第17話 ふーくん
「・・・・」
もう少しで寝れそうな時に、部屋のドアが開き、重たい目を開けるとチィ姉が立っていた
部屋は暗いのでどんな表情かは分からないけど、俯いているのはなんとなくわかる
「・・・・」
「どうかしたの?チィ姉」
「・・・・」
「・・・とりあえず、そこ寒いでしょ。こっち来れば?」
暗さに目が慣れてくると、チィ姉はスリッパも履かずに素足で立っているのを見て、チィ姉が布団の中に入れるスペースを作る
すると、チィ姉はトコトコと空いたスペースに入り、布団に足を入れた状態で俺の横に座る
「・・・」
「・・・」
チィ姉を入れたのはいいけど、どうすればいいだろう・・・・
今思えば、まだチィ姉とは喧嘩してたし、美羽だっていない
この状況はまずい・・・
「えっと・・・その・・・チィ姉起きてる?」
「うん」
「そっか」
「・・・・」
「・・・・」
本当に気まずい・・・
チィ姉もそんな風に思ってるのか知らないけど、さっきからずっと頷いたままだし
俺はどうしようかと悩んだ結果、1つの行動に出た
「あの・・・ごめん」
「・・・・」
「その、この前は俺が悪かったと思うから・・・ごめんね」
「・・・ううん。私が悪かったから・・・私が意地張らずにすぐ謝れば・・・よかったから」
「・・・うん。そうかもね、チィ姉が意地張らずに謝ってくれたらよかったのかもね」
「え!私のせい?」
「そう、俺も悪いけどチィ姉も悪い。そんで、どっちかっていうとチィ姉の方が悪い
というか、全体的にチィ姉が悪い。カバン投げたの当たったし、小牧さんにもなんか迷惑かけたし、全部チィ姉が悪い」
「え?ええ!・・・うぅ・・・」
チィ姉は反発しようとしてきたが自分のしたことを思い出して、俺の言う通り自分が悪いと思ったのか、さっきみたいに俯いて手をモジモジし出した
俺はその手のモジモジを見るとものすごいスピードで動いていて思わず笑ってしまった
「っぷ。あはは」
「え?え?」
「ご、ごめん。あ~本当に真に受けるとは思ってなかったから・・・冗談だよ。本気にしないで、俺も悪いからさ」
「うぅぅ・・・ふーちゃん嫌い!!」
「あははは、ふぅ・・・よかった。やっと言ってくれた、ふーちゃんって」
「え?!あ・・・うぅ・・・」
顔を真っ赤にしながらベッドの上から逃げようとしたチィ姉を抑え込んで、元の位置に戻す
「まぁまぁ、落ち着いて。それでなんでチィ姉は俺の部屋に来たの?もしかして夜這い?」
「ち、違う・・・違うけど・・・」
「けど?・・・もしかして、本気で・・・」
「違うよ!ただ私はふーちゃんと仲直りしたくて・・・」
「そっか。それで?」
「ふーちゃんと喧嘩した後、毎日楽しく無くて・・・仕事も楽しく無くて・・・」
「だからサボったの?」
「気持ち入んなくて・・・やっぱり、ふーちゃんに見ておいてほしいし・・・」
「そっか・・・俺どうすればいいの?」
「・・・・」
何かできるならしてあげたい
でも、俺の思っていることをしたところでチィ姉の今の状態は治らないと思う
チィ姉は俺の方を見てきて、少し悩んだ後俯きながら声を出した
「・・・してほしい」
「ん?」
「初めてもらってほしい・・・」
正直聞き間違いって思いたいけど、こんな雰囲気でそんな冗談言わないし、聞き間違いでもない
チィ姉の真っ赤な顔を見ればわかる
「チィ姉、それ本気で言ってるの?」
「・・・・」
「・・・あのさ、もし本気なら別にいいよ。
でも今のチィ姉、自棄になってるとしか思えない。俺はそんなチィ姉嫌い。
俺の中のチィ姉はそんな弱くないし、落ち込んでも俺に甘えてくることはあってもそんな自分を傷つけるようなことは絶対にしなかった」
「・・・・」
「でも、チィ姉がそこまで追い込まれたのは俺の責任でもある。美羽にだって、俺がチィ姉から逃げてるって言われたぐらいなんだから、チィ姉はそのことぐらい気づいてたと思う。だから・・・・」
「きゃっ!?」
俺は横にいるチィ姉の肩を掴んでベッドに押し倒す
そして、俺はチィ姉の上に乗って、身動きができないようにした
「ふ、ふーちゃん?」
「あんたがしてほしいって言ったんでしょ?」
「・・・・」
俺の言葉を聞いて、チィ姉は目を瞑って我慢しているようだけど、チィ姉の方はさっきからガタガタと震えていた
そして、俺がチィ姉に迫ろうとした時、ようやく聞きたかった言葉が出てきた
「や・・・やめてっ!!」
チィ姉はそう言って、俺を突き飛ばし、俺の方を睨んできた
突き飛ばされた俺は予想以上に怒ったチィ姉を見て驚いたけど、それが安心に繋がって元の顔に戻す
「やっぱり嫌なんでしょ?」
「・・・・」
「自分を大切にしようよ・・・俺もチィ姉も子供じゃないんだから」
「わ、私はいつものふーちゃんならあげてもいいと思ってる!!でもさっきのふーちゃんはいつものふーちゃんじゃない!あんなのふーちゃんじゃない!」
「・・・男なんてそんなもんだよ」
「違う。私の知ってるふーちゃんはあんなことしない!」
「・・・・」
「絶対にあんなことしないっ!!!」
真剣な表情で俺のほうを睨んでくるチィ姉を見ていると俺の中にある糸がプツンと切れたのを感じた
すると、今まで貯めていた感情がドンドン出てきた
「・・・俺の何を知ってんのさ・・・チィ姉は俺の何を知ってんの!!
