの?」
「うん」
「そう。これで賑やかになるわね」
「賑やかすぎるよ」
「でも、まんざらでもないんでしょ?」
「何が?」
「何でも無いわ、それより早くそれ終わらせなさい」
「りょ~かい」
俺は残り数十ページを一気にやるために気合を入れてパソコンのキーボードを叩いていく