最終話 才色兼備な姉と普通な俺
日も傾き、街並みが赤く染まる
結局、高校、中学校、色んな所を回ったけど、チィ姉には会えなかった
「んんぁ~~・・・」
信号で止まった際に、背伸びをして赤い空を見上げる
東京ではあまり空を見上げるということはしなかったけど、何故かこっちではしたくなる
たぶん、田舎で空が綺麗だからなんだろう
信号の色が青になり、ペダルを踏んで家に帰る
「ただいまっと」
「あら、千夏ちゃんと一緒じゃないの?」
「チィ姉帰ってないの?」
「いや、さっき帰ってきて楓が探してるって言ったら出て行っちゃったんよ」
「出ていったって・・・もう7時だよ?」
「あんただって今まで外で遊んでたでしょ」
「まぁいいや」
俺は携帯でメールを打って、靴を脱ごうとすると母さんが俺の頭を叩いた
「何」
「探してきて」
「はぁ?さっきメールしたから大丈夫だよ」
「その携帯はこれ?」
母さんがポケットからチィ姉の携帯を出した
その携帯はピカピカと光っている
俺はそれを見て、小さくため息を吐いて靴の紐を結び直す
「ご飯は良いの?」
「今日は千夏ちゃんのご飯が食べたいから」
「そ。んじゃ行ってくるよ」
「はいはい。まぁ頑張んなさいな。少年」
外に出るとさっきまで赤かった空はすでにうす暗くなっていて、空気が少し湿ってる
俺はチィ姉がいるかもしれない近くのスーパーやコンビニなど色んな所を巡る
「はぁ・・・どこに居んのさ・・・」
もう1時間ぐらい探しているけど全然見つからない
空はすでに暗くなっていて、あと1時間もすれば雨が降り出しそうだ
俺は歩きながら辺りを見回していると見覚えのある公園があった
そこは確か・・・チィ姉が初めて俺にキスをした場所だったはず
あの時、俺がボコボコにされて・・・チィ姉が泣いていて・・・あまり記憶が無いけど、好きとかなんとか言われた気がする
「ここにも居ないか・・・」
公園の中は静かすぎるぐらい静かで人気なんて無い
俺は頭を掻いて、一旦家に帰ろうと思った時、ふとある場所に行っていないことに気が付き、急いでその場所に向かった
走っている途中、雨がポツポツと降り出したが、気にせず向かう
「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・しんど・・・」
ここ最近、運動をしてなかったからものすごくしんどい
もし、ここにチィ姉が居なかったら、もう帰る
ここは俺が小さい時によく遊んでいたタコみたいな滑り台がある公園
そして、チィ姉が俺の姉になった場所でもある
雨はさっきより強く降っていて、世間では夏の暑さだと言われている5月中旬でも全身びしょ濡れだと暑さなんて無く、体温が奪われていく
俺は目に入りそうな水を拭き取って、タコの滑り台の中を覗き込む
「やっぱりいた」
「あ・・・」
中には体育座りをしたチィ姉が居た
俺は小さな穴から中に入り込む
小さい時は広いと思っていたが、今では2人入るのが精一杯だ
チィ姉は俺を目で追っていて、捨てられた子犬に見える
「昔は広く感じたけどやっぱり狭いね。ここ」
「・・・・」
「・・・・」
静かな雰囲気が流れる
雨の音がハッキリと聞こえてきて、少し雨が弱まっているようだった
「・・・」
「・・・」
「チィ姉は覚えてるかな?俺が5歳ぐらいの時にここに家出してきたこと
あの時もこんな感じの天気だったよね。まぁもっと蒸し暑かったけど・・・
そういえば、あの時言い忘れたから今言わせてもらうね」
俺はチィ姉と目が合うようにチィ姉の手を取って、こっちに向かせる
チィ姉の眼はまだ子犬のような目のままで、どこか不安そうな目で俺の方を見てくる
「あの時はありがとう。チィ姉が俺の所に来てくれなかったら今の俺は無いよ
そして、今までごめんね。俺の我が儘でチィ姉を振りまわしてた。
だからさ、またこの場所から戻ろうよ。
俺もチィ姉も純粋だったあの日に。チィ姉が俺のお姉ちゃんになった日に。
俺がチィ姉のことを好きになった日に。
戻ろう。そして、また俺とチィ姉の絆を作っていこ
姉弟としてじゃなくて、九十九楓と星井千夏としてさ」
俺はできる限りの笑顔でチィ姉に笑いかけるとチィ姉の目から大きな涙が1つ、2つと次々に落ちていく
俺はそれを指で拭いて、チィ姉を抱き寄せる
「大好きだよ、チィ姉。何でもできる才色兼備なチィ姉も、甘えん坊なチィ姉も大好きだよ
俺にとって世界で一番・・・ううん、チィ姉がいないと俺は生きていけないぐらい大切な人。
だから、俺といつも一緒に居てほしい。俺のお姉ちゃんとしても、星井千夏としても
チィ姉、俺と一緒に居てくれる?」
俺はチィ姉の目を見ながら精一杯の気持ちを込めて言った
チィ姉の顔はもう涙でくしゃくしゃになっていて、もうアイドルのような華やかさも可愛さも無いけど、俺が昔から知っているチィ姉の顔で、何度も何度も頷いてくれた
たぶん、これ以上幸せになったら死ぬんじゃないか?ってぐらい俺の鼓動は高くなっていく
俺は今、どんな顔をしているのか分からない。たぶんチィ姉みたいに泣いてるのかもしれないし、顔が真っ赤なのかもしれない
でも、そんなことはどうでも良い。今はただ今まで言えなかったことを言う
「チィ姉、大好きだよ」
「ふーちゃん、私もふーちゃんのこと大好き」
俺とチィ姉は狭い空間の中でギュっと抱きしめ合い“初めて”唇を重ねた
今までありがとうございました。
無事「才色兼備な姉と普通な俺」は連載終了となります。
あとは、「あとがき」だけですので、よろしければお付き合いください。




