第47話 チィ姉はイケる?
「軽井沢はよかった」
「そうだね、次はどこに行くの?ふーちゃん」
「ん?家でダラダラする」
帰りの電車に揺られながら家に向かっているのだが、たった3日間だけでも楽しく、そして疲れた
本当はこんなに疲れないと思っていたのだが、チィ姉の約束「彼氏彼女の関係」ってのが原因だと思う
「ダラダラしてたら体腐っちゃうよ?」
「自転車で鍛えるからいい」
「私も乗せてってよ」
「ロードだから無理だよ」
チィ姉は理解できてないのかブーブー言いながら駅で買ってきたお弁当を食べて車窓から外を見ている
しばらく俺もお弁当を食べていると急にチィ姉が話し始めた
「ふーちゃんさ、もし私が芸能人になったらどうする?」
「何?いきなり。芸能人なりたいの?」
「なんとなく、あーゆう世界もいいかなぁって」
「いいんじゃないかな、イケるイケる」
「ふーちゃんは嫌じゃないの?私が芸能人になるの」
「なんで?」
「なんでって私と会えなくなっちゃうでしょ」
「別にいいんじゃないかなぁ。電話とかメールとかあるでしょ」
「それだけでいいの?」
「それだけって・・・十分でしょ?」
チィ姉は不満そうにしたが気にせず電車に乗る時に買った本を見る
すると、俺のポケットの中に入れてある携帯が震えた
待ち受け画面を見るとチィ姉の名前が書かれていて、横を見るとかけてきたチィ姉はじーっと俺の方を見ている
「何してんの?」
「・・・・・」
「チィ姉?」
「・・・・」
「取れと?」
チィ姉はコクっと頷く
俺はため息をつきながら電話を取った
「なんで横にいるのに携帯?」
「ふーちゃんはこんなのでもいいの?」
「いいと思うけど」
「私は嫌」
「電話だからこそ、話せることもあるって前に言ってなかった?」
「そうだけど・・・でも、ふーちゃんの顔見ながらの方が楽しいもん」
「ふ~ん。てか、有名人になるって決定事項なの?そんな簡単になれないでしょ。そういうの」
「あ・・・そういえばそうだね。どうやってなるかも分からない」
「はぁ・・・それじゃ電話代もったないから切るよ?」
「うん」
お互い電話を切って、顔を合わすとなんでさっきまで電話越しで話あっていたのか訳が分からなくて笑ってしまった
「ふーちゃん、次下りる駅までどのぐらい?」
「たぶん、1時間ぐらいじゃないかな」
「そっか」
俺は本を読みながら時間を潰しているとさっきから何人かの人が通路を通っている
別に迷惑とかでは無いのだが、かなり気になる
チィ姉も気になっているのか、通路を通る人を見ている
「ねね、前の車両に何かあるのかな?」
「さぁ、何かあるからさっきから人が前に行くんじゃないの?」
「私見てこようかなぁ」
言うと同時に立ちあがり、俺の前を通って前の車両の方へ歩き出す
俺は本に目を戻して、しばらくするとチィ姉がすごい勢いで帰ってきた
「ふーちゃん、ふーちゃん!」
「何?」
「なんで前に行くのかわかったよ」
「なんで?」
「俊也がいたの」
「俊也?・・・あ~有名人の俊也か」
だから人が前の車両に向かっているのかと納得した
そりゃ今一番売れている有名人がいたら行く
帰ってきたチィ姉はまた俺の前を通って窓側の方に座る
「なんかサイン書いてたよ、優しいよね~」
「チィ姉も書いてきて貰ったら?」
「紙が無いもん」
「紙ねぇ・・・これとか」
俺はさっき食べたお弁当を渡すとチィ姉は受け取って立ちあがる
「ちょ、ちょっと!どこいくの」
「ん?サイン貰いに」
「いやいやいや、冗談だから。そんなので貰いに行ったら怒られるって」
「あ、そっか」
チィ姉は本気だったのだろうか?
チィ姉は少し落ち込んだ風に座る
俺は失礼の無いような紙を探すとカバンの中に夏休みの宿題用に持ってきたノートがあった
「はい、これ」
「ノート?」
「これなら大丈夫でしょ。でも最後のページに貰ってきて」
「うん、それじゃ行ってくる」
チィ姉はノートを俺から受け取ると前の車両へ歩いていった
俺はカバンを元に戻そうとするときに、チィ姉がペンを持って行ってないことに気が付いてカバンの中からペンを取り出し、前のチィ姉の後を追う
前の車両に着くと、人の列ができていて前の方では2つに分かれている
俺はその人の列の中からチィ姉を見つけ出し近寄る
「チィ姉、ペン」
「あ、ふーちゃん。ありがと」
「俊也がいるのはさっき言ってたけどもう一人誰かいるの?」
「周りの人の話を聞いてる限りじゃ小雪ちゃんがいるんだって」
「へぇ~、そうなんだ」
「ふーちゃんはサイン貰わなくていいの?」
「別にいいよ、興味無い。あ、俺ちょっとトイレ行ってくる」
「うん、前の方が近いよ」
その言葉を聞いて人の列(ちゃんと1列に並んでいるので簡単に進めた)の横を通り、横目で俊也、小雪がサインをしているのを見てトイレに向かう
用を済まし俺は元の席に戻ろうとするとチィ姉が俊也のサインを貰い終わり、小雪のサインを笑いながら貰っている
チィ姉は小雪を何か話しながらサインを書いてもらっていて、邪魔をするのもアレなので通り過ぎようとすると腕を掴まれた
「おわっ!?」
「どこ行くの?ふーちゃん」
「ふーちゃん?」
「元の席、チィ姉も終わったら戻ってきなよ」
俺は小雪と目があったので一応頭を下げて、俺の席に戻り、本を開く
俺が本を読んでから、しばらくするとチィ姉が上機嫌に戻ってきた
「ただいま」
「おかえり」
「えへへ~、サイン貰ってきちゃった」
「よかったね」
「はい、ふーちゃんの分」
そう言うとノートをビリっと破り渡してきた
俺はその紙を見ると俊也の分しか無い
「俊也のしか無いよ?」
「あれ?まぁ後で貰えばいいんじゃない?」
「いや、別にそこまで欲しいわけじゃないからいいけど」
俺は特に小雪のファンでも無いし、そういうのに興味があまりないので本に目を戻した