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 急に会いたくなった。ずっと会いたかったが、もっと会いたくなった。心もとなく探したら、頭上にその色が見付かった。ちょっと薄ぼんやりしているが、街の真ん中では仕方がない。


「ああ」

 都会のぼやけた空を見上げた時、大介は急に思い出した。


 三人の友人が驚いたように振り返る。


「やっと分かった」大介は言った。

「何が?」正が不思議そうに尋ねる。

「思い出した」

「何か分かったのか?」千二せんじが聞く。

「うん、塔の謎が」


 友人たちは呆れた様子だった。そう、分かるはずがない。説明できない訳ではなかったが、なんだか自分独りで楽しみたいような気がして大介は黙っていた。そんな事を考えたのが初めてだったので、自分の気持ちを意外な思いで確かめ直した。友人たちはあおの話をしている。あのキャンプ場の隅で見たような、深い空の色。そんな色が好きな、彼女の話を。


 あの草ぼうぼうの広場で、全一ぜんいちたちが塔が移動したと叫んだ時、自分一人が取り残された理由が分かったのだ。確かに同じ場所に立っていた、だが見る物は違っていた。他の三人は草むらを、遊具を、塔の裏の扉を、ツタウルシの絡んだ若木を見ていた。大介はそのどれをも見ていない。同じ認識ができなかったのは、それこそが当たり前の事だった。


 涼しい風が吹く。秋が近付いた。全一の父親が運転してきたワゴンに、順番に乗り込んだ。渋滞気味の駐車場の中を、車はのろのろと進み出す。


「ねえ父ちゃん、ハナダ青の居場所知らない?」全一が運転席に向かっていきなり聞いた。

「はい?」岸はハンドルを切りながら素っ頓狂な声を上げる。「知るわけないじゃん、そんな人」

まさめ叔父さんは、知ってるかな」正が呟く。

「今度聞いてみないとな」千二も大真面目だった。

「本当に呼ぶ気……」大介は呆れて文句を言いかけたが、いつの間にか口が勝手に、「なら罠でも仕掛けて誘き出すと早いだろう」と付け加えていた。


「何たくらんでるの? 世界の滅亡?」岸はルームミラー越しに、不審そうな目で息子たちとその友人を窺った。「僕の幼馴染に同姓同名の人がいるけどね、歩く水素爆弾て言われてるよ」

「どんな罠ならいいんだろう」千二は父親の忠告を無視して考え込んだ。

「アボカドには目が無いぞ」と大介は言った。

「それに、本を破ると、怒って飛んで来るよ」と正。

「ダンに新しい彼女ができたら、もっと速く飛べるだろうな」と全一。


 大介はぼんやりと窓の外を見た。ビルとビルに挟まれて、薄っぽい青い空がちらちらと見えた。都会の真ん中で見る小さな空は眠たげで錆び付いていたが、大介は目が離せない。目の前に迫った大型ビルに遮られて視界から空が消えても、大介は頭上を探していた。あの時もこうだった。それをようやく思い出した。塔が移動したあの時、あの広場で、大介は戸惑った。大介だけが、何が変化したのか分からなかった。それもそのはずだ、俺はあの広場に来るたびに、空を見ていたのだ。空だけを。


「つまり、こうか?」千二が結論する。「次回の旅行では、ダンの新しい彼女がアボカドを食べながら本を破ればいいと」

「ちょっと、それは止めてくれ」大介は弾かれたように振り返った。「殺される」

「人類全部が」と岸が口を挟む。

「いよいよ死体だね」正が嬉しそうに目を細める。

「死体なんかもうウンザリだ」全一が喚いた。


 大介はもう一度、ちらりと窓の外を見る。ビルとビルの隙間を、黒い小さな影が横切った気がした。取りあえず言ってみる事にした。「あ、UFO」


 三人の少年たちは大騒ぎで、大介を押し退けて窓に飛び付く。これで取り残される心配が無い。



(終)


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