第55話 1時間だけの仕事
「なんですか?これ・・・」
「見ての通りだ。楓太くん」
放送室の奥の部屋、沙羅さんのプライベートルームでもあり、授業をさぼる部屋でもあり、放送部の部室でもある部屋に俺は沙羅さんに呼ばれて入る
そして、中には俺と沙羅さん、そして何故か小雪とマネージャーの小牧さんがいる
俺はいつも通りの場所に座って、横に沙羅さん、前の椅子に小雪と小牧さんが座っている
沙羅さんは普通にジュースを飲んでいて、小雪はニコニコしていて、小牧さんは申し訳なさそうな顔をしている
「見ての通り・・・って言われても意味がわからないんですけど」
「さっき説明しただろ?楓太くんは1時間、小雪と遊ぶんだ。もちろん誰にもバレないように」
「いや、だからなんで・・・」
俺が困惑していると小牧さんが優しい声で分かりやすい説明をしてくれた
「小雪がこの高峯学園の文化祭に参加させていただく際にこちら側の条件で、1時間だけ楓さんに相手しただくのが条件でして・・・」
「はぁ・・・でもなんで俺なんですか?」
「それは小雪が言いだしたことなんですよ。この子がどうしてもお兄ちゃんと遊びたいと言って私も無理だと言い続けたんですけど・・・」
「や、ちょっ、小牧さん!ち、違うよ、私そんなこと言ってないよっ!」
小雪は顔を真っ赤にしながら小牧さんに反論しているが、小牧さんはそれを無視して話を続ける
「何度もお願いしてきたので、つい・・・・すみません」
「あ、いや小牧さんが謝ることじゃないですよ」
「いえ、私がいいと言ったから、せっかくの文化祭が」
「小牧さん、楓太くんは特にやること無い暇人だからいいよ」
「なんで沙羅さんが言うんですか」
「あるのかい?」
「・・・ないですけど・・・わかりましたよ。小雪の相手をさせてもらいます」
沙羅さんの言う通り別にやることが無いし、文化祭は明日もある
俺が承諾すると小牧さんは深々と頭を下げ、沙羅さんは話がまとまったと確認するとさっさと席を立った
「それじゃ私は自分の仕事があるから、頑張ってくれ。楓太くん」
「え、沙羅さんもいるんじゃないんですか?」
「何言っているんだ?私には私の仕事があるんだ。小雪の相手をするのが楓太くんの仕事だろ?まぁ千夏も来れればよかったんだろうけど」
「知ってたんですか?俺たちのこと」
「私は君たちの社長だぞ?知っていても不思議じゃないだろう」
「社長って部長兼副部長でしょ。てか、不思議で仕方ないです」
「小雪、十分に楽しませてもらえ。それじゃ」
沙羅さんは放送室から出ていき、ドアが閉まると小牧さんの携帯が鳴った
「・・・はい。わかりました。・・・はい・・・では」
電話が終わると小牧さんは少し困ったような顔をして小雪を見た
そして、俺の方を見ると申し訳なさそうな顔をして頭を下げてきた
「すみません、楓さん」
「はい?」
「ちょっと用事が入ってしまい、少し私も席を外させてもらいますね」
「え?」
「1時間後にここで待っていてください。それでわ、小雪をよろしくお願いしますね」
「え、あ、ちょ!」
俺は小牧さんの手を掴もうとしたが、もう少しのところで掴めず、小牧さんも放送室から出ていってしまった
前の席ではさっきまで顔を真っ赤にしていた小雪が俯き、時々こっちをチラチラと見てきていた