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ブドウの植え付け


 ドルバノとゾールと別れると、俺は畑へとやってきた。


 最初はオリゴの実、モチモチの実、グラベリンゴ、ピンクチェリーなどといった一部の作物しかなかったが、今ではかなりの種類の作物が増えて、視界いっぱいに様々な作物が広がっている。


 樹海でしか棲息していない果物、薬草、山菜だけでなく、魔国ベルギオスから仕入れた米、麦、大麦、トマト、ナス、キュウリ、タマネギ、ネギ、大根などなど。数えきれないほどの作物が育てられている。


 俺やレントだけでなく、リーディアやエルフたち、獣人たちと作業員も大分増えた。


 こうして眺めると、俺の畑も随分と大きくなったものだ。


 感慨深く思いながら畑を歩いていると、金色のカールした髪が特徴的な魔族が見えた。


「セシリア、おはよう」


「あら、ハシラさん。おはようございます」


 挨拶をすると、魔族のセシリアが振り返って優雅に一礼をする。


 さすがは魔国の貴族令嬢だけあって所作がとても綺麗だ。


「こっちに帰ってきていたんだな。魔国ではゆっくりと休めたか?」


 セシリアは収穫されたマンドレイクを魔国に輸送してもらうついでに休暇を与えていた。


 なので、こうして顔を合わせるのは一週間ぶりだった。


「はい、お陰様で。ですが、こちらの新鮮な食材に慣れてしまったせいで、魔国での食事が少し物足りなく感じてしまいました」


「そんなに違うか?」


「ここの食材はどれも一級品な上に、ハシラさんの力でさらに味が引き上げられていますから。どれほど料理人が力を尽くした料理であっても敵いませんわ」


 セシリアの表情や声音を見るに、お世辞というわけではなさそうだ。


 以前、魔王もそのように言っていたな。


 俺はここで自生し、ここで栽培した作物しか食べたことがないので、外の食材がちょっと不安だ。まあ、今は樹海で生活するので精一杯だし、外に出るつもりはないので平気なのだが。


