口癖は、「何もしてないのに壊れました……」 ~現代社会では生きづらい私、異世界の機械神に挑みます~(短編化)
この小説はとびらの様の『あらすじだけ企画』参加作品です。本文にはあらすじしか書いておりませんので、ご注意ください。
とにかく機械との相性が悪い瞳子。彼女は今まで多くの機器を使用不能に追い込み、その度に周りから責められて肩身の狭い思いをしてきた。
そんなある日、彼女はどこか淀んだ空気が漂う異世界に召喚される。瞳子を呼び出したのは、反乱者たちに国を乗っ取られた王子だった。
この国には、助けが欲しい時は異世界の救世主を呼ぶべしという言い伝えがあるらしい。王子は避難先の村で解放軍を組織する傍ら召喚を試し続け、今それを成功させたのだった。
瞳子はいきなりの事に戸惑う。だが、自分は救世主などではないと言おうとした矢先、村が機械仕掛けの戦闘兵器である機甲人形に襲われる。機甲人形の狙いは解放軍だ。
しかし、機甲人形は瞳子に触れた瞬間に壊れてしまった。皆はやはり瞳子は救世主だともてはやす。
驚きつつも、元の世界に返して欲しいと頼む瞳子。そんな彼女に王子は、王宮には王族のみ作動させられる、異界に渡る魔法具があると告げる。だが、現在王城は反乱者の本部になっており、彼らを倒さねばそれを使う事はできなかった。
元の世界に帰る為、瞳子は解放軍に協力する事にした。
その内に、色々な事情が分かってくる。
反乱者の正体は、機械神を戴く教団だ。元魔法国家のこの国は、反乱が成功して以来、機械化が推し進められるようになった。その動力源は蒸気機関だ。
だが、燃料こそ魔法由来ではあるものの、機械を動かす度に煤煙が出て環境汚染が進行。国を汚す教団を国民は快く思っていなかった。そのため、打倒教団を掲げる解放軍を民は歓迎していた。
時には民の力を借りつつも解放軍は順調に勝ち進む。瞳子も、魔法での支援を得る事で能力の制御が可能になり、もはや近づくだけで機械を壊せるようになった。
その内に、瞳子の気持ちに変化が生じる。
精密機器で溢れた元の世界を、瞳子は常々暮らしにくく感じていた。だが、ここでは逆にこの力を役立てる事が出来るのだ。
それに、元はあまり機械に頼っていなかったこの国では、平和が戻っても瞳子が迷惑をかけてしまう事はない。瞳子は魔法を使えないが、それは周りのフォローがあればカバーできる欠点だった。
揺れる気持ちを抱えながらも瞳子は勝利に貢献し続け、解放軍は遂に王都まで辿り着いた。
もはや勝利は目前だったが、皆には一つだけ不可解な事があった。途中から敵が弱くなったように感じられたのだ。まるでわざと負けようとしているかのようである。
どこか腑に落ちない気分で一行は王宮へ入城する。そこで瞳子たちは教団や機械神と対峙した。
だが、彼らは抵抗する気配を見せない。それに、機械神たちもどうやら普通の人間のようだった。
その疑問について、彼らはこう答える。
教団員たちは科学者だった。だが、魔法文明が発達したこの国では、科学などオカルトでしかなかった。
それでも科学の素晴らしさを説き、魔法と科学の融合を強く主張し続けた彼らだったが、遂に先王の時代に辺境に追放されてしまう。
憤慨した教団員は自分たちの正しさを証明するため、言い伝えに従って異界の救世主を呼んだ。それが、皆が機械神と呼ぶ者――異界の技師たちだった。
機械神は自分たちの世界の技術を使って、蒸気機関を生み出した。教団はそれを駆使して国を乗っ取る。教団は、自分たちがこの国を治めれば、必ずやバラ色の未来を掴む事ができると信じていたのだ。
だが、想定外の事が起こった。蒸気機関の発展に伴う環境汚染だ。機械神の元の世界では、ある特殊な事情により煤煙が大気を汚す事はないのだが、この世界ではその理屈は通用しなかったのである。
彼らは問題解決の為に奔走したが、やがて打つ手はないと分かってしまった。
教団が手を抜いて戦い始めたのは、信じていたものが万能ではなかったという絶望によるものだった。機械神たちも、自分たちのもたらした技術がどんな結末を招くのか予想できなかった事に打ちのめされていた。
戦意を喪失する者たち相手に戦う事を躊躇う解放軍だが、彼らを倒さねば国を取り戻した事にはならない。解放軍は教団員たちを攻撃しようとする。
だが、それを瞳子は止めた。そして王子に、異界に渡る魔法具を使って、彼らを機械神の世界へ送ってあげてはどうかと提案した。
魔法具は一度しか使用する事ができないので、彼らを送ったら瞳子が帰れなくなると王子は言った。それに対し瞳子は、自分も彼らもそれぞれにふさわしい環境で生きる方が幸せだと告げる。
瞳子の元の世界での扱いを聞いていた王子はその言葉に納得する。また、教団員を白眼視し続けた自分たちにも問題はあったと反省した。
王子は国を取り戻したと正式な発表を終えた後、彼らを罰するという名目で異界送りにした。機械神は元の世界に、そして教団員は理想とした科学文明の世界に行けると感謝した。
その後、平和を取り戻した王国で、瞳子は救国の立役者として特別な地位を賜り、救世主と呼ばれながら幸せに暮らした。