もうこの際だから、はっきり言うね?」
俺は何を言おうとしているのだろうか?
いつも通り、チィ姉に笑いかけながら仲直りをするつもりだった
頭の中ではいつもの俺が居て、今喋ってるのは俺じゃない
チィ姉はいつもの俺とは違う俺に驚いたようだった
俺も内心驚いていて、正直もう止めたい。
でも、俺の中で溜まっていた物が噴き出した今、もう止められない
止めたいけど、自分ではもうどうしようもなかった
「俺がどんな思いでチィ姉が有名になっていくの見てたかわかる?
5歳からいつも横にいたチィ姉がテレビに出て、皆から可愛いとか綺麗とか色々言われて、俺の作品のドラマで誰かと付き合ったり、好きになったり、誰かの姉の役をしてる。それをどんな思いで見てたと思う?
出版社からドラマ化の話を聞いた時、素直に嬉しかったよ。でも、役がチィ姉って聞いた時どう思ったと思う?
こうしてればよかった、ここはこうしたい、これはやめてほしい。こんなことばっかり考えてたよ!
だから、ドラマ化をする条件として、監督と脚本家は母さんの知り合いの人にしてもらってキスシーンも抱きつくのとかのもできるだけ止めてもらって、その部分は綺麗にまとまるようにドラマ用としてシナリオ書いたんだよ!これがどれだけ大変だと思う?
「あの言葉はあのシーンだから深みがある!あの流れでキスが無いのはおかしい!」
監督と脚本家にこの言葉、何回言われたと思う?俺はその度に頭下げてキスシーンだけはやめてもらってきたんだよ!!
自分でも勝手なことをしてるって分かってるよ!!でも、見たくない!俺以外の人に抱きついてほしくない!・・・そんなことばっかり考えてる嫌な奴なんだよ・・・」
「ふー・・・ちゃん?」
「っ・・・チィ姉は有名人なんだよ・・・皆の千夏なの。チィ姉が芸能界に入った時からもう俺のお姉ちゃんの千夏じゃない・・・いくら俺がチィ姉のことを好きって思っても、千夏はもう皆の千夏なんだよ・・・分かってる、分かってるから・・・だからこれ以上俺を困らせないでよ・・・近づきすぎないでよ・・・もう耐えられないから・・・もう無理だよ・・・っ・・・無理だ・・・」
「・・・・」
泣きたくないのに、言いたくないのにどうしてか口に出してしまう
これ以上言ったらあの楽しい日常が無くなるのは分かってるのに・・・
俺はそれからあまり覚えていない。チィ姉に何か酷いことを言ったかもしれない
次の朝、起きた時には机の上にチィ姉の字で手紙が置かれていた
-おはよう、ふーちゃん。
私、沙羅と小牧さんに謝ってくるよ。
ふーちゃんが頑張って作ってくれたドラマを最高のドラマにするね
あと、今までごめんね。私のわがままでふーちゃんをあんなに苦しめてるなんて思ってなかった
私、お姉ちゃん失格なのかな(苦笑)
いろいろ書きたいことあるけど、書ききれないからこれだけ書くね。
これからは近くも遠くでも無い、九十九楓のお姉ちゃんになるから。頑張ってみるからね
今まで私のわがままを聞いてくれてありがとう、私の一番大切なふーくん-