第5話 チィ姉が姉になったときのお話
まだ俺が5歳だったとき
そう、チィ姉が俺の家に来たときだ
この頃、俺とチィ姉は今みたいな関係じゃなかった
チィ姉は6歳のわりには、なんでもできていて、親がチィ姉の方にばっかり行っていたので俺は嫉妬してチィ姉との間に壁を作っていた
チィ姉は俺が壁を作っていることをわかっていたのか、向こうからは近寄ってこなくて俺とチィ姉はほとんど話さなかった
でも、ある出来事で俺とチィ姉の間の壁は崩れる
それは確か、夏だった気がする
この頃も父は月に1回家に帰ってくるか来ないかの人で母も忙しかった
そして、あの日はたまたま母は仕事関係の資料を探しに行って、そこでアクシデントが起きて家に帰ってこれない、俺とチィ姉の2人だけの日があった
俺はただでさえ、まともに話せない、それも嫉妬していて自分にとって嫌な存在であるチィ姉と2人だけで一夜を過ごすということが嫌でたまらなく、こっそりと家を飛び出した
特に行くあてがあったというわけでもない
ただ、一緒の家に2人だけでいるのが嫌だっただけだ
いつも遊んでいる公園で一夜を過ごせばいいと思っていた
俺は家を飛び出してから、すぐ公園に向かい、いつも遊んでいるタコみたいな滑り台の中で1人、お気に入りの玩具で遊んでいた
しばらくすると、辺りは真っ暗になりポツポツと雨が降り始めた
やっぱりまだ5歳だったこともあって、そんな状況で平気なわけがない。
俺は持ってきたお気に入りの玩具に飽きて、他の玩具を取りに帰ろうと思うとさっきまでポツポツ降っていた雨がバケツをひっくり返したような大雨に変わり、帰ろうとも帰れない状況になってしまった
まだ5歳の俺は帰れないということは、もう親に会えないと思って涙が止まらなくなり、雨と同じぐらい流し続けた
何時間、泣いたかわからないぐらい泣き1人寂しくしていると、聞き覚えのある声がした
ここらへんの記憶は今でもはっきりと覚えている
「ふーくーん、どこー」
チィ姉の声がして、今すぐ飛び出たい気持ちと嫌いな人に助けを求めるのは嫌だという気持ちが争う
しかし、そんな気持ちはすぐになくなった
「こんなところにいたんだ、いっぱい探したよ。ふうくん」
俺の前に現れたチィ姉はバケツをひっくり返したような雨の中、傘もささず俺を探していたのだろう
着ていた服はびしょぬれで、髪の毛からは水が滴り落ちて、前髪は額に張り付いていた
しかし、そんなこと関係なく俺に満面の笑みを見せながら手を差し出してくる
俺はその笑みに今まで壁を作って、チィ姉を怨み続けたことを悔やんだ
どうしてこんな濡れるまで俺を心配して探しに来てくれた人を怨み、嫌がり続けたしまったのだろう、と
俺はチィ姉に飛びつき、もう流すものはないと思っていた涙が再び流れ始めた
「わっ!わっ、どうしたの?ふうくん。怖かったの?」
「うん・・・」
「もう大丈夫だよ。もうかくれんぼはお終い」
「・・・・うん」
「帰ろ、ふうくん」
「うん・・・」
チィ姉と手を繋いで滑り台の中から出ると俺が泣いている間に雨は止んでいたのか星が空一面に輝いていた
そうして、俺の初めての家出は失敗に終わり、雨で濡れてしまったチィ姉と俺はお風呂に入り、冷めてしまった夕食を再び温めて食べ、寝るときも横にいてくれた
次の日、俺の横で一緒に寝てくれていたチィ姉は熱で苦しそうにしていて、まだ小さかった俺にとっては死ぬかもしれないと思った
そこからは必至で何をしたのか覚えていない
ただ覚えているのはどんなに苦しそうにしていても、俺に気がつくと笑って「大丈夫」と言って俺の頭を撫でてきたチィ姉の顔と頭を撫でられた感触だけ
もしかすると、この頃に俺はチィ姉のことが好きになったのもかもしれない
もちろん姉として
チィ姉の熱が治ってからは俺の中にあった壁はスッカリ消えていて、お姉ちゃん子になっていった
そして、チィ姉もそんな俺を可愛がってくれた
でもこの時はどこらへんにでもいる姉弟のような関係、今みたいな状態になるのはもっと先の話になる
思い出そうとするが目が重くなっていき、意識が遠くなっていく感じがして俺は夢の中に入っていった