「可能であれば、実家から料理人を連れてきたいと思っているのですが……」


「魔王の許可があればいいんじゃないか?」


 リーディアやカーミラの知り合いであれば問題ないが、セシリアは魔王の命令で魔国からやってきている。俺の一存だけでは許可できないが、魔王が頷けばいいと思う。


「ありがとうございます! 今度、魔王様にご相談してみますわ」


 そのように告げると、セシリアは嬉しそうに笑った。


 ここにもそれなりに料理ができる者はいるが、本格的な料理を作れる者はいない。


 そういった意味でもセシリアが雇っているプロの料理人が来てくれるのは喜ばしいことだった。


「あっ、これから果物畑に新しくブドウを栽培しようと思う」


 会話に区切りについたので畑に移動しようとしたが、俺はつい先程ドルバノとゾールに頼まれたことを思い出した。


 こういった新しい作物や試みをする時は、できるだけ共有して欲しいと言われているからな。


「なるほど。確かにここで栽培されたブドウを使えば、素敵なワインが作れそうですわね。上手くすれば、ここの特産品にもなるかもしれません」


 ワイン造りの経緯を話すと、セシリアがブツブツとそのようなことを呟く。


 ただワインを作って呑む以外の道筋が彼女には見えているらしい。


「わかりました。わたくしも付いていきます」


 しばらく考え込んでいたセシリアは、メモと筆記用具を手にする。


 どうやらこれからする栽培を記録してくれるらしい。


 そういうわけで、魔国から仕入れたブドウの苗を取ってくる。


 ポットだが成長促進をかけると蔓を大きく伸ばす可能性があるので、植えつけるのが一番だろう。


 今回使う魔石はゼノンマンティスほど上質ではないので、米のようにはならないと思うが、成長幅が読めないので、次の段階への準備をしておいた方が良さそうだ。


 そういうわけで、セシリアと一緒に果物畑へと移動。


 この区画では、オリゴ、グラベリンゴ、ピンクチェリーに加え、魔国から仕入れた桃、梨、みかんなどの栽培が進んでいた。


 こちらはクレアが熱心に世話をしているが、俺たちに気付いたのか立ち上がった。


「グラベリンゴやピンクチェリーも随分と育ってきたな」


「はい、ハシラ殿のお陰で大きくなって、実もついてきました」


 小さな苗だったものが、今では一端の立派な木になっているのだから驚きだ。


「この様子ですと、もうすぐ収穫ができてしまいそうですわね」


「あと一か月もしない内に収穫できるだろうな」


「本当ですか! ようやく果物も思う存分、食べることができるのですね!」


 本当ならば、順当に育てて三年と聞く。


 そう考えると、エルフィーラの加護の凄まじさを感じるな。


「クレア、畑に新しくブドウを栽培しようと思うんだが構わないか?」


「是非! ハシラ殿の育てたブドウならば、きっと美味しく育つはずです!」


 ここの果物が大好きなクレアは、詳細な説明をする間もなく賛成のようだ。


 果物はどうしても栽培の時間がかかってしまうために、他の畑よりも種類が少ないからな。


 グラベリンゴやピンクチェリーが収穫されると、その美味しさに魅了される者が続出するかもしれない。


 こっちにも上質な魔石を回すことも考えた方がいいかもしれないな。


「ブドウ棚を作らないとな」


 ブドウは成長が早く、蔓を伸ばす果物。


 蔓を誘引するための大きな支柱、ブドウ棚が必要だ。


 ブドウ棚を建てると容易に移動させることができないので、クレアと話し合った末に空いているスペースに木製の棚を生やした。


「よし、これで成長しても大丈夫だな」


 支柱の傍の土を掘ると、そこにブドウの苗を植え付ける。


 ブドウの苗に触れると、成長促進をかけた。


 苗が翡翠色の光に包まれて、グングンと伸びていく。


 水を与え、魔石を肥料として落とすと、ズブリと土に呑み込まれる。


「ブドウの健やかなる繁栄を願い、魔石を供物として捧げよう」


 豊穣の女神、エルフィーラへの祝詞を紡ぐと、土が翡翠色の発光し、しゅるしゅるとブドウが枝を伸ばし、蔓が支柱に巻き付いていく。


 ブドウの蔓は支柱の頂上まで伸びると、そこで成長を止めた。


 主枝から脇枝が出てきたので神具を変形させたナイフで剪定し、葉を二、三枚くらい残して落としておく。


 そんな様子をセシリアが眺め、定規のようなものでサイズを測っては記録していく。


 きっと、今日の成長記録と明日の成長記録なんかを比べたりするのだろう。


 記録が落ち着いたところでポケットから取り出した魔石を落とす。


「すっかりブドウらしくなりましたね」


「なってしまいましたわ」


 クレアとセシリアがやや呆然とした様子で呟く。


 ブドウ棚に蔓が巻き付いているのを見ると、とてもブドウらしく思える。


 このままさらに蔓が伸びていき、ブドウの葉がカーテンのように棚を覆い隠すのだろう。


 これから暑くなっていく季節、直射日光を遮ることのできる天然のカーテンは有難い。


 葉が生い茂ったらブドウ棚の下で昼食をとるのもいいかもしれない。


 成長促進をかけながら様子を見て、あと一回ほど魔石を与えれば、二人に頼まれた期日までに間に合うだろう。


「ドルバノとゾールの予定に合わせて、二週間くらいで収穫までいくからそのつもりでいてくれ」


 大まかな予定を伝えると、クレアとセシリアはこくりと頷くのであった。








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こちら新作になります。よろしければ下記タイトルからどうぞ↓

『魔物喰らいの冒険者』

― 新着の感想 ―
[気になる点] 下手をすれば、ここの特産品にもなるかもしれません の下手をすればは悪くなる方向での言い回しで この場合は上手く行けばではないですか?
[一言] どっかで迫害とかされてる連中拉致してきて 労働力にせんと人手不足に陥らんか? もう下手な村超える収穫量になるやろ
[一言] ブドウは食用とワイン用でだいぶ品種が違うけど、そのあたりはご都合主義で両対応な謎の品種になるんだろうなぁ……
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