第46話 芸能人に会ったことありますか?
「ふーちゃん、こっちこっち」
「ふぁぁぁ~・・・」
「早く~」
チィ姉は昨晩のテンションとは真逆のハイテンションで俺の手を引っ張りながらショッピングプラザの中を進んでいく
周りの人は俺たちのことをチラチラ見たりしている
「ふーちゃん、ほらほら。ちゃんと歩いて」
「・・・・」
どっちかっていうと俺たちを見てるのではなく俺の手を引いているチィ姉を見ている感じだ
ちょうど前から来るカップルの男性がチィ姉に見惚れていて、その彼女が横腹をつついたりしている風景を見るのは何度目だろう・・・
「あのさ」
「ん?」
「ふーちゃん呼ぶの止めてくれない?」
「約束忘れたのかなぁ?旅行中は私の彼氏なんでしょ?」
「え、あれって昨日だけじゃ・・・」
「そんなわけないでしょ。これから一生ずーっと私の彼氏だよ、ふーちゃんは」
「さっき旅行中って言ったじゃん」
「言ってないよ~」
「それも一生って・・・チィ姉、怖い」
「追い続けます、死んでも」
チィ姉は包丁を持ったような行動をしながら怖い笑顔で俺の方を見てくる
その姿は恐ろしく、背筋が寒くなる
俺はチィ姉がジリジリと近寄ってくるので走って逃げた
「あ、待って!」
後ろの方から声が聞こえてきても、走る
そして、角を曲がって止まりチィ姉の方を見ると目をこすりながらこっちの方にトボトボ歩いてくるのが見える
俺は急いでこっちに目から出るものを拭きながらトボトボと歩いてくるチィ姉の方に急いで向かう
「そ、そんな泣かなくても・・・ちょっとした意地悪だったんだけど・・ごめんね?」
「・・・すん・・・すん」
「泣きやんでよ、チィ姉。ほらっレストラン行こう、もうお昼だし。ね?」
「・・・すん・・・うん」
今度は半泣き状態のチィ姉の手を俺が引く側になって、近くのレストランへと向かう
もちろん、周りの男の人からは凄い殺気を感じてるが、無視をしてレストランの中に入り椅子に座って適当に料理を選んで来るのを待つ
「落ち着いた?」
「うん、ごめんね」
「いや、俺もやりすぎたし悪かったから。ほら、ご飯も来たし食べよう」
「うん」
俺とチィ姉は来たご飯を食べる
ご飯を食べながら周りを見るとカップルか友達同士の若い人だらけで色んな話が飛び交っている
聞きたくて聞いてるわけじゃないのだが、なんか最近急激に人気が上がっているアイドルの話が聞こえてきた
「小雪って小さくてホントにかわいいよねぇ。あんな可愛い子が妹とかだったら嬉しいなぁ」
「確かまだ中学生だったっけ?」
「そうそう、中学生なんだけど見た目は小学生みたいなの。妹にしたいNo1だよ」
そんな話が聞こえる
小雪はまだ中学生で、女優でありながら歌手活動などもしているスーパーが付くほどのアイドルだ
最近はオリコン1位とかCMとかでよく見かける
「ふーちゃん、どうかしたの?」
俺の箸が進んでいないのに気が付いたチィ姉は首を傾げながら言ってきた
「いや、小雪ってよく聞くなぁって」
「最近よくCMで見るね」
「だね、TVで見ると可愛いけど実際に見たらもっと可愛いんだろうね」
「そだね~」
そんな俺たちとは世界が違う人の話をしながらお昼のごはんを食べた
俺とチィ姉はご飯を食べ終わり、店から出て町中を歩く
するとさっき話をしていたアイドルの小雪が出ているお菓子のCMが流れていた
「これだけ見ると中学生に見えないね」
「そだね~、もしかして・・・」
チィ姉は何か疑いの目で俺の顔を見てくる
どうせ、俺が小雪に惚れかけているとかそういうことでも考えているのだろう
「無いから、会ったことも無いのにそれは無いから」
「え?・・・あっ!そーだよね。ふーちゃんは私一筋だもんね」
「勘違いも良い所だね」
「あぅ・・・でも今だって手繋いでくれてるよ」
「それは約束だからでしょ」
「照れちゃって、ふーちゃんカワイッ」
「照れてないし、抱きつくな」
俺の腕にしがみ付いてくるから妙に歩き辛い
しかも、ショッピングプラザということもあって人の視線が痛いほど浴びてしまう
というか、痛い・・・
俺は無理やりチィ姉を引き離して歩く
すると前の方に人だかりができているところがあった
「ふーちゃん、あれなんだろうね?」
「さぁ、なんかやってるんじゃないの?」
「見に行こうよ」
「了解・・・」
俺に断る権利なんて無い
すでに手を引っ張られてるので人だかりの方に向かっているのだから
俺とチィ姉は人だかりの方に向かい、見えるところまで行く
すると、何かのTV中継をしている感じでテレビで見たことあるアナウンサーが歩いていて、そのあとを追っているのがこの人だかりだ
「そろそろどっか行かない?」
「だ~め、芸能人見るなんて滅多に無いんだから。ほらほら、なんかゲスト出てきたよ」
「どうでもいいよ・・・」
芸能人を見るのは初めてだけど、この人だかりの中に居続けるのはシンドイ
だから、俺は一刻も早く抜け出したいのだがチィ姉は芸能人に夢中だ。
普段はTVとか見てもほとんど反応しないくせに・・・
そんな感じで俺は適当に周りを見ていると、周りが盛り上がる
「ふーちゃん、ふーちゃん。俊也と小雪ちゃんだよ!」
TV中継しているところを見ると本当に俊也と小雪が出てきた
俊也とは売れてきている俳優で、なんか色んなドラマとか映画に出てる人
TVで何度か見たことあるけど、男の俺でもあれはカッコいいと思えるし、小雪の方は本当に・・・小さい・・・
「ん~・・・なんか俊也は・・・」
「俊也は?」
「ふーちゃんの方がカッコいいね」
「・・・そりゃどうも」
俊也よりカッコいいって言われるのは嬉しい反面、チィ姉の目が大丈夫なのか心配になってしまう
ため息をつきながらゲストの方を見ると小雪と目があった気がする、たぶん気のせいだろうけど
「もういいからさ、どっか行こうよ」
「ん、そだね」
ようやく言うことを聞いてくれて俺とチィ姉は人だかりからプラザ内から外に出る
すると、さっきの騒がしさが嘘のような静けさが俺たちを包んだ
俺たちは外を歩きながら色々話をしていると日も落ち始めたのでホテルに戻ることにした